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第23話

店内にカールを招き入れ、テーブル席の方へと案内。


「こんなところで申し訳ないですけれども・・・」とエリーが椅子を引き、ナナがテーブルを拭く。


「これでも敷けば多少は雰囲気出るだろ」と厨房にあった白い布をテーブルクロス代わりにしたドモンに、「随分と気を遣わせたな」とカールが少し皮肉を込めて言うと「勿体ないお言葉です領主様」とドモンは笑った。


「貴様がそのような事を言うと途端に嫌味っぽくなるな」

「そんな事はねぇですよ。カルロス様」

「カールでよいわ。もう許せ」


苦笑いをするカールと、それを手玉に取って弄ぶドモンを見て、卒倒してしまいそうになるナナとエリー。


「まあ飯は用意するけどさ、一体カールはなんの用があったんだ?」とドモン。

その口の聞き方にエリーがあわわわと焦っているが、横からナナが「昨日ずっとこうだったのよ・・・」と小声で告げ口。


カールは少し呆れながら「ドモンよ、貴様が今日馬車の改造に着手すると言ったではないか」と腕を組む。

「そりゃその予定だけど、まさかカールが見に来るなんて想像してねぇよ」と、ドモンが何かもう一品用意しながら厨房から叫んだ。


そして「ナナ、箸の持ち方教えてやってくれ」と言いながら、箸と炊きたてのご飯を置いて厨房に戻っていった。

白目を剥きそうになりながら箸の使い方を教えるナナ。


「上手です!」「素晴らしいですね!」と、ナナとエリーがおべっかを使うのを見てクスクスと笑うドモン。


「箸には慣れたか?ではお待ちかねのアジの開きだ」

少し焼き直したアジに大根おろしを添える。大根があったのはすでに確認していた。

そしてその横に豚汁も置かれた。


「昨日の残りを作り直したもんだけどな」

またあわわわしているナナとエリーの前にも、アジの開き1つと豚汁2つが置かれた。


「さて、どうしてここに魚があるのかよりも、とりあえずは温かいうちに食ってくれ。話はそれからだ」


ドモンがそう言いながら器用に魚の骨を外していく。

それを見たカールもまた器用に魚の骨を外していった。


「流石は貴族様だな。少し感心したよ」

「おだてても何も出ぬぞ」


「別になんか出せなんて言わねぇよ」と言いつつ、大根おろしに醤油を垂らし、ほぐした魚の身に乗せて食べるといった説明をするドモン。


「これってお魚をお米の上に乗せて食べるの?」とナナがドモンに聞きながら、チラッとカールの方を見た。

どうやらマナー違反にならないか心配な様子。「好きなように食べろ」とドモン。


「だがそれが一番美味しく感じる食べ方なのであろう?」とカールが言いながら、ナナが気を遣わなくて済むように率先して食べてみせた。

が、そんな余裕があるのもここまでであった。


「こ、これは?!」


圧倒的な旨味の前に絶句するカール。

ナナとエリーもあとに続く。


「これがあの魚・・・こんなに美味しいのねぇ」

「んぐ・・・んーんーんー!!」


ナナは相変わらずであった。


「こっちのスープはお椀を持って、はしたなく食ってくれ。どうせ俺ら以外見ちゃいないさ」

するとナナが見本を見せるかの如く、はしたない食べ方で豚汁を飲んだ。


「美味そうに食うだろ。あれでいいんだよ」と笑うドモン。

カールも真似をし豚汁を飲む。男らしく具を口の中にかきこみながら。


アジ、米、豚汁、米!

三人はもう止まらない。


「で、俺の分は?」とドモンが聞いた時には、もうアジの骨しか残っていなかった。



「なんと!!これは魚を干したものだと言うのか!!」

店内にカールの声が響く。

「干し肉みたいに魚も干せるの??」とナナも驚いている。


どうやら魚を干して食べる風習があまりないようだった。

あったとしても、焼いて食べるのではなく、燻製のようにそのままかじる、いわば保存食のようなものだとドモンも知って、逆に驚いていた。


「まあこうすれば日持ちもするから内陸に運べるし、旨味も凝縮するから美味しいんだよ」

「ドモンよ・・・」

「また金だのなんだのは言いっこなしだぞカール。ただ独り占めすることなく、海辺の街のみんなにも儲けさせてやってくれよ?」

「・・・・」


カールが言わんとする事を先読みして答えるドモン。

これからこの男が成す事を想像すると、一つの街どころか一国の主として世の中を牽引して行けるのではないか?とまでカールは考えていたが、それをアッサリと蹴っ飛ばされ呆気にとられていた。



そんなやり取りをしていると、出入り口辺りからドサッという音。


「カ、カルロス様??」


ヨハンが枝豆を入れた大袋を床に落としながら呆然と立ち尽くしていた。


「主人か。邪魔をしておるぞ」

「本当にお邪魔だよまったく」


カールとドモンのやり取りを聞いて、ヨハンの顔が真っ白になっていく。

「その気持ちわかるわぁ」と、ナナとエリーが同時に呟いた。



「そうだカール、枝豆も食べてみろよ。この街の名物になるかもしれないぞ」とドモンが魂の抜けたヨハンから荷物を受け取り、厨房に消える。


エリーがヨハンをテーブルに座らせ介抱している間、ナナとカールが並んで座り談笑していた。

ようやく少し慣れてきたようだった。


「子爵様はなぜひと・・・おひとりで街をまわっていた・・・おられたのですか?」

「堅苦しい言葉はいらぬぞ。ドモンの連れであろう?」

「やだ子爵様ったら!連れだなんて!ウフフ」とカールの腕をパンパンと叩いたナナ。

「式はこれからなんですよぉ!私達のドレスは特注サイズですから、お金も時間もかかるのよねぇ」とエリーも笑顔。


「あ、子爵様少し顔が赤くなりましたね?」

「そんな事はない」

「何がそんな事はないだよ、耳真っ赤にして。ハイお待ち、枝豆だ」


ナナとカールのやり取りにドモンが割り込んできた。


「やったぁ枝豆だ!子爵様、こうやって食べてみてください」とナナが食べてみせると、真似をして食べたカールもまた皆と同じように、食べる手が止まらなくなってしまった。


「フム」「なるほど」「これは」「確かに」「美味で」「あるな」


カールが枝豆を口に入れる度にドモンが勝手にセリフをつけていく。

「ドモン貴様・・・」と言いつつもカールは笑顔を見せていて、ナナとエリーはケラケラと笑っていた。

その頃ヨハンは「随分ハッキリとした夢だなぁ」と天井を見上げぶつぶつと呟いていた。



「これが枝豆か・・あの者達とまた相談せねばならないな」

「余ってる土地分けて規模をでかくした方が良いだろうな。あとジャック達の許可を得て、他の農家にも作らせる事を考えた方がいい」


カールとドモンが真面目な話に戻り、ナナとエリーが大人しくなった。


「それと・・・この米であるな」

「これは異世界の、俺の国の米だ」

「なんとか作ることが出来ないものか?」


カールが稲作にも興味を持った。


「俺の国は米への愛情が特別でな、土地の大きさを米の収穫量で表してたりした事もあるとんでもない国なんだよ」

「ほう」

「そんな米への愛情が異常なほどある奴らが、何百年何千年かけて改良に改良を重ねてここまで辿り着いたんだ」

「難しいか?」

「水源も近くにないし正直かなり厳しい。ただ挑戦する価値は大いにある」


ドモンがそう言うとカールが目をランランと輝かせる。


「熱いなドモンよ」

「そうだな」

「フフフ、こんな気持ちになったのはいつぶりか。米の専門家ともいえる国の者達が幾年もかけて・・か」

「しかも今も改良し続けて、各地域で毎年競い合ってランク付けしてるんだぜ?こんな国は他にない。この米を美味しく食べようとおかずも発展していったんだ」


カールとドモンのやり取りを聞きながら、ようやく正気に戻ったヨハンが豚汁でご飯を食べつつ「そりゃ美味いはずだ」と遅めの朝食をとっていた。


そんなヨハンの前にカールが立ち、金貨を一枚テーブルに置いた。

「主よ。これは朝食の代金だ」

「おいカール」と言ったドモンを右手で制す。ヨハンは絶句している。


「これは今日得た情報の代金である」

金貨を更に二枚テーブルに置く。


「カール」

「私は主と話しておるのだ。邪魔するでない」

ドモンを遮りカールがまだ続ける。


「そしてこれが・・・今日分かち合った皆との時間への対価だ」

金貨を次々と置いていく。結果計10枚の金貨。


「おいカール!そんな馬鹿げた朝飯の値段あるか!いい加減にしろ!」と怒るドモン。

「私はここの主に支払ったのだ。あぁドモンにはこれだ」

そう言って銅貨を一枚ドモンの前に置いた。


「ククク・・ドモンの負けね」とナナが笑った。




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