第297話
「えー特別審査員の占いババア達です」
文句を言いながら馬車から出てきたエルフ達を見て、ドモンが慌てて紹介。
ヤレヤレと苦笑しながらエルフ達も舞台に上がる。
「こんな姿をしてますが、中身はエルフで、その占いがまた当たるんですよ皆さん。捜し物に探し人、将来の不安や自分の前世を知りたいなど、ご相談があれば占いババの館でどうぞ!」
「ちょっ・・・ああもう・・・エルフというのは秘密だったというのに!」
「あれ?そうだったの?まあいいだろ。さあ皆さん、占いの館の上には、このサンのようなメイドさんが給仕してくれて、貴族気分が味わえるメイドカフェなるものや、女性が膝枕や添い寝をしてくれる店、あとは女性のためのマッサージ店なんかも出来る予定ですよ!」
「うおおお!!」「女性のための店が出来るってのかい??」
今まで必死に隠してきていたことが全て台無しになったエルフ。
だけどそれを気にする人は誰もいない。
「格好いい若い男が給仕してくれる店や、建物は違うけど女性用のスケベな店も出来る予定だ!時間いっぱいペロペロしっぱなし!お仕置きされたり辱められたりお姫様抱っこされたりも、もうあなたの思うまま!」
「・・・・!」「おほぉ!」「はぁん」
ドモンの説明に顔を赤くした女性達。ペロペロに関しては飴の可能性もあるというのに。
建設費用が足りなければある程度の融資、もしくは寄付として出資しても良いと申し出るお金持ちな女性達も現れた。
サンはひとり舞台の上で、両手で顔を隠し腰をくねらせ大悶絶。一体何の想像をしていたのか?
「・・・というわけで、こちらのオーガには王族から勲章が贈られ、貴族として迎えられることになりました。この街をこれからも見守ってくれることでしょう」
「ま、魔物に勲章を?!」「王族が??」「オーガが貴族に?!」
舞台上の会話の中でドモンが発した言葉にどよめく住民達。
カールの義父にはそうすればいいんじゃないかとは言ったが、まだ正式に認められたわけでもない。勲章にいたっては完全にデタラメ。
だけれども、こんなものはもう言ったもん勝ち。あとはどうとでもなれ。ダメならまた騙せばいい。
質疑応答のコーナーでは、子供達から子供も遊べる施設を作って欲しいといった要望が出た。
流石に色街の中には作ることは出来ないけれど、ドモンとオーガが郊外に遊具を置いた公園を作ることを約束した。
後に道具屋の天才ギドが作った数々の魔導遊具が置かれ、ドモンによって『オーガランド』と名付けられることとなった。
満場一致で『ドモンランド』に決定しそうになり、ドモンが頑固拒否して変更になったのだ。それにはナナとサンは不満顔。
「さて皆さん、もうすぐオーガの仲間達が歓楽街建設の手伝いにやってくるのですが、その中にひとりの女性がいるのです。そこには聞くも涙、語るも涙の物語がございました」
ドモンは青オーガから聞いた事の経緯を、ここでは嘘偽りなく、正直に話した。
人間と仲良くなりたかった妹のために、自分が人を襲う悪者のふりをして妹にやっつけられ、妹を人を助けた正義の味方にしようとした。
だがそんな嘘をついてしまったがため、一緒に暮らすことが出来なくなってしまい棲家を出ていったところ、悪い人間に騙されて、この街で二十年以上捕らえられていたのだと。
切々と語るドモンの言葉に、涙をこぼす人々。
「申し訳ございませんでした」と深々と頭を下げたオーガに、暖かな拍手で皆それを受け入れた。
「みんな誰しも間違いを犯すけれど、時間が経ち許せる日が来たならば、水に流してあげなよおっかさん。俺も昔、ちょっぴり浮気しちゃったりしたことあるしな」
「あんたは昨日の夜浮気したのよ!このスケベ!!」ドモンの頭を引っ叩くナナ。
「ごめんなさい」
「あはは」「許してあげなよ」「二十年以上も前の話なら、昨日の浮気よりもずっとマシだな!ガハハ」
ドモンとナナの夫婦漫才で、オーガ達がやったことも完全に許された。
それよりもオーガの兄妹愛物語が次々と人々に伝えられ、オーガ達がやってくる予定の夕刻前頃には、街の入り口で待機していたカールの義父のもとにまで、その話の噂が届いていた。
その結果、500名の騎士達により厳戒態勢で出迎えるはずが、オーガ達を一目見ようと街の外まで人が溢れ、護衛の騎士が付いたそれらしき馬車が見えるなり、辺りに大きな拍手が響き渡った。
予想外の大歓迎にオーガ達はやや混乱。
皆馬車から降りてキョロキョロと周囲を見渡しながら、迎え入れたカールの義父に挨拶を済ませた。
「ど、どうなっているの?」
「恐らくドモンが仕向けたのであろう。広場に人々を集め、何やらやっているようなのだ。集まった街の者達がそなたの事を待ちわびているそうだ」とエリー似オーガが説明を受ける。
そこからオーガ達はまた二台の馬車に乗り、街の中心の広場まで移動することになった。
馬車での移動中も拍手は全く鳴り止まない。
「さあやってくるのは本当に生き別れた妹なのか?はたまた違うのか?!ああ兄さんおお妹よと二十数年ぶりの再会となるのか?誰にもわからない!それは・・・秘密です!」
ドモンが客を煽りながら、オーガを舞台右端の椅子に座らせ、ナナとサンに大きな白い布を持たせてオーガを隠すように指示。
夢中になって舞台上を見つめる客達。
期待する目で見る者、祈るように両手を合わせる者、もうすでに泣いている者も。
「もうすぐ到着すると思いますが、妹さんのお名前は何ですか?」
「エミィと言います」
エリー似オーガの名前がエミィという名で、思わずちょっと吹き出しそうになったドモン。
ドモン以外は皆ウンウンと頷いている。
「妹さんの好きだったものとか覚えてますか?」
「新鮮なミルクと・・・人間の皆さんです」
「もし本当に妹さんだったなら、はじめになんと声をかけますか?」
「・・・馬鹿な兄ですまなかったと・・・」
ドモンとオーガのやり取りに「そんなことないぞー」「頑張れー!」と人々が声をかけているところへ、二台の馬車が到着。
その瞬間、一気に緊迫感と期待感が増した。
馬車から最初に降りてきたのはカールの義父。
いきなり王族が登場したことで、広場は水を打ったような静けさに。
それに続くようにオーガ達も降りてきて、少しだけまたざわついた。
「あれ?ジジイも一緒だったか。はい、では皆さん、まずは王族のジジイの登場です!拍手!」
「は、ははは・・・」「ば、馬鹿!笑うな!!」「死んだろあいつ・・・」
ムスッとした顔で舞台に上がり、さっと右腕を挙げて民衆に挨拶を済ませた義父。
ドモンをぶん殴ってやりたいところだったが、ここは我慢してドモンの真横に立った。
お咎めがないことに驚く人々。
舞台の端から白い布を持っているナナが「おじいちゃーん」と手を振ると、ついつられて義父もニッコリ。
それでようやくまた場が和んだ。
「あんな孫娘がいたなんて」「さすがは王族」「王族の孫ならあの美貌も納得だ」などと妙な勘違いをされ、義父もナナも少しどころか、かなりご機嫌に。
ドモンだけが違う違うと必死に否定するも、誰も信じてはくれなかった。
これをきっかけに本当に養子縁組なんてことになったらたまったものではない。
そしていよいよオーガ達の登場。
ひとりひとり舞台に上がる度に、丁寧にお辞儀を済ませ順番に並んでいく。礼儀は義父に教わった。
凶暴凶悪だと思っていた魔物のまさかの態度に、青いオーガで慣れたはずが、ついまた驚いてしまう人間達。
最後にエリー似オーガが登壇し、ドモンの横で深々と一礼。
皮膚は他のオーガを同じ皮膚をしているのに、角がない上に、エリーと同じくスケベ過ぎる体を見た人々・・・いや男達は、『なんかオーガとか人間とかもうどうでもいいや』と思っていた。




