第289話
「ルールはわかるな?銅貨を100枚ずつ手持ちとし、十回勝負をして最後に多かった方を勝ちとする」
「いやわからんけど」
ずっこけるナナやボス。
「ギャンブルなら何でも知ってるのかと思ってた」とナナ。
「なんとなく聞いたことがある程度かなぁ?なんかおでこのとこにカードを掲げてどうのこうのってのは記憶あるけど」とドモンがカードを掲げるジェスチャーをした。
ドモンは元ギャンブラーと言っていたものの、実際は元パチプロなだけだ。
心理戦が得意なのと、マジックのおかげでポーカーも得意なだけである。
全てのギャンブルに精通しているわけではない。
「カードを一枚取って額に当てるんだ。自分は相手のカードと表情だけを見て、金を賭けるなり勝負を降りるなりをすればいい」
「ほうほうなるほど。自信があればレイズ、無けりゃドロップアウト、ふたりとも何もなくステイならそのまま勝負ってことかな?」
「そうだ。そこで数の多い方が総取り。カードは2が一番弱くAが一番強い。ただしAは最強だが、2だけには負ける」
「はいはい把握した。単純なんだな」
「単純?フフフ・・・」
不敵に笑うボス。
護衛のひとりが銅貨を用意し、ドモンとボスに手渡した。
「まずは場に銅貨を十枚ずつ出すんだ。そしてカードを一枚山から取って、見ないようにしながら額に当てろ」
「こうかな?」
ボスは3、ドモンは4。
「レイズかな」とドモンが銅貨を10枚追加。
「さあどうしようか」とボスはニヤリ。
「へへへ!散々ボスはこの勝負をやって勝ってきたんだ。てめぇなんかにゃ負けないぜ?」と護衛がドモンに向かって吐き捨てる。
「今回は降りよう」とボス。
勝負はドモンが勝ち、銅貨が10枚増えた。
続いて第二回戦。
ボスは5、ドモンは3。
「これはレイズと行こうか。20枚だ」とボス。
「いいのか?そんな数字でフフフ。じゃあ俺はそこに更に10枚レイズだ」
早速カマをかけるドモン。
ボスの表情が曇る。
「ご機嫌だな随分と。笑っていられるのも今のうちだぜ?」と今度は別の護衛。
「じゃあその誘いに乗ってやる。こっちも更に20枚レイズだ」とボス。
その瞬間、ドモンはカードをテーブルにぶん投げ勝負を降りた。
「なんだよ小細工しやがって。本気で遊んでやろうかと思ってたのに」
「何のことだ」としらを切るボス。
「護衛がいちいち数字を教えていたら勝負もクソもないだろ。アホか」
「何だとコラ!!」
ドモンに掴みかかろうとする護衛達。
「『散々』で3、『ご機嫌』で5。やるならもう少し捻ろよ。バレたら一番恥ずかしいやつだぞそれ」
「!!!!」
「てかなんでバレないと思ったんだよ・・・」
サインを出すならせめてもうちょっと複雑にして、少しは悩ませて欲しいところ。
そこで「見破った!」とドモンは一度やってみたかった。
「大体な・・・そんなまどろっこしい事しなくても・・・いいか?俺をよく見ていろよ?」
カードを山から取って額に当てるドモン。
「これは6」カードは6。すぐにポイッと投げ捨て、またカードをめくる。
「これはA」当然カードはエース。
「9」「2」「4」
額に当てては次々と自分のめくったカードの数字をドモンが当てていく。
「うわ!何よドモンそれ!気持ち悪っ!!」驚きを通り越し、気持ち悪がるナナ。
「な、なんだってんだ?!どうなっていやがる!!」呆気にとられたボスが目を丸くする。
「アハハ、驚いてますます見やすくなってやがる。おい、その物騒なものしまってくれよ」
ボスに向かってニヤニヤとしながら、真後ろで剣を振り上げている護衛を見もせずに牽制するドモン。
え?!と慌てて振り向くナナとサン。
「なんなんだてめぇは!!魔法か?!」とその護衛も後ずさり。
「魔法は使えねぇよ。俺は普通の異世界人でMPはゼロだ。まいったか」
「プッ!何がまいったかなのよ、もう」ドモンの言葉に思わず吹き出すナナ。
「俺の勝ちってことで終わらせるんなら、からくりを教えてやるよ。まあこのままやっても、どうせお前に勝ち目なんてないんだから。どうやら頭は悪くはないみたいだし、それは理解できるだろ?」
「く・・・」
こんな言い方をされればそれを認めるしかない。
「理解できない」と否定をすれば、自分の頭が悪いと認めることになるからだ。
「お前、こんな店のボスをやってる割に、目がキレイすぎるんだよ。こいつほどではないけどな」とサンの方を親指で指差したドモン。
「????」「あ!!!!」
ドモンの言葉でサンだけがそれを理解した。
サンには記憶がある。ドモンがサンに向かってやった事を。
そのサンの様子を見てフフフと笑ったドモンが、ボスの前にサンを座らせる。
「やってごらん。よーく見てな?」
「はい!ええと、反転してるから・・・」
まだ慣れていないので、カードをおでこにくっつけて「う~ん?」と言いながら口を尖らせ、キスをするかのようにボスの顔に近づいていったサン。
そのあまりの可愛さにボスの目は釘付けに。おかげでサンもわかりやすくなった。
「わかりましたぁこれは6です。えいっ!わ!当たりましたぁ!ウフフ」
「!!!!」
ドモンとサン以外が驚いた。
ドモンがボスに向かって「おーいサーン」と手を振ると、サンもニコっと笑って「はーい!ここですぅ」とボスに向かって両手を振り返した。
ボスは呆気にとられつつ、手を振り真っ直ぐ見つめてくるサンの笑顔にメロメロ。
「奥様はお花みたいな模様なのでわかりにくいですね」
「そうそう。こいつの頭の中と一緒だなハハハ」
「な、何がよ?!」
「まあそこが可愛いところだよ。隠れたナナの魅力のひとつだ」
「奥様のは大変美しいです」
「やだもう急に・・・」とふたりに褒められ照れるナナ。
赤ら顔でサンの様子を見つめていたが、ドモン達の会話を聞いて我に返るボス。エイもそれに気がついた。
「目か!!俺の目に映っていたというのか?!」
「ほ、本当だわ!」
サンの目は綺麗な大きな黒目。サンの前に回ったエイがその瞳を覗き込むと、クリクリとした目の中に、自分の姿が映り込んでいた。ボスの目も同じくきれいな黒目で、ナナの目はひまわりのような模様だった。
もちろん光の加減で見える場合も見えない場合もあるが、ドモンはボスの前に座った瞬間、今はそれが可能だと気がついていた。
「そんなことが・・・そんなことで・・・」
ガックリと項垂れたボス。完敗である。
だがドモンはまだ楽観していない。
こういった者達の往生際の悪さをよく知っているからだ。
「あ、あいつを呼べ・・・・」
「ま、まさか・・・ボス!!わ、我々もどうなるかわからないですよ?!」
「下手に怒りを買えば、ここら辺り一帯が消し飛んじまいます!!」
「それだけはよしましょう・・・」
ボスの言葉に焦る部下や護衛達。
「もうこうなれば死なばもろともだ。俺らは命を張るしか能がねぇんだ。こいつらにはあのババア共もいる。一か八か賭けるしかねぇ!!生かして帰すな!!」
「へ、へい!!」
ドモンの悪い予感はやはり的中してしまった。




