第242話
「はぁぅぅん!ドモンよぅ~!これじゃわたしゃすぐに逝っちまうよぉ!」
「いやそれ漢字の方だろうなまったく・・・。それにしても俺っておばあ・・・年上のおねえさまも結構行けるんだな。どうなってんだよ俺のストライクゾーン」
幸せそうな顔でぐったりした年上のおねえさまをお姫様抱っこをしてテーブル席の椅子に運びながら、何かを元気にしてしまったドモンが自分の性欲に呆れた。
そうしながら気がつけば時はもう深夜の二時。閉店の時間となる。
飲み足りない、遊び足りない者達は、まだ営業を続けていたスナック街の方へと流れ、もう朝まで楽しむつもり。
祭りをオールナイトでやっていいかと聞きに来たママさん達に「好きにしたらいいよ。みんなまだまだ元気みたいだし」と、ドモンが勝手に許可を出したのだ。
グラや騎士や侍女三人、園長や保育士達が帰った後、本日の売上の確認をするヨハンとドモン。
みんなの給金は明日支払う予定。
エリーとナナとジルと長老は、他人には見せられないくらいの格好でテーブル席の椅子でごろ寝。ザックはカウンター席で突っ伏している。
「ドモン・・・どうすんだこれよ・・・」
「税金って収入によって3割から4割くらいだったよな?だとしても・・・」
カウンターには山積みになった金貨や銀貨。
金貨が十枚で日本円にして約百万円の価値があるが、その十枚にまとめた金貨の塔が30以上ある。
日本円にして3千万円。
そしてそれよりも凄いのが銀貨の山。
百枚で金貨一枚の価値だが、どう見ても1万枚を越えていて、数えるのがものすごく面倒なレベル。
結局ヨハンの店は一晩にして、金貨420枚分、日本円にして約4200万円の売上を上げたのだった。
ドモンが借用書を燃やしていなければ7200万円だったという事実。
今となってちょっとだけ後悔するドモン。
「やっぱりエリーが一番か」と帳簿を確認しているヨハンに問うドモン。
「いや・・・一番はサンだ」
「へ?!」
途中から加わり、更に途中からずっと寝ていただけのサンがまさかの一位。
僅差でエリーが二位で、ナナを含むその他は少し離されてのどんぐりの背比べ状態。
ただ三位以下もものすごい売り上げだったのは間違いない。全員頑張った。
「なんでサンが???」とドモンも不思議に思い、後日全員に聞き込みしたところ、サンは一度も「奢って」というようなことを言っていなかった事がわかった。
可愛いサンが制服姿で「いらないです・・・」と言えば、どうしても飲ませたくなるのが男の心情。
無理やり飲ませようと男達はこぞって奢り続け、その度に仕方なくちびちびとサンは飲んでいたが、結局酔いつぶれてしまい、下着を脱いだはしたない姿を見せることとなった。向かい側に座る男達は心でガッツポーズ。
ゲーセンでナナがハマった沼と同じように、男達はサンの沼にハマったのだ。
男達みんなでサンに一杯奢っては数滴の酒を飲ませ続け、少しずつ少しずつ酔わせて、徐々に大胆になっていくサンに興奮しながら・・・。
なお、その肝心のサンはと言えば「あれぇ?!朝ですぅ??!」と言いながら翌日目覚めたように、その間の記憶は全く無かった。
明朝、午前九時。リビングに皆集合。
「ええと、結局税金だの仕入れにかかった金額だのを差っ引いて、昨日の純利益は金貨280枚ほどになった。そして一位はサンで、これが給金の金貨38枚」とドモンが手渡し。
「はぁ・・・え?えぇ?!はっ?!」
「収支から計算した結果、分け前がこの金額になったんだよ」
ほぼ酔って寝ていたサンが一晩で稼いだ額、日本円にして約380万円。
まだ頭が理解できていない。
「エリーが金貨32枚で二位だよ」
「ええ~?!私もそんなにあるのぉ???」
エリーも金貨を手渡され目を白黒。
スナックで貰った給金と合わせれば二晩で金貨44枚を稼いだことになる。一般的な平均年収の2倍以上であった。
「次がナナで金貨13枚ってとこなんだけど、ここからは大体みんな同じくらいなんだ。サンやエリーに比べたら少なく感じるかもしれないけれど、この二人が異常だと思ってくれ」
「それはみんなわかるわよ。だって凄かったもんお母さん。サンも凄いとは思っていたけど。みんなサンに飲め飲めってしつこいくらいに男達がお金出していたもの」とナナがヤレヤレポーズ。
「で、提案なんだけど、残りはみんな金貨10枚ずつってことにしてくれないかな?ナナは納得出来ないかもしれないけれど、ここは仲良く分けてほしいんだ」
「まあそういうことなら仕方ないわね。そもそもが一晩で金貨10枚なんて十分すぎるよ」
ドモンの言葉にナナも快く了承した。
ただ実際の売り上げは、実はドモンが第三位である。それもエリーと僅差での。
借用書を燃やしていなければ当然ダントツの一位。
その上、実はお客の女性達に、何度もお金を返していたのだ。
「それは多すぎるぞ」と優しく諭しながら。
その代わりにこっそりおっぱいを揉んでいた。
「あとはグラや騎士を含む手伝ってくれた人に分けて、残りは大工達や鍛冶屋に渡そうと思うんだけど、みんなそれでいいか?」
「私達は良いわよ。長老さん達は?」とナナ。
「十分でございます!金貨どころか銀貨十枚でも私達にとっては多いくらいでございますから」
ウンウンと頷いたザックとジル。
そもそもお金とは縁がなく、その価値に対してピンときていない。
金貨一枚で小麦粉を約500キログラム購入可能だと説明され、ようやくその価値がわかった。
はっきり言って、その500キログラムという量もわかってはいなかったが。
「金貨一枚だと、ゴブリンの村で御主人様が広場に持ってきた大きな小麦粉の袋が17袋買えるくらいの価値ですよ」とサンに説明されて目を白黒。
ゴブリンの三人がお金を合わせれば、あの小麦粉の袋を500袋以上買えることがわかり、「あわわわわわ」と金貨を持つ手を震わせた。
贅沢さえ言わなければ、2年位はゴブリン全員が食いっぱぐれしない計算。それを一晩で稼いだ事を知った。
「で、一位はさっきも言った通りサンなんだけれども、今更賞金とか貰っても仕方ないだろ?」
「はい。これ以上貰っても困ります・・・もう困ってますが・・・」
「という事でサンには『俺と一晩を共にする権利』を差し上げまーす」
「え?!」
当然ドモンの冗談であり、要するに競争はなかったことにしてくれという意味である。
流石のナナですらそれが冗談だとわかっていて「それ、お父さんが優勝してたらどうするつもりだったの?」とクスクス笑い、「そりゃ一晩中俺の腕枕の中で頭を磨いてやったさ。太陽がもう一つ出来るくらいピカピカに」とドモンが更に冗談を言い返して、ヨハンとエリーを笑わせていた。が・・・
「ほ、本当に宜しいのですか?!」
「へ?」「え?!」
予想外のサンの返事に驚くドモンとナナ。
長老とジルが普通にサンを祝福し、今日の夜、ドモンはサンの部屋で寝ることになった。




