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第238話

表に出たドモンを待っていたのはヤンヤと盛り上がる客達。

男も女も皆並びながら、飲み物片手にニコニコと談笑していた。


談笑相手はまさかのカールの義父。そしてカールを含む貴族達と奥様達と護衛の騎士達も。


「何やってんの??」

「何とはなんだ。並んでおるのがわからぬか?」テラス席の椅子のひとつに腰掛け、フンと鼻で笑う義父。


「いやそりゃ並んで偉いよと言いたいところだけども・・・王族と貴族が行列に並んでるの見たら、誰だってそう思うだろ」

「決まりを守らなければ楽しめるものも楽しめないだろう」カールは少し前に義父が言った言葉を、そのままドモンに伝えた。


並んでいた客達は当然譲ろうとし、カール達も当然それを受け入れようとした。

普段なら「よいよい」と素直に並んでいただろうけれども、王族である義父がいる場合話が違う。

だがそれを止めたのがその義父本人だった。


そして外で売っている酒やジュースを周りの者に買い与え、それも当然のことだとし、そのまま領民達と談笑していたのだ。


カールも領民の為に働き、尊敬をされている立場だけれども、王族である義父はそれよりも更に一枚上手。

わがままで自分勝手だが、ドモンと同じようにみんなの事を考えている。


それ故にあの時『ドモン討伐』を目論んだのだ。それは結果的に間違ってはいたが。

家族のため、領民のため、自らがその先頭に立ったのだ。


最終的に何かの事情を感じつつもドモンを受け入れ、王族であるというのに一庶民であるドモンに頭まで下げ謝罪をしたその度量には、内心ドモンも尊敬していた。

もし自分が反対の立場なら、きっと笑って誤魔化していただろうなとドモンは思う。先生が生徒に「私が間違っていました」と頭を下げるよりも、更にずっと重いものだからだ。



「エリーでも呼ぼうか?」義父の横に座ったドモン。

「いやいや。それでは店に入った時の楽しみが減るではないか」

「そうか。でも身体冷やして風邪引くなよ?今時期はもう夜は寒いからな」

「ハッハッハ!心配は無用だ。貴様はさっさと店に戻れ。今いる客達もそれを楽しみに並んでいたのであろうからな」

「うん」


ドモンはこの世界に来て、初めて親友と呼べる者が出来、人生の伴侶を得て、そして尊敬が出来る父親を持った。

これらをドモンは必ず守ると心に決めた。




「あなた達、先程のように羽目を外しすぎませんように!お父様もですよ?」

「わかっている」「わかっておるわ」


義父達の入店の番となり、入り口でカールの奥さんに釘を刺される男性陣。

とはいえ、奥様達もそれなりに楽しもうとは思っており、そこまできつい感じの言い方ではない。


「あ!あなた!いやだわもう~。先程は気が付きませんでしたが、こんなになっていただなんて」と接客中のグラに話しかける奥様。

「ん?グラの奥さんだったのか」

「えぇ?今知ったのですか?!ドモン様ったら!」

「いやぁごめんごめん。俺、顔も名前も覚えるのが苦手で」


いい感じに出来上がったグラは女性客らにチヤホヤされ、デレデレとした顔で女性の肩に手をかけ、もうどちらが接客しているのかわからないような状態だった。

まさに一般庶民が考える『貴族ってこんな感じなのではないだろうか?』のど真ん中。

ただ女性達にはかえってそれが好評だったためそのままで、いや寧ろ、普段よりも貴族らしい偉そうな話し方で相手をしていた。


そんな様子に呆れているグラの奥さん。



そしてスケベ騎士達ふたりは、貴族の奥様達を見てカチコチに緊張しだした。

それまでの酔いがすべて吹き飛びそうになるほど。


「今日はひとりの客として接客していただけるかしら?私、あなた達とこうして一度、お酒を飲みながら語らいたいと思っていたのよ?」

「は、はい・・・」

「私も!少しだけお身体の方を見せていただいても宜しいかしら?」

「はい・・・それはもうお好きに」


先程二階で飲んだ他に、スナック街にて義父達を見つけついでに一緒に少しお酒も飲み、いい感じに仕上がっている奥様達。

奥様ふたりが騎士のひとりを挟んで座り、そのテーブルにいた女性客達にお酒と料理を大盤振る舞い。


「光栄です!ありがとうございます!」と喜ばれ、調子に乗った奥様達は騎士達を下着姿になるまで脱がせ、そのテーブル席にいた全員できゃあきゃあと盛り上がった。



カウンターでは、ドモンとヨハンがカールやグラの奥さんの相手をする。

今日一日でお金持ちのお嬢様や奥様達の相手もたくさんしてきたけれど、やはり貴族の奥様達の気品は一味違う。

横に並んで話す時にはそれほど感じなかったが、カウンター越しに真正面に立つと、その迫力に圧倒されてしまった。


「こりゃまいっちまったなぁ。俺なんかじゃ奥様達のお相手は出来ませんよ」とヨハンが頭をペチンと叩く。

「ウフフ、そのままでよろしくてよ。こうしてみると可愛らしい目をしていらっしゃるのね。言葉遣いは荒くても優しさがにじみ出ていましてよ?」とグラの奥さん。

「確かにそうですね。エリーさんが貴方を選んだ理由がわかりましたわ」とカールの奥さんも頷いた。


「何をおっしゃるやら。勘弁してくださいなハハハ」

「こんなピカピカなのに案外モテるんだぜこれで」


「おいドモン!エリーと知り合った頃はまだフサフサだったんだこれでも。大体だな、ドモンやカールさんの方がおかしいんだよ、フサフサのままだなんて」

「ドモン様はカルロスよりも、いえ、私達よりも髪の毛が多いですわよね?!失礼かもしれませんが、とても年上の方だとは思えませんでしたのよ?私。異世界の方は皆そのような感じなのかしら?」

「いや、向こうでもよく言われてたよ。『今年で50だ』と言ったら『年上だったんですか・・・』って。馬車屋のファルもそんな感じだったぞ最初」


ドモンも交えて話が弾む。カウンターに並ぶ女性客達も話に加わり、やはりこちらも大盛り上がり。


「フフフ・・・ドモン様、皆様に一番お高い異世界のお酒をご用意していただけるかしら?もちろんあなた達の分も含めて」とカールの奥さん。

「一応向こうで買ってきた酒も用意してあるけど、量に限りがあるからかなり高く見積もってるぞ?正直俺も出したくないんだよ」ややドモンも渋い顔。こういう事もあるとは思ってはいたが、出来る限り自分達で楽しみたい。


「それをお願い致しますわ!今日はお祭りでしょう?お願いよ!」

「私からもお願い致します!こちらで足りますでしょうか?」


綺麗で小さな肩掛けバッグから財布を出し、金貨を10枚ずつカウンターに置いた奥様達。


「いくらなんでもダメだぜこりゃ!なあドモンよ」

「多すぎだってば!それにある意味俺に取っちゃ貴重な酒でさ・・・うーん」


ヨハンは金貨を見て驚き、ドモンは好きな女を酔わせる時によく使っているお酒だったので、出来れば今は出したくはなかった。ナナと喧嘩した時の機嫌直しにも使えるはず。


「貴重ならばこのくらい出す価値がありますわ!もしまだ足りないんでしたらお父様にお借りしてきます!ね?お願いよ!」


ヨハンとドモンがやんわり断るも、それが反対に火をつける結果に。

私達にも出させて!と他の女性客達も銀貨をごっそり山積みにされ、渋々出すハメになってしまった。


「一杯だけだぞ?その約束は守ってくれよ?」

「ありがとうございます!!もちろん約束はお守りいたしますわ!」


「ほら、これが梅酒のロックだ」


ボールの形に削った氷をグラスに入れ、金色に輝く梅酒を注ぐ。

もちろん何本かはストックしてあるが、その内の一本がこの瞬間に消えてしまった。


「梅・・ですか?なんでしょう??」


梅を食べる習慣がないのかそもそも梅がないのかはドモンには分からないが、とにかく女性達は全員初めての体験。


「この香り!!素晴らしいわ!!!」

「ちびちびと飲むんだぞ?もったいないというのもあるけれど、結構キツイ酒だからなこれも。あ~やっぱり美味いな梅酒は。懐かしい」


その独特な甘い香りに目を瞑り堪能する女性達。

ドモンは説明するなり一足早く一口含む。


ドモンが小学校に上がる前の小さな頃、梅酒をひとりでほとんど飲んでしまい、祖母が「蓋閉まってなかったのかしら?」と不思議がっていたのを思い出す。

お酒は二十歳からだが、梅酒はドモンの中ではジュースの扱い。


「うわっ!!なんだこりゃあ!!すごい酒だなドモン!!」次に飲んだヨハンが叫ぶ。

今すぐエリーに飲ませなければとカウンターを飛び出しかけたが「エリーの分くらいは取ってあるから」とドモンに言われて元の場所に戻った。


「ああ~」

「これが・・・お酒だというの?」

「これは魔酒と呼ばれるものでは??本で読んだことがありますわ!」

「うぅぅ・・・こんなお酒を私がご馳走になって宜しかったのでしょうかぁ~」


女性達もようやく梅酒を口にし、感動を越えすぎて大混乱中。


「あの・・・ドモン様、これはもしや・・・この金額で飲んでしまってはいけないものだったのかもしれません・・・」グラの奥さんは、その味に感動しつつも顔は真っ青。

「・・・お父様に相談した方が良かったかもしれませんね。しかし今となってはもう・・・」カールの奥さんがもう一口ちびりと口に含み、ただただ唸った。


「そんな深刻に考えるなって。あっちの世界じゃ焼酎と呼ばれる酒にその梅って実と砂糖を入れて、各家庭の婆さん達がみんな作るもんなんだよ。美味しいだろ?ハハハ」

「その焼酎と呼ばれるお酒も梅と呼ばれる実も、手に入らない物ですから貴重なのですよ・・・」


いくら美味しい珍しいと言っても、度を越せば流石に躊躇する。

そう説明され、向こうで言うならば、絶滅危惧種のトキが美味しいからと料理で出されたようなものかとドモンもなんとなく無理やり納得。


仕方ないので義父と貴族達の分だけまた梅酒のロックを作り、ドモンが持っていくことになった。




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