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第312話

ドモン、今度はまともに入城。

すると先程と同じようにずらりと使用人達が待ち構えていた。


王族の誰かが来ていたのかな?と、思わず後ろを振り向くドモンとナナ。


「ドモン様、お待ちしておりました。皆様、お荷物をお預かり致します」


7~8人の男女の使用人達が駆け寄って荷物を受け取り、美しい侍女がひとり、ドモンの斜め前に灰皿を持って立った。

明らかにさっきまでとは違う態度で、ドモンは訝しげな眼差しで周りをキョロキョロと睨んだ。


「さすが、お城の人達ってしっかりしてるのね」

「いや・・・さっきはそうでもなかったんだ。ちょっとしたゴミ・・・いや失礼な奴が来たみたいな目で見られていたんだよ。どういう風の吹き回しだろ?」と小声でナナに囁くドモン。


「だってドモンはいつも失礼じゃない?」

「なんと失礼な嫁だこと・・・」


ドモンとナナがそんな会話をしていると、荷物の受け渡しをしていたサンが、先程仲良くなった侍女仲間と何やら会話をし、すぐにタタタとドモン達の前へ戻ってきた。


「ローズ様とそのご両親、あと勇者様方に口利きをしていただいたようです。特にローズ様は『私達の先生に絶対に失礼のないように』と釘を差していったようで。あとミレイさんも『私を一瞬で倒せる男』だと触れ回っていたとのことでした」と説明をしたサン。


「なるほどな。それで態度がこんなに変わったのか。まあ、ありがたく受け取っておくか」

「ねえドモン」


ナナの雰囲気が使用人達以上に変わったことにドキッとするドモン。嫌な予感しかしない。


「ミレイさんを倒したって・・・あんたまたやったわね?」

「ち、違うってさっきも言っただろ!」


先程は上手く誤魔化せたが、ここに来て突然修羅場がまたやってきた。

ミレイから直接話を聞いていたエイは、ナナの後ろで右手を額に当てて、あちゃぁという顔をしている。


「正直に言いなさい。あんたが『普通に』倒せるはずがないわ」

「ちが・・・あの・・・」

「・・・・」おっぱいの下で腕を組み、ナナは仁王立ち。

「くっ、私がやりました・・・でもズッポシはしてません。スッキリもしてないです」


頭の中に二時間サスペンスドラマのエンディングテーマが流れたドモン。気分は崖の上。

ドモンを捕まえたナナ。犯人は逃さない。その怒りの表情は、ナナ似のオーガではなく、オーガ似のナナといったところ。


「さあ・・眠りなさい~疲れ切った~・・・」遠い目をしながら歌うドモン。

「なーにが『さあ眠りなさい』よ。ねえちょっとお願いがあるの。お風呂に入りたいのと、あと私とドモンの部屋だけ別にして欲しいの」とドモンの歌を遮り、侍女に伝えるナナ。

「はいかしこまりました」

「わ、私達ふたりもそれでいいです・・・」とサンとエイ。ナナの怒りはしっかりと伝わっており、隣の部屋を用意してもらった。



王城ではなかったが、案内された部屋は高級ホテルも真っ青な豪華な部屋。

風呂が別でさえなければ良かったけれど、そこは贅沢は言えない。これでもこの世界では、かなり設備が整っている方であった。


「新婚旅行なら最高だなナナ」

「ドモン、ここにお座んなさい」

「・・・はい」


クドクドとした説教が30分程続いたあと、パーンパーンという悲しい破裂音が、城の廊下に響き渡ることになった。

その様子を聞きつけたミレイが部屋にやってきて、ナナに事情を説明。

そこでようやくドモンは解放された。


「まあそういう事情なら仕方ないわね」とナナ。

「もう!ミレイも俺がやられる前に来てくれよ!うぅ」豪華なベッドにうずくまったドモン。

「そ、そんな事を言ったって・・・あたいもまさかこんな事になってるとは思わなかったし」


ポリポリと頭を掻くミレイ。

そばのテーブルにあった水差しの水を、ラッパ飲みをするようにゴクゴクと豪快に飲み始めた。


「あ!!ミレイさんその水を飲んではダメよ!!」慌てるナナ。

「ど、毒か?!ある程度耐性ならあるけれど・・・む?なにこれ・・・キノコ??」


水差しの中を覗き込んだミレイと、ジトっとした目でナナを睨むドモン。


「毒ではないんだけど、男は何かがやたらと元気になり、女は身体が敏感になるキノコだ。ナナ、いつの間に・・・」

「だ、だって!ドモンが悪いんだから!!」


こっそりとそんなものを飲ませようとしていたナナ。

しかし飲んでしまったのはミレイだった。


「は、はは・・・それならば大丈夫だろう。あたいの鍛えた身体にはそんなもの効きやしないさ。毒への耐性だって身につ・・アハァン???」


話している最中にドモンがミレイの首筋を触ると、身体をビクンと一度跳ねさせてから床に崩れ落ちた。

毒への耐性はあるが、スケベなことへの耐性はゼロだった。


「うぅぅぅ・・・あたいは部屋に戻るよ・・・くぅぅぅ!」

「ご、ごめんなさいね。大丈夫?」

「ああ・・グス・・平気さ・・・あたいは女を捨てたんだ。女の幸せなんてものはいらない・・・」

「はぁ・・・私の責任ねこれは。ミレイさんお風呂まで来て。ドモンも」


四つん這いになって苦しむミレイをナナが支え起こし、三人でお風呂場へ。

一時間後、ツヤツヤになったナナとミレイが風呂から出てきた。ドモンはまだ脱衣所で裸のままぐったり。


「ナナさんありがとう。でも・・・」

「いいのよ。女の幸せはこれが全てではないけれど、これもそのひとつよ。そして別に女を捨てることなんてないのよ。どこかで最高の相手と出会うかもしれないし、最悪誰も見つからなくったって・・・ドモンがいるからねウフフ」

「うぅぅぅ・・・!!」

「私なんて馬で移動してたら、草むらにおじさんが落ちてたんだから!とってもスケベな異世界から来たおじさんがねアハハ」


ミレイは納得がいった。

あの男にしてこの妻あり。

とてもじゃないけど自分なんかじゃ敵わない。


ミレイはドモンと同じくらい、ナナのことも大好きになった。


「って、どうしてあなたが部屋までついてくるのよ!もう!」

「だって・・・うぅ後生です。せめて今晩だけでも一緒にいさせてください。ひとりは切なくて切なくて」

「ひとりで慰めなさいよ!それか誰かにお願いするとか」

「あたい・・・私はドモンさ・・・御主人様が良いです・・・」

「だーれがあんたの御主人様よ!!それだけは許さないわよっ!!」


部屋に戻ったナナとドモンの前で、小さくなって正座をする大女。


「大体あなたね!あんなドモンをおもちゃみたいに・・・それにさっきのだって知ってるでしょう?!王宮に獣が出たと騒ぎになったのを!」

「こ、今度こそ声を我慢しますから・・・」


ドモンはまだぐったりしたまま。


「悪いけど俺の方が無理だよミレイ。それに明日は王族からの頼まれ事を解決するために、夜明けと共に出かけなくちゃならないんだ」

「うぅ・・・」

「ふぁあ・・・ミレイだって女らしい格好すれば、すぐに相手も見つかるよ・・・ナナ、馬車の中にかつらと化粧道具があっただろ?それでミレイを・・・ぐぅ」


会話の途中で寝てしまったドモンに落胆するふたり。


仕方ないのでドモンの言いつけどおり、ナナがミレイにそれらしいかつらをかぶせ、ファンデーションや口紅を塗った。

ミレイ、生まれて初めてのお化粧。


「こんなもんかな?かなり女の子っぽくなったわね」

「こ、これがあたい・・・あ、あ、恥ずかし・・・かはぁ!」


鏡の中自分の姿を見て、これ以上ないくらいに赤面したミレイ。

何が一番恥ずかしいかと言えば、今まで気にもしていなかった、服をこれでもかとふたつ尖らせている自分の先っぽであった。


たった一晩でミレイは女を取り戻し、恥じらいに身を捩った。

身体中に女性ホルモンが一気に行き渡り、肌がしっとりしていくのが目に見えてわかるほど。

どこか汗臭かった身体も、女性らしいミルクのような匂いに変化する。


ミレイはナナの許しを得て、一度だけ寝ているドモンにそっと口付けをし、自身の部屋へと帰っていった。

様々なことで興奮し、一睡もすることはなかったが。

ちなみに子供らも気分が高揚したままで、夜明け近くまで全く眠れなかった。寝たのは70回目くらいの「楽しかった」の言葉のあと。



その夜明け前のこと。

ドモンを起こしにサンがドモン達が眠る部屋までやってきた。

そのサンも実は一睡もしていない。エイはサンから解放され、今ようやく眠りについたところ。


ナナを起こさないように「御主人様・・・お時間ですよ・・・」とドモンの耳元で、耳に吐息を吹きかけるように囁いたサン。

それを何度か繰り返しているうちに、ドモンの息が荒くなってきた。


「御主人様・・・サンのこと・・・イジメちゃ駄目ですよ・・・」

「ハァハァ・・・」

「いたずらしても・・・お仕置きしないでね?ふぅ・・」


ベッド脇の床に両膝をつき、クンクンとドモンのニオイを嗅いで、身体のあちこちを擦るサン。


「クハッ!何やってんだよサン!」

「ああ起きてしまいました。お許しください御主人様・・・意地悪しないで」

「な??」

「イヤ・・・イヤイヤ・・・」


怯えるように首をブンブンと振って、子犬のような目でドモンを見るサン。

いつものサンの様子とまるで違い、ドモンも思わず戸惑ったが、後退りしながら逃げようとするサンを見ると、もう我も忘れてドモンはサンを追いかけた。


「ああ許して。だめぇ」ドアの辺りまで追い詰められ、八の字眉の涙目で懇願するサン。

「うるさい!ハァハァハァ!!お仕置きだ!!」サンの二の腕を鷲掴みにして捕まえ、強引に部屋から連れ出した。

「イヤイヤイヤ!あぁ!イヤです御主人様!お許しを~」


風呂場にサンを連れ込み、大興奮しながらお仕置きをするドモン。

エイから伝授された『男心のくすぐり方・いじめられっ子編』を実践したことによる、サンの大大大勝利であった。


『お仕置きは欲しがってはダメよ?嫌がる素振りを見せないと。可愛くね』


エイから教わった方法のあまりの効果に、サンも驚きが隠せない。

雄叫びを上げながらドモンはサンに襲いかかり、またも王宮内に『獣出現』の噂が立ったが、その罪はなぜかミレイが全て被ることになった。




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