第342話
「・・・お風呂の準備が出来ておりますが、いかがなされますか?」
「え、ええ、じゃあ食事の前にみんなでいただこうかしら?ホホホ」
ドアを開けると目の前に立っていた赤い顔の侍女にそう答えたツヤツヤ顔のナナ。
「準備が出来たらすぐに行く」と伝え、部屋に戻りドアを閉めた。
「・・・なんか全部聞かれてたみたい。私もやっぱりお城は落ち着かないわ」
「お前は声がでかすぎるんだよ!尻も胸もデカけりゃ声もでかいんだから。サンを見習えサンを!」
「サ、サンはまだ慣れていないので・・・」恥ずかしそうな俯くサン。
何の話なのかは分からないが、とにかくサンはまだうぶっこである。
着替えを済ませ、朝食前にひとっ風呂。
これだけはお城が羨ましい。この世界では随分な贅沢。
ドモンとサンでナナを洗った際、ナナに反省の色は全く見られなかった。
きっと風呂場の外で待つ使用人達は、また赤い顔をして立っていることだろう。
朝食は中央宮殿の方に皆呼ばれ、朝だというのに豪華な晩餐会のような状況。
もちろんトッポが料理人達に急なお願いをし、こういった事になった。
料理人達にとっては迷惑千万である。
「どう・・かな?ドモン・・様。やっぱりあたいには似合わないよね・・・」と、出来たばかりのドレスを着て、カツラをかぶったミレイが姿を現した。
「あはは、ゴツゴツの筋肉は隠しきれないけれど似合ってるよ。そっちの賢者もな」ドモンの言葉に、にこやかに頭を下げる賢者。
「勇者も魔法使いの爺さんも、随分と鼻の下が伸びてるぞ?」
「そりゃ・・・」「仕方ないわい」
ドモンの言葉に逆らうことなく認めた勇者と大魔法使い。
その言葉に賢者も少し赤い顔。
「はは~んなるほどなるほど。勇者は告白したのか。爺さんは知らないけど」
「!!!」「!!!」「!!!」「!!!」
「まあ勇者は成功したようだな。良かったじゃないか、おめでとう」
「か・・・く・・・」「あ、あの」
完全に図星ではあったが、しばらくは隠しておこうと決めたばかりの勇者と賢者。
思いっきりすぐにバラされ大赤面。
ちなみに大魔法使いは「気持ちは嬉しいけど」と断られていた。が、気持ちはスッキリした。
「おーいみんな、勇者と賢者が昨日の夜に告白して結ばれたってさ。朝まで聞こえたスケベな声は、どうやらこいつらの声らしいぞ」
「ば、ばかな!そんな・・・」
自分達の変な声を誤魔化そうと適当な嘘をついたドモンだったが、しどろもどろの勇者と両手で顔を隠した賢者の様子で、それも図星だったと判明。
「本当にズッポシして朝まで寝かさなかったのか。アーサーだけに。ぎゃあああああ!!」
義父のゲンコツがドモンの頭に落ち、何事もなかったかのように朝食会が開始された。
だがそんなドモンに勇者は感謝している。
ドモンが背中を押さなければ、きっと告白もせずに生涯を終えていただろう。
「イテテ・・・まあ勇者が告白する勇気もないって洒落にもならないもんな。おお流石に美味いなこれ。ローストビーフかな?」
「まあ確かに、俺は本当の意味で勇者になれたかもしれない。その点だけは感謝するよ、ドモンさん」
「お前、あの後も結局貴様だの何だと散々言っといて、今更何がドモンさんだよまったく」
「く・・・」
勇者を憎んでいるのかというくらいからかうドモン。もちろん冗談だけれども。
「もう~仲良くしてくださいよ!この皆さんでこうして食事をするなんて、これが最後かもしれないんですよ?グス」別れを惜しみ、何かと悲観的なトッポ。
「最後じゃなく最初だから気にすんな。それに次はもっと別の奴と、こうやって朝食を共にするかもしれないんだぞ?それもまた楽しいもんだ」
「誰です?例のオーガの方達ですか?」
「魔王」
ドモンの一言でガシャーン!だの、ブッ!だの色々な音があちこちから同時に出た。
だがドモン本人はいたって真面目な顔。
誰もまともに受け取る者はいない。ナナとサンと義父と勇者達以外は。
トッポや女ボスもはじめは思わず吹き出しかけたが、昨日の夜に聞いた話を思い出し、ドモンのそれが本気なのだと悟った。
「魔王を連れてくるってのか?そりゃ会いたいなぁ」
「やめておけ、おやじ殿。それに今はそれどころじゃないだろう?せっかく見た風景忘れちまうわよ?」
遠い目をしだしたホクサイとまた呆れるエイ。
「連れてくるとまでは流石に言ってないってば。ただどこかで魔王と一緒に飯でも食うこともあるかもしれないよってだけの話だ」
「だけの話って・・・魔王がどんな者なのかも知らないだろうに」ドモンの言葉に呆れる勇者。
「ああそうか、お前らは何度も会っているんだもんな!一体どんな奴なんだ?魔王って。やっぱりでかいのか?ここの天井に届くくらいの背丈とか、ドラゴンのような出で立ちとか。なら一緒に食事は無理か流石に」ここの天井までの高さは約15メートル。五階建て相当。
「そんな訳あるか!それじゃあいくら戦うと言ったって、剣じゃ魔王の脛くらいしか叩けないだろう」と勇者。
「そ、そりゃそうだよな。俺もいつもゲームでおかしいと思ってたんだよ」
「何のこと?」「いやこっちの話だ」といつものやり取りをしたナナとドモン。
「それでも人の大きさではないことは確かだ。背丈は3メートル以上はあるだろう。赤い肌で髭をはやし、見たことのない派手な服を着て、奇妙な帽子をかぶっている」説明を続けた勇者。
「象のようにデカいけど、見た目は人なんだな?武器とかも持ってるのか?」
「棍棒ではないけど、平たい木の棒を持っているわ」と、ドモンの質問に賢者が代わりに答えた。
「赤い肌の髭面で、奇妙な帽子をかぶっている平たい棒を持ったデカい奴って・・・」
「なにか心当たりあるの??」とナナ。
「いやまあ心当たりというか・・・もしかしたらホークかエイの方が、下手すりゃ心当たりあるんじゃないかってくらいの話なんだけれども。う~ん」
ドモンの言葉に首を傾げるホクサイとエイ。
他のみんなも不思議顔。
「なんだか一気に会いたく無くなっちゃったな」と、ドモンが口元を両手で隠した。