第255話
新たに炊いたお米をもりもり頬張るナナとエリー。
「んぐぐ、んんんぐんんんんぐっんぐ」とナナ。
「また始まった巨乳語!今回は俺も分かんねぇぞ。エリーは伝わったか?」
「『魚、残しておいて良かったね』って私に言ったのよ」
「んぐ」
伝わって当然とばかりに頷いたナナ。
なぜ分からないの?と、不思議顔のままモグモグと食べるエリー。
「まさか本当にあるんじゃないだろうな?巨乳語」と呆れるドモンと、ただただ悲しいサン。
「慣れたらわかるようになるのでしょうか?」うーんとサンは首を傾げる。
「いやサン、俺にもさっぱりだ」とヨハンもお手上げ。
「ずっと一緒にいるヨハンがわからないってなら、やっぱりおっぱい星人特有の巨乳語なんだろう」
「んぐ・・・なんでわかんないのよ!」
「逆になんで分かると思ったんだ??」
「いい?これから私がなんて言ったか当ててみて」
サンが残したホッケを貰って、米と一緒に口に詰め込み「んぐぐ?」とナナは真剣な顔。
「いくよ?」とすでに巨乳語を始めていることにナナは気がついていない。
もうサンのほっぺたはパンパンに膨らんでいる。
「んぐんぐん」
「おちんちん」
一撃でカウンターの上は大惨劇。
ものすごい勢いでナナとヨハンが吹き出したからだ。
サンは「く、空気をください・・・息が・・・」と腹を抱えて、カウンターに突っ伏し笑っている。
「は、鼻にお米入っちゃったじゃない!どうしてくれるのよドモン!!」
「知らねぇよ。でもあれは確実にそう言ってただろ」
「もうナナってばなんてこと急に言い出すのよぉ」
「お母さんまで!!『あさごはん』って言ったのよ!もう!」
カウンターを拭きながら、赤い顔でまだむせているヨハンにドモンが水を出す。
エリーがパンパンとヨハンの背中を叩いて助けようとしているが、むせている時は背中を擦った方が良い。
「あんたがスケベだからなんでもそうなっちゃうのよ!」
「じゃあモグモグしながら逆に『おちんちん』って言ってみろよ」
フンッ!と言いながらも実際にやって見るナナ。
「んぐんぐん・・・あれ?ホントだ」
サンは、死んだ時にドモンが泳いできたという三途の川が見えた気がした。
ドモンはサンの前にも水を置いた。
「いい?ドモン。スケベなあんたには王都に行く前に伝えておかないとならないことがあるの」と突然ナナが切り出し、サンの笑いは止まり驚きの表情に。
「お、奥様、今ですか?!大旦那様と大奥様もいらっしゃいますし・・・」
「ん?なんだ?」「え?なんなの??」
焦るサンの様子に同時に声を出したヨハンとエリー。
ドモンも突然のことにキョトンとしている。
「いいの!これはみんなにも聞いてもらいたいことだから」
「ご、御主人様も心の準備が出来ておられませんし、それにそれに・・・」
「駄目。はっきり言わせてもらうわ」
「はっきりはきっとダメですぅ!」
サンはドモンを傷つけないように、昨日知ったことをゆっくりと少しずつ伝えようと思っていた。
もしドモンにその自覚がないなら、突然そんな事を言われればショックに決まっている。普通の人として生きてきたのだから。自覚があったとしてもいい気分ではないだろう。
しかしナナがいつもの調子で「あんたは悪魔よ!」とズバッと言ってしまいそうで、思わずアワワと頭を抱えた。
「いい?ドモン真剣に聞いて」
「う、うん・・・」
ドモンも心当たりがなくはないのでドキドキしている。昨日のことも薄っすらと記憶にあるからだ。
サンも覚悟を決め、ゴクリと唾を飲み込む。
「これから行く王都では・・・浮気はダメよ。それに女性を無理やり押し倒したりしたら捕まるの」
「そ、そりゃ驚きだな」
驚く準備をしていたドモンも困惑し、サンは「きゅぷぅーん!」という奇妙な笑い声で倒れた。
「ドモン・・・それはこの街でも駄目だぞ?」
「そうよぅ・・・もしそうなら素直に自首して?」
ヨハンとエリーは冗談半分だったが、身に覚えがなくはないドモンはちょっとだけ焦った。
ナナなりに最大限気を使った伝え方で、確かにそうすれば恐らくドモンの能力を発揮することもなく、悪魔がどうのと言われることもないだろう。
ドモン本人も傷つけず、両親にも心配かけずに済む。
更に両親の前で約束してくれればドモンも気をつけるはずだ。それらを考えた結果がこれだったのだ。
「ということでお父さんお母さん、今週中にでも王都に行ってくるからね。ドモンは浮気しないって約束!」
「そりゃ急な話だな」
「急に決まったんだもん」
まだ食事を続けながら、ナナがヨハンに王都に急に行くことになった経緯を説明。
「またえらいものに巻き込まれたものねぇ」と片付けをしながらエリーが苦笑した。
「で?ドモン約束は?」
「わ、わかったよ」
「むやみに女の人を押し倒さないこと!わかった?」
「俺を何だと思ってるんだよ・・・」
「悪魔でしょ。いい悪魔だけど」
サン驚愕の表情。
目を見開き、『やりやがりましたこの人!』と言わんばかりにナナを見る。
しかし言われ慣れているドモン本人はどこ吹く風で、「ちぇ!向こうから迫ってきた時はどうするんだよ」とブーブー文句を言っていた。
向こうから迫ってきた時は浮気にならないと思っている方もどうかしている。
「まあドモンもあまり無茶して、またナナに怒られないようにしないとなハハハ」
「そうよぅ?王都には綺麗な人も多いだろうから心配だわぁ・・・ドモンさんに我慢できるのかしら??」
なんとなくドモンがやらかしそうなことを予感しているヨハンとエリーもおかしい。
サンはもう「ハハハ・・・」と笑うしかなかった。
私が心配しすぎだったのだろうか?
もし王都で悪魔だと追求されても、カールの義父に頼めばなんとかなる気もしてきた。
ドモン本人もそれほど気にしている様子でもなさそう。
サンは小さくハァ・・・と溜め息をつき、みんなの様子を見ながら微笑んだ。
そんなサンの元へ、タバコに火をつけたドモンが目の前にやってきて「わかってるよ。心配かけてごめんな」と囁き、ポンポンと頭を撫でてから厨房へ入っていった。
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どっちにしろ年末年始はずっとベロベロなんだけど(笑)