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第282話

馬繋場ばけいじょうと呼ばれる馬車の駐車場に馬車を停め、街の散策を始めた三人。

日も落ちかけたばかりだというのに、あちらこちらですでに酔っ払いがダウンしていた。

行き交う人はみな笑顔で、街での買い物や飲み食いを楽しんでいる。


「本当にお祭りみたいね」

「確かにそうだな」


人が多いというのもあるけれど、その人ひとりひとり、力が満ち溢れている。

道具屋などが並ぶ地域から、更に奥の飲み屋街の方に進んでいく。


「うひょーでけえおっぱい!!ねぇちゃんどこのお店だい?」

「おいそこのちんちくりん!この先は子供は入らねぇ方がいいぞ?悪いおじさんに無理やりずっぽし大人にされちまうぜ?ハッハッハ!」

「ほらほら食べてってーお兄さん方!それともあたいを食べちまうかい?ハハハ」


早速酔っ払いや店の呼び子に絡まれる三人。

ナナも流石にこんなところまでは来たことがなかった。

街の入口付近にある商店街で、街の奥がどんな場所なのかを聞いていたからだ。女ひとりで行くところではないからやめておけと。



「な、なんなのよこれは・・・うぅ」と胸を手で隠しながら背を丸くするナナ。

「うぅ~怖いです・・・」そんなナナにしがみつくサン。ドモンは女性となにやら交渉中。


「いっただきま~す」

「や、やめておくれよ!冗談だってば!あんっ!」

「ハハハこっちも冗談だよ。でもあんたの旦那が羨ましいよ。いなけりゃお願いしてたのにな」

「ご、ごめんよ・・・ほら、美味しいもの安くするからさ。こっちへおいでよ・・・ああもう・・・」


ドモンが恰幅のいい女性の手を握りながら、ちょいちょいとナナとサンを呼ぶ。

ふたりとも『・・・やりやがったな?』と心で思ったが、ドモンを怒る余裕はなく、ふたりに黙ってついていった。

賑やかな店内のテーブル席へと着いた三人。


「お前は客と手を繋いで何をやってるんだ??」

「ご、ごめんなさいあなた。あたしったらそのぅ~・・・なぜか手を離せなくて」

「あなた??あたし???」


普段は『あんた』や『あたい』と言っていた奥さん。

ドモンの手を握りながらモジモジと、自分が女であるという思いが湧き出るように蘇っていき、頭の中は『可愛く見られたい』で一杯になってしまったのだ。


「何にしようかなぁ。香草とバターの骨付き鶏もも肉ってのも美味しそうだけど」

「ドモン・・・もう手を離しなさい」メニューを見ながら女性の手の甲を指で擦るドモンを注意するナナ。

「うぅっ!あぁ~あなたぁ~ごめんなさい・・・」


身体を一度ビクンと大きく震わせ、トロンとした目でその場に崩れ落ちた店の奥さん。

なんとか立ち上がり、ヨロヨロと厨房の中へ戻っていった。


「へいお待ちっ!!」


ガシャンと乱暴に皿を置く店主。

奥さんは厨房の中でお盆を顔に当て、時折ひょっこりと顔を覗かせてドモンの顔を見ては、真っ赤になってまたお盆に隠れる始末。


折角大きな街に来ての最初の食事なので、なんとか仲良くなって、何かしらのサービスを受けられないかと思っていただけだったが、早速ドモンはやりすぎてしまった。

ドモンは元の世界でもこれを何度かやらかしている。


「あーっと・・・店主、そんなつもりはないから安心してくれ。冗談だったんだよ。ほら俺は連れもいるし」

「・・・・」


ドモンに背を向けたまま顔を引きつらせる店主。


「ドモン、なんとかしてあげなさいよ!あんたのせいよ絶対」

「そうですぅ!このままじゃ可哀想ですよ!」


ナナとサンもその様子を見て、あまりにも気の毒だと思った。

このままではその気もないのにその気にさせて、夫婦仲を悪くしただけ。


ふたりの言葉にドモンも頷き、店主にちょっと待ってろと手で合図をしながら奥さんの真後ろに立ち、左手でその目を塞いだ。


「負けたよ。あんたの旦那はいい男だな。それを手放すようなバカなこと出来ないよな?」

「・・・・」

「ほら、周りの女達も狙ってるだろ。大事にしないと旦那を誰かに取られちゃうからな?夜は毎日スケベな事をしてやらないと逃げちゃうぞ?」

「うぅ・・・」

「ゴニョゴニョ・・・」

「うふぅん」


勢い余って、とんでもなくスケベな妄想までさせてしまうドモン。

奥さんだけではなく、そばにいたカップルの女性客まで身体をムズムズさせ、恋人に上目遣い。


ナナも「ふぅんドモン・・・」とうっとりした目で頬杖をついてドモンを見て、サンは『やっぱりやってしまいました・・・』と心配そうに成り行きを見守っていた。


「目を開けたらすぐに旦那さんを探して抱きつかないとならないな」

「うん」

「機会は一度きりだぞ?準備はいいか?必ず幸せになるんだぞ?」

「えぇ」


その様子をキョトンとした顔で見つめていた店主に、ドモンが親指を立てて合図を送る。

ドモンがサッと目から手を放した瞬間、奥さんが店主の胸に飛び込んで、痛いくらいに抱きしめた。


「あなた好きよ!大好き!もう離さないわ!」

「ど、どうしたんだ??」

「愛しているの!」

「ミ、ミサ!!!」


痩せた店主とふくよかな奥さんの熱烈な大人のキスが繰り広げられ、店内は異様な雰囲気。そして店主は一気に上機嫌。


「いやぁうちの奴があんなに可愛くなっちまうなんて思いもよらなかったよ!まるで出逢った頃のようにドキドキしちまった。あんたのおかげだ」

「フフフ、今夜は可愛がってやれよ?」

「デッヘッヘ仕方ねぇなぁ!ほら冷たいエールだ、好きなだけ飲んでくんな。お代は結構だ!」

「悪いな。あともう一品つまみを頼むよ」

「任せな!」


なんやかんやでタダ飯にありついたドモン達。

「すすきのでもたまにこうやって奢ってもらってたんだよ」と言うドモンをジトっとした目で睨むナナとサン。

指名料を指名した相手に払わせたこともある。恐怖の遊び人。


図々しいにも程があるが、よく考えてみればナナのところなど、ドモンはそのまま家族として住み着いてしまっているのだから、なんとも呆れるばかりである。


「ごちそうさーん」

「腹が減ったらまた来いよ!」

「おうよ!」


店主と乱暴な挨拶を笑顔で終え、銀貨を一枚テーブルに置いて店を出た。


「結局お金は払うのね」とナナ。

「まあなかなか気持ちの良い夫婦だったからな。ほんの感謝の気持ちだよ」


後日談だが、銀貨を見つけた奥さんは何故かこれを大切にしなければならないと思い、ドモン達が座っていたテーブルの壁に、額縁に入れて飾ることにした。

来る客にこれは何だと質問されるたび、夫婦仲を取り持ってくれた不思議な客の話をしていたら、いつしかその席でカップルが食事をすると必ず結ばれる『愛のパワースポット』として噂が広まり、店は行列の絶えない店となった。



ドモン達三人は裏道に入り更に街の奥へ。

喧嘩する声も聞こえてきて、徐々に怪しい雰囲気に。人通りも少しだけ少なくなった。


「そこの兄さん、占っていかないかい?あんた達の前世も見てあげるよ」


怪しい場所にいる怪しい老婆が話しかけてきた。

ドモンは愛想笑いで躱そうとしたが、ナナとサンは興味津々。


「ほらまずはそこの女の子。む?おやまあすまない。小さな女の子ではなかったねぇホホホ」

「お?」思わずドモンの足も止まる。


「まずはあんたの前世を見てあげるよ」

「い、いえ私は・・・」

「あんたはお代はいらないよ。物は試しでほらおいで」


サンがドモンの方を見るとコクリと頷いたので、「ではお願いします」と小さなテーブルの前に立ち、「手を出して」と言う占い師の老婆と両手で手を繋いだ。


「あんたは随分と真面目で働き者だねぇ。感心感心。前世は・・・ミツバチだったみたいだね」

「ミ、ミツバチですか?!」

「人間とは限らないさね」


占い師の言葉を聞いて、なんとなく納得するドモンとナナ。

なんともサンらしく可愛らしい。


「わ、私は何かしらね?」とナナ。

「あんたは牛だよ。乳牛」

「ちょっと!まだ手も繋いでもいないじゃない!!」


両手で口を押さえ、笑いを堪えるドモンとサン。

こんな面白やり取りのおかげでドモンも俄然興味が湧いた。


ドモンは以前一度だけ付き合いで手相占いをやったことがあるが、「こんな途切れ途切れの生命線なんて見たことがない・・・」と占い師を困らせ、それ以来もう占いはやらないと決めていた。

この老婆ならば、その嫌な思い出を払拭してくれるかもしれない。


「あんたは銀貨三枚だ」

「高っ!」

「こっちも商売だからね」

「急に商売っ気出しやがって・・・仕方ねぇな、サン払って」


慌てて支払うサン。

お金をカバンにしまい、ドモンと両手を繋ぎ目を瞑る老婆。


「どれどれ・・・うーむ真っ暗だのう・・・」

「何だよ!金を返せババア」

「慌てるでない!ふむ・・・前世も男のようだの・・・その名が薄っすらと見えておる」

「お?人間なのか?!」


占い師とのやり取りを楽しむドモン。

ただナナとサンは、ドモンの「人間なのか?!」という言葉にハッとして、ゴクリとつばを飲み込んだ。

もしかしたら何かの秘密がわかるかもしれないし、秘密がバレるかもしれない。


「あんたの前世は・・・お・・・おだ・・・おだのぶな」

「お?!マジか!!」いきり立つドモン。

「り」

「だから俺はスケート選手じゃねぇってば!しかもそいつはまだ生きてるし、何なら俺よりずっと年下だ!」


キョトンとした顔で見つめ合うナナとサン。

ドモンはついガッカリしたが、それでも冷静に考えてみれば、向こうの世界の人物の名前がわかったことは単純に凄い。

「まあ面白かったよ。じゃあな婆さん」と去っていくドモン達を見つめる老婆。



「とんでもないのがいたもんさね・・・手の震えが止まらんよ。すぐに連絡せねばならないねぇ」



そう独り言をつぶやいて、老婆は人混みの中へと消えた。







遊びにいったお店の女の子に奢ってもらっていたことや、手相占いの生命線の話も実話。

占いに関してはなぜか「これ以上できない。お金返すから帰ってくれ!」と言われ、凄くショックだった思い出。


ふざけた手相で占い師を怒らせるってなんなの(笑)

警察が犯人の指紋を取っていたら、出てきた指紋の形がアンパ○マンだったようなものだろうか??




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