第241話
「さてカルロスよ、迎えも来たところでそろそろ戻ろうではないか」
「はい」
馬車に宝箱を乗せた騎士達がやってきて、義父が立ち上がった。
馬車にはビニールプールで遊んでいた屋敷の子供達もすでに乗っている。
「ではエリー、これが今夜の支払いだ」
「ええ?!ちょ、ちょっとぉ・・・」
小袋に詰まった金貨をすべて渡した義父。そしてカールや叔父貴族も同じように。
ドモンの視線を感じたエリーが小さな声で「また怒られるわよ?」と囁いた。
「いや・・・これは私達の勉強代だ。高くついたがな」と叔父貴族。
「もう奴の意に沿わぬことはやらぬと約束する故、受け取ってくれ」と義父。
エリーがチラッと横を見ると、ドモンは素知らぬ顔。
素知らぬ顔ということは、受け取ってもいいという事。
「良い街にせねばならぬ。楽しく暮らせる街にせねばならぬ・・・世界中の国と手を取り合ってな」
カールはドモンにも聞こえるように、そして自分にも言い聞かせるようにそう言って店を出た。
「ドモンさん座って!」とエリーがドモンの袖を引っ張る。
「いや次の客入れてやらないと」
「ドモン様!お願い致します!少しでいいですから!」と長老。
「外の奴らが可哀想だろ」
渋々二人の間に座ったドモン。なんだかものすごく怒られそうな雰囲気でソワソワ。
よく考えてみれば、飲み代として大金は貰ったものの、さっきみんなの許可なく金貨300枚の紙を燃やしてしまったのだ。
店を改築したいとか、スナックのような店を自分も持ちたいといったエリーの夢もあったかもしれない。
村の子供達が飢えないように、沢山の食料を買いたかったという気持ちも長老にあったかもしれない。
とりあえず受け取るだけ受け取って、後でどうするかを考えるべきだった。
義父に説教をした後でも良かった。
やっぱり逃げようと考えて立ち上がろうとした瞬間、ドモンの全身があまりにも気持ち良すぎるムニムニに包まれることになった。
「ドモンさんごめんね!そしてやっぱり貴方は素敵だわ!」ドモンの腕に絡まるエリー。
「ドモン様が思うようにしてくださってかまわないのです!あぁ~・・これからも私達をお導きください」ドモンの脚に太ももを絡ませながら抱きつく長老。
ふたりとも全てが丸出しで、ドモンは突然幸せの絶頂に。
だがすぐに我に返る。目の前にナナが立っていたからだ。
しかしそのナナもドモンに跨って大人なキスをし、ジルや侍女達、園長達も「素敵でした!」と抱きついてきて、ドモンはこれが夢だったのだと悟った。
「いや、夢じゃないから早く手伝えドモンよ」と、エリーの声で覗きに来ていたヨハン。
「あーあ、すすきのでもこのくらいモテてたら良かったのになぁ」
サンキューキャバクラ。フォーエバーすすきの。ようやくドモンもその雰囲気を少しだけ堪能。
まだチュッチュとキスをしていたナナをどかしながら、ドモンは外へ行って次の客を招き入れた。
カウンターでは全ての話を聞いていた貴族の奥様達が、反省しながら溜め息をついている。
女性客は男性客よりも基本少なめなので、残ることを許可していたのだ。
「独り占めよりも競い合えでございますか・・・本当に素晴らしいお考えですわ」
「私達はどうしてもお金で解決しようとしてしまいますし、その為に余計にお金を手に入れようとしてしまう・・・それが醜い争いを生むのですね」
「本当ですわ」
「ええ・・・」
「だーかーら!そんな辛気臭い顔しながら飲むなっての!人に反省は必要だけど、今日はお祭りなんだから!さあこの酒を飲むのが一番遅かったやつの支払いだぞ?更に罰として俺がおっぱいを揉む」
タバコをギュッと灰皿で消しながらドモンがとんでもないことを言い出した。
「え?!」「え?!」「え?!」「え?!」
同時に驚いた奥様達のグラスになみなみとワインを入れて、「始め!」とドモンが手を叩きスタート。
左手をきゅっと握りながら、目を瞑ってコクコクと必死に飲み続ける奥様達。
見ていた周りの女性客達もヤンヤヤンヤと盛り上がる。
「ま、負けましたわ・・・」グラの奥さんがフゥと溜め息を付きながら、小さなバッグから金貨を一枚出し、「皆様にも飲み物を差し上げてください」とニコリと笑った。場は更に大盛り上がり。
「じゃあ早速罰として、グラの奥さんのおっぱいを揉みまーす」自分の都合の良い約束は忘れないドモン。
「待て待て待て!!待てドモン!!何を言っている?!」とグラ。
「仕方ないのです。これも約束なのですから」と頬を赤く染めるグラの奥さん。
「お前まで何を言っているのだ!うわぁ!!」
テーブル席の女性客達に「まあまあ座ってくださいましウフフ」と抱きつかれ、身動きが取れないまま、ドモンの餌食になる妻の姿を見たグラ。
なのにヨハンと同様に何故かうっかり興奮してしまい、ひとりの女性客と抱き合ってしまった。
更にそれを見ていたグラの奥さんが嫉妬に狂い、グラに見せつけるようにドモンとキスをしたことによって、ドモンはナナのお尻の下敷きとなり、一年後、グラ夫妻に第二子となる男の子が生まれることとなった。
「まったく!何の騒ぎかと思って様子を見に来たらあんたって人はっ!!」
「仕方ないだろ、成り行きでそうなっちゃったんだから。しょんぼり飲むよりマシだろ?」
「じゃあ私も入れなさいよ!その競争!一番遅かった人の胸を揉むのね。わかったわ」
「いや、それはあくまでおまけと言うか冗談だったんだってば・・・」
不貞腐れながらカウンター席にドスっと座ったナナ。
渋々ドモンがグラスにワインを入れていると、「あのぅ~私達もやりたいです」「私もいいかしらぁ?」と他の女性客達も参加。
「わかったよ。もうどうなっても知らねぇぞ?はい、用意始め!!」
ドモンの掛け声によりまた早飲み大会がスタート。カールとグラの奥さんは今回は不参加。
固唾を飲んで見守るグラやヨハン、そしてドモン。
そしてそのまま一分が経過した。
「いや飲めよ誰か・・・こんなに俺におっぱい揉まれたいやつがいたなんて俺もびっくりだよ」
グラの奥さんが幸せそうに悶絶する姿を見てしまった女性達は、この薄暗いスケベな雰囲気も手伝って、ただただ興味津々だったのだ。
それならば全員揉めばいい話だけれども、『揉みたくて揉むのと、揉めと言われて揉むのとじゃ訳が違う』と嫌がり、結局早飲み対決の優勝者だけが、みんなの前でドモンにおっぱいを揉まれるというルールに変更された。
呆れつつタバコに火をつけたドモンが「はい、じゃあ始め!」と掛け声をかけ、グイグイ飲み始める女性達。
ナナは絶対に負けられないと、ひっくり返るくらい仰け反りながら勢いよくワインを飲む。
その結果、ナナは第二位となった。
「はい・・・優勝はこちらのおばあ・・・おねえさまです・・・」
優勝者は近所でも有名な酒豪のおばあさん。
その結果に納得して接客に戻っていくナナ。
能面のように表情を無くしたドモン。
大悶絶し、少しだけ若返ってツヤツヤ顔になるおばあさんを皆、温かい目で見つめていた。