第244話
「ドモン君おはよう~」「おはよう~」
「おうお疲れ様。頑張ったみたいだな」
「頑張ったわよそりゃあ~ウフフ」
充実した表情のママさん達をそのままテラス席に座らせ、会話を始めたドモン。
店内はまだ大工達とヨハンがドタバタとやっていて、落ち着いて会話ができない。
「前夜祭の時よりも稼げたか?」
「そんなの当たり前じゃないのよ!アッハッハ!みんな前日の5倍は儲けてるわよ?」
「そりゃ良かった。じゃあ順番に純利益教えてくれよ。順位を決めなきゃならんしな」
「その事なんだけどねドモン君・・・実はね・・・」
一位になったママさんに店を持たせるという約束があるため、ドモンは利益を聞こうとしたが、ママさん達が嬉しそうな顔をしながら目を合わせつつ口ごもる。
「実は私以外のみんな、店を持つことになったのよ」
「はぁ?」
「おじ様と領主様が随分と乗り気で、ドモン君に手伝わせて、そのすすきのとやらをこの世界にも作ってやろうじゃないかワハハって」
「それでみんなに店を持たせるってことになったのか??そしてなんでそこで俺が出てくるんだよ!!何がワハハだ」
「なんでも新しい領地にそういった区画を作るという話みたいよ?それにはドモン君が必要だって。詳しくはお屋敷の方で話を聞いてちょうだい?」
また余計なことが増えてドモンはうんざり。
もしそれで本当にすすきのを再現できるなら嬉しいことだけど、ドモンはただすすきので遊びたいだけで、『すすきのの祖』には別になりたくはないのだ。
「にしたって、私以外ってどういう事だ?ママさんは店持たないの?」
「私はほら・・・オーナーからあの店を引き継ぐから」
「おお!それは朗報だな。遊び場が残って良かったぜイテテテテ!!」
いつの間にか後ろに立っていたナナに耳を引っ張られるドモン。
「わかってるでしょうね?ひとりで行くのは禁止だからね?」と言いながら、隣にドスンと座った。
「あ!そうそう!そのオーナーがね、貴族様達のお屋敷の方にいるからあとで来てほしいって。保育園の話で相談があるみたいで、言伝を頼まれていたのよ」
「もう~・・・」
あとで屋敷に行く用は確かにあったけれども、その用事が多すぎる。
ゴブリン達を送り届けて、グラや騎士や侍女達に給金を渡してすぐに帰るはずが、そんな訳には行かなくなってしまった。
「チッ!そしたらもう行くかぁ。途中で長老達の買い物に付き合ってから屋敷に行こう」
「長老さん達に伝えてくるわ!」ドモンの言葉でナナが席を立つ。
「大工達にも伝えてくれ。出かけるから給金は明日以降持って行くって」
「わかった!」
「ママさん達にもまた今度連絡するよ。ええとどこに・・・」
「スナック街が出来るまでは、まだあのお店にいるわよ。今度は仮店舗じゃないので時間かかるみたいだし」
「ああそっか。じゃあそっち行くよ。・・・ナナとサン連れて」
「アハハ!怒られないようにしてよ?ドモン君。ふぁあ~!さあ今日は帰って寝ましょうかね流石に」「そうね」
充実した顔で大あくびをしながら、ママさん達は帰宅の途についた。
入れ代わるようにヨハンとエリー以外のみんなが店から出て、テラス席へと腰掛ける。
サンだけが「先にビニールプールを回収してきます!皆様もう少々お待ちください!」と駆け出していったので、ドモンも手伝いにサンの後を追った。
保育園は荷物がまとめられ、もう完全にもぬけの殻の状態。
スナックもゴミや空き瓶、空き樽などが一箇所に集まり、残ったお酒や食器や魔導コンロなどが木箱に詰められ荷車に積み込まれている。
あんなに賑やかだったスナック街がすっかり静かに。
まるで朝を迎えたすすきののよう。
「御主人様~あの~・・・」
「どうしたサン」
「ビニールプールを畳みたいのですけど・・・お、お手伝いをお願いしても宜しいでしょうか?」
「フフ、ああいいよ。きちんと乾かしたか?そうじゃないとカビ生えちゃうぞ?」
「大丈夫です!確認しましたぁ!」
少しずつドモンにお願いが出来るようになってきたサン。
貴族はもちろん、侍女仲間にもほとんど頼み事をしたことが無いので緊張するのも仕方ないのだけれども、結婚をするのならばやはり慣れていかなければならない。
特に今夜はしっかりとお願いをしなければならないのだから。
「じゃあそっち持って。せーの!あ!逆だったかごめんごめん!こっちからと言ってたっけ」
「あぁん!だめドモンさん」
「・・・・」
「・・・・」
妙な空気になり、お互いについ意識してしまう。
バササとビニールプールを畳みながら、「ド、ドモンさんが私をベッドに運んでくださったのですか?」と平静を装いサンが質問した。
「ああ昨日か?俺が運んだんだよ。だってサン、お尻丸出しのままカールに抱っこされてみんなに見られてたからイヒヒ」
「もう~・・・ドモンさんも見たでしょ~?」
「あ、ああ・・・まあそりゃ・・・み、見えちゃったついでというかなんというか」
しっかり撮影までしてたとは絶対に言えない。
「まあドモンさんなら別に構わないですし、それにサンはドモンさんのものだから、ドモンさんが私の裸を見せたかったのなら私のことを好きにしてくれてもいいのです・・・恥ずかしいですけど」
「な、何言ってんだよサン」
以前長老がナナに言っていたことを思い出すドモン。
サンもまたナナが『ドモンがそうしたいってことを私達がしてあげたいと思ってるのよきっと』という言葉を思い出し、ドモンの望みを叶えようとしていた。
全てはドモンが思うままに。
「そんな事考えてないってば!た、多分・・・」
「ウフフ。それでドモンさんは興奮しちゃいましたか?」
「う、うん・・・」
いつになくグイグイと迫るサン。
3つ目のビニールプールを片付けている時にはもう、ラブホテルの入り口で手をつないでどの部屋にしようかと悩んでいるカップルかの如く。
夜に向けて期待が高まりドモンの鼻息は荒い。盗撮の件で昨夜ナナにこってりと絞られたというのに。
もちろんそれはサンも楽しみであったし、望みでもあった。
だが、サンには確かめなければならないことがあったのだ。ドモンと王都に行く前に。そして結婚する前に・・・。




