第240話
「来たついでにスマホも回収しておくかイヒヒ!あとサンのこの姿も撮影しておかないとならないな」
ベッドの上で丸出しなサンにニヤニヤしながら窓を開け、窓の外のスマホを回収するドモン。
だがしかし、肝心のスマホを立てていた三脚は倒れ、スマホは空の方を向いていた。
「ああクソ!風で倒れたか・・・でも少しくらいは撮影できてるだろ?」
スマホの画面を開き、五分おきにシャッターが切れるタイムラプス撮影のアプリを停止。そのままギャラリーを確認した。
「や、やったぜ!!」
ギャラリーには裸の女達が大勢写っていた。それにはドモンも大興奮。
勢いに任せて、酔って寝ているサンにスケベな事をしてしまおうかとも考えた。最低な人間、いや普通に犯罪者である。
「おほー!ここにも巨乳さんが!あ!これっていつも旦那さんと一緒に来てる気の強いあの奥さんじゃねぇか?!」
サンが寝ているベッドに腰掛け、そそくさとズボンを脱ぐドモン。
もうドモンの何かははち切れんばかり。
撮影したスケベ画像をスライドショーにして、スマホ片手にサンに抱きついていた。
「ん?」
その盗撮画像の裸の女性達の中に、ひとりだけ服を着て肩幅程度に足を開き、腕組みをしながらカメラを睨んでいる金髪巨乳美女の姿が写っていた。
一気にドモンのテンションが落ち、はち切れんばかりだった何かがすぐに萎む。
次の画像には、ツカツカとどこかに去っていく金髪巨乳美女の後ろ姿。
両手の握りこぶしが気になるところ。
「わっ!!うっわぁ・・・・」
次の画像には、ナナがドアップでにっこり微笑んでいる画像が残されていた。
額に青筋を立てながら・・・
その後は全て空の画像。
最後の方は綺麗な星空が撮影されていた。
ある意味タイムラプス撮影の正しい使い方。
そそくさとズボンを穿きながら「終わった」とドモンは落胆しつつ、サンの足を持って大の字に股を開かせようとしていたところ、突然寝返りを打ったサンの左足の甲がドモンの顔面を捉え、ドモンは倒された。その野望とともに。
でも一応数枚は撮影するドモン。憲兵の皆さんこっちです!と言わざる得ない。
「えーナナ様、こちら梅酒の炭酸割りです。現在世界で一品だけの逸品です。どうぞご賞味あれ・・・」
「やったぁ!どうしたのよ急に?」
「いやそのあの・・・ごめんなさい・・・」
「・・・あ!あれ気がついたのね。フン!あとで覚えてらっしゃい」
「はい」
ハイボール用に買ってあった炭酸で作った梅酒ソーダをナナに渡したドモン。
もちろんこれで許されるとは思ってはいないが、ここは少しでも機嫌を取ってダメージを減らしたい。
ついでに義父やカールにも約束の本を渡す。
「はいジジイ、米とか桃とか色んな植物の育て方の本。あとほらカールにも誕生日プレゼント。約束してた味噌と醤油とかの作り方の本だ。この梅酒に使われてる焼酎って酒の作り方とかも書いてあると思うぞ。さっきチラッと見たらこの梅の木の育て方も書いてあったよ」
「む!!!!!」「なっ?!」
気軽にポンと手渡され絶句する義父とカール。
今、手に持つのは、この世界の未来であり、唯一無二の貴重すぎる宝である。
この文献がどれだけの価値があるのかを各国が知れば、戦争が起きても不思議ではない。
その価値に値段を付けようとしても付けられるはずもない。世界の覇権を握ることも可能な本。
なにかの産業でひとつでも世界からリードを取ることが出来れば、その国が発展するというのは元の世界でも同じである。
自動車、半導体、料理や食物など。
これらの本には、その世界からリードを取るためのものが大量に記されている。
元の世界で例えるならば、飛行機も自動車も何もない江戸時代の人々に、その作り方を書いた本を渡したようなもの。
もしこれが王都にあるならば、王宮の地下奥深くに、何名もの騎士達と何重もの扉や結界で守られるべき秘蔵の書となっていてもおかしくはない。
このような本があり、ドモンがそれを提供してくれるとは言っていたものの、実際にそれを見た瞬間、そしてこの梅酒を飲んだことにもより、改めてそのとんでもない価値に気が付き、焦りに焦る義父とカールを含む貴族達。
「な、なぜこんな時にこんな大切な物を寄越すのだ!!馬鹿者!!」本を大事そうに抱えた義父。
「屋敷の!屋敷にある一番丈夫な宝箱を用意させろ!封印術師と一緒に今すぐにだ!!」カールも本を抱えながら立ち上がり、護衛として一緒に飲んでいた騎士達に大声で指示を出した。慌てて服を整え、店を飛び出した騎士達。
義父はすぐにカールとなにやらゴニョゴニョと話をし、頷きながら紙にスラスラとお互いの連名で借用書を書き記した。
そこにはこの店宛に『金貨300枚也』とある。
「ドモンよ・・・これが今夜の支払い、そして梅酒とやらの代金だ。娘の飲んだ分も含めておる」
「ブッ!!多いよ!多すぎる!大体な・・・これ本当は銀貨一枚くらいなんだってば」
とんでもない額を払おうとした義父に小声で元値を教えるドモン。
金貨20枚でもボッタクリもいいところなのだから、300枚はいくらなんでもやりすぎ。日本円にして3000万円。どこぞの昭和の映画スターですら、そこまでは払わないだろう。
「いやドモンよ、これは受け取って欲しい。この本や貴様の技術料も込みでだ。そしてこれは手付金の一部として・・・」
「ん?国で独占して儲ける気か?」
カールの言葉にドモンの顔が曇る。
すぐにナナ達もその雰囲気を察知し、神妙な顔つきで下を向いた。
「そ、それはだな・・・このようなものは簡単に手渡していいようなものではないであろう」
「前に言ったよな?馬車の時も。技術なんか売るつもりはないって。自由だと」
ドモンは知っている。
欲に目が眩んだ者達の悲しい末路を。利権争いによって生まれるその悲劇を。
「身の丈に合わないあぶく銭は身を滅ぼすぜ?」
ドモンはライターで借用書燃やし、その火でタバコに火をつけたあと、目の前の大きな灰皿に放り投げた。
借用書はチリチリと燃え上がり、灰と煙を残してすぐに消えた。
それを寂しそうに見つめるドモン。あとは無言の抗議。
それだけでドモンが言いたかった事は伝わった。
「・・・すまぬドモンよ。美味い酒と綺麗な女性達で浮かれておったわ・・・」と義父。
「私もだ・・・すまなかった」カールがゆっくりと椅子に座り直した。
「貴重なのはわかるけど、それでそこまで金儲けしたいわけじゃないんだよ。どうせなら俺は、みんながこれらを楽しめる世の中にして欲しいと願ってる。だからその本を託したんだからさ」
「うむ・・・」
「みんなに分けてから、それから競争するならいくらでもすればいいよ。俺の国の梅酒はもっと美味いぞ!俺の国の桃はもっと甘いんだ!と。奪い合おうとするな。独り占めもするな。ただ競い合え。より良くするために」
「しかと心に刻んでおこう」
ドモンの言葉で、今までカールも見たことがないくらいに落ち込む義父。
金のなる木を目の前にして、その眩しさに完全に目が眩んでいた。
同じ席にいた男性客達もその話に心を打たれ、ありったけのお金を置いて、ドモンに頭を下げてから店を飛び出していった。
ちなみに後日、その話を聞いたドモン行きつけのパン屋が、他のパン職人達に湯種を使ったパンの作り方の講座を行ったことにより、たった数年の間でこの世界に、柔らかで美味しいパンが広まっていくこととなった。
切磋琢磨で競争し合うこと十数年、元の世界の高級パン屋でも味わえないような美味しいパンが食べられるように。
いつしかドモンズブレッドと名付けられたそのパンは、適正な価格で売られ、一般庶民の食卓のお供となった。