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第362話

「ふたりとも、昨日は大変だったようだな」と義父。

「ええ」「いえそんな!」「俺もいたんだけど数に入ってないような」三者三様の答え。


「ナナもサンもよく活躍したそうだな。街の者が皆感謝の言葉を口にしておったぞ。だがサンは少し無理を控えるようにな?私の寿命も縮まる故・・・」

「まぁね」「ごめんなさいおじいちゃん・・・」「俺は?」


「それとどこかのバカ息子が、全財産使い果たしてまで女を連れ去ったと聞いたが、まさかお前達の金も取られたのではあるまいな?」

「それが私達のお金もなのよ」「あれは仕方なかったと言いますか・・・」「チッうっせーな。反省してまーす」


朝から増え続けるドモンのたんこぶ。

そして昨日から今朝までに起こった事を、全員で義父に説明した。イジケて隅でタバコを吸っているドモンは蚊帳の外。

ここでようやくナナ似とサン似のオーガの存在に気が付き、義父は驚いた。



「なるほど。そのような事が・・・」


元々ドモンに感謝を伝えるために、いつかここへ来る予定ではあったが、馬車が暴走し街に被害が出たと報告があり、その予定を大幅に繰り上げたのだ。


その途中で憲兵や騎士からドモン達が巻き込まれたと聞き、義父は真っ青に。

だが怪我はなく無事だとも聞かされ安心し、詳しい状況を聞き込みしてからここまできた。

皆を救った青オーガには勲章を与える予定。


「それでその盲目の女性はどうしておるのだ?」

「ここですよ」


食堂のドアが開かれると、ギルに手を引かれ、義父の声をする方へ返事をしてニコッと微笑んだミユが立っていた。

なにかの自信を得たのか、ミユのその姿は、普通の町娘の服装だというのに神々しく、義父もドモンも思わず息を呑む。


「そ、そなたがそうであったか。私は・・・であり・・・と申す」

「まあ王族のお方でございましたか。私はミユと申します。この通り目の方が悪く、すぐに気が付かずに大変失礼いたしました」

「いやいや、気にせずとも良い。そ、そなたは歌を歌うと聞いたが・・・」

「ええ、ギルのお手伝い程度のものですけどねウフフ」

「そ、そうであるか。フゥ」


エリーに会った時の気持ちの高鳴りとも違う。対峙するだけで緊張し、魂が震える。

その佇まいとその声に、義父は完全に飲まれた。

ギルは椅子にミユを座らせ、その横に立つ。手は繋いだまま。


「ジジイ、ミユは凄いんだぜ?今朝その声を街の人に聞かせたんだ」

「うむ」

「ものすごくスケベな声をグエェェ」

「イヤァァァァァ!!」「しし、師匠!!!」


またナナに首を絞められるドモン。

だがそれよりも、驚くべきはその声量。

ミユの声で、胸の真ん中を貫かれたかのように義父は錯覚した。


「じょ、冗談だよ」

「あたしだって昨日、ベッドの中であなたとナナとサンの声をずっと聞いていたんだから」

「ちょちょちょっと!」「ああ~」


ミユの思わぬ告白に顔を赤くしたナナとサン。


「もう3時だぞお前ら!!いい加減にしろ!!と言いながら、ハァハァと息を切らせてたくせに。あたし耳は良いのよ?それにそのあと」

「あーごめんごめん!!俺が悪かった!!もう勘弁してよ・・・」


こんなドモンとも真っ向勝負。ミユはまた闘う女の顔。笑顔ではあるが。


「本当にそれはさておき、一週間後くらいに王都のどこかに舞台を用意して欲しいんだ。きちんとしたとこだぞ?このミユに歌わせるんだよ」

「・・・劇場を押さえろというのか?」ドモンの言葉にまた驚かされた義父。


「そう。ついでに王族も貴族も招待してくれよな」

「えぇ?!お、大きな舞台って王都の歌劇場のことなの?!」「嘘!?」


ドモンと義父の話を聞いていたミユが驚きの声を上げる。ギルも一緒に。

大きな舞台と言っても、ミユはせいぜい街の広場のようなところを想像していた。いわゆるドモンがオーガの再会ショーをしたような場所。ギルは王族や貴族を招待するということに対して驚いていた。


「あの師匠・・・ミユはまだ慣れていませんから、せめてもう少し小さなところで、気軽に歌わせてあげてもらえないでしょうか?」とミユの方を見たギル。

「それに一週間後は流石に王族であっても押さえるのは困難だ・・・」と、義父は腕を組んだ。


この世界でもやはりスケジュールというものがあり、劇場は月単位で埋まっている場合がほとんど。

楽団がやってきてしばらく公演を行い、そしてまた次の楽団や劇団などが来て、また一定期間公演を行う。


そこに突然無理やり穴を開けるとなれば、演者からと、それを楽しみにしていた人々からも信頼を失ってしまうのだ。

悪い噂が広まれば、王都だけではなく、国全体の評判も落ちてしまう。


「そこをなんとかして欲しい。それがミユのためでもあるけれど、この街のためでもあるんだよ」

「どういうことだ。生半可な理由じゃ道理は通らぬぞ」かなりの苦情が入ると予想し、義父は怪訝な面持ち。


「この街の復興のためのチャリティーコンサートを開きたいんだ」

「チャリティー・・・」「コンサート???」ミユとギルがタイミングよく発言。もうすっかり仲良しである。


そこでドモンは全員にその実態を説明。

ウンウンと皆頷き納得している中、ミユは涙を浮かべ椅子から立ち上がった。


「やります!やらせてください私に!」

「わ、私からもお願いします!!」


ミユの気持ちを知るギルが、義父に向かって頭を下げる。

雇ってくれたあの店に恩返しをするには、これが絶好の機会であった。


「なるほど。その収益金を被害者達の元へ届けるのだな。それならば大義名分となるであろうな」

「そうそう。ただ税金を引き上げたり寄付を募るより、楽しんでもらった上で寄付してもらうような感じだな。今回のような事が起きた際、こういった行為はすごく有効なんだよ」


「うむ。有事の際に確かに役立ちそうであるな」義父も構想を聞き納得の顔。

「うん。それに歌は・・・傷ついた人達を勇気づけることが出来るからな」


ドモンのその言葉に、ミユの心臓は今にもはち切れそうなほどバクバクと音を鳴らした。

もうすぐにでも走り出したい気分。たとえ見えずに壁にぶち当たったとしても。


「では責任を持って私がなんとかしよう。大体的に宣伝もしなければならぬな。一番大きな劇場は無理だとしても、その次かその次ぐらいは」

「ジジイ、一番大きな劇場だ」

「く・・・また貴様は・・・」

「まあジジイがなんとかしなくても、俺にはこれがあるからな」


ポケットからドモンが印章を取り出し、義父にチラッと見せつけた。


もしドモンがトッポ宛に今回の事情を伝えたならば、恐らくどんな強引な手段を使ってでも、それを実行するだろう。

自ら劇場に赴き、劇場関係者や演者達に土下座もしかねないと義父は考え、身震いをした。





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