第314話
「野菜なしだけどビーフカレーでも作るか。トッポは米を炊いてくれる?その箱に米と鍋が入ってるから」
「やった!噂に聞いていたカレーライス!!って・・・米を炊く・・・のですか?」喜びも束の間、キョトンとするトッポ。
「うん、出来るだろ?」「やーりますやります!私がやりますですだぜでございますだぜ!」
「何を言ってんだよハハハ」
御者が大慌てで手を挙げ、鍋と米を持って準備を始めた。
「まあこっちの世界じゃ、米炊きしたことがない奴らがほとんどか。じゃあこの肉をこのぐらいの大きさに、サイコロ状に切ってくれるか?俺らだけだから15個くらいでいいよ」
「は、はい・・・」
「おーい御者、水魔法使えるだろ?この鍋にも水入れてくれよ」
そう言ってドモンは薪集めをしてかまどを作っている御者の元へ。
米研ぎをし、水の分量を測り、あとは御者任せにしてからドモンが戻ると、トッポはまだ悪戦苦闘中。
「あれ?まだ終わってなかったのか・・・って危ない危ない!!」
「ひっ!!」
「なんて肉の押さえ方をしてるんだよ!指を切っちまうぞ」
左手をクロスするようにして肉を押さえ、ぎゅうぎゅうと包丁を肉に押し付けていたトッポ。
そのまま肉を切っていれば、自分の指も切っていたことだろう。
「なんだよ、料理はしないのか?俺がやるよ」
「え、ええ、すみません・・・何も出来なくて」
「城でどんな仕事してんだよ。そんなんじゃ怒られてばかりだろ」
「城ではその・・・頷いたり返事をしたり・・・」
「ハハハ!どんな仕事だよそれ!」
「退屈な仕事です」
「ほう・・・そっか」
ドモンが代わりに包丁を持ち、あっという間に肉をカット。ついでに玉ねぎも切り、下味をつけながら小麦粉をまぶし、馬車のストーブで熱していたフライパンでじゅうじゅうと炒めていった。
「さすがですね!マスターシェフをも唸らせるだけあります!」
「いやこのくらいどこの家庭でもみんなやってるよ・・・てかあのマスターシェフだかってのも知り合いなのか」
「ええ・・・昨日あの後たまたま鉢合わせたと言いますか・・・向こうからやってきたと言いますか・・・少し旅に出るからとその・・・」
「誰かに報告してた時にトッポもいたのか」
「そうですそうです!たまたまいたのです!」
「ふぅん」
焼き上がった具材を今度は鍋の中に入れ、ストーブで煮始める。
米を火にかけていた御者もやってきた。
あとは待つだけなので、馬車の中でしばし休憩。
「もっと街の中に公園があると良いんだけどな」
「公園?ですか?」
「ああ、こういった原っぱに子供が遊べる遊具を置いたりするんだ。それが住宅街の中に一定間隔で必ずあったんだよ。俺のいた国では」
「ふむ、子育てするのに良いのですね」
着替える前の上着から小さなメモ帳を取り出し、ちょこちょことメモを取るトッポ。
「子供が遊んだりするのも良いんだけど、近所の人達が集まってお祭りをして交流したりもするんだ」
「へぇ~良いですね」
「ただ実は、災害があった時に避難場所にしたり、火事の時、火が延焼して行く速さを遅らせたりするという理由も隠れている。だからどんなに住宅が密集した土地でも、必ず公園を置かなければならないという法律がある。火を消すための貯水としての池があったりな。普段はのんびりと小さな船に乗って、男と女が愛を育む場所になってたりするんだけど」
「子育て、地域の繋がり、避難場所、防災と、公園とはなんとよく考えられた仕組みだ!!」
またトッポがダーンと立ち上がった。
「こんなに密集してたら、戦争や災害時に、街に火がついたら一発で終わってしまう。あの城の防衛力は見事だけど、本当に守るべきは、そこに住む住人達だからな」
「・・・・」
「人は石垣、人は城・・・なんて言葉もあって、立派な城があったって人がいなきゃ成り立たない。信頼できる仲間達や国を支えてくれている住人達は、強固な城に匹敵するという考えなんだ。だから大事にしないと駄目なんだよ」
「はい・・・はい!」
手に持つメモ帳を握りつぶす勢いで拳に力を込めたトッポ。
「言っておくけど俺の言葉じゃないからな?俺もそう聞いただけで、はっきり言って俺は住人側だし、俺らをもっと大事にしろ馬鹿野郎!って文句を言う方だアハハ」
「ハハハそうですか。そういや近隣の街も随分と変わるようですね。話は聞きました」
「ああ、あっちは貴族やオーガ達に任せた。中心街には馬車のターミナルも出来るし、人の動きも活性化されていくだろうな」
「馬車のターミナル?」
「一定時間置きに、街の東西南北各方面を巡回する乗合馬車を運行するように仕向けたんだ」
「?!」
少しだけ離れた場所に行くのに、ドモンはいつも苦労していた。
こういった乗合馬車があれば、ギルドに行くのにHPを2減らさずに済む。
せっかく街を作り直すのだったら、そうした方がいいと提案していたのだ。
「馬車を自分だけで雇うと大金がかかるし、気軽に買い物や遊びにもいけないだろ?30分置きにでも出発する巡回バス・・・じゃなかった乗り合い馬車があれば便利だからな。一回銅貨10枚くらいで乗れるようにして」
「ええ!なるほどなるほど!」
「街のあちこちに馬車が停車する目印を置いて、そこで乗り降りできるようにすれば、馬車を乗り継いで街の隅から隅まで行けたりもするだろ?俺みたいな脚の悪い貧乏人でもさ」
「確かに・・・なんと素晴らしい考えなのだ・・・」
「なのだじゃないよ、偉そうに」
「あ・・!あはは・・・」「・・・・」
鍋にカレーのルーを半分入れてかき混ぜると、馬車の中にとんでもなく香ばしい香りが広がった。
「すごく・・・」「ああ、なんと美味しそうな匂い・・・」トッポも御者も鼻の穴を広げながら目を瞑る。
「もう少しで出来るから、ふたりともあとちょっとだけ我慢してくれ」
「え?!わ、私もご相反に預かって宜しいのですか?!??」ドモンの言葉に声を裏返す御者。
「当たり前だろ。むしろ一番に食べてもいいくらいだよ。こんな時間に無理させちゃって」
「え?いや・・・その・・・」
「三人で食べましょう。みんなで食べると美味しいですよ」と焦る御者にそう言いトッポもニッコリ。
程なくしてカレーライスが出来上がった。
米は少し焦がしてしまったが、本格的な食事でもないので今はこれで十分。なんならじゃがいもやニンジンも入れてはいないのだから。
「ほらどうぞ」
「わぁ美味しそう!」「ほぉぉ!!光・・・光り輝いている・・・!!」
「米と一緒にこうやって掬って食べてくれ。おお、良い牛肉だったからこんなのでも結構美味いな」
ちゃっちゃと作った割に美味しく出来て、ドモンも満足。
早速トッポも一口。御者はその様子を控えて見守っている。
「あぁ~あぁ~!これが夢にまで見た・・・噂に違わぬ芳醇で濃厚な味、且つ全てが刺激的!これならばどこへ出しても恥ずかしくはない」
「いや恥ずかしいよ!玉ねぎ以外の野菜入れるの面倒でやめちゃったんだから」
「勲章ものですよこれは」
「いるかそんなもん。食い物の方が余程ありがたいよ」
ドモン達のやり取りを聞き、冷や汗をかきながら御者も一口。そのまま二口、三口。
御者は無口系一気食いタイプの人間だった。
「このようなものを普通に皆が味わえる日がくるのでしょうか?」
「カレーに関してはスパイスが見つかるかどうかかな?ここには天才料理人もいるし、再現できるかもな」
「スパイス・・ですか?」
「ああ、世界中探せばきっとどこかで見つかると思うよ。もうすぐ馬車に馬も必要なくなるし、探す旅もしやすくなるだろうしな」
「えーと・・・ちょっと待ってください。あの馬が必要なくなるっていうのは一体・・・」
カレーを食べ終え、満足そうな顔でドモンと語らっていたトッポだったが、ドモンがとんでもないことを言い出し始め、固まった。
そんな話はまだ耳にしていない。
そこでドモンは天才ギドの道具屋の話をしたが、トッポの表情が見る見るうちに曇り、怒りの表情に変わっていった。




