第271話
『ハッハッハ!馬鹿な男だ!残りも少ないというのに。だが今回もしっかりと対価は払ってもらうぞ』
ドモンの目の前に立つドモンが、ヤレヤレとしたポーズで話しかけてきていた。
「誰だよお前は」
『見ればわかるだろ。俺はお前だ。お前は俺ではないがな』
「何度か会ってる気がするけど思い出せねぇな・・・」
『いつも記憶を消しているからな。そうじゃなけりゃ、お前が無茶をしてくれなくなってしまうだろ?』
「どういう事だ」
『お前が知る必要はない。まあ今回はまけといてやるよ。俺も温泉には入りたいからな』
「どうしてそれを知ってるんだ?」
『俺はお前だと言っただろう馬鹿息子が。またとびきりの不幸をお見舞いしてやるから楽しみにしておけ』
ドモンはドモンと話す夢を見ていた。
そしてそのまま朝を迎える。
「ようやく目を覚ましおったか!この馬鹿息子が!!」
「ドモン~~!!やっと起きたぁ~!!」「ごじゅじんざまぁ!!」
目を開けた瞬間、義父とナナとサンにいきなり捲し立てられたドモン。
話しかけられれば話しかけられるほど、今見ていた夢の記憶が消えていってしまう。
ドモンは慌てて「ジジイだったのか??」と義父の方を向いたが、青筋を立てながら「仕方なかろう!年齢には逆らえぬわ!」と怒られた。
その瞬間、見た夢のすべてが頭から消えてしまい、残ったのは妙な気持ち悪さだけ。
グスグスと涙ぐむナナとサンを慰めつつ、ドモンは朝食作りへ。
少し動くだけで倦怠感がひどく、途中からはサンに朝食作りを任せて、朝からワインを飲んで地面に座りタバコを一服。
ドモンの最大HPは、ついに20を割った。だがそれを知る者はまだいない。
この日はオーガが紹介していた温泉まで行く予定。
改めてその予定をドモンが皆に伝えると、ナナとサン以外の全員が複雑な表情を見せた。いわゆる引きつり笑いというやつだ。
義父と騎士達により、二名の騎士が離れた場所に位置し、万が一があった場合二手に分かれ、ひとりが王都の方に、もうひとりがカールの街まで馬を走らせるという話し合いが行われていた。
それを見てケラケラと笑うドモンとナナ。
いろいろな意味ですべてが無駄だからだ。
馬で逃げたところで瞬時に捕まるだろうし、そもそも初めからそんな心配自体必要がない。
朝食は目玉焼きと干し肉とパンという簡単なものだったが、醤油で味付けをしている。
するとナナが一口食べるなり「お米よねこれは。失敗だわ」とうなだれていた。
「この醤油というのが米と相性が良いのだろう。私もこの歳になったというのに、自身の味覚が変化していることに気がついた」と、徐々に米派になってきた義父。
「パンではもう物足りないといいますか・・・なぜ今までこれで足りていたのかが不思議なほどですな」と部隊長。
日本では米離れが進んでいるというのに、ここでは完全に逆行していた。
それほどまでにドモンの作る料理が強烈だったのだ。
「じゃあ昼は焼肉で米をガッツリ行こうか。昼頃までになんとか温泉まで進んで、焼肉食って酒飲んで温泉に入って・・・」
「良いわね!」「うむ」「楽しみですぅ!」「おぉ!!」
皆同時に歓声を上げ、
「ずっぽしスケベなことしよう」
「はい!あ、あれ??」
ドモンの言葉ですぐにため息に変わった。サン以外だけれども。
ナナも危うく返事をしかけたが、ドモンがオーガの女性達も狙っていることを思い出したので、思いとどまった。
だがそんなやり取りを行ったことによって、全員ようやく温泉が少し楽しみになってきた。
馬車は快調に進み、昼過ぎには山の麓へと到着。
そこから少し速度を落とし、青い布の目印を探しながら進んでいると、一時間ほど進んだ場所の木の枝に、たくさんの青い布が結ばれていた。
「ウフフ!見てあれ!きっとドモンが見逃さないようにあんなに印をつけたのね。不安になって」とナナ。
「なんとも大歓迎って感じだな。もしくはあそこまであからさまだと、逆に罠じゃないかと心配になっちゃうよ」とドモン。
もちろんそれは前者の方が正解。
山奥のオーガの棲家の洞窟ではもうお祭り騒ぎで、男達は温泉に石を敷き詰め整備をし、脱衣所となる簡単な小屋まで作った。
更には豚肉や牛肉も用意。解体した後に氷の魔法で固めて、テーブルの上に供えた。
子供達は果物などを、女性達は花を摘んできれいに飾っていた。が、しかし。
「ドモン様は一体いつやってくるのでしょう?」とオーガの女性のひとり。
「す、すぐにやってくるとは思う・・・」とドモンと話したオーガが答えた。
「途中の街で長く滞在されるということは・・・?」
「・・・・わからん」
そこまで聞いていなかったオーガの男。
屈強な男もすっかり形無しで、女性達に怒られていた。
冷凍できる肉はまだしも、花は枯れてしまうと台無しだ。
そしてその日がついにやってきた。
今朝出発したドモンの気配を、ひとりのオーガが感じ取ったのだ。
いざ本当にドモンが近づいてくるとなると、オーガ達は完全に混乱状態に。
会ってしっかりとした挨拶をした方がいいというグループと、魔王様の言いつけを守り、ドモン様に迷惑をかけないようにする方がいいというグループで意見は真っ二つ。
「しかしそれもドモン様が温泉を発見できずに、通り過ぎてしまっては意味がない」とオーガの長老が指摘し、大慌てで青い布を増量。
ちなみに長老と言ってもしょぼくれた老人などではなく、皆よりも更に一回り大きな身体を持っている。
結局魔王の言いつけを守りつつ、もしドモンに呼ばれた場合のみ姿を現し、挨拶をすることとなった。
「き、来たぞ!!みんな棲家の方へと移動するんだ!!」
「はい!」「わ、わかった!」「うん」
「お前達はここに残り、茂みに身を隠せ。もしドモン様に呼ばれたならば、ふたりで丁重にもてなすんだ!」
「わ、私達が?!」
「ドモン様は大きな胸の女が好みなのだ!」
「な、なるほどわかったわ!」「ウフフまかせてちょうだい」
「何を言っている!ドモン様は控えめな胸の女性も好みなのだぞ?もうひとりの奥様のことを思い出せ!」
「た、確かにそうだったな」
「それでは私が適任かと・・・」
「うむ」
オーガの爆乳熟女と巨乳元気娘、そして小柄で何かと控えめな童顔の女の子が茂みに隠れた。