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第269話

「御主人様~お掃除終わりましたぁ」サンが額に汗を光らせながらやってきた。


「お疲れ様・・・なところ悪いんだけど、馬車にあるあの編み物の機械持ってきて、ギドに見せてあげてくれないかな?サンしかやり方がわからないから」

「はい!」


掃除が終わったと言うので、急いで作業場に戻ろうとしていたギドだったが、ドモンの言葉でピタッと足を止めた。

また何かの異世界の機械が出てくるならば、これはもう見ない手はない。


「御主人様、何を作りましょうか?」

「ギドの兄貴の頭がかなり寂しい感じだから、また帽子でいいんじゃないか?あげようよ」

「かしこまりましたぁ」

「兄はあれでもまだ四十路前なんですが・・・」


ドモン達の会話に入りながらも、ギドはもうおもちゃの編み機に目が釘付け。

サンが毛糸をカシャンカシャンとセットしている間、精巧な部品の組み合わせ部分を見つめ、恍惚とした表情に。


「編み機というくらいですから、糸から布を製造する機械なのでしょうか?」

「そうなんですけど、これはもっと凄いんですよ!見ててくださいね?」


サンがくるくるとレバーを回転させると中の部品が複雑な動きを始め、毛糸が踊るような動きを見せながら絡み合い、瞬く間に毛糸の帽子を作り上げた。


「うおおおお?!」

「ぬぅ?!魔道具か??」


ギドと義父が飛びつき、今にも奪い合いを始めそうな雰囲気。

サンはニコニコとしながら編み機から帽子を外して「帽子の出来上がりです!」とギドに手渡した。

ギドは震える手でそれを受け取り、その網目部分を睨み続け、その隙きに義父が編み機の方を手に持ち、必死に中を覗き込んでいた。


「魔道具なんかじゃなくて、これは俺の世界の子供の玩具なんだよ」

「これが・・・子供のおもちゃ??せ、先生、それは冗談ではなく???」

「うん。だからこんなプラスチックと呼ばれる脆くて安っちい素材で出来てるんだ。形成しやすい素材なんだけど、結構すぐ折れてしまうんだ」

「なるほど。それ故に量産しやすくなっていて、安価で販売できるわけですね。子供用の玩具として」

「流石に頭がいいな。そういう事だ。大人が使うようなのは、鉄を使ったりしてもっと頑丈だし、そしてもっと高いんだよね」


ドモンが軽く説明を始めると、頭の良いギドはそれをすぐに理解した。

プラスチックが何かは分からないが、今まだそこは重要ではない。


「これも構造を把握して作れということですね?先生」

「察しが良くて助かるよ。で、それを売ってお前らの資金源にでもしてくれ。世界中の女が欲しいみたいだし、きっと儲かるぜ?」

「ふむ、それでいくらかを先生の方に支払うという形で・・・」


「いらねぇ」

「へ??それでは先生に得がないではありませんか!」

「此奴は余計な金を欲しがらぬのだ」


サンに「私の分も作ってくれぬか?」とおねだりしながら、義父がふたりの会話に加わった。

「では少し凝った柄でお作りしますね」と、サンは違う色の毛糸を取りに馬車の中へ。


義父とサンはドモンの言葉に今更驚くこともないので、まるで気にもしていない。


「みんなにも言ってるけど、あぶく銭は身を滅ぼすからな。でもギドが大金を得るのはあぶく銭なんかじゃなく、その努力と能力への対価だ。胸を張って受け取れ。大儲けしてしまえ。それでまたいっぱい発明してくれよ?」

「そ、そんな・・・うぅ・・・先生・・・」

「先生じゃないってば。てかなんで泣くんだよハハハ」


お金儲けが出来ると嬉し涙を流したわけではない。

いつも変人扱いをされ、その努力、そしてその才能が今まで家族以外に認められることはなかった。


だがドモンは違った。

偏見も持たず、ただ真っ直ぐに見つめてくれた。今までの努力を。その才能を。

しかもギドだけではなく、しっかりと兄の才能まで認めてくれたのだ。


「お前には世界中の人を喜ばせる力があるんだから。お前らみたいなのが儲けなきゃ・・・」

「先生!!」

「そして儲けた金でスケベな店に行って、俺に奢ってくれるって言うなら喜んで・・・」

「私は必ず!必ずや期待に応えてみせます!」

「やったぜ!何軒かはしごしような!な?」


キャッホーイと喜ぶドモンと、涙を流しながら決意を示すギド。

全く会話が噛み合っておらず、義父は苦笑い。


そこへナナとギドの兄がやってきて、ナナがいきなりドモンの頭を引っ叩いた。


「いてぇ!!」

「あんた!なんで泣かせたのよ!」

「な、何言ってんだ?!」

「言い訳は無用よ!どうせドモンが悪いに決まってるんだから!」


ナナの誤解によりドモンはペチャンコに。

ギドが大慌てで誤解を解き、大きなお尻の下敷きとなったドモンを救い出した。


「ドーモーン?えへへ・・・」

「・・・・」

「ごめんね?ドモン・・・怒ってる?」

「・・・・」


ドモン、無言の抗議。


「許してよほら、掃除も頑張ったし」

「こちらは本当に捨ててしまっても宜しいのでしょうか??」とタイミング良く木箱を持ってきた騎士。

「いいわよ」とナナが返事。


「あー!!これは私が今製作中だった大切な・・・あぁ~~!!」両膝を地面について、両手で頭を抱えるギド。

「お、親父の革手袋とお袋のエプロン!!」兄が大慌てで箱から出し、そのふたつを大事そうに抱きしめた。

「いるんだったの?それ。てっきりゴミかと」

「・・・・」


私がいらないと思った物は、みんなもいらない物理論炸裂。

『お前の物は俺の物、俺の物も俺の物』の逆バージョン。世のお母さんにありがち。


ドモンはとても苦々しい顔。


「悪かったわよ!!私が全部悪うございました!もう煮るなり焼くなり好きにしてよ!フン」

「ああ、じゃあそうする。ふたりとも悪い事したな。俺がしっかりとお仕置きしておくから。王都に滞在中ずっと裸で過ごすから許して!と泣き叫ぶくらい酷いお仕置きしとくよ」

「え・・・ちょ・・・」ドモンの言葉にナナ絶句。


「私です!私です!サンがやりました!やっちゃいましたぁ!」と、急に右手を挙げぴょんぴょん跳ねたサン。

だが「いや、この人の掃除は完璧だったよ。物も大事に扱ってくれるし、手際も良くて」と道具屋の兄がすぐに庇った。

「うー!」とサンが地団駄を踏む。


ドモンは「じゃあまたな」と、うなだれたナナの手を引き馬車の中へ。

突然のことに、道具屋のふたりはドモンに感謝の言葉や、別れの言葉をかけることも出来ず。

代わりにサンが「また寄ると思われますのでその時に!」と声を掛け、馬車を出発させた。



御者台側の窓まで閉めきり、完全に密室状態の馬車の中。

中からはとんでもなく破廉恥な音や破裂音、そしてナナの絶叫が響く。


「もう許じでぇぁぁぁ!!死ぬぅぅ!!あぁまた出ちゃ・・・あ、悪魔!!悪魔よあなたはっ!!ひどいわ!!オホォ???イヒヒヒ!!!やめでぇぇぇ!!」


並走している護衛の騎士達も思わず耳を塞ぎ、サンはその音や声だけで御者台の上で二度ほど気を失った。

ナナの絶叫は夕方まで続き、今晩の行程はここまでとなったところで、叫び声もようやく止んだ。


何事もなかったかのように馬車からぴょんと出てきたドモン。


「あ、あの奥様は?」

「今馬車の中の掃除をしてるよ」

「私もお手伝いした方が・・・」

「いやいやいや。行かない方がいいよサンは」


まだ閉め切られた状態になっている馬車を見つめるサン。気になるが中の様子は見られない。

ドモンは素知らぬ顔のままタバコに火をつける。


タバコを吸い終え、ドモンがパーンとタバコの火を指で弾いた瞬間、ヨロヨロとナナが馬車から降りてきた。


「奥様!!だ、大丈夫ですか?!」

「サン・・・大丈夫とは言えないわね。とてもじゃないけど」

「な、中で一体何が?!」

「知らない方が良いわよ。知っちゃダメ。私はもう人間やめちゃったの。身も心も私はドモンのものになったのよ」

「うー!!」


遠い目をしながら、妙なやりきった感があるナナ。まるで世界で一番怖い絶叫マシンに乗った直後のよう。

サンはそのナナの言葉に、ズルいと言わんばかりにドモンに詰め寄った。


「今だけだってハハハ。そのうちいつものナナに戻るよ」とドモンはサンの頭をポンポンと撫でる。

「う~!サンにも御主人様のごほ・・・お仕置きを~!!」サンは涙目。


「ヤメといた方が良いと思うけどなぁ。ねぇナナ、今のお仕置きと王都でずっと裸、どっちかを必ずしなくちゃならないならどっちが良い?」

「裸で過ごすわ」


ドモンの質問にそう即答したナナに対し「もう脱ぐぅ!」とサンはジタバタ暴れていたが、やってきた義父にドモンがもの凄くお仕置きをされ、事態はあっさり収束した。





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