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第338話

「ぎゃあああ!!!」


義父に肩に担ぎ上げられ、お尻をパンパンと叩かれながら去っていったドモンを見ながら、トッポは玉座の裏でまた女ボスに下着を穿かせた。

ただもう二度目であり、照れくささはなかった。お互いに見ても見られてもいるからだ。


恥をかいた女ボスよりもトッポが切ない顔をしていたので、女ボスは感謝を示す意味を込めてこっそりキスをしたのだけれども、お陰でトッポは大ピンチ。玉座の裏で、しばらくはもう立ち上がれそうにない。


「あの人助けに行かないと。きっと誤解しているわ。あたしが勝手にやったことなのに」ドモンが心配な女ボス。

「ぼ、僕もすぐに行きたいのですけれど・・・その~」トッポはしゃがみつつ前屈み。


「どうしたの?・・・って、あ!もうバカ!今は我慢しなほら!」心配して近づいた結果、女ボスは何かに気がついた。

「ダメダメ近づかないで!あぁもういい匂い・・・じゃなかった!あとその口調もダメです!僕、興奮してしまうので」

「こ、こら!クンクンするなっ!あんたのそれ踏んづけるわよ!!」

「あー」


約二分後、穏やかな顔のトッポと、頭を抱えた女ボスが玉座の裏から出てきた。

トッポのズボンの股の部分に、薄っすらとついている足跡は一体なんなのか?このふたり以外はわからない。



「まあ貴様の考えも理解はできるし、その焦りもわかる。わかるが、事を急いてはならぬ」と義父。

「なんでだよ」とドモンは不貞腐れた様子。

「事を急いてあのゴブリン達を街に迎い入れ、どうなったのかを思い出すがいい。オーガ達の受け入れも上手く行ったから良いようなものの、人々の反発があったならば、あの時の比ではない暴動が起こっても不思議ではなかったのだぞ?」

「・・・・」


トッポと女ボスが義父の元へ誤解を解きに行くと、義父の部屋のドア越しにふたりの会話が聞こえてきた。

先程の誤解はとっくに解けていたが、それよりもどうやら深刻そうな話をしている。

義父に人払いをするように言われていた使用人達と騎士達はオロオロ。国王陛下に向かってあっちへ行けとは言えなかった。言ったところで断られるだけ。


「いつの世も一番恐ろしいのは、暴走を始めた人間だ。飢えによるものであったり、憎しみによるものや何かの不安に駆られた場合もそうだ。人というのは愚かなもので、その少しの火種が大きく広がり、やがて大きな争いを起こしてしまうこともある。もしあの時オーガの・・・」

「わかったわかった!わかってるよ!!オーガのことも確かに俺は焦りすぎたという自覚はあるよ。正直かなり無茶もした」

「貴様の失敗で王都の民が暴徒と化していたならば、人や魔物、どれだけの命が失われることになるかよく考えろ」

「う・・・」


まるで王と皇太子の会話のようだとトッポは思った。

女ボスは、あのスケベな男と同一人物とは思えずにいた。


「まずは今行っている街の再開発を優先し、オーガ達の力を示しつつ、魔物への信頼を十分に得ることを一番に考えるべきであろう」

「わかったよ。トッポ・・・じゃなかった、王様も張り切って公園やら24時間営業の店やら作ると言ってるし、しばらくはここに残るよ。あーあもう、なんだか春くらいまで家に帰れそうにないな・・・」

「仕方あるまい。それに本来ならば数年をかけ行うようなことなのだぞ?」

「小説とかならドカドカ街を破壊しても、次の日にはケロッと直ってるのになぁ。魔法でポンと建物出せないの?」

「そんな夢のような話はない」


ドモンが少なくとも春までは滞在するとわかり、ドアの前でトッポがバンザイ。

そしてドモンの魔法の話を聞いて、女ボスとふたりで笑いを堪えていた。



「ただそれよりも問題は俺の体調だな。実は向こうを出る前にひとりで調べてきたんだけど、俺の最大HPが25まで減ってたんだよ」

「な、なんだと?!なぜそのような・・・」

「わからない。ギルドで聞いた話だと、悪魔に魂を差し出すようなことをしない限り、こんな事は起こらないって言われて」

「うむ。確かにそのような話は聞いたことがある。だがおとぎ話のような話であるぞ?なにか文献に残っておれば良いが・・・」


思わず椅子から立ち上がる義父。

ガタッという音に驚き、女ボスが声を上げそうになってしまい、トッポが慌ててその口を手で塞いだ。


「減ったのは大怪我した後や心臓の発作を起こした後、あと一番減らしたのは死んだ後だ。それらのことから考えたんだけど、これってなんだか悪魔に寿命か魂でも渡して、死ぬのを回避してるみたいだろ?」

「うむむむ・・・」

「魔王だかがその真相を知っているなら、俺は早く知りたい。俺の命が尽きる前に。そう思ってたんだ」

「なるほど、そういうことであったか」


「恐らく俺はこのままだと長くはない。色街でまた暴行にあったから、今回も減らしたかもしれないしな。次に何かあれば・・・下手すりゃ何もなくても終わってしまいそうだから。俺ギルドへ行って帰ってくるだけでHP4減るんだぜ?ハハハ」


今度は両手で自分の口を塞ぎ、震えながら涙を流すトッポ。

そこへナナやサンもやってきたが、廊下の端の方で騎士達に止められ、離れた場所からトッポ達の様子を見ていた。



「というわけでトッポ!俺には時間がない。お前ともっと遊んでいたいのは山々だけど、大急ぎで街をなんとかしなきゃならないんだ」

「!!!!!」「!!!!!」「!!!!!」


立ち上がったドモンがドアを開けると、トッポと女ボスが驚きの表情で片膝をついたまま固まっていた。


「ありゃ?トッポはわかったけど、もうひとりは女ボスだったか。俺の勘も随分と鈍っちゃったな。ギャンブラーはもう本当に引退だ」

「な、な、なぜ」トッポはまだ片膝をついて聞き耳を立てるポーズのまま。

「ジジイが人払いしてんのに、無視してドアに張り付いたままでいられるのなんて、この城にお前くらいしかいないだろ。それに来た時は普通にふたりの足音も聞こえてたし、ドアの前で止まったのもわかってたからな」

「なるほど確かに・・・」


ドモンの説明で合点が行ったトッポ。

義父は足音に全く気がついていなかった。


ドモンは昔、パチンコ屋でパチンコ台を止め打ち攻略する際に、いつも足音で店員のいる位置を把握していた。

キョロキョロしていれば怪しまれて、防犯カメラから凝視されることになるので、頭は動かさずに耳で足音を拾うのだ。あの騒音の中で。


なので忍び足でもないふたりの足音を静かな城の中で拾うなど、ドモンにとっては容易いこと。


ちなみに当時、止め打ちでの攻略はかなりグレーであり、堂々とやっていれば良くて追い出されるか、悪けりゃ事務所行き。

ただしドモンの場合、体感機と呼ばれる打ち出しタイミングを測る機械などは使用せず、自分の体内時計のみで攻略していたので、本来であれば特に問題はない。あくまで法律的には。



「まあ話は大体聞いていたよな?頑張って街づくりをしてオーガ達を認めさせることと、俺が悪魔に取り憑かれてるかなんかしてて、死にかけてるってこと。んでもってそれを何とかしようと慌ててるって話だ」

「はい・・・」


ドモンの説明にトッポは顔面蒼白。


「ボスは絶対に他言無用で頼むよ。ナナやサンもある程度わかってるはずだけど、俺の最大HPが30切ってるだなんて思ってないんだあいつら」

「・・・わかったわ」


実際は旅の途中、一時的に30を超えていたが、色街での暴行が原因で元の25に戻っていた。

厳密に言えばほんの少しの間、20を一度下回ってはいたけれどもドモンは気がついていない。


「あんまり遅くなれば俺は死んじゃうかもしれないし、急ぎすぎて住民に反発なんてされたら、人間と魔物との間で摩擦が起きて争いの火種になるし、トッポは責任重大だぞ?」

「うぅそんなぁ・・・」


相変わらず責任を丸投げするドモンにトッポは頭を抱えた。

しかしそうとなればもうやるしかない。


オーガ達の協力を仰ぎつつ、住人達に自ら頭を下げて回るつもり。

ある程度理不尽な立ち退きの要請もしなくてはならなくなるだろう。


各街を取り仕切る貴族達も集め、地図を見ながら検討も繰り返さなければならない。どのような間隔で公園とコンビニを置くか?

職業訓練校や、酒の席でドモンから話のあった銭湯も建設するつもり。

カルロス領や天才道具屋のギドとも連絡を取り合いたい。


トッポは、自分が次の王位継承者にその座を譲るまでにすべて出来ればいいなと考えていたが、これらを次の春までに行うこととなり、今にも卒倒しそうに。


ドモンは呑気にトッポの肩を叩き、「頑張れよトッポ!街づくりに関してはお前が主人公だぜ?」と笑っている。


ホークがいたあの店に行く前の店で、時間潰しにみんなで酒を飲んでいた時の話。

勇者が酔いつつ「勇者ってそもそもなんだ?なぜ俺なんだ?」と自分の立場を憂いていた時に、ドモンがきっぱりと答えた。


「それはお前が自分の人生という物語の主人公として、勇者を選んだからだ」と。


全く理解が出来なかったトッポが、その言葉の意図をドモンに聞いた。

トッポにとっては、ドモンの方こそ主人公としてふさわしいと正直に感じたからだ。


「人は誰しも自分が主人公だよ。勇者はその役割がたまたま勇者であっただけだ。それぞれの物語の中で、人は自分なりの役割を見つけて演じているんだよ」とドモンがタバコの煙を吐いていた。

「僕は王様なんて引き受けたくはなかったですよ?」とトッポがヤレヤレ。


「それは何かを成す上で、多分王様の方が都合良かったんだよ。勇者もきっとそれだけの理由だから気にすんな。なったもんは仕方ねぇ」

「勇者として俺が選ばれた理由が、俺が勇者を選んだって・・・」酔った頭で考えた勇者。

「なんか全部後付の理由みたいじゃないですか!アハハ」適当すぎるドモンの話に爆笑したトッポ。なんだか悩んでいたのが馬鹿らしくなった。


恐らくドモンは落ち込んでいた勇者をそれで慰めたつもり。

皆、納得したような、そうでもないような顔をしながら、グダグダ言いながら酒を酌み交わしたのだった。


だが今になってトッポは少しだけ意味がわかった。


この街づくりは、自分が始めた物語の、自分の役割。

きっとその為に僕は王として生まれだのだ!


トッポは今大きくウンと頷き、ドモンにその気持ちを語った。


「やります僕は。そのために王として生まれたのだから」スッと立ち上がるトッポ。

「え?トッポって生まれてきた時ゲロ吐いてたの?」

「嘔吐して生まれたんじゃないですよ!!字が違います!!もうっ!!」


ドモンの冗談に怒るトッポと笑う女ボス。

義父がスッと椅子から立ち上がった瞬間、ドモンが危険を察知し「さあ話は終わりだ。ホークとエイのところへ絵を見に行こうぜ!」と廊下に飛び出し逃げた。


「俺は主人公だけはゴメンだけどな」


ドモンはぼそっと独り言を残し、廊下の曲がり角から心配そうに顔を出しているナナとサンの元へと向かった。





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