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第328話

「お代はジジイかトッポから貰ってよ。俺持ってないから」とドモン。

「結構です結構です!!お代など結構です!!」と老紳士。

「そんな訳にはいかないですよ。ここは僕が出します」とトッポが支払いを済ませた。ドモン以外の皆は国王に支払わせたことに申し訳ない気持ちでいっぱい。


「あ、着替える前の服とか武器とかは、あとで城の方に運んでくれないかな?」と勇者。

「ええ、ではお届けに参ります」

「あ、その時にじゃあ向こうの世界のお土産渡すよ。ほらチャックとか、綺麗に縫い合わせるミシンっていう道具とか色々買ってきたんだよ。ミシンはナナにひとつあげちゃったけど、まだいくつかあるから」

「ほ、本当でございますか?!」

「俺のあのジャケットの縫い目みたいにきれいに縫えるぞ。カルロス領にいるギドって奴がいる道具屋に頼めば、その機械をきっと量産することも可能だ。彼奴は天才だからな。あとそのチャックもな」

「!!!!!!」


驚いて、手に持っていたメジャーを斜め後ろに飛ばしてしまった老紳士。

心の中にいる自分が「イエス!イエス!イエス!!」とガッツポーズをしながら、10メートルほど横に移動した。


「それならば尚更お代は頂けませんよ!何なら私達が支払うどころか、代わりにこの店を寄越せと言われたならば、はいどうぞと渡しても問題はありません」

「それ程のものなのか?」と義父。この店の価値は金貨数万枚はくだらない。日本円にして数十億円。


「ハハハ!それ程のものでございますよ。それどころか、すぐに取り戻すことも可能かと」

「まあ儲けてもいいけど、技術を独占しすぎないようにしてくれ。奪い合いとかの醜い争いになるのは嫌だから」とドモンが釘を刺す。

「承知致しました。ですがこの道のトップを譲るつもりはないですよ!服飾新時代の先駆者として!」

「その意気だ。フフフ」


老紳士はもうこうしちゃいられないと、大慌てで出かける準備。

「今行っても俺がいないとお土産渡せないじゃないか」と笑ったドモンが、スラスラとメモを書いて老紳士に渡した。


「サンに渡せばわかるから。そこでお土産受け取ってくれ」

「ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!よぅし!!」


心の中でするはずが、実際にガッツポーズをしてしまった老紳士。


「お前達!今日はもう店じまいだ!お客様方、申し訳ありませんが本日は終了とさせていただきます。その代わりと言ってはなんですが、店内の物、何でもお好きな物を一点お持ち帰りください。お代は結構でございます!」

「!!!!!」「え?!バッグとかでも・・・」一番高いバッグは金貨60枚。日本円にして600万円。

「どうぞお持ち帰りください」

「や、やった・・・」「な、なんて幸運な日なの!!」「国王陛下のおかげですねきっと!」


客達は追い出されるというのに大喜び。

ドモンは「おいおい・・・大丈夫かよ」と不安げ。チャックは数十個買ってきたけれど、ひとつ100円程度で、手動のミシンもひとつ千円程度。

割に合わないどころの話ではない。


「そ、そこまで凄いものじゃないぞ仕立て屋・・・」

「いえ!大丈夫です。なんでしたらあのチャックという物一つでも十分でございます」老紳士は自信満々。

「知らねぇぞ俺は・・・」


結果、この日は金貨300枚ほどの赤字。日本円にして約3000万円の損失である。

だがそんな事をまるで気にもせず、ドモン達を見送ると同時に、大慌てで城に向かって馬車を走らせていった。



「やっぱりすごいですドモンさんは」また眼鏡をかけて変装したトッポ。

「俺は凄くなんかないよ。俺は運んできただけだ」

「それもすごいのですけど、そうではないのです!それを私利私欲のために利用するのではなく、きちんと皆に渡しているではないですか!しかもその相手にも私利私欲に走らないよう注意をして。それが凄いのです!!」

「俺はお土産渡しただけだよ」


トッポは褒め称えるがドモンは困惑。

そして義父は耳が痛い。私利私欲に走りかけたことがあるためだ。


「ドモンさんがそうした事によって、世界が変わります!変わっていくのです!今度は服飾の未来が!」

「貴様は自身の影響力を、自分自身がよくわかっておらぬのだ」と義父もトッポに続いた。


「そういえば最近煮た油の中に鶏肉を突っ込む料理があると聞いたけど・・・ほらあれ」と店を指差す勇者。

「此奴だ、あれをこの世界に持ち込んだのは。ただまだしっかりとは伝わっておらぬようだな。あの様子では」と酷すぎる唐揚げもどきに義父はちょっぴり呆れ顔。ドモンの料理のような食欲をそそるものではなかった。


「じゃああれもそうなのか?パンに鶏肉を挟んで油で煮たものがあるのだけど、最近それが好きなんだ」

「うむ、あれはワシの歳だと少しくどいが、なかなか美味いものじゃったな」


勇者と大魔法使いがキョロキョロと辺りを見回し、「あれだ!」と声を上げた場所には、なかなかの行列が出来ていた。

実際に近寄ってどんなものか様子を見る一行。


「へいらっしゃい!!世にも珍しい異世界の鶏料理だよ!!欲しけりゃ並んだ並んだ!!」

「へぇ~これが!」「お、おう・・・お、おえ・・・」


生の鶏肉をバゲットに切れ込みを入れたものの間に挟み、そのまま油の中へ突っ込んでいた。

トッポは興味深そうにそれを眺め、ドモンは鶏肉の血を吸い込んだパンを見て、飼っていたひよこの思い出が蘇ってしまい、つい吐き気を催してしまった。


店主と並んでいた客達の視線が一斉にドモンに向かう。


「フン!これだから味の分からない田舎者は嫌なんだよ。まあ最新の調理法だからね。驚いたかい?田舎者さん」

「ああ、ちょっと驚きすぎてしまった。悪いな店主」

「わかったならどっか行きな!商売の邪魔だ!シッシッシ!」


恐らく『鶏肉をパンで包んだものを煮た油で調理する』という言葉だけが伝わってきたのだろう。

実際は当然パン粉をまぶしたもののこと。

それでもこの世界では物珍しい味付けで、人気を博していた。


ドモンは一度頭を下げ、その場を立ち去った。が・・・


「あなた!失礼ではないですか!!あの人を誰だと思っているのですか!!」

「し、知らねぇよ!オメェこそ誰だよトッポイ兄ちゃんだな」

「ムッ!!それを言って良いのはドモンさんだけです!!あなたには許しておりません!!」

「なんだ此奴は・・・いい加減にしないとぶっ飛ばすぞ!」


店主に絡むトッポ。

「やれるものならやってご覧なさい!」と意気込むトッポを、必死に宥める勇者と大魔法使い。


「絶対にドモンさんの方が美味しく作れます!!あなたのものよりも何倍も何百倍も美味しいです!!」

「何だとテメェ!黙って聞いてりゃさっきから勝手なことを・・・」

「確かにそうであるな。彼奴が作るものと比べれば天と地ほどの差がある」と義父もトッポに乗っかり、ドモンは嫌な予感。

「ジジイ!テメェもグルか?さてはこの店の評判を落とそうとした奴に雇われた輩だな?!おい!憲兵を呼んでこい!」


奥さんに憲兵を呼んでくるように指示を出した店主。

それにより一気に騒然となる店の前。右手を額に当て目を瞑り、天を仰ぐドモン。

憲兵はすぐにやってきた。


「どけどけ!どけぃ!!店に対して因縁をつけている不埒・・な・・」

「僕です」「私だ」


先程、国王陛下の宣言をすぐ目の前で見て、この街の平和と未来は私が守る!と張り切りに張り切っていた憲兵が、トッポと義父の顔を見るなり、ドモンから見ても気の毒なくらい小さく小さくなっていった。







前回、2話分いっぺんにアップしていたっぽい。

数話後に特盛回を用意してたんだけど、それとほぼ同じ量をアップしてしまったという・・・


なんだか毎週やってるなんちゃら&Qさま合体3時間スペシャルくらい特別感が無くなっちゃったよ(笑)



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