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第329話

「憲兵さん来てくれたかい!こいつらだ!このガキとジジイが絡んできやがって、店の評判を落とそうとしてやがるんだ!なあお客さん達も見てたよな?な?」

「そうだそうだ!」「確かにそんな感じでした」「喧嘩を売ってきたのはその人達だ」


正しいか正しくないかだけで言えば、トッポと義父が正しくないどころか圧倒的に悪い。


いくらドモンの料理の方が美味しいと思っていても、商売の邪魔をしてもいいという訳にはいかない。

だからドモンも黙って立ち去ったのだ。


もし逆に自分が商売をしていて『あなたの店よりも向こうの方が美味しい』と店先で大声で言われれば、当然良い気分はしないだろう。

この店主は自分なりの解釈で努力をし、行列ができるほどのものを作り上げたのだから。


「て、店主・・・気持ちはわかるが、そこまで声を上げるなというか、上げないでいただければというか・・・」焦る憲兵。

「だって!うちの人は悪くなんかないんですよ!!」と奥さんは涙目。


「こんなのよりドモンさんの作るものの方が美味しいと言っているのです!!イタァイ!!!」

「すまない店主!俺の弟とジジイが粗相した。すべては俺の責任だ」


大慌てで戻ってトッポの頭を引っ叩き、深々と頭を下げたドモン。

トッポの首根っこを持って、一緒に無理やり頭を下げさせるとトッポは泣いた。

お忍びで街を視察しているということも当然知っていた憲兵の顔は、もう死人のよう。


「あんたが一番悪いんだな?どう責任を取るつもりだ、おい!評判を上げるのは難しいけれど、下がるのは一瞬だ。それをわかっているのか?!」

「俺も昔商売をしていたので理解している。大変申し訳無い」

「謝って済むなら憲兵も騎士も貴族も王族もいらないってのよ!!」奥さんも大激怒。

「確かにそうだ。すまない」


ドモンが頭を下げれば下げるほど、トッポの涙は止まらない。

ドモンにこんな思いをさせたこの店主と、そして自分が憎い。


「じゃあひとつだけ俺に調理をさせてもらえないか?必ずこの店の評判をもっと上げてみせるよ。頼む。その機会をくれ」

「ダメだね!駄目だ駄目だ。あんたみたいな味音痴に調理されれば、もっと評判が落ちるだけだ」

「うぅぅぅ~~!!おねがいじまず!!僕が悪がったでず!!」

「私も詫びる。どうか此奴に機会を与えてやってはくれぬか?」


大号泣するトッポと、あのドモンがこれほどまでに頭を下げたことで少し冷静になり、自分がまずいことをしたと気がつき謝罪した義父。


「てててて、店主よ!私からも頼む」空気を読む憲兵。悪く言えば権力に負けた犬。

「チッ!!仕方ねぇな!!じゃあやれるもんならやってみな!!俺より美味い調理をよ!」


ようやく店主の許可が降りた。

店先の調理場でドモンが奥さんから材料を受け取り、トッポにはマヨネーズ作り、義父にはパンを削らせる。


鶏肉を包丁で手際よく開いていき、大きな一枚にして下味をつけていく。

ドモンの手際の良さとマヨネーズ作り、そしてパンを千切る不思議な行為に、店主の目は真ん丸。

いつしか人が店先に集まり始め、調理するドモン達を取り囲んでいた。勇者達はドモンの真正面、かぶりつきの特等席。


「鶏肉に小麦粉をまぶして卵に漬けるだと?!それに砕いたパンを・・・・どうなっていやがる・・・・何だこの調理方法は????」


大きな中華鍋のような鍋の油の中で鶏肉を揚げ始めると、あまりの迫力に歓声があちらこちらから上がった。

勇者も大魔法使いももう目が離せない。

みんながドモンの料理に夢中になっていることを悟り、トッポは更に泣く。


「さあ出来たぞ。これが俺の世界のとある店で名物となっていたジャンボチキンカツだ。そのマヨネーズというクリームを付けて食べてくれ。ほらまずは店主から」

「あ、ああ・・・」


ノートくらいの大きさのチキンカツの端にマヨネーズを塗り、アチチと言いながら両手で持ってガブリと一口。

全員の視線が店主に突き刺さる。


・・・が、その視線に店主が気がつくことはなかった。目の前の物に夢中だったからだ。


「パパパ、パンに鶏肉を包んで、あ、油で調理するってこここ、こういうことだったのか・・・お、俺の世界のって・・・あんたもしかして・・・」と店主が瞬きもせずドモンの方を向く。

「きっと名物になるから、許してもらえないだろうか?」とまた頭を下げて微笑むドモン。


味の感想などない。

だが皆に伝わる。その見た目、その匂い、その圧倒的な存在感。


店主の奥さんもひとかじり。

もぐもぐしている口を右手で隠し、目を見開いて店主の顔を見た。うんと頷く店主。


「さあドンドン作るぜ店主。いくらで売る?パンに挟めば銅貨6~70枚は取れるぞ?」とドモンが次のカツを揚げ始める。

「ン、ング!!王都の民を舐めるな異世界人!銀貨二枚の価値はある!さあ早いもん勝ちだよ!!」と叫んだ瞬間、ワッと店先に大行列が出来上がった。運良く勇者達が一番先頭に。


トッポと義父も店主の奥さんから貰ってチキンカツを食べる。ついでに憲兵も。

三人は切込みを入れたバゲットに挟んで食べた。


「うむ・・・やはり此奴の調理したものは美味い」

「ング!!!ンガ!!!これが噂のチキンカツサンドですね!!カルロスの屋敷で流行しているという!!」

「・・・・」


義父はもう口の中が『ドモンが作ったもの』モードになっていたので、今回もその味をしっかりを味わい、トッポはあごが外れるほど口に突っ込んで食べた。

こんな行儀の悪い食べ方は、ドモンが来るまではしたことがなかったが、今はもう慣れたもの。

憲兵は誰かに美味しいと伝えたかったが、一緒に食べた相手が国王ということで、気軽に話しかけることが出来ない。



勇者はそのままチキンカツにかぶりつき「これが鶏肉?!凄いよやはり君は!!」と大絶賛。

大魔法使いは少し食べた後、ミレイと賢者用にと袋にしまっていた。どうせ一緒に城に戻るのだから、あとでドモンがまた作ればいい話だというのに。


「お前は、あんただとか君だとかドモンさんだとかこいつだとか、いい加減俺の呼び方を固定しろ・・・・ヨールー」

「アーサーだ!だが確かにそれは正直俺も思っていた。まあドモンさん・・・でいいんじゃないか?陛下がそう呼ぶなら」少し恥ずかしそうな勇者。

「それがいいと思います!そうするべきです!ング」ドモンへの敬いの心が足りないと、勇者に注文をつけるトッポ。


ドモンはせっせとチキンカツを揚げながら、みんなはモグモグと食べながら語り合う。

気がつけば行列は更に距離を伸ばし、いよいよドモンだけでは手に負えない人数に。


「店主、もうそろそろ俺も限界だ。作り方はもうわかっただろう?」

「ああもうバッチリだ。嫁と手分けして作るよ。あんたほど上手くは作れないだろうけどな!そして・・・すまなかった!失礼な口を聞いちまって・・・」

「それはお互い様だろ。ジャンジャン作ってドンドン売って、たくさん儲けてくれ」

「ありがとよ!!」「ありがとね!!」


身元がバレる前にこの場を立ち去る一行。

多少はバレてはいただろうが、今はジャンボチキンカツの方に注目が行っていたために、問題を起こさずに済んだ。



裏道に入り、タバコに火をつけたドモンが煙をフゥと吐いて、そばにあった樽に腰掛ける。

脚がもう限界で、ひと休みさせなければならない。


「ドモンさんごめんなさい・・・僕、ついカッとなってしまって・・・」ふとさっきのことを思い出したトッポ。

「まあ俺の為を思ってのことだとは思うけど、あれはトッポが悪い」とはっきりと言ったドモン。ドモンもオエッとしたくせに。

「だってドモンさんにあんな言い方しなくたって・・・」

「もし逆の立場だったらどうする?」

「え?」


ドモンはまたフゥと煙を吐きながら、その説明を始めた。


「もし俺とトッポが兄弟で店を始めたとして」

「うわぁ~いいですねぇ」

「なんとか繁盛店にしようと、考えに考えた新しい料理を出して、行列のできる店になったとする」

「当然です!!ドモンさんが本気になればそれくらい」


妄想話に満足気な表情を浮かべるトッポと、すでにドモンが何を言いたいのかを察して黙っている義父と勇者達。


「そこへ若い男と年配の男性がやってきて『他の人ならもっと美味しいものが作れる』と言い出したらどうする?」

「すぐに僕が追い出しますよ!そんな奴ら・・・あ・・・」


そこでようやくトッポも気がついた。


「どちらかに肩入れをした考えをすると、時に正義は入れ替わる。人はそういうものなんだ」

「はい・・・」

「だからまず、『自分がもしその相手の立場だったらどう思うのか?』を常に考えて行動するんだ」

「はい!」


トッポはまた涙ぐむ。

ただ今度のは悔し涙ではない。素直にそのドモンの言葉に感動した。


「お互いが同じようにお互いの立場を考えて行動すれば、回避できる争いはたくさんあるんだ。これは勇者も頭に入れておいて欲しい」

「ん?どういうことだ」と不意に話を振られた勇者が驚きの声を上げた。

「魔物、そして魔王のことだ」

「!!!!!」


ドモンの頭に浮かぶゴブリン達の姿。オーガ達の姿。罪をなすりつけられ、死を覚悟した細身の男の姿。

最後に頭に浮かんだのは、保育園の友達に罪を押し付けられ、悲しむ自分の姿。


その誰もが相手を傷つけようとなんかしていなかった。

話に聞く、今の魔王のように・・・。


「魔王が・・・敵ではないというのか・・・」


勇者は真剣な顔をして、ドモンの顔を見つめた。





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