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第321話

郵便屋の中、ドモンとトッポとの間でそんなやり取りがあった数日後の話。

数名の騎士達が早朝、まずヨハンの元へと封書を届けた。


「ヨハーン!ドモンさんからお手紙が来てるわよぅ!」と階段を降りてきたヨハンに叫ぶエリー。

「おぉ、無事着いたようだな。どれどれ・・・最近は文字が見えづらくなってきたな・・・」


腕を伸ばして手紙を読み始めたヨハン。40歳で早くも老眼である。もうドモンのことは笑えない。

そんなドモンの手紙にはこう書かれていた。


『みんな無事ついたよ。そっちは問だいないか?侍女たちもいるから大丈夫だろうけど』


ヨハンが声を上げて手紙を読んでいると、2階で着替えていた侍女達がヨハンの元へと慌ててやってきた。


「ハァハァやはりドモン様からのお手紙でしたか!」

「無事お着きになられていましたか?」

「うぅ・・申し訳ございません大旦那様大奥様・・・」


水浴びの途中で飛び出してきてしまい、床に水の雫をぼたぼたと垂らしてしまっている侍女のひとり。


「ああ、無事に着いたみたいだよ。また襲われて死んだなんて冗談にもならんからなハハハ」

「笑い事じゃないわよぅ!!」


冗談を言ったヨハンに、大きな胸の前で両手をギュッと握って叫ぶエリー。

ドモンの場合、それがなくはないのが怖いところ。


『道具屋はやっぱり天才だった。モーターがその内できるはずだから、きっとそうじも楽になるし、マヨネーズ作りも楽になるよ』

「へぇ~大したもんだな。ドモンの言ったとおりだ。しかしひらがなが多くてなんというか、読みにくいなハハハ」


会ったことさえないのに、ドモンは事ある毎にその隣街の道具屋のことを天才だと言っていたが、それが本当だったのだと知り、ヨハンは感心していた。


「モーターってどんな物でしょうか?お掃除とマヨネーズ作りをするための機械なのですか??」

「他に何が出来るか続きに書いてあるよ。『これで馬車に馬が必要なくなる』だとさ。そういえばそんな事言ってたなドモンは。凄いもんだよなぁ」と侍女のひとりに答えたヨハン。


えぇ?!と同時に叫び声を上げた侍女達。

ようやくそこでドモンとその道具屋がとんでもない物を作っていると理解した。



『あとまた集団ぼうこうにあってケガしちゃったけどなんとか無事だ』

「も~~!!やっぱりぃ!!!これのどこが無事なのよぅ!!」と涙目のエリー。『怪我をしたけど無事』というドモン特有のパワーワードに憤怒。


『サンとナナがさらわれちゃって』

「なんだってぇ!!??」「ええ?!」「そんな・・・!!」


『オーガにもおそわれて散々だったけど、みんな無事』

「・・・・」


ここまで読んだだけで、もう全員がぐったり。

この調子で王様に謁見なんて出来るのだろうか?と心配になる。


『城にもなんとか入れて』横に『域』という字が書かれて横線が引いてある。

「おお良かった」

「絶対に問題を起こしていませんように・・・」祈るエリーと同意する侍女達。


『王様と城を抜け出し、今ふたりで街をさんぽしてる』

『皆さんごきげんよう、王をやっているアンゴルモア改めトッポです。ドモンさんに付けて貰った愛称なのです。皆さん、いつかお会いしましょうね!』

「な?!」「・・・・」


絶句。それ以外表現のしようはない。


『とぼけたトッポイ野郎だったから・・・』

「ハァ・・・もう読むのが怖いんだけれど」と文章の途中でヨハンが深い溜息。こんな事を声に出して読んで、不敬罪に当たらないかヒヤヒヤ。


『・・だったからトッポと名付けたんだ。こいつ立ちションしようとし・・・』

「この先は読めないな・・・」


そこでぐちゃぐちゃっと線が引かれ、謎の赤い判が大量に押されていて、先が読めなくなっていた。

最後の最後『今度ゆっくり』とだけ手紙の隅っこに書かれていた。



「ほ、本当なのでしょうか・・・」と侍女。

「ドモンさんならきっとそうよ・・・」と遠い目のエリー。

「この赤い印は・・・多分ですけど、王家に伝わる印です。カルロス様宛の封書に押されていたものとそっくりですので」もうひとりの侍女の言葉に、他のふたりもハッとした顔をして目を合わせ、大きく頷いた。


「王様とふたりで城を抜け出して散歩してるって・・・大丈夫なのか?大丈夫なんだよな??」一応改めて確認したヨハン。

「・・・・」


全員もう言葉もない。

「カールさんもこれを知ったら、きっと驚くわよ」とエリーが言った頃、屋敷でカールが叫び声を上げていた。



「カルロス様!カルロス様!!」

「何事だ??朝から騒がしい」


朝食前に自室でいくつかの書類をのんびりと確認しながら、紅茶を飲みつつまだ休んでいたカールの元へ、騎士のひとりが飛び込んできた。

ノックをしてから返事すら待たずに。


「ハァハァドモン様と国王陛下のハァハァ、連名での封書が!!」

「む?」


もしや領地、もしくは学校や保育園に関する事についての通達なのではとカールは推測していたが、騎士の焦り様からして何かがおかしい。


「公式のものではなく国王陛下が私的にハァハァ、カルロス様に直接宛てたハァハァ手紙でございます」

「な、なんだとぉ?!」


受け取った封書の裏を確認すると、ドモンの名と国王の名が同時に書かれている。しかもドモンの名が国王よりも上に。

王家の印もしっかりと押されていたが、公文書である事を示す公印などがない。


要はそのまま『国王陛下からのお手紙』である。

ドモンの世界で例えるなら、どこかの地方の市長か町長の携帯電話に、天皇陛下から直接電話がかかってきたようなもの。



噂を聞き、カールの部屋へ続々と集まる貴族達。

すぐに他の騎士達や料理人達、侍女達までやってきて、部屋に溢れかえった。


当然、こんな事は異例中の異例どころか、この領地を与えられて初めての事だからだ。


「ナナナナイフをっ!誰かナイフを持ってきてくれ!!」実は自分の机の引き出しに入っていたが、今のカールは頭の中から飛んでいた。

「兄さん」とグラが持っていた普通のナイフを渡したが、「ば、馬鹿者!そのナイフでは手紙に傷がつくであろう!」と窘められた。そうか!と慌てて引っ込めたグラ。

程なくしてペーパーナイフを侍女から受け取った。


震える手で封筒を切り、手紙を取り出す。

紙の裏側からすでに王家の印が透けて見え、カールの手の震えはもう止まらない。


『カールさん、僕はまだ認めていません』


カールが声を出し手紙を読み出すなり「は?」と声を上げた一同。そしてカール本人。

何かのイタズラであれ!と思う気持ちが出てきたが、この印が全てを物語っている。本物なのだと。


『ごめんなカール。上のはどっかのバカ国王が勝手に書いたんだ。あいさつをこいつに書かせるんじゃなかったよ』

「な?!」カール絶句。


三名ほどここで意識を失った。

カールを含む貴族達の血の気が引いていく。


『横でうるさいので、ここからこいつのことはトッポとする。俺が付けたあだ名だ。バカと書くなとか王と書くなとか面倒なので許してくれ』

「・・・・」


カール達への手紙は、実はヨハン宛に書いた後の二枚目であり、少しだけ文面が雑になっていた。

それが大いなる絶望感を与えることになり、ここでまたふたり倒れる。

この時点でドモンが王に取り入ったのだとカールは察したが、文面があまりにも酷く、寿命が縮まる思い。


『そっちのすすきの化計画はどうなってる?たくさんスケベな店作ってくれよな。俺はこっちでも第二のすすきのを作ってるよ。オーガ達にも手伝ってもらって。オーガのひとりもさっき貴族にしたんだその色街で』

「待て待て待て待て」


自分で読んだ手紙を自分で止めるカール。

「オーガとはあのオーガのことを言っているのか??」と貴族や騎士達が顔を見合わせる。

カールは『オーガを貴族にした』という部分に引っかかっていた。


もうこの時点で訳が分からない状況。

ドモンが王都で街づくりに関わっている??

オーガに手伝ってもらって???


「オ、オーガをも手懐けた・・・いや、仲間に引き入れたというのか彼奴は」とカール。

噛み砕きすぎたドモンの情報を、ゆっくりと頭の中で組み立てて整理する。


貴族にしたということは、やはり国王陛下とドモンは一緒にいるということ。

それを色街で行ったということは、そこに王をドモンが連れていき、オーガとの謁見の場を設けたということなのか??と推察。


しかしカールの『王を連れ、視察団と共に街を回っているのだろう』という考えは、あっという間に打ち砕かれた。


『トッポと一緒に城を抜け出して、ふたりで街をさんぽしてんだよ』

「な、何をやっておるのだ彼奴は!!!!」


立場が偉ければ偉いほど、事の重大さがよく理解できる。

ドモンがとんでもない事をしでかしてしまった。


『あと町外れでもいいから、会員制の高級なスケベな店を用意してくれ。お忍びでトッポ連れて行って、こいつを大人にしてやらなければならない』

「・・・あんっの馬鹿者が!!」


頭を抱えるカール。

もう頭が追いつかない一同。


『追記 カールさん、あなたがドモンさんの友人だなんて僕はまだ認めていません!・・・が、そのお店が出来たなら許します。それと絶対にこの手紙は他言無用ですよ!アンゴルモア改めドモンさんの弟トッポより』


・・・と、数十人の前で手紙を読み終えたカール。うつむく一同。

なぜはじめにそれを書いてくれなかったのか?


『弟だなんて俺はみとめてないから』というドモンの字の上に、王家の印がドンドンと何度か押されている。

王家に伝わる印章を修正印として使用するトッポ。


手紙はそれで終わっていた。



「お、俺らは何も聞いちゃいないよ兄さん。な?みんなもそうだよな?な?な?」とグラ。

「どうした、皆こんなところに集まって。私はちょうど今来たところだが」と白々しい嘘をつく叔父貴族。

それらを聞くなり、「私も今来たところです」「私も知らないわ」「今日は耳の調子が悪い」などと全員が誤魔化し始めた。


国王陛下の命令を破った挙げ句、絶対に聞いてはならないような秘密を知ってしまった。

通常であれば、一族終了のお知らせ、一家取り潰し待ったなしである。


「もう・・良い・・・ドモンが、なんとか・・・するであろう」


力なく皆に答えたカール。

この家がどうなるのかは、はっきり言って国王の気分次第。

約束を違えたカールに至っては、死罪だと言われればもう受け入れるしかない状況。


とにかく今は、会員制の高級なスケベな店の建設を急ぐだけ。

カールは大事そうに手紙を持ちながら、窓の外を見て、大きなため息をひとつ吐いた。




「カールもびっくりするだろな」と手紙を出し終えたドモン。

「地方の貴族の方に直接手紙なんて書いたのは初めてなので、きっと驚くと思います」とトッポ。

「おお、それなら喜ぶかもな。国王から直々に!と、この世の春が来たとばかりに飛び跳ねるかもしれないぞ」

「フフフ!そうだといいですね。あ、あの店行きません?お酒もありそうですよ?」


この数日後、カールを極寒の冬気分にさせることになるという事を知らない、呑気なドモンとトッポであった。





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