第237話
「ダメよダメぇ!指を入れてかき混ぜないでぇ!ああん濡れちゃうわよぅ!」
エリーの声も聞こえ、ヨハンもビクッと反応。
「そ、そんな大きなものを入れては裂けてしまいます!あぁ・・・!」という長老の声も。
「ヤメてぇ!死んじゃうぅぅ!!くぅぅ!!」ジルの悲痛な叫びまで聞こえだした。
「だーかーら!汚いからそんなとこ吸っちゃダメって言ってるでしょ!あん!ほらまた濡れちゃったじゃない!」ともう一度ナナの声。
「おいおいおい・・・ドモンよ」焦るヨハン。
「え?嘘だろ??」とドモンも思わず椅子から立ち上がり、サンが「私が様子見てきます!!」と慌てて男性客用の部屋に飛び込むと、中はこのような様子だった。
テーブルにこぼしたお酒を「ああ、もったいない」と吸い取ろうとする男と、テーブルをおしぼりで拭いているナナ。男の顔はびちゃびちゃ。
水割りをかき混ぜるマドラーを床に落としてしまい、「こんなの指で混ぜりゃいいよ」とエリーに向かってニコニコと笑いながらかき混ぜている男性と、濡らしてしまった指と跳ねて濡らした服をおしぼりで拭くエリー。
上着に入れるには大きすぎる小さな魔導コンロのようなライターを、無理やり上着のポケットに入れようとしてる男性と、それを止める長老。
そして酔った男性に変顔を見せられ、息が吸えなくなりそうなほど笑っているジルがいた。
サンの後を追って、すぐに飛び込んだヨハンとドモンもキョトン顔。
「慌ててどうしたのよぅ?」不思議そうな顔をするエリー。
「まだ注文してないわよ?あ、でも新しいお酒どうしよう?いる?こぼしちゃったし。私も飲みた~い」ナナはマイペースで接客中。
「サーン!早くおいでよ~!楽しいわよ~」と思いの外順応しているジルと、モテモテの長老もサンに手を振った。侍女三人組も手招きしている。
「俺らが思っているより健全な人が多いのかな?」ドモンが頭を掻く。
「よく考えりゃ、貴族のグラさんや騎士まで壁の向こうにいるんだから、無茶は出来ないわな」フゥと溜め息を吐いたヨハン。
「私も想像と違っていて少し安心しました。では私もお手伝いしてきます」とサンはそのまま接客へ。
「サンちゃん可愛い!!」という歓声が上がったのを聞きながら、ドモンとヨハンは安心して戻った。
サンから勘違いをして飛び込んできたという事をナナ達が聞かされ、みんな大爆笑でまた大盛り上がり。
そうして気がつけば夕方に。
保育園が閉園し、これ以上ないというくらい充実した顔のオーナー改め園長と保育士の女性達、そして屋敷の奥様方が店に現れた。
カールや他の貴族達は義父と一緒にスナック街へ、子供らは閉園した後の園児用のビニールプールで灯りをつけて遊んでいる。大人用のビニールプールは騎士達が受付をしてくれていて、まだまだ大盛況の様子。
「ドモちゃんありがとう!本っ当に!!うぅ~~!!」
「何だ急に。ほら泣くなってば」
「子供らが~子供達が~うぅぅ、『先生またね』『ありがとう』『大好き』って・・・もう私・・・うぅ~!!」
「そうか良かったな。ほらお前らまで泣くなってば。葬式じゃねぇんだぞ」
溢れる涙を抑えきれない園長と保育士達。それにつられる屋敷の奥様達。
流石に今の店の雰囲気の中には合わないとみて、ドモンが皆を二階のリビングに連れて行き、しばらくひとりで接客することにした。ある意味VIP扱いのようなもの。
全種類の料理と貴重な缶酎ハイを持ってきて、一緒に飲みながら保育園のこれからの事をたくさん話しこんだ。
酔ったカールの奥さんには、もう顔がくっつくくらい前のめりに保育園の話をされ、ドモンはうっかりそのまま顔をくっつけた。
「ムフ」
「もうドモン様ったら!!皆さん!た、他言無用ですよ!唇が当たっただけです!」
「ずるいわあなただけ!」「そうよそうよ」「では順番に当たりましょう」
「じゃ、じゃあ私ももう一度当たります・・・」
心地よい疲れと酔いで、つい羽目を外してしまった女性陣。
「このぐらいなら挨拶のようなものよね」と無理やりな言い訳で誤魔化した。
「では私達はカルロスやお父様達の様子でも見てきますわ。放っておいたらまた羽目を外しすぎてしまいますから」とカールの奥さんが完全に自分の事を棚に上げ、他の貴族の奥様達と共にご機嫌でスナック街へと去っていった。
残された園長と保育士達とドモン。
「あのねドモちゃん、お給金は明日カルロス様から貰えることにはなっているんだけど、今はまだないのね。だからお礼というか、この支払いとは別に・・・」
「私は旦那がいるからあれだけど・・・ちょっとくらいのお触りなら・・・」
「私はドモンさんの好きにして」
「私もドモンさんがしたいようにしてくれてもいいわよ?フフフフ」
上着のボタンを外す女性達。
しかしみんなが頑張って働いているというのに、こんなところで浮気している場合ではないと、ドモンは顔をパンパンと両手で叩き、園長の胸へと飛び込んだ。
たまたま厨房へお酒を取りに来たナナが、階段の上から聞こえた妙な声に聞き耳を立てる。
「駄目よそんなとこ舐めちゃ・・・」
「そんなに吸っちゃダメェ~」
はは~んとした顔でニヤリと笑ったナナ。
そーっと階段を上って、「さっきの仕返ししようと思ってたんでしょ!」と笑いながらリビングに飛び込むと、ドモンは浮気の真っ最中であった。
「あんたぁぁぁ!!」
「違う違う!話せば分かる!まだ抱いちゃいないんだ!」
「まだですって?!止められなければしっかり抱くつもりじゃないのよ!!」
「違うんだってば・・・って言ってる俺自身も、嘘っぽいなぁと感じるよトホホ・・・」
当然ドモンはお尻を腫らし、園長と保育士の女性達は、疲れているというのに男性客の接客の手伝いをさせられることになった。罰としてナナ指定の激しくスケベな服を着せられて。
お尻を擦りながらそれを見て、ドモンは心の中でガッツポーズをして自分で自分を褒めた。
ドモンが鼻歌交じりにカウンターに戻り、女性達相手にお酒を飲んで楽しく接客していると、外の列を成している客らが妙にざわざわとしており、カウンターの上に並ぶおっぱいに手を振ってから、仕方なく外の様子を見に行くことになった。