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第325話

「なんだか・・かくれんぼというもののようですねウフフ!」

「王都を使ったかくれんぼってか。規模がでかすぎだ」


トッポ、生まれて初めてのかくれんぼ。

もしかしたら鬼ごっこかもしれないが、どちらにしろ初めて。


追いかけてきてるのが友達ではなく、王族や貴族、騎士や憲兵だというのがなんとも恐ろしいが、トッポは楽しくて仕方がない。

何よりも、ドモンとの絆がドンドンと深まっていくことに対し、この上ない幸福を噛み締めていた。



ずっとこの日が続けばいいのに。



両親にもここまで心を開いたことはない。

そして他の者にも当然開けるはずもない。

たとえこちらから開いたとしても、やはり王としての扱いしかしてはくれない。


親族は優しくしてくれる。優しすぎるほどに。

だがどこかやはり心が遠い。


友達はいない。そして恋人もいない。

これほど大勢の人々がいる中で、トッポは孤独だった。

しかしそれを悲しいと思ったこともない。


トッポの心は空っぽ。完全なる無。


・・・だった。ドモンが現れるまでは。

そこにあった無が、ドモンによって満たされ溢れていくのがわかる。



歩道を並んで歩いていると、馬に乗った騎士達が道を走る馬車達に止まれ!と叫び、中を確認しては走り去っていく。

トッポの心臓はもう破裂しそうなほどドキドキ。

それがトッポは楽しい。


道路の向こう側に見つけた美味しそうな食べ物屋。

左右を確認せずに道路に飛び出し、道を走る馬車の御者やドモンにまで怒られる。

それがトッポは楽しい。


王室御用達の仕立て屋の店で、少しの間匿ってもらおうと入店しようとしたが、入り口に立っていた護衛達に入店を断られてしまった。

ドモンも店主と顔なじみだと必死に説明をしたが信じてもらえず、トッポもこっそり身分を明かしてみたが、やはり信じてもらえない。

ヨッパライの戯言として処理されてしまった。


それがトッポは楽しかった。



そんな楽しかった時間は、突然終了することとなった。


そしてトッポにはもう二度と訪れない。

それをトッポは十分理解していた。



「見つけたわ!ほらここよ!!」と広場に響くナナの声。

あっという間に騎士達が広場の噴水の縁に腰掛けていたふたりを取り囲み、そばにいた人々を輪の中からはじき出した。

伝令が各方面に走る。すぐに皆集まってくることだろう。


「あーあ・・・ホークさんのお店、一緒に行けませんでしたねフフフ」

「何を呑気なことを」

「ドモンさんこれ持っていってください。奢るって約束でしょ?」金貨の入った小袋をポーチから出した。

「ああ、余ったらあとで返しに行くよ」


捕まったにも関わらず、焦ることもなく語り合うふたりをナナは黙って見ていた。

そして少しの後悔。すぐに叫んでしまったことを。

別行動をしていたサンとエイもやってきた。義父や勇者達もここへ向かっている様子。


「いい思い出になりました。ドモンさん、本当にありがとう」

「ああ、今度はコソコソじゃなく堂々と出かけような」

「・・・・」


ポロポロと、トッポは涙をこぼした。

たった半日なのに、それがトッポの人生のすべて。

この半日だけの思い出を、寿命を迎えるまで持っていく覚悟。それ以外はもう何もないのを知っているから。


「ああそっか」


トッポの態度でドモンもそれを理解した。

勇者達がやってきて、ドモンには目もくれずトッポに話しかける。怪我はないか?問題はなかったか?襲われなかったか?

続いてカールの義父もやってきて、当然怒りの表情でドモンを睨みつけた。


咥えタバコで話を聞く素振りもないドモンを殴ろうと、義父が右手を振り上げた瞬間、トッポが「連れ出したのは僕です。責任はすべて僕にあります」と目の前に立ちふさがる。

更に騎士達が集まり、その周りを野次馬達が取り囲んだ。二重三重の人の輪が出来る。


どけどけ!どかんか!と声が聞こえ、人々の間を割って新型馬車がやってきた。

さっきの馬車とは違う馬車と御者。


「さあ早く」と義父がトッポを馬車に誘導。

名残惜しそうにトッポはトボトボ歩きながら、ドモンの方へと振り向いた。ドモンはまだ噴水に座ったまま、タバコの煙を空に吹きかけている。


「ドモンさん!ありがとう!ありがとう!ドモンさん!!」


そう言って人目も憚らずわんわんと泣き出したトッポ。

もっと上手く伝えたかったが、その言葉しか出てこなかったのが悔しかった。


太陽はまだ高く、秋ではあるが半袖でも平気なほどの暖かさ。

ガヤガヤとした人々声と、チャポチャポという噴水の音が混ざり合う、平日の午後にありがちな平和な光景。


その瞬間、パーンと弾け、高々と宙を舞う火の粉。

それを見たナナとサンはホッと胸を撫で下ろし、義父は大きくひとつ溜め息を吐いた。


「まだ終わりじゃねぇ。まだまだ終わらせない」


すくっと立ち上がったドモンがつかつかと歩き、トッポに手を差し伸べる。

困惑するトッポ。そしてナナとサンと義父以外の一同。


「何を言ってるんだドモン!もう終わりだ!」とアーサー。

「倍プッシュだ・・・・・!!」

「はぁ???」


呆気にとられる勇者。


「冗談だよ。行くぞトッポ」

「へ??」


トッポも訳が分からない。


「お前らもさっさと着替えろ。ジジイふたりと勇者も」

「な、なぜ??」「私も???」「ハァァァァ・・・覚えておれ貴様」


義父と大魔法使いと勇者に着替えを催促したドモン。

今の格好は派手で目立ちすぎる。


「ナナ達は城に戻ってろ」

「イヤよ」

「今あの時の女ボスと従業員達が城に行ってるんだ。ものすごく不安がっているはずだから、相手をしてやって欲しいんだ」

「ムグググ・・・本当でしょうねそれは」「はい!」「わかったわ任せて」


渋々了承したナナ。

サンとエイは良い返事。

ミレイや女賢者には、城で新しいドレスを仕立てることをドモンが勝手に約束した。


「行くぞって・・・もう無理ですよ。夢の時間はもう終わりです」

「だから終わらせないって、この俺が言ってんだよ。終わりどころかまだ始まってもいねぇんだから、終われるわけねぇだろ」

「うっ!!で、でも・・・いくらドモンさんがそんな事言ったって・・・」

「ここでは俺がルールだ。俺に従えばいいさ。なあトッポ、俺を誰だと思ってんだよ。やっぱりトッポイ兄ちゃんだなお前は」


ドモンのわがまま、強権が発動された。

困惑するトッポ。そして一同。

だが高鳴る。胸の鼓動が。トッポだけじゃなく、エイも身体が熱くなった。まだ始まってもいないという言葉に。



全てはドモンが思うままに。



「そんなものまかり通るか!」

「まかり通るのだ。此奴の場合は」


これだけの混乱を起こし迷惑をかけた上、わがままを言いだしたドモンに怒りが湧いたアーサー。

義父はもうドモンの『それ』を知っているので、諦めムードで勇者を説得。


ドモンが強い意志でやると決めたら、もう曲げることはない。

そうしたいからそうするだけだ。


それに従えば大抵の事は上手くいく。

きっと今度もそうなのだろうと、義父だけではなく、ナナやサン、そしてドモン本人もそう考えていた。





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