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第335話

「あのナナの怒り様はただ事じゃないぞ。トッポが原因だろ?なんとかしろよ」

「でも昼に会った時は、ここまで怒った様子ではなかったですよ?なにか別の原因があるのでは?」


ドモンとトッポが馬車の窓から覗いたナナは、いつぞやのビニールプールをドモンが盗撮した時と同じように、肩幅程度に脚を開いての仁王立ち。何より顔がもはや般若のよう。


こうなればもう先手必勝あるのみ。やることは唯一つ。

ドモンは一番に馬車を降りて、真っ先にナナの目の前へ。


「ホークに会うために仕方なかったんだ。今回はしっかりとした浮気じゃないんだよ、俺を信じてくれ!それに今晩の約束も今回はきちんと断ったし」

「何よ!今晩の約束って!!」


草むらに土下座をし、頭を地面に擦り付けたドモン。正確には膝が悪くて正座ができないため、前転が苦手な子供みたいな感じの土下座になっている。

ドモンの後頭部を見下ろすナナの迫力が凄まじく、国王陛下と勝手に出かけたことを咎めようとしていた者達も、思わず躊躇した。


「ち、違う!!俺が言い出したことじゃない!!軽く抱きしめた程度で押し倒してもいないし・・・本当にかる~く、挨拶程度にキスしただけで」

「ギギギギギギ」

「みんなしてたんだよ!王様も勇者も他の奴らも!特にトッポ・・・じゃなかった王様なんて、スケベもしてないのに下着を穿いたまま何度もスッキリして、もう下着はカッピカピのガビガビで馬車の中が酷い臭いに」

「ちちち違います!!誤解です!!!」ちょうどドモンの後ろにやってきたトッポが、会話を聞いて全力否定。


「キィィィ!!じゃあどんな風に抱きしめたっていうのよ!私でやってご覧なさいよ!」

「む、無理だよ・・・こんなに人がいちゃあんな激しいことを、あ・・・」


様々な階級の人々に見守られながら、パーンパーンという悲しい音を辺りに響かせたドモンのお尻。


「うわぅ!!ごめんなさいぃ!!あうっ!!」

「大体私が怒っていたのはその事じゃないのよ!!あなた達、お店の中でこの人になんて事をさせたのよ!!」と、ナナが指を差した方向には、女ボスが気まずそうに立っていた。


完全にドモンの早とちりで余計なことを言って、余計に怒られた。しかもトッポの下着の秘密まで全員にバラして。

その後しっかりと女ボスが辱められた分まで叩かれるドモン。

女ボスのことについてはサンも怒っていたが、ナナが怒っている意味とは違っていて、単なる女ボスへの嫉妬であった。

女ボスから話を聞いた後、お風呂にお盆を持っていったのは誰にも内緒である。もうサンはいつでもその芸が出来る。


「それに何だったのよあれは!誤魔化そうとして服を破って、胸を出したりお尻を出したり!子供達にも見られて泣いたそうよ!どうしてそんな事をしたの!」

「うぅ・・・少しでも怒られないように色々誤魔化そうと思って・・・」お尻を押さえ、草むらに転がるドモン。


「大体あなたもあなたよトッポさん!王様だかなんだか知らないけれど」般若ナナは誰が相手でも、もう止まることはない。

「は、はい!!」「お、奥様落ち着いてください」突然矛先が自分に向いて驚くトッポと、『これはやりやがります』と何かに勘付いたサン。


「あなたの自分勝手な行動で、一体どれだけの人に迷惑をかけたと思ってんのよ!お城の中を行ったり来たりで、二時間も私もウロウロさせられて!ボスさんは下半身丸出しになって恥をかかされるし、ドモンは浮気するし!!キィィ!!」

「はい・・・・」「あぁ皆さんの前では言わないでとあれだけ言ったのに」ナナの言葉でトッポは反省、女ボスは赤っ恥。


「ここに来て、ドモンのように私の膝の上に四つん這いになりなさい」

「はい」力なく四つん這いになるトッポ。


「ちょちょちょ!流石にナナ、まずいってばそれは」ドモンですら止める。ドモンが軽く頭を引っ叩くのとは訳が違うからだ。あれはある意味ツッコミ。

「ナナよ、それは勘弁してやってくれぬか?」と義父も止める。国王陛下が尻叩きの刑など、あってはならないこと。もし世間にバレようものなら、大変なことになるからだ。勇者達や他の王族達、そして子供達も止めた。


「だまらっしゃい!さああなた自ら選ぶのよ?三回?五回?十発?自分の罪の重さはどのくらいかをよく考えなさい」


なぜか十だけ単位が『発』に。

もう十発打つ気満々のナナ。


「じ、十発です・・・僕は・・・うぅ」

「よくわかっているわね。じゃあ行くわよ!い~ち!!」

「アゥゥゥ!!」


パーンと響いた派手な音に、誰もが皆顔をそらす。

両親からもお尻を叩かれたことはない。一人息子で過保護に育てられたためだ。


「にぃ~!さーん!しぃ~!ごー!!」ドモンを叩いた時よりも力を込めたナナ。

「ヒィィィ!!」断末魔の叫び。ここまでまだ漏らしてない自分を褒めてあげたいトッポ。


「ろーく!なーな!私のことじゃないわよ。しーち!はーち!きゅー!じゅう!!」

「ぎゃああ!!一回多いですよぉぉぉ!!」


自ら余計な一言を挟み、数を間違えたナナ。変則ひとり『時そば』状態に、トッポを気の毒に思いながらも、頬をパンパンに膨らませたドモンとサン。


「わかった?あなたの行動には、どうしたって責任が伴うものなの。それによって幸せになる人もいれば、不幸になる人も出てきてしまう可能性が、この国の中で一番高い人なのよ?」

「はい・・・」

「あなたの気まぐれひとつで、確かにこの女の人達は救われたわ。でもね、あなたの気まぐれひとつで、今日は休みだったというのに、家族に会えなかった騎士の人もいるだろうし、その中には、お父さんと遊べる今日この日を、ずっと楽しみにしていた子供だっていたかもしれないの」

「うぅぅ・・・ごめ・・・ごめんなさい・・・」


厳しくも優しいナナの言葉。

まるで母のようで、ボロボロとトッポは涙をこぼす。


「いーい?これからどこかに行く時は、必ずみんなに伝えること。それに一人で行ってはダメよ?ドモンや私、あと勇者さんとか護衛の騎士の人とかと一緒に行きなさい。さっきも言った通り、立場ってものがあるんだからね?それと途中で何処かに寄る時は、なるべくそばにいる騎士の人か誰かに伝えておくこと。わかった?まったくドモンと一緒でフラフラと・・・」

「へ??そ、そんなに簡単にお城を出ていいの?」


ナナの言葉にキョトンとするトッポ。

いくら街へ行くと言っても、流石に簡単にはいかないと思っていた。


「当たり前じゃない。王様だって遊びたいのは一緒でしょ?ドモンも言ってなかった?言ってたよね?」立ち上がるドモンに、座ったまま手を貸すナナ。

「言ったよ、遊びに行くとまでは言ってないけど。これからもみんなの暮らしを見て回るって。まあ結局は遊びついでのつもりだけどな」ポンポンと草をはらいながら、さも当然のようにドモンも答える。

「ほ、本当にまた今日みたいな・・・」


ドモンといることで、それとなく自分が自由の身であると感じてきていたトッポだったが、それでもまだ信じられない。

今日だって、トッポにとっては脱獄したような気分であり、いつかもう一度一日仮出所出来る可能性があるというだけの投獄生活が、明日からまた始まるものだと思っていたのだ。



ただ、そう言ったドモンも正直それはどうかと思っていた。

なにせ今日行ったことを元の世界で例えるならば、皇居から天皇陛下を連れ出して、ふたりで下町をぶらりと散歩しつつ、居酒屋で一杯引っかけた後、高級クラブで女遊びをして帰ってきたのと同じだからだ。


当然何かあれば、本当にドモンの首は飛んでいた。もしくは、飛んだということにして一生城に幽閉か?


だがカールや義父の行動、それに対する街の反応、更にはオーガを味方に引き入れたことなどを考慮して、ある程度もっと自由であっても大丈夫だと判断した。


「ナナの言う通り、ひとりはダメだぞ?新しい国や街を作るとみんなと約束したんだろう?お前に何かあれば、その約束を破ることになるからな」

「はい!!」

「なんだったら、オーガの中から何人か騎士に抜粋して、街に行く時は連れて行きゃいいよ」

「!!!!!!」「な?!」「えぇ??」


ドモンの言葉に義父も「なんて事を言い出すのだ」と言おうとしたが、オーガ達とのこれまでのやり取りを思い出し、それもなくはないと考えを改めた。

もしそれならば、これ以上頼もしい護衛は見当たらない。犯罪に対する抑止力にもなる。


「っていうかトッポ、いつまでナナの膝の上で腹ばいになってんだよ」

「あ・・・いやその・・・今はその・・・も、もう少しだけ待ってください。すぐに落ち着きますから・・・」

「む?!まさかお前??」「きゃあ!!脚になんか硬いのが当たってる!!こ、このスケベトッポ!!」

「ああ許してください!!まだあのキノコが・・・」


今日一日で色々な女性と様々な経験をし、ついにトッポが辿り着いた本当の理想の女性はナナであった。

厳しくも優しく、そしてふわふわのムチムチ。最高。


すぐにトッポの異変に気が付いたサンが、サッと自分のエプロンを外してトッポの腰に巻き、一度城の中へと連れて行って下着を着替えさせた。ガビガビの下着もサンがジャブジャブと洗って干した。

こういった処理に関しては、ドモンと自分で慣れっこである。流石にトッポのスッキリまでの面倒は見ないけれども。


おかげでみんなにモロに元気なナニかの膨らみを見られて、恥をかくことはなかった。

トッポはここでもまた理想の女性を見つけてしまった。


ふたりは素知らぬ顔でまたドモンの元へ。

そこでトッポはドモンに謝り、ナナとサンに感謝の意を示した。


「僕、ドモンさんが正直羨ましいです。このような素敵な女性達を・・・僕の理想の女性像が、ようやく自分でも理解できました」

「だ、だめだぞ!こいつらは俺のもんだからな!!」両脇にナナとサンを抱えて逃げ出そうとしたドモンだったが、重くて無理だった。

「ちょ、ちょっとドモンふぅん」「お、俺のもん・・・フゥフゥフゥ!!」ナナとサン大興奮。これでもう今日のことは全て許した。


「そんなことはしないですよ!憧れの女性像だというだけです!」

「ならあれだ。オーガの温泉に、こいつらそっくりなオーガがいるんだよ。そいつらを女騎士として雇って、トッポの護衛にしろよ。性格もそっくりだし。ナナそっくりのオーガは、今日色街で会った、あの料理をしてた女オーガの娘だよ」

「え??」


ドモンの話にものすごく興味深い顔のトッポ。


「ああ、確かに・・・私そっくりなオーガがいるのよ。でも性格はどうかしら?あの娘、すごくわがままでスケベだし、ちょっと抜けてるところがあるのよね」とナナ。サンはもう両手を口に当てて頬がパンパン。

「・・・というわけで、ほぼほぼナナなんだよ。身体も性格も。そして恐らく勇者もびっくりするくらい強いと思うぞ?」


「ちょっとドモン!『というわけで』って何よ!!・・・でも確かに強いのは認めるわ。剣も通さない体で力も桁外れ、あれなら騎士の人達がいくら束になっても勝てないと思うわよ?ドモンはそれでも勝っちゃったけど・・・」

「え?!」「そりゃそうだよね」


ドモンとナナの会話に驚く勇者と、納得のミレイ。

「確かにあの者達であれば信頼も出来、強さも申し分はない」と義父もウンウンと頷いた。


「そそそ、そうしてください!是非!なんでしたら僕自ら足を運び、直接お願いしに行きたいです!!」

「まあ誘ったらきっと喜ぶと思うよ。人間の街に来たがってたからな。買い物してみたかったみたいだし」

「それはもういくらでも!ああ~僕もドモンさんのように、おふたりのような方々と一緒に街を・・・」


ドモンの前に跪き両手を合わせ、夜空で一番光っていた星に祈りを捧げたトッポ。

憧れのドモンと同じように街を歩けるならば、もう他に望むことはない。


「ほら、何をだらしない顔してんだよ。早速また他の女にうつつを抜かして、ボスも嫉妬してるぜ?」

「あ・・・」「してないわよ!」ハッとしたトッポと全力否定の女ボス。


「ま、トッポも俺のようにふたりの目を盗んで、浮気スケベに精を出してくれ」

「なんですって?!」「うぅ!もうっ!」ドモンの冗談に、いつものように怒るナナとサン。



皆が言いたかったことは、ドモンとナナが代わりにトッポに全て伝えた形となった。

トッポの目は今まで見たことがないくらいやる気に満ち溢れている。


この日一日でトッポは大きく成長し、本当の意味での国王となった。

数千年後もその名が語られる本物の王へ。


こうして国王陛下の大冒険は幕を閉じた。




「おやじ殿・・・」

「・・・・」


ドモン達がこのようなやり取りをしている最中、少しだけ人の輪から離れた場所にて、そんな挨拶が交わされていた。







少し前に予告していた五千字超えの特盛回。

特に理由はない。やってみたかった。後悔はしている。




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