第348話
「よし、これで完成だ。チーズ入りミルフィーユカツと肉じゃが、あとおまけのクリームシチューだ。作り方は見ていたよな?ミルフィーユカツの方を作るの手伝ってくれる?」
「は、はい!!」「お任せください!」
肉じゃがとクリームシチューは煮込むだけなのでドモンひとりで作り、カツの方を料理人達に更に作らせた。
形成する手間と揚げる手間がかかりすぎ、みんなで食べるにはカツの数が全く足りなかったのだ。
手伝っていたものの、のんびり歌いながら作っていたナナは、結局三つしか作れなかった。
そんなナナが自分で作ったカツを揚げてやり、ナナの前に置いたドモン。
「ねえドモン、味見していい?」
「駄目って言ったってするだろ」
「えへへ」
笑いながらナナがミルフィーユカツをガブリと一口。
するとすぐ身体に衝撃が走り、ブルンと何かを大きく揺らした。
「んん~~!?・・・お・・・に・・・く????」
「当たり前だろ、何言ってんだハハハ」
「だって歯ごたえが!う、嘘でしょ??」
ナナはいつものように分厚い肉のつもりで、顎に力を込めて歯を立てたのだけれども、柔らかくスッと噛み切れた上に、とろっと溶けたチーズが口いっぱいに広がり、頭が大混乱。
目を白黒させているナナを楽しそうに見ていたサンだったが、そのナナからミルフィーユカツを口に放り込まれ、「ふわぅ???」と驚きの声を上げた。
「お、美味しいのですか?」と惹きつけられるようにやってきたトッポ。邪魔をしないように端でずっと見守っていたが、もう我慢が出来ない。
「美味しいなんてものじゃないわ!ドモンが!ドモンがとんでもないものを作ったのよ!」とナナ。
「私達もこんな料理初めてなのです!美味しいです!」サンも大興奮。
「まあこれは、この国の王様に食べてもらおうとずっと考えてたものだからな。あと俺の国の代表的な料理であるこの肉じゃがもだけど」
「そうだったのですか・・・うぅ僕のために・・・」
「トッポも味見してみるか?」
「は、はい!!」
本来は、あとでみんなと一緒にいただくと言うつもりだった。
だがもう無理。抗えない。
厨房で立ったままつまみ食いだなんて王がするようなことではないけれど、もう王としての立場なんてものはどうでもいい。とにかく食べたい。
「う、うう、うわぁあああ・・・・」冗談を抜きに、腰が砕けたトッポ。
「面白いだろ」
「こんな、こんなことって・・・。感動と驚きで心臓がバクバクしてますよ」
「それは大げさだよ。ほら料理人達も一応味見しとけ。今自分達が作ってるものがどんなものか知っておいた方がいいだろ」
一口サイズに切り分けたカツを皿に乗せて渡したドモン。
料理人それぞれがそれを口にするなり、国王があのような反応をした理由が理解できた。
「ジジイに貸したスライサーもそのままやるからさ、また焼肉するなりこれを作るなり好きにしてくれ。壊れる前に機械を複製した方がいいかもしれないけどな」
「うむ。感謝するぞドモンよ」
「初めからそのつもりだったくせに」
「フフフ」
ドモンの言葉に義父もニンマリ。
ドモンもそう言ったものの、これで自分のスライサーが壊れてもなんとかなると一安心。
そうして今朝食事をした場所で待つようにと皆に促し、料理が出来上がるまでの間、ドモンはギルと話し合いの場を設けた。
「本気で手伝う気あるのか?まあ吟遊詩人だから旅にも出るだろうし、長期間は無理だろうとは俺も思ってはいるけれど」
「あります!勉強させてください。あなたという人を」ギルは真剣な目。ふざけた様子には見えない。
「俺から学ぶことなんてまるでないと思うんだけどなぁ、スケベ以外」
「そうね」
ナナの相槌に「そんなことないです」と両手を胸の前で握り、必死にぴょんぴょん跳ねるサンが少しエリーに似ている。
「最悪、音楽に関して学べなくても、あなたという人の生き様をそばで感じてみたいのですよ。なにせ今朝出会ってからほんの数時間で、師匠を讃える歌を数曲ほど作れるほどですし」
「やめろ!気色の悪い・・・」
「あら、なかなか見どころあるじゃないの」「素晴らしいです」
ナナとサンは喜んだが、元パチプロのスケベな遊び人を讃える歌なぞドモンは聴きたくもない。
だが今から良い人材探しをするよりは、頭の回転が速いギルを雇う方が楽だとドモンは判断し、仕事を手伝ってもらうことにした。
食事が運ばれ、昼食会兼送別会が始まる。
少ししか滞在していないし、近隣の街に戻るだけだというのにトッポと子供らは涙を浮かべへの字口。
「だって・・・送別会だなんて聞いてなかったのです」
「俺だって聞いてねぇよ。そもそもいらねぇし。まあ確かに、もうここには来ないかもしれないけど・・・」
「どうしてですか!!」「え?!」「なぜ!!」「イヤよ!!」
トッポと子供らからは大文句。やはり王族はわがまま。
ドモンはクスクスと笑いながら「まあ気が向いたらな」とはぐらかした。
「あと食事とお別れの挨拶の前に、職業訓練校や温泉宿に関しての土地使用や連携に関してのことなんだけど・・・」
「それは好きにしてください」とトッポ。
「はぁ?好きにするってどういうことだよ」ドモンは怪訝そうな顔。他の者達は驚いていたが、義父は恐らく国王がそう言うだろうと予測していたので驚きはない。
「言葉通りドモンさんのお好きなように。土地が必要ならば好きな様に使用して構いませんし、誰かに土地を分け与えるのならば、ドモンさんの権限で渡しても構いません。この王都が必要ならば、いや、この国が必要ならばどうぞお好きに」
「何言ってんだよバカ!!」
「僕はバカです。でもドモンさんならきっと馬鹿な真似はしません。皆さんももうわかっていますよね?この方のことを」
「本当に何を言ってんだよ・・・」
ドモンならば、絶対にこの国を良くしてくれるという自信と確信がトッポにはあった。
そして国を私物化したり、私腹を肥やすような真似をしないということも見抜いていた。
「僕はあなたに、冗談で王になって欲しいと言った訳ではありません。あなたならきっと皆が幸せになるから!あなたならきっと皆を導ける!そう思ったのです。ならば協力を惜しむような真似はしませんし、誰にも邪魔はさせません!」
「・・・・」
トッポの言葉を聞きながら、機嫌よくポロンポロンと演奏を始めたギル。
ナナやサンは大きく頷くも、ドモンは大困惑。なんと言われようが、ドモンは元パチプロの遊び人なだけだ。
「ドモン・・・ドモンが思っているよりもずっと、ドモンに助けられている人って多いのよ」とナナが優しい目で語り、「はい!!」と嬉しそうに相槌を打ったサン。
「エイさんもそうだし、それにボスさんもそうだし、そこで働いていた人達、オーガの人達やゴブリンの人達もそう・・・」とナナは微笑む。
「わ、わたしもよ!!」と椅子から立ち上がったローズと、そんなローズに寄り添う両親。
「だから貴様は自分の立場を弁えろと何度も言っておろう」と義父。
「ドモン様のやることに文句言う奴がいるなら、あたいが相手になるよ!」とミレイ。
「そうなったら俺達も」「加勢しなくちゃならないわね」とクスクス笑う勇者と賢者。
機嫌よく演奏を続けるギル。
演奏をしながらも、新しい歌が頭に浮かんでしまい少し困惑。
使用人達と一緒にドモンの料理を配膳している料理人達も、その話を聞いて驚いたものの、『もしドモン様が国王となれば、食の幅は大きく広がるかもしれない』とつい期待してしまうところもあった。
そんな様子もドモンは感じ取りながら、「柄じゃねぇよ」とぼそっとつぶやき、席に着いた。