第287話
「なにスケベな目で見てんのよ!!踏んづけるわよ!!」
「ああ~お願いします女王様」
「ひぃ!気持ち悪い!!触らないで!!!」
「あぁもっと強く!!」
部屋の中から響く悲痛な叫び声。
ナナは逃げようとガチャガチャとドアノブを回すも、外側から鍵をかけられドアは開かない。
老婆達に連れてこられたその部屋を見て、エイも「あっ!」と声を出した。
自分のいた店ではそんな事はなかったが、噂には聞いていた。
初めのうちは女が逃げ出さないように、外から鍵をかける事が出来る部屋があるという話を。
他の部屋は万が一の時に、従業員がすぐに飛び込めるよう鍵はついていない。
しっかりと客に犯されるまで出ることが出来ない教育部屋だ。
エイは大慌てでドアをドンドンドンと叩き、「ドモン様のお連れの方ですか?!」と声を張り上げた。
ただこれは大失敗の大失態。
上にいた護衛達が数人、何事かと階段を駆け下りてきてしまったのだ。
「そうよ!お願い!助けて!!ああもう!離してってば!!」とナナ。
ただドアを開けるのにはやはり鍵が必要で、エイもナナと同じくガチャガチャとドアノブを無駄に回しただけに終わる。
「なんだてめぇらは!!」「ババァ共!そこで何をしている!」
「ああ!まずいわ!!」
大慌てのエイがそう叫んだ瞬間、大男達は二階廊下つきあたりの壁を吹き飛ばしながら宙を舞い、外の芝生まで落下した。
派手な爆発音が鳴る。ほんの一瞬だけ遅れて、外から叫び声とたくさんの悲鳴も聞こえた。
「え・・?」
「全くやかましい男達だね。たかが人間のくせに」
「あのお方に居場所を知らせるのにはちょうどいいかね」
突然の出来事で、エイは全く理解が出来ていない。
魔法なのはわかる。だが威力や速さが桁違いどころの話ではない。人間業では絶対にない。
「か、神様なの?!」今のエイにとってはそう思えた。
「馬鹿なこと言いなさんな。神はこのドアの向こうにおられるではないか」
「?????」
「聞こえているかえ?鍵を壊すから、そこをどいておくれ」
「わかったー!・・・はい!いいわよ!」
ひとりの老婆が人差し指をかざし、ドアノブを魔法で吹き飛ばそうとしたが、少しばかり加減がつかず、結局ドアの半分近くを吹き飛ばしてしまった。
ドアの破片は見事に客の男の顔面にヒットし、当然の如く失神した。
「助かったわ!ってあれ?占い師のおばあちゃん?!」
「仲間に連絡していたら遅くなっちまって悪かったねぇ」
「もう~本当に遅いわよ!!体中触られて気持ち悪いったらありゃしない!!あ!!そう言えばちゃんと占ってよ!!私絶対に牛なんかじゃないんだから!!」
「くくく・・・敵わないねぇ・・・」
こんな状況だというのに、しっかりとした占いを望んだナナに老婆達は苦笑い。
エイは呆気にとられている。
「それよりあなた達は何者なの?あ、そうだ!ドモンはどこ?サンは?」
「ナナ!!」「奥様!!」
矢継ぎ早に質問したナナの元へ、ドモンとサンがやってきた。
「ドモン!サン!無事だっ・・・じゃなかったのね・・・イギギギ!!!」ナナが見たドモンの顔はまた傷だらけ。
「このぐらい大丈夫だ。ナナは平気か?何もされなかったか??」
「私は大丈夫よ!胸はさんざん揉まれたけれど」
床に転がる男の方を見てヤレヤレのポーズを取るナナ。
「ちっ!まあそのくらいで済んで良かったってところか」とドモンもヤレヤレ。
「ん?お前はさっきの画家の?それに占い師のババア・・・か?分身の魔法とか使ってるの?似たようなシワくちゃ顔して」
「はい!私は彼女を・・」「分身ではないわい!」「まったくこんな者が・・・」
「とにかく助けてくれたんだろ?悪いな。てかあんたら何者なんだよ」
ドモンと会話をしようとしていたエイだったが、占い師達がギャーギャーと言い出し、会話に入る余地はなし。
「わしらはエルフじゃよ。普段は占い師として街におる」
「エ、エルフ?!」「エルフですって!?」エイとナナが驚きの声を上げた。
「エルフ・・・エルフってこんなババアだったのか・・・うぅ俺の夢のエロフさん」
「エルフとて歳は取るわい!寿命は人間より長くとも、徐々に老けていくのは皆同じだ」
露骨にガッカリするドモンに、エルフ達だけじゃなく女性陣全員が呆れ顔。
「だってどんな小説読んでも、ずっと二十歳くらいの美貌のままで歳を取らないみたいな表現だったんだもの。死が近付くと急に老けるみたいな感じで・・・」
「まったく・・・朝起きたら突然年老いていたなんてことがあったら、わしらとて寿命を迎える前にショック死してしまうわい」
「ま、そりゃそうだな」
皆お互い顔を合わせたことにより、ついホッとしてのんびり会話をしてしまったドモン達だったが、それはすぐに終りを迎えた。
階下から護衛やら女やら他の店の者やら客やらがわんさと様子見にやってきて、三階からもボスらしき人物とその護衛、そして女性達が降りてきたのだ。
あれだけ派手にやれば当然の話。そしてあっという間に周囲を完全に囲まれてしまった。
「おや、逃げ遅れてしまったかえ」
「ちょっとこれ、どうするつもりなのよ」と不安げな顔を見せるナナ。
「まあ無理やり道を開けてもらうしかないかの?」
「駄目だ」
エルフの老婆達が手をかざし、魔法で派手に吹き飛ばそうとしていたのを止めるドモン。
「女達もいるし、罪の無い奴だっているだろ。無茶なことはするな」
「そうは言ったってねぇ」「愚かな人間達の自業自得さね」
ドモンの命令を聞かず、魔法を放とうとする勝手な老婆達。
「やめろと言ってんだろ!チッ!てめえら全員無理やり押し倒して、両手で先っぽ摘んでクルクル回してひぃひぃ泣かせてやるぞ!この馬鹿どもが!!」
「ひぃっ!!」
赤い目をしたドモンが乱暴な言葉を投げかけ、老婆達を制す。
その後も官能小説も真っ青なとんでもない大セクハラスケベ発言を繰り返し、そばにいた女性達全員大悶絶。自分がそれを体験する想像をしてしまったのだ。ドモンの特技炸裂。
こんな場所にやってきていたスケベな男達や従業員達ですら「いやそりゃ駄目だろ・・・」「悪魔かよあいつ」「よくもまあそんな酷いことをペラペラと・・・」と思わずしかめっ面に。
「目隠ししたまま縛って尻に縦笛突っ込んで・・・」
「ドーモーン!!」
「外に連れ出して四つん這いにしてくすぐって、大切な家族の前で生き恥オナラ笛をピーピー鳴らしながらおもらしを・・・ん?」
「ドモンってば!!!」
ナナに止められようやく我に返るドモン。
サンとエイはその場にヘナヘナと座り込み、エルフの老婆達はなぜか少しだけ若返った。
ナナは先日のお仕置きで免疫があるので平気。
「・・・と、というわけで、ここのボスは誰だ?話がしたい」やりすぎたドモンもちょっぴり赤い顔。そのおかげか目も元通りに。
「俺だ・・・どうやらとんでもねぇ奴がやってきたようだな・・・」
護衛達に囲まれながら、目付きの鋭い男がドモンの前へとやってきた。