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第234話

「ほらオーナー、じゃなかった園長先生、早速お母さんが来たみたいだぞ」

「え、ええ!」

「名前と住所の確認と、大体の居場所や行き先、そして緊急の連絡先は必ず聞くんだぞ?あと夕方5時までに迎えに来るように伝えること」

「うん!じゃなくて、はい!」


入口に向かっていくオーナーを心配そうに見つめる保育士仲間達と奥様方。

両手を組んで祈るようなポーズ。


が、オーナー改め園長が飛び跳ねるように驚いているのを見て、ドモンと一緒に保育士達と奥様方も慌てて駆けつけた。


「で、どちらに並べば宜しいのでしょうか?先程来たのですけれどわからなくって」

「えーっとあのですね・・・これはどうしたら・・・」


不安そうな顔で問う親子に対して、答えに困っている園長。


「どうした?・・・って、おいおいおい・・・カールを!奥さんカール呼んできて!」

「え、ええ・・・!」


ドモン達が保育園の視察に入った二十数分の間に、誰かが勘違いしたのか開園したと噂が流れ、とんでもない数の親子連れがワッと入り口に殺到していたのだ。ドモン達からは塀や柵があって見えていなかった。



そもそもビニールプールの噂もすでに広まりきっていて、大人も子供も今か今かと待ち望んでいた状態。

しかもたった一日で無くなるとなれば、人が殺到するのも当たり前。

今こうしている間にも人の波は何倍にも膨れ上がっていく。


出来た人の輪に釣られるように更に人が集まってしまい、騎士や憲兵も間に合わないほどの一気の大混乱になってしまったのだ。日本人のような自然に行列を作るような習慣もない。

完全にドモンも想定外。


その人の輪の奥の方から「一旦引け!」だの「整列して道を開けろ!」といった声がかろうじて聞こえるが、それも今はただの客引きの呼び声のようなものにしかならず、更に人を集める結果に。


それを見たドモンが瞬時に「これはもう俺ではどうしようもない」と判断し、この街ではある意味義父よりも顔が利く、領主であるカールを呼んだのだ。



「こ、これほどだったのか・・・」柵の隙間から外の様子を覗き見て、ゴクリと唾を飲み込んだカール。


「ここまで来たらもう俺じゃ駄目だ。一歩間違えればまたこの前みたいな暴動になるぞ?」

「過剰に集まった民衆は激流と同じだ。そうなってしまっては簡単に止めることは難しいぞカルロスよ」

「・・・・」


ドモンと義父の忠告に固まるカール。

ただの暴動ならば力尽くで鎮圧することも可能ではあるが、相手の何割かは子供であり、騒動の原因を作ったのも自分達だ。

なので絶対にそれは避けなければならない。


そしてその対応をもしひとつ間違えたならば、大事故にも繋がる可能性がある。

後方の人らが少し前に詰め寄るだけで、将棋倒しのように人が倒れ、子供らが犠牲になる可能性も高い。


怒らせず、尚且つ全員を納得させつつ、落ち着かせて整列させなければならないのだ。

その整列もやり方次第では「私達の方が先に並んでいた!」と喧嘩になるかもしれない。



初めから整列をさせるための導線を作っていなかったドモンのミス。



いつもフラフラと遊び歩いていたドモンには、その大切さが今の今までわからなかった。ドモンは行列に並んでまで店に入るような人間ではなかった。


押されて転んだ小さな女の子が「痛い!」と擦りむいた膝を押さえる。あちらこちらで「押さないで!」の声が聞こえだし、もう一刻の猶予も許されない。


人が一気に押し寄せれば、信じられないほどあっけなく人は死ぬ。

元の世界でも世界中で痛ましい事故が起きている。


「頼むカール!」「カ、カルロス!どうにかしてあげて!」ドモンとカールの奥さんは祈るのみ。

「ああ・・・」


そう言って入り口に殺到している人々の前にカールは立った。


が、残念ながら、カールが見えていない後ろの方にまで声もその姿も届いておらず、前列にいた人達はカールを見て後ずさり、後列にいた人達はそれを知らず更ににじり寄り、中列にいた人達がそれらに挟まれる形となった。

何もする前から最悪の結果に。万事休す。


その瞬間、横をすり抜ける大きなおっぱいがふたつ。いや4つ。


「はぁいみんなぁ!並ばないとだめよぅ~?」とエリー。

「前の人潰れちゃってるから、ほら少し下がって下がって!」とナナもパンパンと手を叩きながら加勢した。


「お兄ちゃん達とお姉ちゃん達は~小さな子に前を譲ってあげてねぇ!お願いよぉ~!大人の人は親子連れの人に譲ってあげてぇ!」エリーがピョンピョンフリフリ全開。

「はーい!今の聞こえた人、手を上げてね!そして聞こえてない人に教えるのよ。わかった?わかったら返事!はいそこ!私の話を聞きなさい!」


手を上げた人が手を上げていない人に伝えていく。

そうして徐々に親子連れを除いた大人達が後ろに下がり、人々の隙間が出来た瞬間、小さなサンがその間をすり抜けて、やってきた順番や年齢を聞きながら、あっという間に整列させていった。


いつものように。


エリーが柔らかな身体と物腰で、ナナの遠くまで通る元気な声で、サンがその頭脳と機転と体型でと、それぞれがその特徴を最大限に活かした。


これをいつも、話を聞かない大勢の酔っぱらい達相手にやっているのだ。特に料理上手なドモンが来てからは何度も。

広場でパスタを売った時にもやった。



「こ、これは凄い・・・いや凄まじいな。見ておけカルロスよ。これが本当の人心掌握術だ」腕を組みながらそれを見る義父。

「えぇ・・・流石に驚きましたこれには」とカール。


カールにとっては立場がない状態だけれども、子供達の生命は何事にも変えられない。

他の貴族達や奥様達、そしてドモンですら絶句。

二千人は優に越えていた集団がものの見事に操られ、尚且つ喧嘩もせずににこやかに並び始めたのだ。


「こんなものかしら?」

「・・・ハーメルンの笛吹き男もびっくりだぜこれは」

「なによそれ?なんかスケベなことっぽいけど」


「違うっての!笛でネズミや人々を操る男の童話だ。なんでスケベな事になっちゃうんだお前はなんでも・・・まあそう言われてみると確かにスケベっぽい気もしてきたわ。ハーメルンって響きもなんかあれだけど、何気に笛吹き男ってのが妙にやらしさを醸し出しているな。笛吹き女だとそのまま過ぎて人前で言えないくらいだし」

「ほらやっぱり!アハハ!あとで接客の時この話してみよっと!」


ナナとドモンがくだらない会話をしていたが、他の皆は感心しきり。

エリーはいつものことなので不思議顔、サンもとっくにもう慣れていた。



「とは言うものの、これって子供は何人くらいいるんだ?」

「抜けている人がいなければ368人です」


ドモンの質問に即座に答える優秀なサン。

整列しながら、サンはきちんと数えていた。


「え?そりゃ無理だろ・・・もう保育園じゃなくてちょっとした学校の全校生徒数だよ。園長達4人で面倒見られる人数じゃないってばハハハ」


小さな子を4人で見るには、一割の36人でも多いくらい。初めてとなれば尚更だ。

あまりの無茶な人数に、困るよりも先に笑いが溢れるほど。


「私達もやります!ねえカルロス良いでしょう?」とカールの奥様。

「俺らも手伝いするよ。足りなければ侍女達連れてきたらいいんじゃないか?」とカールの息子。親子揃って前向きである。


エリーもどうしようかと心が揺れていたが、昨日散々エリーの胸を揉んだ友達の奥さんらがやってきて、「私達がお手伝いしましょうか?」とニコニコ。おかげでエリーは店に専念することに。


そしてカールの提案により、今日はお試し体験ということで、二時間交代としてそれまでに迎えに来るようにと領主自ら説明し、皆に納得してもらった。

その代わり、今日は全て無料で利用可能に。



「御主人様!私もお手伝いして宜しいでしょうか?開店までの間でも良いので」

「サンはビニールプールで遊びたいだけじゃないのか?フフ。まあサンが大変じゃなければそれでいいよ」

「ありがとうございます!!」


ドモンに断りを入れるなり、サンはキャッキャと園内へ。

ビニールプールに向かう通路ですでに上着を脱ぎはじめながら、更衣室ですべてを脱ぎ捨て、何人かの子供達がはしゃぐ声のする園児用のビニールプールのある部屋に飛び込んでいった。






韓国で痛ましい事故が起きたけれども、一応今回の話はかなり前から構想の中に含んでいた話で、店でエリーが整列させていたり、ナナが広場で整列させていたりといった話も当然伏線。


それよりも、今回の話自体も本来ならば伏線で、攻め込んできた何者かの大群相手もナナ達が操り、大混乱を巻き起こさせ自滅させる話につなげる予定だったが、そのような事情により丸ごとカットすることにした。

こんな人知れず書いているようなマイナーな小説でも、それは流石に書けない。


これからも同じようなことがあるかもしれないけど、そこらへんはご了承を。



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