第353話
「おぉ・・・」「なんと!」「お似合いでございますわ陛下!」
貰ったスーツを試着し、大きな姿見の前で、脚をガクガクに震えさせながらも恍惚とした表情のトッポ。
義父を含む他の王族達や大臣達も思わず感嘆の声を上げた。
「かかか、返した方が良いような気がしてきました・・・」
「いや、カルロスも譲り受けたと言っておったのだから、その必要はあるまい。私からもドモンへ感謝の意を伝えておこう」
今まで着たどんな衣装よりも、圧倒的に威厳が感じられる。
そばにいた侍女達が胸の前で手を合わせ、恍惚とした表情で見つめるほど格好も良い。
今までいくつかまとまらなかった縁談もあったが、これを着ていれば、一発でまとまる気がした。
「だだだ大事に!なにか重要な会談や、国民への言葉を述べる場などで着用しますから、宝物庫の奥に!」
「はっ!」
「虫などに食べられるようなことは絶対にないようにしてください!もう何重にも結界をかけ、浄化魔法をかけ続けてください!!」
「承知いたしました!!」
着てみて分かる、その貴重さとその重み。
本来であれば、カールがのんびり弟に自慢している場合ではない。
あのルビーの印章には価値が付けられるが、この服には価値など付けられない。まさにプライスレス。
後日談となるが、隣国などと揉め事が起きた際に、トッポを含む歴代の王がこのスーツを着て和平交渉の場に立ち、何度も優位に事を進めることとなった。
間接的にではあるが、数十万から数百万人の命をこのスーツが救うこととなったのだ。
「大変よ大変!」
試着をしていたトッポの元へ、ローズが飛び込んできた。
脚の具合が悪いということを忘れているかの如く。
「ド、ドモン様からの贈り物と思われる物がハァハァ、手紙と共に部屋に!」とひとりの侍女。
いくつかの箱を抱え、男の使用人達も部屋へやってきた。
「どれ、私が読もう」と手紙を受け取った義父。
ローズの両親や男の子達も部屋へ飛び込んできた。
「『ローズへ。サンに買ってきたものだけど、丈が合わなかった服や靴をお前にやる。向こうの子供が運動をする時に使う服や靴もあるぞ。これでみんなと一緒に、走り回って遊べるようになるといいな』と書いておる。フフフ」義父はニヤリと笑う。
「先生・・・」「ううぅ・・・」唇を噛み締めて涙を堪えたローズと、堪えきれなかった母親。
「続きがあるぞ?『それと俺の子分のクソガキ共へ』」
「誰が子分だ!!」「ドモンめ!!ウフフ!!」
「『お前らの服も他の箱に入ってるぞ。ゴブリン達にやったものの余りだけど、こっちの世界じゃ貴重だと思う。着れたら着て、着れなかったら誰かに譲ってやれ。あとおもちゃもいくつか入ってるから、ローズと一緒に遊べ』だそうだ。まったく・・・直接渡せば良いだろうに」義父が腕を組む。
「そ、そっちの箱を開けろ!」「早く!!」
残りの箱を開けると、男の子向けの服や靴と、ボールやグローブ、フリスビー、いくつかの人形や怪獣のおもちゃ、子供用のリュックやバッグなどがびっしりと詰まっていた。
「・・・ああもうダメだ」男の子のひとりがボロボロと泣き出した。釣られるように泣き出すもうひとりの男の子。
「私だって無理よ!こんなの無理よぅ!!うぅぅぅ!!ありがとう先生!!!!」当然ローズとその両親も。
「ドモン様の部屋の冷蔵庫から、異世界の酒らしきものが発見されました!!手紙もあります!!」使用人がまた飛び込んできて、義父へ手紙を渡した。
「うむ!『ジジイへ』チッ!馬鹿者が!」いきなりのジジイ呼ばわりに怒る義父。
「は、早く続きを読んでください!」とトッポ。
「『前に言ってた桃の酒と、あといくつか珍しい酒を入れておいたから、王様やみんなと分けて飲んでくれ。子供ら用にコーラという飲み物も入れておく。シュワシュワのナナもお気に入りの飲み物だ。本当は二本くらい入れようと思ったんだけど、ナナが怒っちゃって・・・』出発前に何やら言い争いをしてたのはこの事か」
「やった!」「え?うそ?!」「く、黒い・・・」コーラに驚く子供ら。
「ちゅ、厨房の道具箱の中から、ドモン様からと思われる道具が発見されました!!皮むき機や調理用のハサミ、異世界の包丁と思われます!『世話になった。向こうの安物の道具だけど使ってくれ』とだけ書かれた手紙が添えられておりました!」
部屋に飛び込むなり叫んだ料理人のひとり。
うしろからやってきたその道具を持った料理人達は、皆満面の笑みを浮かべている。
もちろんこれらもこの世界では貴重な物。
「こっちにもあったのかい?俺達のところにも贈り物があったんだ」と勇者達が部屋にやってきた。
箱を開けると、やはり何着かの服と、知恵の輪やキューブ型のパズル、そしてブランデーが一本入っていた。
「手紙を読むよ?『アーサー、ソフィア、そしてミレイとムキムキ女が好きなエロ魔法使いへ』だって。プクク」笑いを堪えきれなかった勇者。
「デカい隕石を頭の上に落として欲しいようじゃな」への字口の大魔法使い。
「『色々迷惑をかけたし、これからもきっとかけると思う。悪いな。だけど頼りにしてるよ』ちょっとやめてよもう・・・」ドモンのまさかの言葉に下唇を噛んだ勇者。
「迷惑なんてかけちゃいないさ!」とミレイも涙ぐむ。
「『中に入っているおもちゃは、頭を使って遊ぶものなんだ。金属の物は知恵の輪と言って、頭を使えばバラバラに外れるようになっている。ミレイは力ずくでバラバラにしちゃ絶対ダメだからな。もしやったらお仕置きだ』って書いてあるよ」
「そ、それは力ずくでバラバラにしろってことかな?フゥ・・・」
「うん。違うと思うよ?」ミレイの言葉に呆れる勇者。
涙を拭い、知恵の輪をカチャカチャとミレイが弄っていると、子供らがワッと集まり、貸して貸しての大合唱。
ローズの母が偶然あっさりひとつ解いてみせ、「すごいわお母様!!」とローズがピョンピョンと跳ねた。
「ええとフムフム・・・『もうひとつの四角いのはもっと難しいもので、上手く回転させて動かせば、6面全てを揃えることが出来る。全て出来た者が本物の賢者とも言えるだろう。当然俺は出来るぞワッハッハ』だって。どうするソフィア?」
「やってみせるわ!負けてられないもの!」
勇者の言葉に賢者も意気込んだものの、キューブを5~6回ほど回転させたところでその仕組みを理解し、すぐに絶望の表情へ。
義父が借りて一面だけ揃えてみせたが、残りは揃う気がしなかった。
「また彼奴は嘘をついておるのではあるまいな?」
「『四角いやつはドモンしか揃えられないの。みんなやってみてよ ナナ』と書いてあるよ。どうやら本当みたいだ」
「まことなのか・・・チッ!化け物め・・・」
それがどれだけ難しいことなのかを理解し、悔しさの声を上げた義父。
ドモンなら出来て当然の声や、それでも信じない者、何か別のからくりがあるのではないだろうかと推察する者と様々な反応を見せた。
実際は、絵が描いてある揃え方の説明通りに動かしただけ。
それを見てもナナにはさっぱりわからず、サンも最後の最後ところで躓き出来ず、ドモンだけが偶然揃っただけの話。
動画サイトを観ながら何度か揃えた経験が役に立った。
「下の方にもうひとつ箱が入ってるよ?」とミレイ。
その中身の物により、ローションの時とはまた違った意味で、勇者と賢者が結ばれることになった。