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第290話

部下が部屋を飛び出した数分後。

広場から叫び声、いや絶叫が聞こえてきた。


「ドモン様!どうやらとんでもないのが現れおった!」

「わしらが束になったって敵う相手ではないさね」

「なんとか足止めしている間に急いで街から離れておくれ」


エルフ達が部屋に飛び込んできて、大慌てで捲し立てる。

それを見て不敵に笑うボス。


「もうてめぇらは終わりだ」

「なんなんだ?何を呼んだんだ??」

「自分の目で確かめるがいい。そして本物の絶望を味わうんだなフフフフ」


ボスとその仲間達は捨て台詞を残し、隠し扉から逃げ出した。

しっかりと内側から鍵までかけた上に通路を爆破までして。

エルフでももう追うのは不可能。


「ななななんなのよ、あいつら!!」とナナ。

「ど、どうしたら良いのでしょう?!」サンも慌てる。


「窓から飛び降りるにしても三階じゃ、助かったとしても怪我して逃げられそうにないな。まずは下の階に・・・」


ドモンがそう言った瞬間、エルフが建物を破壊した時の比ではないほどの爆発音が響き渡り、建物全体が地震のように揺れ動いた。


「きゃああああ!!!」「逃げろ!!食われるぞ!!!」


より一層大きくなった人々の叫び声。

更に何度か爆発音が響いた後、建物の一角が砂の城かの如く、ぐしゃっと崩れ去った。

三階の廊下の突き当たりが消え、向かいの建物と夜空が見える。


「おいおい・・・なんだありゃ」あまりの光景にドモンも現実感が湧かない。

「ドモン!!」「うわぁぁん!!」ナナとサンがドモンの腕にしがみつく。


エルフ達ですら腰が抜け、もう動くことが出来ない。

ゴブリン達と同じように、人間よりも生き物の優劣に対して敏感で、この時点でもう勝ち目がないことは悟った。


「わわわたししし達ががが囮にいいいなりますからああドドドモン様ままは逃げげげ・・・」


自分の寿命があと一分もないと知り、口が震えて上手く話せないエルフ。

十数メートル先にある階段が、石造りの階段だというのにギシギシと音を立てる。

もう逃げ場はない。



薄暗い階段を上ってきた何者かは、高い天井に頭が今にも届きそうなくらいの大男で、体の幅も階段の幅と同じくらい。

全身が筋肉の鎧で纏われ、どこぞの最強格闘家も真っ青なほど。


だが実際に青かったのは、今やってきたこのオーガの肌の色であった。


「オーガか?!」


ドモンはその姿を見て、実は少しだけ希望を見出していた。

相手がオーガなら知り合いもいる。話が通じるかもしれない。そう考えていたのだ。


その瞬間、階段の横にあった太い石の柱を手で千切り、ドモン達に向かって投げつけてきた。

柱は腰を抜かしていたエルフ達の横をかすめて一度壁に当たり、天井でも跳ね返ったあと、廊下の反対側の壁を突き破って、隣の建物の壁に突き刺さった。


全員、開いた口が塞がらない。


ドモンのように真っ赤な目をしながら、口からはヨダレを垂れ流し、歯を食いしばるオーガ。

のしのしとドモン達を、獲物を逃さぬように、ゆっくりと近づく。


「おいオーガ!聞いてくれ!」

「グルル・・・・・」

「俺らは温泉のある山にいるオーガ達の知り合いなんだよ!」

「グオオ・・・・・」

「駄目だ。完全に正気を失ってる」


理性を無くし暴れるオーガなど、もう人間が戦ってどうこうするなんて不可能。

しかもあの温泉で見た大きな身体の長老よりも、更に一回り大きいほどの身体を持っている。


「ドモン!どうするのドモン!」ついにナナも腰を抜かしその場に座り込む。

「どうするったって、ご都合主義の異世界物小説じゃないんだから・・・」


一対一で対峙して、もしドモンの爪が通用すれば万が一もあるかもしれない。ドモン本人はそんな事があるとは思ってはいないが。

しかし相手は数百キロか数千キロはあるであろう石の柱をぶん投げてくるのだ。その力も怖いが、その前に近づける気もしない。

いつ発射されるかわからない戦車の砲塔に向かって歩くようなもの。


ただ実際は、このオーガがただ柱を思いっきりぶっ叩けば散弾銃のように破片が飛び散り、ドモン達は肉片となる。


「おい!なんかないのかよ!オーガ専用落とし穴の魔法とか!おいババア達!」

「そそそんなものあるわけがないわい!!」

「ファイヤーボール的なやつは?!」

「火など効く訳がなかろう!!」


焦るドモンとエルフ。オーガが目前に迫る。

ナナとエルフ達は座ったまま後退り、エイは泣いているサンを抱きかかえ、ボスがいた部屋の中へ逃げ込んだ。

ドモンは必死にオーガの弱点を探す。


「オーガ・・・鬼・・・鬼殺し???」


ピンと閃いたドモンがボスの部屋に飛び込み、棚から一番高そうな酒を手に持ち、部屋を飛び出した。

鬼といえば酒。酒呑童子ってなんだっけ?と思いつつ。


「おいオーガ!!酒だ!!」

「・・・?」


オーガの足元へ酒瓶を転がし様子を見るドモン。

すぐにそれを拾い上げると、大きな手で器用に酒の栓を抜き、オーガは一気に酒を飲み干した。


「ど、どうだ??」

「グワァァァ!!!」


ドオオオオン!!!という派手な音を立て、オーガの真横の廊下の壁が吹き飛び、壁の向こうにあった部屋ごとなくなった。

外からギャァァァ!!!という叫び声。


このオーガは大変な酒乱であった。


「何やってんのよドモン!!もっと酷いことになったじゃないのよ!!」と怒るナナ。

「あれおかしいな?ごめん・・・あとオーガの弱点といえばなんだっけなんだっけ??思い出せあの漫画・・・そうだ!陽の光が弱点だったはず!!」

「温泉のオーガ達は昼間元気にしてたじゃない!!」

「ああそうか!どうしよ」


頭の中の引き出しを次々に開けるドモン。


「思い出した!!なんかの魚のニオイと煙が苦手なはずだ!!」

「魚なんてどこにあるのよ!!!バカッ!!」

「タ、タバコの煙とニオイじゃ駄目か?!」

「だからあんたはオーガ達の前でタバコ吸ってたでしょっての!!!」


「魔物がニオイに敏感なのは間違いないさね!」「タバコは平気なだけさ」


ドモンとナナの会話に割って入ったエルフ達。

もう藁にもすがる思い。


「た、確かにゴブリン達も匂いに敏感だと言ってたな・・・」


コソッと自分の脇の下を人差し指で擦り、ニオイを確かめるドモン。だがもし助かるとしても、これで助かりたくはない。

ドモンは必死に指を服で拭いた。


「ニオイと言えば・・・サンの・・・!」


ドモンはもう一度ボスの部屋に飛び込み、大慌てでサンに口移しで酒を大量に飲ませ、すぐに抱きかかえてオーガの目の前に戻ってきた。

もうこれしかない。


「さあサン、盛大にジョロジョロっとやっちまえ!!」と、小さな子を和式のトイレで抱えるお父さんのようにサンを持つドモン。

「へ??え?一体何をせ、せ、せいだ・・・う??オロロロロ!!!!!うわぁぁぁぁん!!!オボロロロ!!!!」


そばにいたエイは、また地獄の光景を見た。

ドモンはシンガポールの観光名所を思い出していた。


サンの口から発射された何かを身体で受け止めたオーガ。

慌てて手で汚れを払い除けるも、ゴボッという音を立て、オーガはその場に四つん這いに。

その様子を見たサンは大変驚き、ドモンが当初予定していたはずのものを結局きちんと出した。もういいのに。


「ヴォロオボロロベロボロロロ・・・!!!!」


完全に吐き気を貰ったオーガ。お食事中の方はご注意ください。

そしていつかこれを小説にするなら、どう書き換えたら良いのだろう?とドモンは考えた。いつものようにアニメ化を諦めながら。


オーガはゲェゲェと嘔吐しつづけ、怪しげな模様のキノコをいくつも吐き出した。





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