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第317話

「だけど俺としては、正直ホークの住む店に連れて行くのは反対なんだよ。危険過ぎる」

「行きますよ僕は。何かあったって自分で責任を取ります」

「そうは言っても、結局俺が責任を取らされるんだよなぁ・・・」


やる気に満ち溢れている今のトッポには怖いものがない。

怖い思いをしたことがないというのもあるけれども。


「まあとにかく、とりあえずどこかの店で酒でも一杯引っかけるか。練習がてら」

「いいですね!でもこんな朝早くにお酒が飲める店は、恐らく王都にはほとんどありませんよ?」

「え?そうなの??」


確かに元の世界でも、街によっては営業形態は異なる。

もしかしたら多少はあるのかもしれないけれど、イメージ的には王都は銀座辺りと一緒。ぼったくりバーはあるのに、昼飲みの店はあまりない。


もしかするとぼったくりバーというのも、金持ち相手の暴利寿司屋と変わらないのかもしれないと考えるドモン。

あれはあれでその役割があるのだけれども。回る寿司ですら美味い北海道育ちのドモンにはとても信じられないが。



「じゃあ王都から出て外の街に行くか?冒険者も多くいるから、少しは早く店が開くと思うし」

「ホ、ホントですか?!フゥフゥ!!行きます!行きましょう!!ねえドモンさん!!」

「興奮しすぎだろ。でもあの門をくぐれるかどうかの話だよ」

「こうなればもう・・・力技で行くしかないですよフフフ」


トッポはもう行く気満々。

近隣の街は通過したことはあるものの、当然街を散策したことなどない。


十数分後、トッポの指示により、馬車は王都出入り口となる例の大きな門へと到着。

早朝なため、道がガラガラだったこともあり、あっという間に到着した。

ただガラガラの中では当然目立つ。そもそもまだ開門の時間ではない。


新型馬車を発見するなり、整列をする門番達。

中に乗っているのは貴族か王族かドモン一行というのが、現時点では確定しているためだ。


夜が明けてすぐだというのに、満面の笑みで駆け寄ってくる門番のひとり。


「おはようございます!!」と爽やかな挨拶が聞こえた。

「ドモンさん、とりあえず挨拶をして、そこの門番のひとりを中に乗せてください」とトッポ。


「おうおはよう!この前はどうも!」とドモンが窓から顔を出す。

「ドモン様でしたか!おはようございます!先日は大変失礼致しました」

「ええと・・・ちょっと連れが伝えたい事があるとかで、一度馬車の中の方に来てくれないか?」

「お連れ様が?はいかしこまりました」


トッポの願いを聞き入れ、ドモンが門番のひとりを馬車の中へと誘導。


「失礼致します」

「やあやあおはよう。お勤めご苦労さまです」と、椅子に座ったまま頭を下げたトッポ。

「??」


どこかで見たような顔だけれども誰だかわからない門番。

庶民的な格好な上、メガネを掛けているので分かりづらいというのもあるが、こんな時間のこんな場所に、こんな気軽に国王陛下がやってくるとは考えもしていないため、脳内でその可能性は消去しているのだ。


「とにかく乗って扉を閉じてください。あと大きな声は出さないでね」

「は、はい・・・」

「お願いがあるのだけれど、ここは黙って通してくれないだろうか?ドモンさん以外誰も乗っていなかったということにして。他言無用で」

「あの・・・失礼ですが、どちらの・・・」

「ああ、ご挨拶が遅れました。この国で王をやっているものです」

「・・・・・」


まだ理解が追いついていない様子の門番を見て、思わずプッと吹き出すドモン。

出来るならば、この後叫ばずにいてくれたら助かる。


「陛下に、た、確かに似ていますね・・・」

「そりゃ本人だし」とドモンがツッコむ。その言葉に目を瞑り、下を向く門番。そして頭をブルブルと振る。


「ええと・・・どういうことでしょう???」まだわからない。夢ならば覚めてくれの気分。

「僕が城を抜け出して、ドモンさんとお忍びで街を散策してるのですよ」とはっきり目的を告げたトッポ。


「国王陛下が城を早朝に抜け出し、ドモン様と街を散策していると?」

「だからそう言っているではないですか」トッポがヤレヤレのポーズ。

「陛下・・・」

「はい」


手に持っていた何かのチェックシートとペンがガタガタと震えだし、その震えが全身に回って脚まで到着。

立ったまま貧乏ゆすりをしているかのように両足を震わせたかと思った瞬間、そのまま後ろに尻餅をついた。


「あ・・・わ・・・わ・・・」

「シーッ!叫んではダメですよ?」


本来国王と謁見する場合、玉座の間にて片膝を床につき、許しがあるまで顔を上げてはならない。

しかもそんな機会が与えられるのは、極々僅かな人のみ。


もし騎士にでもなれたならば顔を合わせる機会もあるかも知れないが、その騎士達ですら一部の信頼された者達以外は滅多に会うことはない。

大体騎士になること自体、数百人か数千人の憲兵や門番の中からひとり選ばれるかどうかの話なのだ。


「おいトッポ、流石にこれは無茶だったんじゃないか?」

「へ、変装で通り抜けた方が良かったですかね?ここであまり時間を掛けたくないですね」

「トッポ・・・って・・・」

「ドモンさんが僕につけてくれた愛称ですよ。トッポイ兄ちゃんだからトッポなのですってフフフ」

「ヒュ・・ヒュプ」


妙な空気の吸い込み方と吐き出し方をしてしまった門番。

そのまま意識を失ってしまい、ダダンという音を立て倒れてしまった。

馬車の中で大きな音がしたことにより、三名の門番が慌てて走ってきた。


「やや?まずいですねこれは。この方も乗せたまま強行突破しましょうか?」

「いや無理だっつうの・・・素直に説明しろ」

「うぅ・・早く行きたいのに」


馬車の扉を開けた門番達とまた同じようなやり取りが繰り返され、失神した者がもう一人増えることになった。



「くれぐれも秘密にするのですよ?」とトッポ。

「そ、そんなことをおっしゃられましても、騎士の皆様に問われた場合どうすれば・・・」門番はオロオロするばかり。

「王族のジジイや勇者達も追いかけてくる気がするけどな・・・」うっかり余計なことを伝えたドモン。

「あぁもうらめぇぇぇ」


失神した門番を背負いながら腰を抜かすふたりの門番。

秘密にしろということは、嘘をつけということ。王族や勇者らを相手に。

その約束を守っても守らなくても首が飛ぶ未来しか見えない。


結局他の門番全員がやってきて、またまた同じ事を繰り返す羽目となり、思わずドモンがトッポの頭を引っ叩いた。


「あ、いた!うぅごめんなさい・・・」生まれて初めて殴られ、トッポはちょっと嬉しい。

「何が力技だよまったく!!いい加減にしろ!!」

「うまくいきませんでしたねぇ」


「とにかく手紙でも書け!ドモンと一緒にオーガのところを視察したあと、ホークへ挨拶を済ませて戻るとでも書いて、門番に渡せ。お前らも誰か来て問い詰められたらその手紙を渡せ!いいな?!」

「はい」「はい」「はい」「はい」「はい」「はい・・・そんなに怒らないでくださいよぅ」


この日、門番達はすべての感情を失い、通行許可作業は実にスムーズに行われることとなった。





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