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第257話

「気をつけていってらっしゃい。みんな仲良くするのよ~喧嘩しちゃ駄目よ~。あとドモンさんも二人をお願いねぇ?それとサンも・・・」

「もうわかったからお母さん!子供じゃないんだから」とナナがへの字口のまま笑顔。


「ハハハ。エリーにとってはみんな子供のようなもんだよ。いつまで経ってもな」ヨハンがペチンと頭を叩く。

「ではそろそろ出発しますね!」


行ってらっしゃいと手を振るヨハンとエリーと侍女三人に、馬車の窓越しに手を振るドモンとナナ。サンは軽く会釈しながら手綱を握る。

「はぁい」と声をかけると馬車はゆっくりと走り出した。


屋敷の倉庫に置いてある荷物から必要なものをいくつか馬車に積み込み、ゴブリン達やカール達に見送られながら、義父らを乗せたファルの馬車や護衛の騎士達と一緒に屋敷を出発した。

ゴブリン達は明日村へと戻る予定。注文していた小麦は、後日村まで配達されることに決まった。



道中、ドモンたっての希望で隣街に寄ることとなったが、カールの義父がいることもあり、本当に寄るだけで長時間の滞在はしない。

町長の屋敷はあるけれど、貴族が常在しているわけでもなく、護衛の数も足りないためだ。


そもそも王族が滞在どころか、通過するだけでもこの規模の街ならば大事件。

町中を通り抜けるだけでその通りに名前が付き、商店街が出来たりすることもあるくらいの話なのだ。


実際ドモンは元の世界で、皇族の方が通りその名がついた「行啓通」というところで働いていたし、その近くに住んでいたこともあった。

某有名ゲーム機が発売したてでまだゴムボタンだった頃、行啓通にあった店でドモンはそのゲーム機を買った。


というわけで今回は完全にお忍び。事前に連絡もしていない。


逆に連絡をしていたならば、街は大混乱を招くこと必至。

それこそカールのところから騎士を借り受け、護衛だの何だのと準備が大変になる。


そうなれば直ぐに出発も出来なくなってしまうのだ。

数日かけ受け入れ準備をして、数分でさようならとなるのは流石に酷。


そういった事も踏まえ、今回はお忍びで行き、ドモンの用が済み次第そのまま出発という予定となった。



隣街までの道中、何度か軽い食事や休憩を挟み、日も暮れかけたところで今晩は野宿。

普段ならばカールの義父は基本的に馬車の中で過ごし、そのまま睡眠も取る。


計画立てている時は、先回りした者がキャンプ予定地に仮眠場所を設営したりすることもあるが、そうではない場合はほとんどが馬車の中。椅子に座ったまま仮眠をとることもあるけれど、馬車にきちんとした寝具も常備しているのでそれで眠る。


ただ今回はドモンのテントがあるため、そのテントで寝るつもり。

ドモンもそれを聞いていたので、買っておいた全てのテントを持ってきた。


「貸せドモン!私にやらせろ」妙に張り切る義父。

「プププ!何よおじいちゃん、やってみたかったの?一気に拡がるから人にぶつけちゃ駄目よ?」とナナ。


「ナナじゃあるまいし。あ、紐を解いてから投げろよな。ナナは紐は解かないわ、俺の上にテント建てるわで大変だったんだから」

「ハッハッハ!ワシもその時いて、それを見ていたんですよ」とファルが義父に話しかけた。もうお互いにすっかり慣れた様子。


70を超えているとは思えぬほどの剛腕で、テントを放り投げた義父。

ボボン!と拡がったテントに「ぬおっ!話には聞いておったが・・・本当に一瞬なのだな」と驚き、すぐにテントの中へと入った。


「おい!はしゃぎすぎだジジイ。靴を脱げ!土足厳禁なんだ。あーあ汚しちゃって」

「おおすまぬ!私としたことが。確かにはしゃぎすぎたな」


ドモンに言われすぐに靴を脱いだ義父。

このテントの貴重さも当然知っていたが、興奮が勝ってしまった。

サンがサササッとテントの中を拭いてすぐに綺麗にする。何度も汚して・・・ではなく掃除しているのでお手の物。



「さて・・・今夜の晩飯はピザだぜ」

「で、出た!!風邪の時食べたい物選手権第一位!」

「なんなのだそれは??」


ナナの意味不明な大会に反応した義父。サンはもう両手で口を押さえてプルプルしている。

「その前の大会は、ヨハンの髪がまだあった頃なんだとさ」とドモンが言った瞬間、ブブッ!!という、ナナのオナラのような音を出してサンが吹き出した。


遠くで薪集めなどしていた騎士達が一斉に振り向いたため「オナラじゃないです!オナラじゃないんです!空気が漏れただけです!」とサンが必死に弁解していたが、皆の顔がいきなり赤くなり、サンだけが不思議顔でキョロキョロしながら首を傾げ、ナナが「サン、それは駄目よ」と優しく諭していた。



「今回はパン屋で酵母を使った生地を作ってもらったからフワフワだぞ」と馬車の冷蔵庫からピザ生地を持ってきた。


トマトソースを塗り、チーズを千切って乗せ、「あとはみんな好みの具を乗せてくれ。香草とかでも良いし、刻んだ豚肉や鶏肉を乗せるとか、玉ねぎとか芋とかの野菜でもいいぞ。キノコでもいいけど変なキノコは入れないように!」と、まずはドモンが基本的なピザをひとつ作ってみせた。

ベーコン代わりの豚肉の細切れと、玉ねぎとピーマンのみ。チーズはやや増し。


「これを食すのか?」と義父。

「まあナナとサン以外はよくわからないと思うから、一枚焼いてくるよ。すぐ出来るから待っててくれ」


馬車の窓を開け釜付きのストーブに火を入れ、ドモンがあっという間に焼き上げて戻ってきた。

ピザカッターは忘れてしまったので包丁でカット。


「ちょうだいちょうだい!!」と慌てるナナ。

「ナナはまだ!ほらまずジジイから」とカットしたピザを皿に乗せ義父に渡す。


「手で持ってこのまま食せば良いのか?」

「何でもいいんだけど、まあ折りたたんで食うのが本場の食い方かな?俺の国ではそのままかじる人が多い」


うむと頷いて半分に折りたたみ、ガブリとかぶりついた義父。


「あ、そういえばメチャクチャ熱いから気をつけないとだめだぞ?」

「バヒィ!!なぜ貴様はいつも言うのが遅いのだ!!ガハッ!!バフッ!!ホッホッホ・・・」

「イヒヒヒ!そりゃわざとに決まってるだろイーッヒッヒッヒ!!」


涙目になりながら湯気をバフバフと吐く義父を見て、ドモンが大爆笑。部隊長や騎士達はオロオロ。

ナナとサンは慌ててドモンの顔を確認し、赤い目ではなかったことでホッとしていた。


「悪い悪い!ほら向こうの世界で買ってきた缶ビールやるから許せよ。冷えてて美味いぜ」

「あーズルいおじいちゃん!!」


缶ビールの味自体ナナは大好きだが、ドモンと出会った時の思い出の味でもある。

くれくれとうるさくて仕方ないので、ドモンはナナにもひとつ分けた。


「ねぇドモン開けて」

「ほら」いつものようにナナの代わりにドモンが開けて一口飲む。

「ちょっと!勝手に飲まないでよ!怒るわよ!」と、いつものようにわがままなナナ。


「かぁぁぁぁ!!こ、これが貴様の国のエールだというのか!!何という喉越しなのだ!!それにこのピザとかいうのも絶品である!ドモンよもっとだ!ピザを早く寄越せ!」


キャンプ用の折りたたみ椅子から立ち上がり、大皿からひったくるようにピザを掴み、立ったままガブリとまたかじって缶ビールを飲む義父。

桃の酎ハイを飲んだ時にも驚いていたが、この安い缶ビールに義父は、ドモンが想像していた以上の反応を見せた。


「だからズルいってばおじいちゃん!!」と大慌てでナナもピザを奪い、ガブリ。

「いや・・・これ俺のだから・・・自分達のは自分で作れよ。生地はたくさんあるんだから。サン、要領はわかったな?」

「はい!」


ピザ職人かというくらい上手にピザ生地を拡げていくサン。

ドモンよりも手際よくトマトソースを塗り、チーズをさささと乗せていく。


「わ、私達もいただけるのでしょうか?!」と騎士達やファルを含む御者達。

「当たり前だろ。お前らに食わせるために持ってきたんだから」「はい!」ドモンの言葉にサンも良い返事。


「缶ビールは流石に数に限りがあるから出せないんだけど・・・ジジイ、ワインは?」

「馬車に積んである。好きなだけ飲むが良い。ファルよ?」

「えぇ、すぐにご用意します」


ドモンと義父のやり取りに、ワッと歓声が森の中の広場に響いた。

全員合わせ二十名ほどだが、うるさいほどのお祭り騒ぎに。



その間にもせっせせっせとサンはピザ作り。

作れば作るほど上達し、もうドモンが作るのが恥ずかしくなるほどキレイなピザを作っていた。


「好きな具材で宜しいのですね?ドモン様」と騎士のひとり。

「ある物なら何でもいいよ。でもあまり貴重なものは駄目だぞ?」

「わかっております。鳥の肉をたくさん載せ・・・マヨネーズを誂えたものとかでも宜しいでしょうか??」

「おぉいいぞ!いい感覚してるねぇ。料理人の素質あるんじゃないの?」


すぐにナナが具材を用意して、ドモンが希望通りのものを作り、馬車へ焼きに行った。

焼き上がったピザを見て、また大歓声が上がる。


「ドモンよ。私は香草をたっぷりと盛り、チーズを更に上からふりかけたもので良い」

「ジジイはまだ食うつもりなのかよ。俺の散々食っといて」

「あれは試食であろう」「そうよ!」


義父とナナはそれを当然と言わんばかり。


「・・・お前ら本当にジジイと孫なんじゃねぇのか?一体なんなんだよ・・・」

「私はそれでも良いわよ。ね?おじいちゃん?」


缶ビールを飲んで良い気分のナナが、義父に抱きついて頬にキス。

義父はもうナナが「領地が欲しい」と言えばあげてしまいそうなほどデレデレ。

「準備が整いましたぁ」と、義父の希望通りのピザをすぐに作ってくれたサンにもデレデレ。


王都に着いたら二人の高級ドレスでも作ろうと言い出した義父に「ジジイは甘やかしすぎだ。贅沢は敵」とドモンが注意し、森の中でなんとも微笑ましい親子喧嘩が行われることになった。




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