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第251話

大きな鍋にお湯を沸かし、お米も炊けて準備は万端。

小さな魔導コンロをテーブル席の真ん中に置いて、まずはナナとドモンがしゃぶしゃぶを開始した。


が、当然客達の注目の的になる。


「ねえあなた達これ、お湯にこの薄っぺらい肉を入れて食べるつもりなの?」

「お湯で調理するってのか?」

「お湯で煮ただけじゃ味もしねぇだろ」

「ちょっとエリーさん!!ねえってば!あれあれ!あれなんなのよ!」


あっという間に大騒ぎ。

一度味見をしたことがあるヨハンとエリーがしゃぶしゃぶの説明をすると、ドモンも予想していた通り、俺も私もとみんなお金を出し始めた。


「米はないけど、肉だけでいいなら用意は出来るぞ」とヨハンに伝えるドモン。

「おう!みんなしゃぶしゃぶの肉だけでいいなら用意できるってよ!一人前銀貨一枚ってとこでどうだ?」

「よし買った!」「こっちもよ!」「三人前!三人前!」


ヨハンが客に売ることを伝えるなり、昭和の株式市場のように手を挙げて注文する客達。


「ナナにはちょっと珍しい胡麻ダレも用意したぞ。こっちも試してみてよ」

「うん」


しゃぶしゃぶと肉をお湯にくぐらせ、ナナはドモンに言われるがまま、胡麻ダレにつけてお米の上でポンポンとバウンド。

客達は好奇の目で、ドモンは心配そうな顔でナナの様子を見守る。


「んんん・・・んぐぐぐぐ・・・うんまぁ!ナニコレ?大変よドモン」ナナは目を白黒。

「フフ何が大変なんだよ」


いつもの調子で喜ぶナナを見て、少しだけドモンはホッとした。


「甘いのにお米に合うのよ!でも甘いだけじゃなくもっと複雑なの!」

「美味しいだろ」

「とんでもなく美味しいわ!」


ガツガツとおろしポン酢と胡麻ダレを交互に使って食べ続けるナナ。

ドモンも少し食べて、ヨハンとエリーに交代した。客達のブーイングにヨハンも苦笑い。


サンはネギを切りながら鍋のお湯の準備。

ドモンは次々と肉をスライス。肉は牛肉と豚肉。


「サンもあとで食べような」

「はい。でもドモンさんと食べたいです」

「あ、ああ。す、少ししか俺も食べてないから、あとで一緒に食うよ」

「フフやりました!嬉しい!」


眩しすぎるサンの笑顔にドモンは目も開けられない気分。

大作映画の舞台挨拶を見に行ったよう。フラッシュの点滅にご注意ください。



そうして順にしゃぶしゃぶの肉が客の元へと届けられた。

魔導コンロの数が足りないので、申し訳ないけれども4名一組で鍋とコンロがひとつずつ。

女性客も多かったので男女が一緒になることもあり、まるで合コンのよう。


客達は箸が使えないので全員フォークを使用して肉を刺し、見様見真似で恐る恐る鍋のお湯にくぐらせる。


「うっすら赤いくらいが一番美味しいぞ」とドモン。

「だ、大丈夫なのかしら?」

「駄目だったら医者に行け。健康保険入ってるだろ?ワハハ」

「もう!勝手な人ね!ウフフ」


「ホントに勝手な人なのよゴメンね」とナナが苦笑しながら近寄ってきて「このくらいで十分よ!そのタレにつけてすぐに食べて!」とアドバイス。

他の客達も同じタイミングで口に放り込んだ。


「柔らかい!美味しい!!嘘でしょ?!」

「ああ~ヨハン、その米くれよぉ頼むよぉ!」

「あとサンの分しかねぇってば。エールで我慢してくれハハハ」モグモグと米を頬張りながら笑うヨハン。


「エールエール!エリーさんエールちょうだい!」

「すぐにお持ちしますよ~」同じくモグモグニコニコしているエリーの代わりに返事をするサン。


「ドモンさんお肉追加お願いできる?見てこれ。ひと皿ペロリよ私。お肉こんなに食べたの初めて」

「ああいいよ。たくさん食ってエリーみたいになっちまえ」

「じゃああと二皿ちょうだいよ」

「本気かよアハハ」


「もう~」とエリーが座ったままでぴょんぴょんモグモグ。箸は止まらない。

「ほらお父さん!お肉をいっぺんに入れすぎよ!煮えすぎちゃってるじゃない」

「もうじれったくなっちまってハハハ」


しゃぶしゃぶあるあるをしっかりやってしまったヨハンに呆れるナナ。

結局炊いた4合の米をペロリと食べてしまい、追加で炊く羽目に。

客達の分も渋々炊いて売ったところ、肉が更に売れてしまい、いつまで経ってもドモンとサンは食べられない。

ヨハンとエリーとナナも何度目かのおかわり中。



「皆さん、余程このしゃぶしゃぶというものが美味しいんですね」

「ああ、サンはまだ食べたことがなかったんだっけ??」

「はい。だってドモンさんがサンのこと置き去りにして」

「ま、まだ怒ってるのか?もう許してよ・・・」

「許しません!ウフフ」


もうドモンはサンにメロメロ。

自分がどうしたら良いのかがわからなくなっていた。


「しゃぶしゃぶを頂くのが楽しみです」

「うん」

「ドモンさんは楽しみですか?」

「ん?」

「私をいただきますするの」

「えぇ!?いやその・・・」


もうドモンはサンにオロオロ。

やはりもう自分がどうしたら良いのかがわからない。

心から湧き出るどす黒いものを必死に押さえつけようとするものの、サンがそれを引き出そうとしているようにしか思えずにいた。


ドモンの中の危険信号が最大の警報を鳴らす。


「ふたりともゴメンねぇ!美味しくって食べすぎてしまったわぁ!」

「もう代わるからサンも食べておいで。美味しいぞ」


駆け足してる風で、歩くスピードとそれほど変わりない速さでフリフリとやってきたエリー。そしてヨハン。


「ゴメンねドモン・・・途中で代わろうと思ってたのに」

「すんごい食べたなお前」

「うん。本当はまだ食べられたけど、お父さん達がやめたからね」

「なんか羨ましいよ、その食欲が。俺もさっきは中途半端だったから、サンと一緒に食べてくるよ。醤油とレモンと大根で似たようなタレ作ってあるから、客にはそっちを出してくれ。本物のタレの方が無くなっちゃうからな。肉のスライスとかあとは頼むぞ?」

「え~いいなぁ~私も・・・」

「今は本気でヤメとけってば。お腹壊すぞ」


ナナとドモンの会話を聞いて、ドモンの横でクスクスと笑うサン。

お肉の並べたお皿を持ち、ニコッと笑顔でドモンの顔を下から覗き込む。


テーブル席に着き、向かい合って座るのかと思っていたら、ドモンの真横に座るサン。

サンの甘い匂いにドモンの思考が狂いそう。


「さあ、いただきますしちゃいましょう」

「え?!」

「うん?」

「い、いや、はい!いただきます!」


サンはまたクスクスと笑いながらドモンの顔を見て、ニコッと微笑み、しゃぶしゃぶを食べ始めた。


「わぁ!本当に美味しいですこれ!奥様が夢中になるのもわかりました!」

「だろ?サンもたくさん食べて大きくなれ」

「大きくなるかなぁ?」


モグモグしながらニコッと笑ったサンを見て、ゴクリと唾を飲み込んだドモン。

自分が何を食べたいのかも、もうドモンには判断ができない。




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