第355話
「お、お、王様の護衛???」全く理解が追いつかないナナ似オーガ。
「うん。エミィは前にここで会っただろ?あいつの護衛をふたりに頼もうと思ってさ」
「そ、それはわかりますけど・・・あのぅ・・・この子達はオーガですよ??」
「ナナとサンに似てるって言ったら大喜びしてたぞ?自分で迎えに行く!って言ってたくらいに」
国王がドモンの友達だというのはわかるし、この二人のオーガ達もその話は聞いていた。
それは理解しているつもり。信じられないけれども。
だがそれはオーガ達にとって、遠い世界の話。
例えるならば『皇居内で天皇陛下とアメリカ大統領がご歓談されました』というニュースをテレビで見たような感覚。
たまたまその場にエミィは居合わせたけれども。
更にその例えに合わせると、今回のドモンの発言は、アメリカ旅行に来ただけなのに『大統領の護衛してくれ』と突然頼まれたようなもの。当然理解できるはずもない。
「だ、だめかな?良いアイデアだと思ったんだけど・・・トッポもオーガのふたりがいれば、一緒に街を散策できるんじゃないかって、俺言っちゃったんだ・・・」
「・・・・」
「トッポは俺の弟のようなもんだから気兼ねなんて必要ないし、バカなことをしたら頭を引っ叩いたっていいからさ!強くて綺麗で可愛いお前達にしか出来ないことなんだよホント」
「・・・・」「・・・・」「・・・・」
「王宮内でも自由に過ごせるように手紙も書くからその・・・ダメかなやっぱ」
「ドモン様!」「ドモン様!」
あれやこれやと言い訳をするように説得するドモン。
その目の前にナナ似とサン似のオーガが跪いた。
オーガにとって、いや、魔物達にとって、人間に認められる最高のきっかけであり、これ以上ない未来への希望である。
現在、少しだけ人間に認められたとはいえ、まだまだオーガは忌み嫌われた存在であるという認識が蔓延っている。
ふたりがこの街に来て、「よく来たね」と迎え入れてくれた人もいたが、露骨に避けている人もたくさんいた。
「どうして私達はオーガなんかに生まれてしまったんだろうね?」と寂しそうに笑ったナナ似オーガの言葉に、サン似のオーガは涙を流した。
なので王宮はもちろん、王都に入ることも完全に諦めていた。
今はどうにもならないし、どうしようもない。いくら力が強くとも、よそ者の、人間とは違う奇妙な生き物なのだから。
百年後、五百年後、千年後・・・いつかあの大きな門の向こう側へ。
ぞろぞろとドモンの元へ集まったオーガ達が、それらの話を聞くなり、次々とドモンの前へと跪いていく。
ナナとサンは温かい目で見守り、ギルはただただ呆気に取られながらその様子を見ていた。
「そんなに嫌なら無理しなくても・・・」
「違うわよ!もうバカね、鈍いんだから!」
「こ、これ!」「ダメですダメです。ドモン様にそんな事言ってはダメです」
ナナ似オーガの言葉に焦るエミィとサン似オーガ。
「あなた達のことを国民にも発表して、なんちゃらって役職にも就けると言っていたから、私達よりも立場は上になっちゃうね」と笑うナナ。
「俺が言ってたのは近衛兵な。王様を守る護衛のことだよ。でも実際にはもっと上の役職になると思うし、ぞんざいな扱いは俺が許さないから」とドモンは真剣な目。
それに対し、ナナ似オーガは微笑みながら「ハァ・・」と大きなため息ひとつ。
「やるわよなんだって!私達に任せて!」
「ああ、ヤッてもいいよ。是非ズッポシヤッてやってくれ。トッポの野郎、あんな顔して結構立派なものを持ってんだよ。なのにまだ女の経験がなくて・・・」
「違うわよ!スケベドモン様!!」とドモンを引っ叩くナナ似オーガと、「だから様はいらないってのに」と言いながらドモンを引っ叩くナナ。
そうしてオーガ達の道標、そして魔物達の道標となるドモンは土へと還った。
「やりすぎだよ!もう!!」
トッポや女ボスと酒を酌み交わした店で、酒を飲みながら頭を擦るドモン。少し遅い晩ごはん。
抱っこするように跨がり、よしよしとドモンの頭を撫でているサンは、エールひと舐めでやや酔っ払い。
「ドモンが悪いんでしょ!ねえわかった?あんたが師匠と言ってる人はこんな人なのよ」
「アハハ。これもまた生き様ですよ。ね?師匠」
「ギルはわかってるじゃないか!さあ飲め。ナナなんかポイだ」
「いただきます。ああ、師匠のエールがいちばん美味しい」ポロンと楽器を鳴らすギル。
「サンも御主人様のお酒飲むぅ~・・・ギルさんだけズルいですぅ~」
「いや俺の酒じゃなくて・・・ギル、変なこと言うなよ。サンが勘違いするんだから」
「はやくぅ~」目を瞑り、半開きの口でサンが上を向く。
「・・・・もうダメだ。こんなの可愛すぎる。ちゅ」
「こらドモン!!私の目の前で堂々とやったわね!!」
「仕方ないだろ、こんなに可愛くちゃ・・・ああほっぺたを赤くしてもう・・・ちゅ」
「キィィィィ!!もう許さない!!ギルさん、ほらこっち向いて、ちゅ」
「ほへ?!」「あ!!やりやがった!!!」
「フン!これでおあいこよ。どう?これがいつも私達が感じている気持ちよ!」
「尻軽おっぱい女!!」
「うるさいスケベ浮気ジジイ!!」
いいぞやっちまえ!と周りの酔っぱらい達は大盛り上がり。
結局サンがトコトコとナナのところへ行って抱っこで跨がり「御主人様の口付けをお持ちしました奥様」と思いっきり口付けをしたことで、なんとか両者の怒りは収まった。
変な形だけど、酔っているのに気を使ったサンが健気で可愛い。
しかしドモン達のスケベな盛り上がりは他の者達にまで伝播し、店内はすっかりスケベキス祭り状態に。
男と女。そして女同士や男同士でも。
ジェンダーレスがどうのといった類などではなく、酔って誰かの唇を吸いたかっただけ。
「舌入れやがって!!」「ワッハッハ!!」という振り向きたくもない会話が、ドモンの後ろから聞こえていた。ナナは興味津々。
「やっぱりこういうのが落ち着くな、俺達って」
「そうね。私もそう思ってた」
ドモンの言葉にナナも微笑む。
お互いにヨハンとエリーの顔が頭に浮かんでいた。
そんなやり取りをしているドモン達がいる店の外が、やけに騒がしい。
「ついに俺の人気もここまで来てしまったか!小説なら350話はかかったと思う」ドモンももうかなりベロベロ。
「なぁに言ってんのよ!スケベおじさんに人気なんて集まるわけ無いでしょ!私よわ・た・し!私のこの美貌でゲェップッ!!やだ、ゲップしたらさっき食べた鶏肉出てきちゃったオェ」口を押さえるナナ。
「絶対にお前じゃねぇよゲロおっぱい」
「言ったわねドモン!じゃあ人気比べして、負けた方がサンと一緒にお盆芸やること!いいわね?!」
「ふぅ~」
「こらサン冗談だってば!脱いじゃダメだ!!ん?もしかしたらみんなサンのお盆芸を見に来てるのか?じゃあ脱いで良しヒック」
他の客達も泥酔しているドモン達を見てヤレヤレのポーズ。
そうしている間にも、店の外に人が群がり、その数はドンドンと増えていった。




