第239話
ドモンがトレーに梅酒のロックをいくつか乗せながら、男性客側の仕切りの向こうへ行くと、日が落ちたのも手伝い、元々薄暗かった場所がますます怪しい雰囲気を醸し出していた。
女性客達を迎え入れた方は、厨房やカウンターからの灯りがあるため、まだこちらよりもずっと明るかったのだ。
ナナが園長と保育士仲間達まで引き込んで女性の割合が増えた事もあり、スケベな熱気も倍増。
園長はそもそもこっちが本業で、エリーも驚くほどの接客ぶりで男達を喜ばせ続けている。
そのスケベな店の常連でもあった保育士達もまた然り。ナナに着せられたスケベな服を存分に着こなし、男性客達に大散財をさせていた。
だが、男達は皆これ以上ないくらいに幸せそうな顔。その様子はまさにすすきののキャバクラ。
それを見たエリーや長老も火がついて、そこまでしていいのなら私達もと、ものすごい格好でカールの義父や叔父貴族ら相手に接客し、皆の思考を狂わせている。そして、負けず嫌いのナナも当然・・・
「ナナ・・・お前、その上着の下はどうなってる?!」ナナのそばに行き、小声で話しかけたドモン。
「取っちゃった」
「取っちゃったってお前・・・は、裸にそのジャケット一枚で・・・」
「暗いし、見えそうで見えないでしょ?ねー?だからもう一杯奢って?」隣の男性客にねだるナナ。
ドモンが冗談で言っていた『下着をつけずに接客』どころの話ではなかった。
ナナはブラウスまで脱いでしまい、上半身は胸元の開いた短めのジャケット一枚という状態。
谷間は当然の事、腰回りやへそも丸出し。
肝心の先っぽは、大きな胸でジャケットをパンパンに張らせていることで、何とか引っかかって隠せている。
サンなら、いや、控えめな胸の人なら隙間ができて、あっという間に先っぽがこんにちは間違いなし。
「し、しし、下は取ってないだろうな?」
「穿いているわよ~!お母さんや長老さんじゃあるまいし。でもケーコさんと買ったスケベな例のあれだけどねエヘヘ」
「それなら良か・・・ん?今エリーと長老って・・・おいおい本当にやっちゃったのか」
「あとほらサンも」
セーラー服姿のサンを、抱っこのポーズで抱えながら酒を飲むカール。
しゃがみながらナナと話していたドモンから見ると、スカートの下からチラチラと綺麗な白いお尻が見え隠れしていた。
「ちょちょちょ!!カールこのスケベ野郎!!何やってんだよ!!」
「イッ!!誤解だドモンよ!」
つかつかと歩いてカールの後ろに立ち、頭を引っ叩いたドモン。
「これドモンよ、サンは貴様がそばにいないからと、泣きながら自らカルロスに抱きついて寝てしまったのだ」義父が助け舟を出す。エリーの肩に手を回しながら。
「少し酔っておられましたし、それになんとなくドモン様とその雰囲気が似てると思ったのでしょう」とそばにいた長老もそう説明した。
「チッ!・・・にしたって、下着も穿かせずに膝の上に抱えるなんて・・・」ブツブツ文句を垂れるドモン。
「ブッフォッッ!!な、なんだとぉ?!」
激しくむせながら、腰の辺りに回していた手を慌てて離し、今更無実を証明しようとバンザイをするカール。
「えぇ?サンちゃんったら、さっき用を足した時に脱いできちゃったのかしらぁ??」くすくす笑う酔ったエリー。
「ああ~!そういえば先程トイレに下着が落ちてましたけど、あれはサンドラの物だったのですね。汚れていたので片付けてしまいましたが」と、ナース姿の侍女三人組のひとり。
「私達の方からは何回か見えてたわよー」と向かい側にいたナナが笑い、何名かの男性客が目をそらして誤魔化していた。
「とにかく!じゃあそのまま抱えていてもいいから、サンの尻をそれ以上持ち上げるな。全部見えちまう」
「う、うむ」
「私の上着を腰に巻いておいてあげるわよ」
「ありがとうエリー」
脱いで椅子にかけてあった自分の上着をサンの腰に巻くエリー。
中腰でお尻を突き出し「よいしょうんしょ」とやるだけで、お酒がまた飛ぶように売れた。
「ところで貴様が手にしているその酒は何なのだ?」と義父。
「おおそうだそうだ。いやこれさ、向こうで俺が買ってきた梅酒ってやつなんだけど、本当は出したくなかったのにカールの奥さん達と他の客が金出し合って、無理やり飲ませろって言い出して」
「それがどうしたというのだ?」
「金貨20枚と銀貨数十枚でひと瓶売って飲ませたんだよみんなに」
義父とカール達貴族の前にとんとんと梅酒を並べるドモン。
「そしたらジジイに相談した方が良かったって青い顔しだしちゃってさ。だから持ってきたんだよ。なので値段はそっちで決めて買ってくれ」
「何だというのだその酷い押し売りは」
義父は呆れながらグラスを片手に持ち、その匂いを嗅いだ。
正直さっさとドモンを追い払い、エリーと酒を楽しみたい。そう思っていた。
そしてそれはドモンも同じ。
異世界では貴重な酒で、今は高く売れるという事もわかったけれども、所詮はいつも飲んでるチューヤの梅酒である。
そんなものでいちいち騒がれるのも鬱陶しいし、さっさと女性客達と戯れたい。何なら男性客として、ここに座って一緒に飲みたいくらい。
「またか・・・それにこの香りを嗅げば、あいつらもこれがどんなものかくらいわかるだろうに・・・ハァ・・・」
またもやドモンがとんでもない物を持ってきた。
あの桃の酒を越えるほどの芳しい香り。
ドモンがどう思っているのかは知る由もないが、当然この世界では信じられないくらいの価値があるのは一目瞭然。
それを『その程度の金額』で娘らが無理やり奪い、一本消費したという事実に大いに呆れる義父。
「何これドモンさん!ここまでいい香りがするわよぉ?!あぁ~」義父の身体に何かを押し付けに押し付けながら、スンスンとその匂いを嗅ぐエリー。
「これは・・・成人した女性にとってはひとたまりもないですね・・・」と叔父貴族が手に持つ梅酒の匂いに、完全にやられた長老。
「あっちでも『これは魔酒』だと女達が騒いでいたよ。いやただの梅酒だってのハハハ」
「だからその梅とは何なのだ・・・」
嗅がせろ飲ませろとうるさいナナに渋々一杯梅酒を渡し、ドモンが梅酒の入っていた瓶を厨房から持ってきて、義父達に見せる。
瓶の中にはゴロゴロと梅の実の粒がまだ残っていた。
「こ、これが梅の実か?!」とサンを抱っこしたまま、興味深げに瓶の中を覗くカール。
「そうそう。これは青い実だから食えないと思うんだけどさ、こうやって入れると酒が美味しくなるんだ。それにこれを浮かべて飲むとなんとなく情緒があるだろ」
ドモンが一粒取り出し、義父の梅酒ロックの中へとポイッと放り込んだ。
「ば、馬鹿者!!す、すぐに取り出し保管しろ!!」義父の言葉に慌てて梅の実を取り出す貴族のひとり。
「やっぱ珍しいものなのか?桃の時よりも大騒ぎだな。これが異世界転生少年達が胡椒をギルドに持っていった時の気分なのかアッハッハ」チューヤの梅酒の中の梅で皆大騒ぎをしていて、ドモンは大笑い。
「ああ~・・・どうして言ってくれなかったのよこんなお酒があるって・・・そしたらもっと買ってきてもらっていたのにぃ!!」
「一応5~6本は買ったぞ?まあその内の二本がたった今無くなったところだけど」
「もう~~!!どうして出したのよっ!!!バカね!!!」
ナナが足をジタバタしながら文句を言い、梅酒ロックを一気に飲み干した。みんなに「少し飲ませて」と言われる前に。この辺りがまたまだ子供とも言える。
義父や貴族達もナナに続いて味見を始めた。
ある意味想像通り、そして想像以上。
とんでもないと思われるものがとんでもないと思われる味わい。
エリーや長老や他の女性達にも男性陣が一口ずつ飲ませて全員を喜ばせ、そして狂わせていった。
「あぁ~・・・ねぇもう一口だけくださいな?ね?お願いよぅ~」
「う、うむ」
「エリー!出ちゃってる出ちゃってる!!出ちゃってるってば!!バカバカ!お前達まで何脱ごうとしてるんだよ!長老も色仕掛けで飲もうとしない!!」
少しだけ暖房を焚いている店内で、火照った身体を曝け出しながら、もう一口を飲もうとする女性達を必死に止めるドモン。
その威力はまさに魔酒。
「サンも飲むー」
「はい!サンはこっち!!」
サンが目覚めてこうなることを予測していたドモンが、水で割った梅酒を渡す。
カールの膝の上でそれを飲み、「ふぁぁ~」と喜びの表情を見せながら、座ったままぴょんぴょんと跳ねた。
結んでいた袖が解けて、腰に巻いていたエリーの上着がずり落ち、スカートは反対にずり上がってしまうサン。
「ダメダメダメ!!これじゃキャバクラじゃなくてセクキャバじゃねぇか!」
大慌てでカールから丸出しになってしまったサンを受け取り、ドモンが抱えて二階のサンの部屋のベッドまで運んでいった。