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第283話

「ドモンってスケート選手ってやつだったの?確か結婚式の時にもそう言ってたわよね?」

「違うよ!しかしよく覚えてるなそんなの・・・乳牛のくせに」


ぎゃあぎゃあと騒ぎながら更に薄暗い路地裏を進む三人。

サンだけが、占いの方法がゴブリンの長老と同じ方法だったと思い出していた。



はぐれないようにナナはドモンの左腕を、サンはドモンの右袖を握りながら怪しげな路地を抜けると、突如怪しげな一角が三人の目の前に現れた。

袋小路のちょうど袋となる部分が体育館くらいの広場となっており、その周囲は四階建ての建物でびっちりと囲まれている。アジアの何処かの国の刑務所のよう。


この広場への出入り口は、ドモンらが通った道と反対側にあと一つあるだけ。

広場はオレンジやピンク、紫の照明で照らされ、なんとも艶めかしい雰囲気。


そしてあちらこちらから薄っすらと、なんともスケベな例の声が聞こえている。


広場をよく見れば、女性達はとんでもなく薄着で、スカートは股下0センチ。もしくは完全にマイナスで、初めから下着がハミ出してしまっている者もいる。

中には下着も穿かず、そばにある木箱に片足を上げながら「銀貨25枚。それ以下にはびた一文負けられないよ!」と男と交渉している女も。


「何よあれ?!嘘でしょ??」と驚くナナ。

「そ、それになんだかすごく臭います・・・」とサンは困った顔をしながら、ドモンの後ろから腰に手を回して背中に顔を突っ込んでいる。もう見ていられない。臭いも嗅ぎたくない。


建物の壁に向かって嘔吐している男。嘔吐しながら寝ている男も。

「さぁ~ほらほら旦那方見てくんな!」と、広場のど真ん中で立ったまま用を足し始める女。そしてその女を買う男。


流石のドモンも呆気にとられていると、その目の前をほぼ裸の女が「ヒヒヒヒ・・・」とヨダレを垂らしながら横切り、どこかの大男に抱えられ、連れさられていった。



無法地帯。



「これは・・・俺が思っていたやつじゃねぇな。すすきのとは訳が違う。まあ昔はいくらかはいたけれど、ここまでは酷くはない」


しかめっ面をしたままタバコに火をつけたドモン。

当然遊ぶ気にもなれないし、何よりいろいろな意味で危険過ぎる。一番は病気だが。


女達の殆どが怪しげな薬かキノコをやっているようにも見えるし、どうも喜んで自ら働きにきたというような様子ではなさそう。

貧困により売られたか、あの時のサン達のように拐われてきたか・・・


「うぅドモンさん・・・」ボロボロと泣き出すサン。

「ねえドモンもう帰ろうよ。スッキリしたいんだったら私もサンもたくさん頑張るよ。ね?サン」とナナがドモンの腕を引っ張り、サンもコクコクと頷く。


「へっへっへ!兄さん、女を買いに来たのかい?それとも売りに来たのかい?随分と上玉連れてるじゃねぇか」

「いやどっちでもねぇよ。もう帰るところだ」


「こりゃうちのボスなら金貨20枚は出すぜ?」別の男が近づき、ナナの腕を引っ張る。

「や、やめて!やめてください!!」とナナ。


「こっちの女の子はあたしんとこのボスが好みねきっと。ほらおいで」下着姿にコートを一枚を肩から掛けている中年女性。

「嫌です!は、離して!うわぁぁぁん!!!」号泣し暴れるサン。


「やめろやめろ!こいつらは俺の嫁だっての。客を取らせるつもりはねぇよ」

「ヒヒヒ!そんな事は知らねぇな!もう買うと決めたんだからな」


ナナとサンの腕を掴み、逃げ出そうとしたドモンの襟を掴む大男。

すぐさまその腕に爪を立て反撃を試みたものの、今度は他の大男が数人現れ、ドモンに襲いかかった。

こうなればもう多勢に無勢。ドモンひとりの力ではどうしようもない。


ナナとサンは別々の建物へと連れ去られ、ドモンはボコボコに殴られて、ここへ入ってきた時の路地裏に転がされた。


その路地裏でも、三人の男達が「誰の膝蹴りで死ぬか?」を賭け、順番に顔面に膝蹴りを入れ続ける。

蹴られた顔面も痛いが、後頭部が壁に何度も激突していたので、ドモンは右手で必死に後頭部を守り続けていた。

二十分ほど蹴り続け、男達は飽きたのか、ドモンの顔につばを吐きかけて笑いながら去っていった。



「はっはー!こんなところに良い便器が転がっているわね!血を流して喉が渇いたでしょう?ほら大きな口を開けて受け止ングッ!!!」

「血の溜まった赤い池が見えるか?それが地獄だ」

「え?!」


ドモンと同い年くらいの女が下着を下ろし、仰向けに倒れていたドモンの顔の上に跨った瞬間、ドモンは股の下から抜け出して女の背中に回り込み、目と口を手で塞ぎ、耳元で囁いた。

例のキノコを口に放り込みつつ、上手くいけと強く祈りながら。



すぐに女のまぶたの中に地獄が見え、そして・・・実際に地獄を見ることになる。



「身体中を獣達が甘咬みしているだろう?少しでも動けば、身体を本気で噛み千切るぞ」目を塞いだまま、身体のあちこちに爪を立てるドモン。

「ひっ・・!」


シャワシャワと音を立て、ドモンに飲ませようとしていたものが地面を濡らす。

女には血の池と狼と猿を混ぜたような不思議な生き物が数百匹ほど見えていて、その先にある自分の『死』を感じていた。


「たずげ・・・だずげで・・・もうだめ・・・・」

「あーあ。左腕が喰い千切られちまった」

「おおおああああぁぁぁ!!いやぁああああ!!!!」

「大声を出すな!ほら脚も千切られちまうぞ」

「ぐっぎぎ・・・・」


余程力んだのか女は大きなオナラを何度も漏らし、歯を食いしばりすぎて奥歯が砕けた。

虫歯で悩んでいた奥歯だったことだけが幸運である。


「助けられるのは俺だけだ。助けてほしいか?」


ブンブンと首を縦に振る女性。


「連れの女達のところまで俺を連れて行け」

「ち、小さな子の方しかわからない・・・です・・・」

「嘘はないだろうな?嘘をついた時点でお前の頭は身体から離れ・・・」

「嘘ついでないですっ!!信じてっ!!もうゆるじでぇぇ!!」


ドモンが怒気を込めながら囁き、柔らかな太ももに食い込ませた爪に力を入れると、女は失神と発狂を高速で何度も繰り返し、脳が大混乱を起こした。

ドモンが手を離し、目を開けても暗示は全く解けず、自分の左腕を右手で持ち「お願い!すぐにつなげてちょうだい!お願いします・・・」とボロボロと涙をこぼす。


「助けてほしいなら早く連れて行くんだ。怪しまれるなよ?もし少しでも」

「わかったからっ!わかっています!!お願い助けて!!」

「じゃあ行くぞ」


鼻血で汚れた顔を袖で拭き、まだ震えている女と腕を組んで、ドモンは広場へと戻った。





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