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第270話

お尻ペンペン、いやパーンパーンなんてものではない。

金属バットでのケツバット。それもメジャーリーガーのフルスイング。


「えれ」


8回目の義父による尻叩きの時に、ドモンが唯一発した言葉である。

痛みに強いあのドモンが、あまりの痛みに言葉を発することもなく歯を食いしばり続け、ヨダレを垂らし目玉がくるんと上にひっくり返った瞬間、この言葉を残し気を失った。


「おじいちゃん・・・私はこういうお仕置きをされてたわけではないのよ・・・」

「うわぁぁぁん!!酷いですぅぅぅ!!」


ナナは苦言を呈し、サンは大号泣。


「フン!この馬鹿息子は一度痛い目に遭わねばわからぬのだ」

「痛い目なら何度もあってますぅ!うーっ!!」


サンがポカポカと義父の胸を叩いたが、意にも介さず両手を腰に手を当て、草むらに倒れたドモンを見下ろしていた。が、その瞬間ドモンが突然ムクリと起き上がった。


「ふぅ・・・久々に脳の接続切れちゃったぜ」とため息を吐く。

「うおっ?!」


それには流石の義父も驚いた。

回復があまりにも早すぎる。最高級のハイポーションや回復魔法を使っても、こんな事にはならない。



「あの状態から貴様はなぜ・・・?!」

「ああ。今は脳が痛みを拒絶してる状態だ。車に撥ねられた時とか、暴行されて頭を死ぬくらいの勢いで強く殴られた瞬間とか、パチンとスイッチが切れるんだ。ただあとで痛くなっちゃうんだけどな」

「・・・・」


赤い目をしながら義父の質問に答えるドモン。

義父とナナとサンは、ドモンの『それ』を呼び起こしてしまったことに気がついた。

ドモン本人は気がついている様子はまだない。


人間はあまりに強い痛みを感じた時、実際に脳が勝手に痛みや苦しみを拒絶するように出来ている。

だが今のドモンはきっと違う。


「さあ痛みが来る前に酒でも飲んで、飯の準備でもしちゃおうか。サン、手伝ってくれる?」

「はい・・・」


ドモンとサンが馬車の中へ。

騎士達はあまりにも目まぐるしい展開についていけず。ただ何かしらの恐怖は感じていた。



「どうやら本当にやり過ぎたようだな」

「私の為を思ってしてくれたのだと思うけど、あれは本当にやり過ぎよ。そしてドモンは・・・」


「うーむ・・・彼奴の悪魔の部分が現れる頻度が、やはり多くなっているようだな。彼奴本人もそう言っておったが、ここまで簡単に出てくるとは」

「ドモンがそんな事言ってたの・・・ドモンも気にしていたのね・・・」


いつものようにドモンがふざけたりいたずらしたりし、いつものようにドモンがお仕置きをされる。

いつものようにドモンが降参し、そしていつものようにお詫びの料理を作り振る舞う。


またそうなるものだと義父とナナは思っていた。



その悪魔にどのくらいの力があるのかはわからない。

世界を滅ぼすほどの力があるのか、それとも本当にただスケベなだけの悪魔なのか?


今のドモンは休火山のようなもの。

爆発はする様子もないし、きれいな風景を見せてくれるだけで特に害はない。


ただ休火山もやはり火山である。

そして今、活火山に戻りつつある。


その事にふたりは気がついた。


「まあもしただのスケベな悪魔なら、全部私が引き受けるつもりでいるから。さっきみたいに」

「・・・・」

「私もなるべく気をつけるから、おじいちゃんもあまりドモンを刺激しないでね」

「うむ」


馬車から出てきたドモンとサンを見つめながら、ナナは義父にそう言って小さくため息をひとつ吐いた。



「バカバカバーカ!おじいちゃんなんて、だーいっ嫌い!べーだ!べーべーべー!ね?御主人様!べーべーびぃー!」

「お、おう・・・」

「奥様も奥様ですぅ!あーんなに御主人様からご褒美をいただいたというのに、にゃにが『裸で過ごすわ』でしゅか!」

「流石にご褒美ではなかった気がするんだけども・・・」


暴走するサンのそばでドモンは引きつった顔。

サンは半開きの目で義父とナナの前に立ちながら、体をゆらゆらさせ、愚痴というより暴言を吐き続けた。


「ちょっとドモン!サンにお酒飲ませたわね?!」とナナ。

「あーたーしが!飲ませてあげたのです!サンが口移しでたぁ~っぷりと!これはサンの役目でしから、奥様は引っ込みやがれですぅ!うぴ」


そう言うやいなや、サンはウイスキーをまたラッパ飲みで口にたっぷりと含み頬を膨らませ、「ん」と目を瞑りながら見上げるようにドモンの方に顔を向けた。

ナナの視線を感じつつ、恐る恐るドモンが顔を近づけると、サンはドモンの首に腕をぎゅっと回し、そのまままた口移し。


「イギギギギ!!」と怒るナナに向かって、右手で違う違う!とドモンはサインを送る。

「御主人様の苦しみはサンがぜ~んぶ癒やしてあげますからね!スッキリしたくなったら、すぐにサンの服ビリビリしたっていいの」


サンはドモンがまた苦しまないようにときつい酒を用意して、以前のように口移しで飲ませたのだ。あくまで独断で。ドモンの苦しみはサンの苦しみ。ドモンを癒せるのならばなんだってする覚悟。


その結果がこれである。リーチ一発即泥酔。

さっきのナナへのお仕置きの件で、欲求不満だったのも災いした。


「らいたいれすよ、おじいちゃんも奥しゃまも!すぐ、すぐにごしゅ・・・御主人様を悪者ウェップ!悪者にして・・・して・・・し・・・うぷ」

「ドモン、サンを連れて奥に!着替えとタオル持ってすぐに行くわ!」

「わかった!」


ドモンがほっぺたをパンパンにしているサンを抱えて森の茂みの中へ飛び込むと、すぐにオロロロロ!!と、何とも悲しいサンの声・・・というか音が辺りに響き渡った。

その後はうわぁぁんとオロロロロの繰り返し。

途中からドモンとナナが交代し、ドモンはみんなの元へと戻った。



「お、俺じゃないぞ本当に!ヤダヤダ!もう許して!!」義父の顔を見るなりドモンは後退り。

「わかっておる。もう何もせぬから焦るな」

「ホントに?」

「うむ。私が少々やりすぎてしまった。すまぬな」


義父の言葉にドモンもホッと一安心。


「ふぅ・・・でもこうやって安心したら、いつもいきなり痛みがぶり返してくるんだけど、今回はサンのおかげなのか平気みたいだ。す、すぐに飯の用意するよ」

「う、うむ・・・」


ドモンも、そして義父もその回復ぶりに、違和を大いに感じていた。

ドモンは首を傾げつつ、お尻をなんとなく擦ってみるも痛みはない。


「今日はハンバーグだ。ひき肉にする機械も持ってきてるからな。よく考えたらギドにこの機械も見せてやればよかったなぁ」

「貴様が慌てて出発したからであろう」

「うん・・・俺も昔大事な物を母親に捨てられたことがあって、ついカッとなっちゃったんだよ」


そこへ「何の話をしているの?」と、ナナがドモン達の元へと戻ってきた。

ドモンは、お祭りで買ってもらった綿あめの袋を捨てられてしまった話をふたりに話した。サンの宝物の吸い殻の話も。


ナナはヒックヒックと泣きながら謝り続け、義父はただ唸っていた。いつの間にか周りに集まっていた騎士達や、ファルを含む御者達も。


「ただの石ころでも、人によっては宝物なんてこともあるからなぁ。ナスカも大事にしているものとかあるだろう?」とファル。

「うぅぅ・・・あるわ」拭っても拭ってもナナは涙が止まらない。


「俺があげた指輪とかか?」とドモン。

「ううん、お父さんの髪の毛」

「そ、そりゃもう手に入れられない貴重な宝物だな。ククク・・・」


義父も騎士達もプルプルと震えている。


「なによ!私にとっては宝物なんだから!冒険する時、御守として持ち歩いているのよ実は。ちょっと待ってて」タタタと馬車に走るナナ。

「全然持ち歩いてねぇじゃねーか。馬車の荷物の中に突っ込んでるだけだろうに」と呆れるドモン。

「フフフ・・・そこが可愛らしいところではないか」義父も笑みをこぼす。本当の孫のように、今はもう可愛くて仕方がない。


すぐに戻ってきたナナが、タバコの箱くらいの小さな木箱をパカッと開けると、紐で束ねられた十数本の短い髪の毛が入っていた。


「ヨ、ヨハンって、金髪だったのか?!」

「そうよ?」

「ああ確かにそうだったな。だからナスカも金髪なんだよ」


ナナとファルは当然のように答えるが、今の姿からはあまりにも想像が出来ない。

ドモンも義父も窒息。今のヨハンを知っている騎士や部隊長もブハッ!と吹き出した。


「うぅ~気持ち悪いですぅ~御主人様ぁ~」と、何故かドモンのTシャツをワンピースのように着こなしたサンがやってきて、ドモンの綿あめの話を聞くなり大泣きし、ヨハンの金髪の事実を聞いて笑い転げた。


「もう!サンも笑わないでよ!そして本当に反省しました!」

「ご、ごめんなさい奥様・・・プククク」



ナナとサンのそんな会話を聞きながら、牛肉と豚肉をひき肉にしていくドモン。

玉ねぎをみじん切りしたものを飴色になるまでナナが炒め、サンがドモンの説明を受け、ハンバーグを形成していく。

相変わらず手際の良いサン。すぐに焼き方もマスター。


「パンに挟んでハンバーガーにするも良し、お米と一緒に食べてもいいよ」

「これはもう絶対美味しいやつね。私お米!すぐに炊く準備するわね」とナナ。

「ああ頼むよ・・・俺ちょっと・・・少しだけ休ませてもらって・・・」


ドモンはそう言うなり、テントの中に行きパタリと横に倒れて、いつかの時のように、朝まで眠り続けることになってしまった。





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