第315話
「どこの馬鹿ですか・・・そんな事をしたのは!!」
「何を急に怒ってるんだよ。随分昔の話みたいだぞ?それにもうこっちの学校には用がないと言っていたし、王都に仕返しとか、何かやってくるとかはないと思うぞ?」
「違いますよ!用があるのはこちらですし、問題があるのはその学長です!!誰だその馬鹿は・・・信じられぬ」
怒りに任せ、思わず持っていた皿を馬車の床に叩きつけそうになってしまったトッポ。
「いや用があるならこっちから行けばいい話だしさ。そうカリカリすんなよ」とドモンが食後の一服。
「と、取り乱してすみません・・・」
「まあそいつらのおかげできっと世の中は変わっていくよ」
「・・・ドモンさんのおかげのような気もしますが・・・」
皿を持ったままトッポはまた立ち上がる。
今度は少しだけ何かしらの決意を持って。
「ドモンさん、僕に未来を・・・未来を見せてください。あなたが作り上げる新しい世界を!」
「嫌だよ面倒くさい」
「へ?おっと!」
危うくまたお皿を落としそうになったトッポ。
「助言はしてやるから未来なんて自分達で勝手に作れ。というよりも、遠い未来なんかじゃなく、やる気になればきっとすぐそこだぜ?」
「!!!!」
「夏までは馬車に乗って尻を痛めてたけど、今はどうだ。肉料理も塩と胡椒ばかりの味付けだったけど、これからはドンドンと変わっていく」
「えぇ・・・えぇ!!」
確かにそうだ。
握った拳に力が入る。
「俺に任せるんじゃなく自分達で変えていくんだ。マスターシェフだかもその未来とやらに向けて走り出したんだろ?」
「はい!」
「じゃあてめぇもやれ。やってみろよ王様なんだろ?」
「はい!!!え?!何故それを???」
「俺を誰だと思ってんだよ。本当にトッポイ兄ちゃんだな」と、ドモンは窓の外にタバコの火を弾き飛ばした。
城内は騒然としていた。
置き手紙一枚を残し、国王が消えたのだから当然だ。
その騒ぎが起こる少し前、ナナとサンとエイが呼ばれ、城内見学の許可が降りた。
案内をしたのは数名の侍女と昨日の子供達。
「ねえあの人・・・ドモン先生はどこ?」
「街にいる私の父の元へと向かいました。ローズ様」答えたのはエイ。
「フゥ、本当に気が利かない人ね。あの人ったら」ローズがため息交じりでヤレヤレ。
「・・・奥さんは私だからね?一応言っとくけど」とナナ。
「わかってるわよ、うるさい人ね。なによ子供相手にムキになっちゃって」
「キィィ!!生意気!!」
サンは相変わらずヒヤヒヤ。
ただローズ本人はそんなやり取りも楽しく、クスクスと笑っている。
異例中の異例。
王族が城の案内をするのも異例であれば、王族の子供達にこんな態度で接して罰せられないのも異例。
そこにさらなる異例がやってきた。
「奥様~!!」訓練所の方からブンブンと手を振り駆け寄るミレイ。
「ナナさんおはよう。皆さんもおはよう」と勇者達も後ろからついてくる。
侍女達は目眩がしそうだった。
王族の子達が案内し、王族と対等に話ができる勇者パーティーが出迎えにやってきたのだから。そこへ・・・・
「お前達、朝食は取ったのか?」
「あらおじいちゃんおはよう。まだ食べてないの」「おはようございます」
カールの義父がやってきた。
それを平気でおじいちゃんと呼ぶナナ。
義父は珍しいサンの寝癖を発見し、「この髪はどうしたのだ?お前にしては珍しい」とサンの頭を撫でた。
「す、少し寝付けなかったもので・・・うぅ見ないでください」と慌ててメイド帽子を被って、両手で下に引っ張る赤い顔のサン。可愛さの超新星爆発。
それを見て蕩ける義父と大魔法使いと勇者と男の子達。そして初めての敗北を味わうローズ。
「奥様って冒険者なんですよね??模擬戦やりましょうよ!」とミレイ。
「それはいい考えだ。俺も是非」と勇者アーサーもそれに乗った。
「な、何言ってんのよ!勝てるはずがないじゃない!私が勝てるのはせいぜいドモンくらいよ」
「・・・・」「・・・・」
ナナの言葉に口をつぐんだ勇者達。
エイやサンもその気持ちはわかる。恐らくナナ似のオーガも同じ反応となるだろう。
これらの会話の内容や雰囲気から、ミレイがドモンに倒されたという噂話が本当のことだったと知る侍女達。本当ではないのだけれども。
兎にも角にも、王宮のVIP相手に普通に会話をしているこの女性達が、あのドモンという男のただの連れだという事実。
そのドモン本人を冷たく失礼な態度であしらってしまったという事は、ここにいる者達に絶対に知られる訳にはいかないと青くなる数名の侍女。
「そういえばあなた達、ドモンが失礼な態度取ってしまってごめんなさいね。あんなおじさんが急に来て驚いたでしょう?」と侍女達に話しかけたナナ。
ビクッとしながら「い、いいえそんな事は・・・」とますます青くなる侍女。首が寒い。
「いいのよ。ドモンに甘い顔見せたら、あっという間に押し倒されてしまうんだから。自ら近付くような馬鹿な真似はしちゃ駄目よ?まあそんな人は滅多にいないでしょうけれど」
「・・・・」「・・・・」「・・・・」
ジトっとした目で、勇者と大魔法使いと賢者に睨まれる大女。
最初に自ら灰皿持って駆け寄っていったサンと、下着を脱いでまで近寄ったエイは言葉をなくす。
ただ、注意をしたはずのナナも少し顔が赤い。全員同じ失敗をしている。
「ここが王宮図書館よ」と扉を開けたローズ。
「うわぁすごいです!」「何よこれ・・・一体何冊の本があるのよ・・・」
首が痛くなるほど見上げたサンとナナ。エイは言葉もなく、ポカンと口を開けている。
荘厳な教会のような作りのこの図書館は、見る者全てを圧倒させるほど。
「ここにドモンと一緒に買ってきた本もあるのかしら?」
「あの本は地下に厳重に保管されておる。彼奴にはなんやかんやと言われたが、やはりあれ自体は宝であるのは間違いではないからな。もうすでに複製したものを皆利用しておるのだ」とナナに答えた義父。
そんな話をしながら、その複製した本へと案内された一行。勇者達も見るのは初めて。
「そういった本を持ってきたとなると、あの人が異世界人だという実感も湧くね」と、勇者達が静かな館内で静かにおしゃべり。
「ん?なんだこの紙は?」
ドモンが持ってきた農業に関する複製本の隙間に、何かが書かれたメモを発見。
「ん?どうしたのおじいちゃん」とナナもそれを覗き込む。
『次は第三食料庫のドアの上 アンゴルモア』
メモにはそう書かれていた。




