第235話
「楽しいですか皆さぁん」
ガチャリとドアを開け、満面の笑みで子供達に声を掛けた真っ裸のサン。
そこには8人の楽しく遊ぶ子供達と、それを見学する親達がずらりと壁際に並んでいた。
「きゃああ!!」
「あら?少し大きなおねえさんもいたのね!」
「あ・・は、い・・・うん・・・・」
「うちの子とも仲良くしてあげてね!」
数名の察しの悪い親達と、思わず目を伏せる数名の察しの良い親達。
「ほら、怖いならその女の子と一緒にやってごらん?」まだまだ察しの悪いお母さん。
「い、一緒に滑ってみる?」とサンが小さな男の子の手を引く。
ドキドキしながらもコクリと頷いた男の子を抱え、すべり台からザブンと一緒に飛び込むと、びしょ濡れになりながらも男の子は満面の笑み。
それを見ていた他の子供達も「わたしもやるー!」「僕もおねえちゃんと一緒にすべりたい!!」「私も!」と大盛りあがりでサンの両腕を引っ張った。
両腕を引っ張られたサンはその見学中の親達に、身体のすべてを見られることとなった。
半泣きでキュッと脚を閉じて、みんなの前で何かを出さないように踏ん張るサン。
そこでようやく察しの悪い親達も気がつき「あ!ご、ごめんなさいね・・・」とサンに謝罪した。
「お手伝いの子だったなんて思わなくって」
「それじゃあ私達が見てたら恥ずかしいわよね。私も10歳になった時に父に水浴びを見られて恥ずかしかったもの」
「ごめんね。すぐに出て行くからね」
うんうんと大人達が全員頷いた。
結果、実は全員察しが悪かったということに気が付き、逆にサンは少し安心したけれども、その心はたいへん傷ついた。
サンの身長は145センチあるかないか。女の子の10歳から11歳くらいにかけての平均身長が大体140~150センチなので、確かにそう見られても仕方のないことではあるのだけれども・・・。
「ひ、陽の光の加減で膨らみが見えなかったのですねきっと」
全てを見られた今のサンには、もう恥ずかしいことなんて何もない。恥ずかしい服での接客でもなんでもどんと来いの気分。
ドモンは一足先に店へ戻った。
大慌てで二階に駆け上がり、禁止されていたはずのサンの部屋へ。
「残念ねドモン。大人の女性達があのプールというのに入るのは10時からよ?お店の開店と一緒なの」
「べ、別に覗きに来たわけじゃないし」
「じゃあここへ何しに来たの?」
「サンのベッドの寝汗の匂いを嗅ぎに来たんだよ!悪いか!!」
「悪い!!」
パーンパーンと運動会の日の朝の花火のような景気のいい音を窓の外に響かせ、ドモンは昇天した。
リビングまで引きずられ、クドクドとナナの説教が続く。
だが、すすきのの大人のお店スタイルのスーツを着ながらのナナの説教に妙に興奮を覚えたドモンが思わず抱きつき、待ってましたとばかりにナナが上着を脱いだところで、グラと騎士二名が着替えに二階へやってきた。
「貴様らは何をやってい・・・」
「キィィィ・・・間が悪すぎるのよっ!こんの馬鹿グラ!!」
グラ達をキッと睨みつけて、フンッと横を向き、ナナは階段を降りていった。
「ハァ・・・何なんだよ一体」ため息を吐くしかないグラ。
「さあな。虫の居所が悪かったんだろ。女ってそういう生き物だとしか言いようがないな」とドモンがナナのせいにしつつ適当に誤魔化し、三人に着替えのスーツを渡した。
「まあそこまで高級なものじゃなくて申し訳ないんだけどさ」
「うむ。いやいやこれはこれでかなり上等なものだと思うぞ?」
生地を手で撫でながら、グラはウンウンと頷く。
この世界ではまだ作るのは不可能な、精巧な柄が入ったスーツに満足そうな顔を見せた。
「ま、今日終わったらそれお前らにやるからしっかり頼むわ」
「ええ?!」「え?!私達にもですか?!!」
「いいよ。この程度のものならまだ何着かあるし、それに騎士達のはサイズも俺に合ってないんだよ」
「あ、ありがとうございます!!我が家の家宝にします!!」
「いや家宝じゃなく普通に着ろよフフフ」
早速試着をする三人。
誰も居ないのでそのままリビングで服を脱ぎ、ちゃっちゃと着替えた。
「おぉ・・・」姿見を見てポーズをとるグラ。
「なんか三人ともムカつくほど似合ってるな。やっぱり寸胴な日本人体型と違うんだなクソ!」文句を言いつつタバコに火をつけたドモン。カールはドモンとほぼ同じ身長や体型であるものの、やはり何故かドモンよりも見た目のバランスが良い。
試しに上着を脱がせて肩から掛けさせても、ワイシャツを軽く腕まくりさせても全て様になってしまう。
騎士のひとりはズボンの裾が少し短かったが、その脚の長さ故に『そういったデザイン』にも見えオシャレに感じる。
ドモンならば確実に『ちんちくりんおじさん』とか『成長期を急に迎えたオッサン』と呼ばれることになるはず。
まあ実際にドモンが試着した時は、このズボンが少し長すぎたのだけれども。殿中でござる状態。
とにかくこの三人は、女性客からモテるだろう。
ザックもゴブリンではあるけども、ドモンから借りた高級スーツに、オリーブオイルを高くから垂らして料理をする人のようなあのルックスであれば、きっと皆受け入れてくれるはずだとドモンは確信した。
「ドモンさーん、もうお客さん達入れていいのかしらぁ?外にたくさん並んでいるわよぉ!」階段下から聞こえるエリーの声。
また人が集まりすぎて大変なことになっていないかと心配したドモンだったが、カールの手配により、きっちりと整列が出来ていた。
カールも祭りに自分の名が付いたとなれば、もう問題は起こせないと奔走することになったのだ。
その際、何度も領民達から「おめでとうございます!」「いつもありがとうございます領主様」「領主様バンザイ」「こんなお祭りを開催してくださって本当に嬉しいです!」などと声を掛けられ、ドンドンと気分が高揚していった。
義父にも「随分と慕われておるのだな」と感心され、もう嬉しさを隠せない。
張り切りに張り切って、騎士や憲兵達、そして料理人や侍女達など屋敷の者達にも特別休憩なる時間を交代で与えることとし、ヨハンの店やスナックで楽しむことの許可を出した。流石に全員分の全部とまでは行かないが、ある程度はカールの奢り。
屋敷にそれが伝えられた時には、それこそ本当に『お祭り騒ぎ』であった。
「私もあちこち見て回ろう」と義父が騎士達を引き連れ去っていく。
「では夜にでもご一緒させてください」とカールが声をその背中にかけると、義父が右手をサッと上げた。
「じゃあもう入れちゃおうか?サンはまだ戻ってきてないけど」
「もう準備はできてるわよ」「はい」「私も宜しいですよ」
ナナやジル、長老も準備万端。エリーは言わずもがな。侍女三人組もトンキで買ったコスプレを着用して待機。
この日も人数が多すぎるため、今回は一時間入れ替え制であることをみんなに説明し、ドモンが客を招き入れた。
「す、すごい格好・・・」「凄いわ!格好良い!!」
中に入るなり、その姿を見て感動する男達、そして女達。
この世界にもスケベな店はある。格好良いバーテンダーがいるバーもある。
ただキャバクラはない。ホストクラブもない。
「ようこそ。魅惑の街、すすきのへ」
この日ドモンだけではなく、この世界の人々にも異世界への扉が開かれたのだった。
忠臣蔵というより、いざ鎌倉へ!の方が良かったかな?
・・・・キャバクラだけに。