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第343話

ドモンがはじめに想像していた魔王とは違っていた。

ドモンはドラゴンのような身体や、首が三つあるようなオドロオドロしい姿、もしくは逆に力士のようなただのデカい人間なんかを想像していたのだ。


「閻魔大王かよ・・・俺なんかあっという間に舌を引っこ抜かれちゃうな」


話を聞けば聞くほどそれが確信へと変わる。

その居場所もどこかの山に城でもあるのかと思いきや、洞窟の地下深くであり、馬車だけでは行けるような所でもないということがわかった。


「初めて魔王のところに辿り着いた時は、洞窟に入ってから十日もかかったんだ」というミレイの話を聞き、冗談ではなく、今行くのは本当に危険であると判断。

洞窟を出たら雪が降り積もっていて動けなかったなんて洒落にもならない。


中に入れば異常に暑い場所や寒い場所があるとも言っていたが、そりゃそうだろう。地獄の底なんてそんなもの。



「俺も魔王に会ってみたいと思っていたけど、どうにもきつそうだ。招待状でも出して向こうから来てくれないかな?」

「アハハ!魔王の方から来てもらうなんて、そんなの聞いたことがありませんよ。それに結局誰かが招待状を届けに行かなくちゃならないのでしょう?」

「オーガと一緒にトッポが届けてきてよ」

「むむむ無理ですよぅ!」


もちろんドモンの冗談ではあったが、ドモンの脚ではかなり困難な旅となる。

なにより食料を運ぶのに、途中から馬車が使えないというのが痛い。

魔王のところから馬車までの帰り道の分の食料もきちんと計算し、背負っていかねばならないのだ。


「勇者やミレイはわかるけど、賢者や魔法使いの爺さんは大変だろう毎回」

「行きは下りが続いて膝に負担がかかるし、帰りはボロボロになった状態でずっと登りだから、きついなんてものではないわい。もう慣れたけども」への字口で語る大魔法使い。

「一度帰る途中で食料が足りなくなって、アーサーが地上まで先に走っていって、食料を取ってきてくれたこともあったわ」と、申し訳無さそうに語った賢者。


「ミレイも空腹で動けず、下手すりゃ全滅の危機だったからなぁ。正直かなりきつかったけれど、すべての力を振り絞ったよ」勇者もフォーク片手にヤレヤレ。

「魔王との戦いじゃなく、移動が一番危険ってなんなんだよ」


勇者でもきついならドモンには絶対無理。

そんな思いをしてまで閻魔大王の元へ、いや、魔王の元へ行かなければならない自分の運命をドモンは呪った。面倒な事この上なし。

もし魔王と顔を合わせたならば、そんな場所に居を構えた事を説教してやろうかと真剣に考えた。


「あーなんだか魔王のことも街づくりも仕事も全部面倒になってきた!もう俺達の家に帰りたい。いや帰る!ボス達の馬車に一緒に乗っていく。街までみんなであんな事やこんな事しながら帰ろう」

「こら!」「うー!」


ナナやサンも冗談だとは分かっているが、即座に反応。

黙って放っておくと本当にやりかねないからだ。

一応釘は刺しておく。



「ま、まあまあドモンさん!今は余計なことは考えず、食事を楽しみましょうよ!実は先程吟遊詩人の方が王都にいらしてると聞き、王宮の方へお呼びしたんです。まもなく来る頃かと」とトッポ。

「吟遊詩人??あの旅をしながら歌ったりする?」

「そうですそうです」


吟遊詩人。日本で言うならば琵琶法師。もしくは、一番突飛な言い方だと流しの歌手といったところ。

ほぼ中世とも言えるこの時代背景では、歌といえば舞台での合唱がメインであり、吟遊詩人のような者はかなり珍しいものである。

それ故に街にやってきたと話を聞けば、王宮に呼んで歌を披露させるというのが慣わしであり、吟遊詩人自身もそれを誇りとしていた。


談笑しながら食事をすること十数分後、「やあやあ皆さんごきげんよう」とホストのような優男が、ギターに似た楽器を背負い現れた。


「やあよくぞ参られた」少しだけ王様口調のトッポ。

「これはこれは国王陛下、ご機嫌も麗しいご様子で」

「此度はそちらにおられる異世界からの客人に、そなたの素晴らしい歌を披露してもらいたいのだ」

「ほほう異世界とは珍しいですねぇ・・・」


それが当然だとはいえ、王様らしい態度のトッポに思わず吹き出してしまったドモン。

ドモンとしては、ロールプレイングゲームでもおなじみの、あの吟遊詩人の歌が聴けるとあって普通に楽しみにしていたのだけれども、トッポの事で吹き出してしまった様子を吟遊詩人が何か勘違いしたのか、突然鋭い目つきへと変わりドモンを睨みつけた。


「異世界の方に私の歌が理解できるとは到底思えないのですが」

「え?いやまあ・・・難しい歌だと確かに俺もよくわからないけど、雰囲気くらいは・・・」


少し困った顔で吟遊詩人に答えたドモン。


「でしょうねぇ。それならば街の広場で歌っていた方が余程有意義というものです」

「はぁ・・・」


吟遊詩人の突然の失礼な物言いに、ムッとした表情に変わるナナとサン、そしてトッポ。

ドモンは特に気にもせず、「そりゃ残念だ」とタバコを吸いに行こうと席を立った。

こっちから「いや歌えよ!」というのも変だ。反社会的勢力のパーティーでもあるまいし・・・と。


「ドモンさんに失礼ですよ!」

「おや?なぜ国王陛下が異世界人であるとは言え、一庶民にそのような口ぶりなのでしょうか?」

「そ、それは・・・別にどうだっていいでしょう!あなたには関係のないことです!!」


何を言っても恐らくドモンにとって不利になると察したトッポ。

事実、本来であればドモンが糾弾されて当然の事しかしていないためだ。


「あぁごめんごめん。なんか俺のせいで気を悪くしちゃったみたいだな。俺はもう退散するからさ、仲良くやってくれよ。ナナとサンは後でどんな歌だったか聞かせてくれよな」

「わ、私も行くわ!」「私も・・・」


ドモンと一緒に席を立つナナとサンにトッポはますます焦り、そして吟遊詩人に憤った。


「あなたこそなぜそのような態度をとるのです!客人に失礼ではありませんか!私の顔に泥を塗るような行為を!!」

「私は旅人、吟遊詩人。思いのままに語り、歌うのみ。それを生業としております故、曲げられませぬ」

「ぐぬぬ・・・」


トッポよりも一枚も二枚も上手の吟遊詩人。

すました顔で棘を刺す。


「行きましょうドモン!」もう限界ギリギリのナナ。余計な一言が出そうな自分を必死に止めていた。

「あ、ああ」

「逃げるのですか?異世界のお方」


不穏な空気に困惑するドモンと、勝ち名乗りを上げるかの如く、そう言ってほくそ笑んだ吟遊詩人。


「御主人様は逃げません!!」すでに涙目のサン。

「そうよ!たまに逃げることもあるけど今回は違うわ!」余計な一言を結局言ったナナ。

「ではどうやら今日がその『たまに』だったのですね。そうですか。それは珍しいものが見られました」


吟遊詩人のその言葉に、いよいよ義父や他の王族達、女ボス達やエイまでが不機嫌になり始め、もはや収集がつかない状況に。

ドモンはどうしたものかと頭を掻き、寝不足のホクサイはテーブルに突っ伏し、眠りについた。




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