第256話
サンが言いたかったこと。ナナが伝えたかったこと。昨日あったこと。
それらで確信とまでは言わないが、ドモンは大体把握した。
「もしかしたらそうなのかもしれない」から「もしかしたらやはりそうなのだろう」くらいの変化ではあるけども。
ドモン自身、はっきり言ってその自覚はない。
あだ名として悪魔だなんだと小学校から高校まで、いや最近までもずっと言われ続けていたが、あだ名はあだ名であって、本当に「吾輩は~」なんて事は言い出さない。10万49歳ではないのだ。
でも全くの無関係というわけではなく、何かしら悪魔と自分は関係があるのだろうと考える方が色々と自然だから、そう思っておく程度。
『あなたはスケベなおじさんの悪霊が憑いています』と言われ「あぁやっぱりか」くらいの感覚。何ならその力を利用して女を散々抱いてきた。
そしてその悪霊が最近やたら現実に影響を与えてきて、どうしたものか?と悩んでいるようなもの。冷静でいられず、訳が分からなくなることが多くなってきたのも少しだけ不安ではあった。
だがしかし。
もしかしたら自分がその悪霊そのもの、この場合悪魔そのものなのかもしれないけれど、まあ今までこうやって暮らせてるんだから別にいいじゃん、教会も神社も普通に行ってたし・・・と。
それも、長老とサンの時のような実害が出たなら話は別。
なのでお祓いか何かでどうにかならないものかと、義父にサウナで相談をしようと思っていた次第。
みんなの前で「すみません実はやっぱり悪魔でしたテヘ!」とか「悪魔に取り憑かれちゃってたよーん」とか、どの面下げて言えばいいのやら。
こんなこと、ある程度察してくれているカールの義父くらいにしか相談ができない。
・・・・と、ひとり悩んでいたことが、今回サンとナナにバレてしまった。
このふたりもきっとそうだと思ったことで、改めてドモン本人もやっぱりそうだったんだと思ったのだ。
初めに言った人とは全く別の霊媒師にも『スケベなおじさんの悪霊が憑いています』と言われたような感じ。やっぱり前に言われたあれってあってたんだ!と。
自分では見えてないから完全に確信とまでは言えない。雰囲気的には守護霊の扱いと一緒。憑いてますよ。あっそうなんですか。みたいなもの。
昨日ナナとサンがドモン本人よりも悩んでいる様子を見て、格好をつけたわけでも意地を張ったわけでもなく、素直にドモンは「心配かけてごめんな」と言ったが、サンは逆に気にすることになってしまった。
折角の焼き魚だというのにあまり食欲が湧かなかったサンとは違い、サンの分までモリモリ食べた上に「んぐんぐん」とか言ってるナナは、もうほっといても大丈夫そうだとドモンは微笑んだ。
それから二日が過ぎた。
カール達貴族は区画の整理で、会議と現場視察を繰り返していると聞いた。
何度か使いの者がやってきて、ドモンも適当に助言を与えている。
そのおかげもあって、商業地域に出来る温泉宿はスケベな店も入る予定。
舞台のある大広間でのお色気たっぷりのダンスショーも楽しみだ。
ヨハンがエリーに「そのショーに出てみたらどうだ?ハハハ」と冗談を言うと「私に出来るかしらねぇ?」と腰をフリフリしながら踊っていたので、案外乗り気だと思われる。
地下水源の調査や水質チェックなども繰り返し行われ、建設ラッシュを前にして、街に続々と労働者が集まってきていた。
そのおかげで店も賑わいが増し、あまりの忙しさに人を雇うことを考えるほど。
この状態でドモン達が旅に出かけてしまうと、店はどうしたって人手が足りない。
なので今王都に行くのは無理かもしれないと義父に伝えたところ、例の侍女三人組が臨時にやってくることとなった。
早速やってきた侍女三人組は「またお世話になります大旦那様!大奥様!」と、勝手知ったる我が家かなとばかりに嬉しそうに、ナナやサンとキャッキャと戯れている。
屋敷のサウナに入れるストーブも完成したから確認してくれと鍛冶屋もやってきて、ドモンが一人で鍛冶屋の工場へ行ってきた。
サウナに関する本もあったことで、完璧な仕上がり。まさにスーパー銭湯のサウナでよく見るやつ。
明日にでも大工と相談し、屋敷でサウナ作りを始めるとのこと。
ドモンは残念ながら明日王都に出発なので、ギリギリ入ることが出来ず。本当に残念無念。
帰り際ギルドに寄り、ひとりでこっそりステータスを確認。
ドモンはそこで愕然とした。
レベル 49
職業 遊び人
HP 23/25
MP 0/0
属性 なし
スキル なし
「あ、あのドモンさん・・・」
「・・・・」
見たこともない低い数値で、流石に受付の女性ももう笑うことも出来ない。
逆に周りの冒険者達に見られないよう気を使い、なるべく平静を装い、それをすぐに隠した。
以前ドモンは他の冒険者に「俺は10歳くらいでHPは3桁あった」と言われていたくらいなので、恐らく赤ん坊と同じくらいかそれ以下だと知る。
脚や心臓が悪いこともあり、ミニマラソン程度でもあの世行きは確実である。
そもそも、HPの最大値が下がるというような現象は、普通は起きないとのこと。
「悪魔と契約して魂を差し出したとかならわかりますが、それも大昔にあった噂話というか出鱈目なほら話ですよ」と。
大怪我や心臓発作の後に最大HPが減少しているのはわかったが、今回の死と蘇りで大幅に減らしたという事がわかった。
ドモンは小さな頃から何度も三途の川を泳いで戻っているが、きっとその度に減らしていたのだろう。
それももう限界。恐らく次はない。
とにかくもうナナやサンには見せられないし、知られる訳にはいかないと思いつつ、ドモンは帰宅した。
「ただいま~」
「おかえりドモン!ほら早く手伝って!忙しいんだから!」
「おかえりなさいませ!」「おかえりなさいませ!」「おかえりなさいませ!」「おかえりなさいませ!」
「なんか時代劇で番頭さんが帰ってきたみたいだなハハハ」
ナナに続いて一斉に声を上げるサンと侍女三人にドモンが面食らう。
「時代劇って何?」「番頭さんって?」とナナがしつこくドモンに聞いていた。
「ああそうだドモン!さっきカールさんが来て、出発の準備を整えて、明日の朝、屋敷まで馬車で来てほしいって」とナナ。
「やっぱりジジイと一緒か?」
「一緒というか何台かの馬車で連なって王都に向かうみたいよ?」
「なんだかなぁ~。俺ら三人でスケベな事しながらゆっくり行きたかったのに」
突然明日の出発が決まり、少しだけうんざりした表情でドモンが冗談を言った。が・・・
「そ、そうですね!私もそうした方がいいと思います!はい!」とサン。
「おじいちゃんにそう言おうよドモン!言うべきだわ!」とナナ。
ふたりは、三人で裸で過ごしたあの日々が忘れられない。
「奥様!ビニールプールを持っていきましょう!あと御主人様!あのきのこもたくさんフゥフゥフゥ!!」
「そ、そうね!絶対必要よ!ハァもうスケベドモンたら」
「いやあの・・・本当に俺死んじゃうから。風呂として小さいのは持っていくつもりだけど、もう夜は寒いから遊べないしな」
何かに張り切るふたりにドモンは苦笑したが、当然義父が許すはずがないしそんな訳にはいかない。
すぐにヨハンとエリーに諭されて、ナナとサンはしょんぼり。
「それはそうと、王都からはどのくらいで戻れるんだ?」とヨハン。
「いやぁ用事済ませたらすぐに帰るつもりだよ。お土産買ってくるから楽しみに待っててくれ」
もちろん王都は楽しみではあるが、話を聞く限りどうにも居心地が悪そうだと感じていたドモン。
ヨハンにすぐに戻ると約束した。
「でもおじいちゃんがドモンのこと鍛えるって言ってたじゃない」
「適当に誤魔化して逃げるよそんなもん」
「もう!知らないんだから私」
ハハハと笑っていたドモン達だったが、ヨハンとのその約束が守られることはなかった。
「んぐんぐん」大爆発事件も昔あった実話である(笑)




