第274話
「うぅ・・・ごめんなさい。オーガのおっぱいの方が本当に硬いか、もう一度確かめてみようと思っただけなんだ」
仰向けに倒したドモンの胸の上に乗るナナ似のオーガ。
ナナはドモンの下半身の方に乗っかり、何かを感じて少しだけ赤い顔をしている。
「もう!スケベドモン様!!私が本気になったら、ドモン様なんて絶対に勝てないんだからね!」
ナナ似のオーガがへの字口で腕を組んだが、大きな胸のせいで腕の組む位置が少し変。
ナナは腰に手を当て「まったくもう!」と呆れていた。
「うぅ~ん・・・勝てるかどうはわからないけど、多少の抵抗なら出来るぞ」
「こんな格好で何が出来るというのよ?」
赤い目をしたドモンが、ナナ似のオーガの太ももに両手を添え、爪を立てた。
「ウフフ!オーガの肌は剣も通さないのよ?」ナナ似のオーガはまだ余裕。
「奥様!御主人様が!」「や、やめなさいドモン!!」「やめろドモンよ!!」
大いに慌てたのはサンとナナと義父。
「イヒヒヒ」とドモンは不気味な笑い声を上げながら、その爪に力を込める。
「あ??ああああああ??!!ひぎいいいいい!!!」
まるでスポンジケーキに指を突っ込むように、簡単に硬い皮膚に食い込んでいくドモンの爪。
ナナ似のオーガはすぐにドモンの手を振り払おうとしたが、もう手にも足にも全く力が入らない。
生まれてから今まで感じたことのない痛み、恐怖、そして快感。
サンもナナも義父も知っている。もうドモン本人以外止めようがないことを。
ナナ似のオーガもそれを今感じている。少しでも動けば自分の体が引き裂かれてしまう、魂ごと拘束するドモンの爪の威力を。全てはドモンの気分次第なのだと。
その上、今は赤い目をした状態のドモンである。
普段の状態ならば、謝ったり降参したりすれば放してくれるだろうが、この状態だとそれはわからない。
周囲のオーガ達もそれに気が付き、「ドモン様!怒りをお収め下さい!」と両膝を地面について両手を組み、祈るのみ。
「ハハハ!まだ二割も力を込めていないぞ?さあここからダ!イーッヒッヒッヒ!!」
「ぎゃああああああ!!許じでぇぇ!!!」
「仕方あるまい!!ドモンの首を落とせ!!」ついに決断する義父。
「おやめください!!」「駄目よっ!!」「やめてください!!」オーガ達やナナやサンが大慌てで剣を抜いた騎士達を止めた。
「此奴の・・・それが此奴の望みなのだ!私にそう望んでおったのだ!どけ!私自らその想いを!!」
覚悟を決め剣を抜いた義父を、羽交い締めにして止めるナナ似オーガの父親。
そして自らの心も落ち着かせるように、ゆっくりと「私の娘を生贄として捧げればいい話です。それが私達の望みです」と涙ながらにその思いを伝えた。
うわぁぁん!というオーガの子供達と、サンとサン似のオーガの泣き声が響く。
あとは風が木々の葉を揺らす音と、ちゃぽちゃぽという温泉の音。
こんなはずじゃなかった。
こんなドモンではなかった。
いつからこうなった。
いつの間にこうなった。
日に日に、ドモンがドモンではなくなっていく。
「ねぇドモン、帰ってきてよ。ねぇってば・・・」
悪魔の形相でケラケラと笑うドモンの顔にナナは近づき、そっと口づけをすると、『まあ今日はこのくらいにしといてやるかハハハ』とドモンが笑い、手を放した。
腰を抜かし、その場に崩れ落ちる一同。
ナナ似のオーガもドモンの横にドサリと倒れた。
「イチチ・・・な、なんだこりゃ??」
「なんだこりゃじゃないわよっ!!うぅ~!!」
今度はナナが馬乗りになり、ドモンに抱きついて涙を流す。
「ちょ、ちょっとナナ重いってば。それに・・・なんか胸の辺りがやたら湿っぽいというか、すごく臭うんだけど・・・」
「そ、それは私じゃな・・・私よ!!わ、私があんたに向かって盛大にもらしてやったのよ!悪い?!」
「何言ってんだよ!悪いだろそれは!!もう~気持ち悪いなナナは」
「うるさいバカ!!ウォーターボール!ウォーターボール!ウォーターボール!うびぃぃぃ・・・」
「つ、つめたっ!!さ、寒っ!!ヒィィィ!!」
ナナ似のオーガを庇うナナ。
ドモンはブルブルと震えながら「サン着替え~!」と叫び、服を脱いで温泉に飛び込んだ。
「待ちなさいドモン!こら!」とナナも服を脱いで温泉へ。
残された義父らやオーガ達はまだ呆然。
皆、ハァと大きなため息をついて下を向いた。
騎士や御者達を一度馬車の方へと戻し、義父がひとりでオーガ達に話しかける。
「騒がせてしまってすまぬ。私は王都の方からま・・・」
「ええ、存じ上げております」
挨拶の途中で返事をするのは失礼だが、オーガにとっては王族がどうのは関係がない話。
ドモンらのお付きの人のひとりというだけ。
そして義父もそれは重々に承知しているので咎めることはない。
「では早速聞きたいことがあるのだが・・・そなたらはドモンの本当の正体を知っておるのだろうか?」
「・・・・」
「もし知っておるのであれば、力を貸してくださらぬか?私は彼奴を・・・ドモンを助けてやりたいのだ・・・」
義父はそう言って、自分が知り得る全てのことをオーガ達に話した。
だが返ってきた答えはゴブリン達と同じく、とても曖昧なものであった。
自分達にとって、とても大きな存在であるということしかわからないと。
悪魔に関することも、ほぼ義父と同じ程度の認識。
ただ唯一違うのは、自分達がドモンの一部、もしくはドモンによって生かされている感覚があるということ。
「・・・それが本当にドモン様の助けになるのかはわからないですが、魔王様ならもっと詳しく知っておられるはず」一番大きな体を持つ長老が答える。
「ま、魔王か・・・」
「是非貴方様の方から、魔王様がドモン様に謁見されることを望んでおられるとお伝え下さい。そうすれば望みは叶えられるかもしれません。私達からそう言ったところで怪しまれるだけでしょうし、もしなんでしたら『魔王討伐を目指す勇者一行について行け』とでも」
「うむ・・・それとなく伝えておこう。私からもそう出来るよう手配しておく」
話を終え、義父は騎士達のいる馬車の方へ、オーガ達は温泉にいるドモンの元へ向かった。
「ちょっとあんた離れなさいよ!」
「あなたこそドモン様から離れなさいよ!」
「あーもう!ふたりとも」「喧嘩はやめてください!」
温泉に浸かるドモンの横にはナナと、いつの間にか意識を取り戻していたナナ似のオーガが一緒に温泉に入り、サンとサン似のオーガが必死に喧嘩を止めていた。
「私はドモンの妻なの!奥さん!わかる?」
「それがどうしたのよ。私とも結婚すればいいじゃない!ねぇドモン様いいでしょう?料理はその・・・ちょっと苦手だけど、力仕事なら得意だし、それに経験はないけど私すっごくスケベよ。なんだってしちゃうんだから」
「おお、そりゃいいな」
「な・・私の方がスケベよ!!」
「私の方がスケベだもん!」
「私よ!」「私よ!」「私よ!」「私よ!」
不毛過ぎる争いをし、ドモン越しに温泉をぶっかけ合うふたり。
ヤレヤレのポーズをしていたサンとサン似オーガが、ドモンをふたりの間から救い出し、びしょ濡れになってしまった顔と頭を手分けして拭く。
その後、サンとサン似のオーガとの間で「私の方が先っぽだけは大きいですぅ!」「私の方がしっかりとしてます!」と更に不毛過ぎる争いが行われ、オーガ達が無表情でそれを生暖かく見守ることになった。
えー・・実は少し前の予定変更(韓国の事故によるシナリオ変更)の影響により、ここらの話もいろいろと大幅な変更となってしまい・・・(汗)
とりあえず「イチチ・・・な、なんだこりゃ??」で済ませちゃった(笑)
また後で影響出そうで怖いけども。
このセリフの前と後とで、雰囲気がまるで変わってるのがわかると思う。