第345話
「ドモン様!まだ仮縫いの段階ですが、ご注文いただいた服の方を見ていただきたいのです!新たなメイド服のスカートの・・ええぃどいてください!」と仕立て屋。
「こちらが先だ!ドモン様!ドモン様が街でお作りになられたジャンボチキンカツというものについてご相談が!それに、これからカルロス領の方に私も向かうのですが、醤油と味噌の・・・おい!こっちは時間がないんだ!」とマスターシェフ。
ここにもドモンを師事する者がふたり。
その様子にナナは呑気に鼻高々。
「お二人共困りますね。師匠に用があるならば、一番弟子であるこのギルバートを介して頂けなければ」と右手を胸に当てたギル。
「私は弟子ではなく、ただドモン様からご注文を頂いた品を・・・なるほど、弟子として師事を仰ぐといった考えは素晴らしいですな」と仕立て屋の親方。
「何言ってるんだよ!俺が教えられることなんてないってば!それよりも仕立て屋、サンに耳の付いた新たなリボンを作って欲しいんだけど。ナナはそれを試着してみて。着ているところを一度見たいから」
「ほほう。耳・・・ですか?」「わかったわ」
身振り手振りで耳付きリボンの説明をし、仕立て屋のメモ帳に簡単な絵を描いたドモン。
ナナはメイド服を受け取り、別の部屋へ案内された。
「それが出来たらすぐに持ってきて欲しいんだ。それと商売についてあとで少し話がある。大事な話だ」
「かしこまりました先生。これならば五分もあれば出来るでしょう。ミシンもありますのでフフフ」
「先生ではないから・・・」
嬉しそうに足早に戻っていった仕立て屋。
ギルが「次の方どうぞ」と何故か取り仕切る。
「噂の大きなチキンカツのことなんですが、どうしても再現ができずに困っているのですよ」とマスターシェフ。
「うむ。出来立てをふたりに食べさせようとお願いしたのだけれども・・・肉を包丁で開いていたのは伝えたんじゃが・・・」と大魔法使いが補足。
「あぁ、鳥のもも肉でやろうとしてないか?あれはむね肉の方で作ったんだ。そうすれば上手く開けるからな」
「なるほど!しかしそれでは味や食感も変わってくるのでは?」
「むね肉も上手く下ごしらえをして調理すれば、もも肉に負けないくらい旨味を残すことが出来るんだよ。まあある程度慣れが必要なんだけど、それでも難しい場合は、むね肉を酒と酢に15分ほど漬け込めばいい」
「酒と酢・・?ですか?」
「ああ、どっちもまだなかったか。じゃあワインとビネガーに漬け込んでもいい。その後、小麦粉をしっかりまぶして、あとは普通のカツと同じように油で揚げるんだ」
「むね肉にワインとビネガー!!!!!」
感謝しながらメモを書き記し、飛び跳ねるように厨房へと走っていったマスターシェフ。
もうすぐ出発だというのに、我慢が出来なかった。
「まったく仕方ない弟弟子達ですね、師匠。それで今度は私からの質問なのですが」とギル。トッポよりも惚けた性格。
「俺は誰ひとり弟子に取ったつもりはないってば。全員後で金取るぞ?いい加減にしないと」
ここまできたらドモンも本気で面倒。
『技術はただで伝えるつもりだ』と自慢気に言っておいて、今更それを売るのはどうかと思っていたけれど、こうなればもう遠慮など必要ない。
お金を無駄に貯め込む趣味はないが、旅のための資金が必要となれば話は別だ。
「お、お金を払えば僕にも・・・」とトッポも弟子に立候補。
「やらねぇよ!まあ24時間営業の店を作る時には、各店から助言料を少しだけ貰おうとは考えているけども」
「そんなぁ~」
トッポはただそばに居たいだけなのが見え見えなので、ドモンが即却下。
ドモンを挟んでトッポとギルがぎゃあぎゃあと騒いでいると、着替えを終えたナナと新しいリボンを持った仕立て屋が戻ってきた。
ただしナナは、もの凄く怒りながら。
着替えたナナの姿を見た者達の、ざわざわとした声が止まらない。
「やってくれたわねドモン」
「おーすごいスケベ!想像以上だ!」
なんちゃらコレクションのファッションショーで、『モデルさん、その衣装で納得してんのか?』と思わず心配してしまうような、あまりにも大胆なメイド服で登場したナナ。
胸元をハート型に切り取るように指示は出したが、そこまで切るとはドモンも正直思っていなかった。
「私にこれを着て働けっていうの?!冗談でしょ??」
「胸元をレースか何かで隠す感じにすればもっと上品になるよ。お前が世界一の美人メイドで決定だ」
「・・・そ、そう?」
「優勝ナナ!」
「やったわ!」
褒めに褒め、何とか誤魔化したドモンだったが、ナナの格好を改めてよく見て『これは行ける』と判断。
「リボンはこの様になりました」と仕立て屋。こっちはうさ耳のはずが猫耳になってしまっていた。
「ほらサン、ちょっと耳が小さくて猫みたいだけれども・・・」
「わああ可愛いです!!ありがとうございます御主人様!!!わぁ!!!」
サンはピョンピョンと跳ねて大喜び。
自分の耳があるのに、リボンに耳を付けるとは一体どういうことなのでしょう?と思っていたが、実物を見てすぐに理解した。
これは女の子を何倍も可愛くさせる物だということを。
早速そのリボンを頭につけると、全員から「うわぁ!」「可愛い!!」と声が上がった。
特に子供らと侍女達には人気で、仕立て屋の元へすぐに殺到。
どうにか同じ物を!と皆お願いをしていた。
「ズルいよドモン!私が一番って言ったのに・・・うぅ」いじけるナナ。
「お前はお前で本当に人気があるぞ。ほら見てみろよ」とドモン。
ナナが口を尖らし後ろを振り向くと、数名の王族、そして国王であるトッポが赤い顔をしながら、ナナに向かって片膝をついていた。
それにはナナだけではなく、他の者達も驚きの表情。
絶対にあり得るはずがないことが起きたからだ。
この国の重鎮達が自分に対して跪いた事により、ナナの溜飲が下がった。
「本当に女神が突然やってきたのかと勘違いしました」とトッポもナイスフォローでナナは上機嫌。
結局ナナのメイド服もサンの猫耳リボンも大人気となり、仕立て屋は対応に必死。
「皆様申し訳ございません!これらはドモン様が提案しお作りした物でありまして、それを勝手に私共が売るというのは道義に反する行為でございますので・・・」
「そこをなんとか!」「ドモンよ」「ドモン殿!」「お願いよ!」
「まあみんなの手に入れたい気持ちもわかる。で、仕立て屋に俺から提案があるんだ」
ニヤリと笑うドモン。
「あ!あれねドモン!け・・・経験コンドムサン・・・?」うろ覚えがなんだかスレスレなナナ。
「経営コンサルタントです奥様」とサンが訂正。
こうしてドモンの王都での仕事の第一歩が始まり、様々なものが劇的に変化していくことになる。