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第326話

ドモンは自己暗示により、自身の記憶を改ざんしていることに、まだ自分自身が気がついていない。

ドモンが封印した記憶の中には、『ドモンが思うまま』に起こった凄惨な出来事がたくさんあった。



ある日の夜のドライブ中、ドモンは北海道の田舎道で、暴走車両に煽り運転を受けた。

特に飛ばしていたわけでもないし、無理な追い越しをした訳でもない。ドモンはただ安全運転をしていただけだ。


「チッ!鬱陶しいな・・・」


ドモンの車の前に出て急ブレーキを踏んだり、わざとドモンに追い抜かさせては後ろから煽ったり。

降りてきて文句を言ったり喧嘩を売ってくるわけでもなく、恐らく暇つぶしにからかってきただけなのだろう。


車には数人の男女の若者達。

追い抜く時にギャハハと笑っている様子が見えた。


十数分ほどそれを繰り返した後、若者達はようやく飽きたのか、ドモンの車を抜かしてスピードを上げ去っていった。



「事故って全員死んじまえ馬鹿野郎」



小さくなっていくテールランプに向かって、そう呟いた瞬間だった。

そのテールランプが左右に何度か揺れた後、突如として消えた。


その消えた場所辺りをゆっくりと通過したドモン。

道から大きく外れてペチャンコになった先程の車と、動かない若者とまだ少しだけ動いている若者が見えた。



全てはドモンが思うままに。



助けるべきか否か。

ドモンは葛藤を抱えたまま、結局そのまま走り去った。どうにも助けようとは到底思えなかったのだ。

人よりも動物の方が多い北海道の田舎道。まだ携帯電話が普及し始めた頃であり、電波は恐らく圏外で、住宅も十数キロはない。


翌日のニュースで事故のその後を知る。

乗車していた4名の男女は全て死亡。


それをドモンは『無かった事』にしたのだ。自分自身に暗示を、つまり自分自身に嘘をついたのだ。


そのような事が何度か起こり、ドモンは車の運転をやめた。

そして、他人への不幸を願うこともやめた。

だから集団暴行されようが、殺されようが、ドモンは何も思わない。


もうこれ以上、他人の命を背負いきれないからだ。



少し前、サンに『御主人様の嘘やでまかせは、本当にそうなってしまうことがあるんですから気をつけてください』と言われた時、ドモンはドキッとした。何も記憶にはないのに。


サンは・・・いや義父やナナも、なんとはなくだが、それを感じ取っていたのだろう。


なぜそんな事になってしまうのかは・・・これも薄々気がついてはいるけれども、まだはっきりとはわからない。

今はただ、その力が良い方向へと向かってくれるのを祈るのみ。

だからドモン自身も結婚式で宣言をした。


「俺は皆の幸せを望んでいる」と。



そうしてドモンはトッポの幸せを望んだ。

今回もただそれだけの話。


「ほらほら、さっさと着替えた」

「着替えなんて持ってきてないぞ」と困惑する勇者。よく考えれば当たり前。


「仕方ないな。どこかの店で買うしかないだろ。王族や勇者パーティーだとみんなにバレないような服にしてくれよな」

「これだけの者達に見られておいて、今更何を言っておる・・・」呆れる義父。


「そ、それは・・・ここにいる人らに秘密にしてもらうか、無かった事にしてもらうしかないだろ。ほらトッポ、みんなにお願いしてよ」

「む、無理ですよぅ!」トッポは逆に王様だとはほとんど気が付かれておらず、『王族に捕まった人』だと思われていた。


「チッ!仕方ないな。じゃあトッポ、こっちに来て噴水の縁に一緒に立て。俺がなんとかするから」

「え?」

「とにかく時々俺に耳打ちするようなフリをしろ。それと・・・」

「わ、わかりました・・・」


準備を済ませ、噴水の縁に立つふたり。

騎士達にそこにいた人達を整列するように頼んだ。


すると何人かが「あ!!」と指を差し、驚いた表情をしていたが、それは全てドモンのことだった。

先日の街の再開発説明会・・・と言う名のオーガ兄妹再会ショーを見た人達である。


視線がふたりに集中したのを確認し、ドモンがオホンと咳払い。


「ええい静まれ静まれぃ!!」とドモンが叫ぶも、実はそれほど騒がしくはなかった。

「この印が目に入らぬか!」王家の印を押した紙を皆に見せた。紙はメモ帳から一枚千切ったもの。


唖然とする一同。言われた通り確かに静まり返った。

ただ皆、静かにしようとしてではなく、完全にポカーンの方。


「ここにおわす方をどなたと心得る!恐れ多くも先の天下の副・・・じゃなかった、アンゴルモア王国の国王陛下にあらせられるぞ!」

「ああ、なぜ自ら・・・」地味な格好で、今までお忍びでやってきたのは何だったのか?と疑問に思うトッポ。


「一同!国王陛下の御前である!頭が高い!控えおろうっ!!」

「はっ!」「はっ!」「はっ!」「・・・・」「え?」「こ、国王様???」


騎士達は片膝をつき頭を垂れ、それを見ていた人々もなんとなくその場にしゃがんで、軽く頭を下げつつも、上目遣いでドモンの方を見ていた。


「一度やってみたかったんだこれ。まさに王道の展開。王だけに」ぼそっとドモンが囁く。

「何なのよもう」呆れつつも、少しだけ気分が良いナナ。何故か気持ちがスッキリした。


ドモンがトッポに耳を寄せ、トッポがゴニョゴニョと耳打ちするフリ。ドモンは真顔でウンウンと頷く。

実際に「ゴニョゴニョゴニョ」と言ったので、危なくドモンは吹き出しそうになった。


「皆の者!今回は俺・・・拙者?・・・私が陛下の言葉を代弁致すでござる!ん?」


時代劇が抜けきらないドモン。

ドモンの妙な言葉遣いに、サンは頬をパンパンに膨らましている。


「この度はアンゴルモア国王陛下直々に、皆の生活を視察しにき・・参られたのだ。騒ぎになって悪・・・申し訳ない。が、そのおかげで気がついたことがあるとのこと」ところどころまだ言葉遣いが怪しい。

「国王様が直々に?!」「私達のことを気にかけてくださっていたのですね」「おぉ・・・」


ドモンが語り始めると、ガヤガヤとした声が少しだけ感嘆の声に変化した。

またゴニョゴニョとトッポが耳打ちをする真似。


「王都には足りないものがいくつかある!それを早急に作らねばならぬ!」

「・・・・?」不思議そうな顔で話を聞く人々。今の生活に特に不満はない。


今度は少し真剣な顔で耳打ち。

「コンビニと公園ですよね!」と、紅潮した顔で少し興奮気味にトッポが囁いた。

フムフムと頷いたドモン。


「国王陛下はこの王都に、もっとスケベな店を建てろと所望されておる!!」

「ちち・・・」

「乳だそうだ。この王都にもっと大きな乳を!」

「ちちち・・・違いますよぅ!!!」


噴水にプカプカと浮かぶ、悲しいドモンの亡骸。

額に青筋を立てた義父と勇者の合体攻撃が炸裂したのだ。

痛みから我に返ったドモンが、あまりの水の冷たさに「ひっ!比叡山っ!!」と叫びながら戻ってきて、サンに身体を拭かれる。


「うぅ~寒い・・・じゃあトッポ、嫌なら自分の言葉で伝えるんだ。自分が何をどうしたいのかをな」

「・・・・はい!」


毎日書類を見て、王家の印を押すだけの生活だった。

毎日決まった台詞を来た者に言い続けるだけの生活だった。


もう遠慮はしない。尊敬するこの『兄』のように!


ここにいた聴衆はたったの数百人。

だがここで残したその言葉は、この国で永遠に語り継がれることとなる。







事故に関しては、流石に半分はフィクション。

実際は「事故れバーカ」でドーンだったけど、元気そうだったので放置・・・ってのが何度か続いただけ。


もう絶対そういう事言うなとみんなにきつく言われてた。


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