第232話
「はぁ~いドモンさんいらっしゃぁ~い」
グラスと氷の入れ物を持ったエリーがドモンの横に座り、ハンカチを膝の上に置く。もちろんそうしなければ全て丸見えのためだ。
ドモンにピタリとくっついて座ったが、胸がドモンの腕につくどころか、完全に乗っかっている。
更に顔も近づけて、ドモンの耳にエリーの吐息がふわっとかかった。
香水なのか元々のエリーの匂いなのか?男を魅惑する香りにドモンはクラクラ。
「近っ!おぉこれはハァハァ・・・ああいい匂い・・・スーハースーハー」
「むむむ・・」「キイイィィィィ・・・!!」
ドモンはもう恍惚とした顔。すすきの出身で、死ぬほど飲み歩き続けてきた百戦錬磨のドモンですらも、まさに『一撃』である。
その様子にヨハンもナナも嫉妬した。
「いい匂いなんかじゃないわよぅ~。私すぐここ汗かいちゃうんだから。ここはきっと汗臭いわよぉ?ウフフフ」
「かかかっ、嗅いでもいい?」
「う~ん・・・じゃあお酒奢って貰えるかしら?そしたら少しだけ・・・ね?」
「う、うん、好きな酒飲んでいいよ・・・ハァハァハァハァ!!あぁ~」
もうドモンには周りが見えていない。見えているのはその魅惑の谷間のみ。
なのにエリーは、ただでさえ開いている胸元のボタンをもう一つ外した。
「ウフフどうしたのかしら?ドモンさんヨダレが垂れてるわよぉ?」
エリーはペロリと舌なめずりをしながら、ドモンの顔まで五センチほどのところまで顔を寄せ、そのヨダレを舐め取るような雰囲気を醸し出しながら、おしぼりでドモンの口を拭いた。
豊満すぎるその胸を、ドモンの身体に押し付けながら・・・。
「ああもう!ヨハンごめん!ナナもサンもごめん!!俺はエリーと結婚する!!愛してるんだ!!」錯乱するドモンは、今にも抱きつかんばかり。
「まあ!嬉しいわぁドモンさん。でもダメよぉ~!あ、そろそろ時間ね」そんなドモンを両手で優しく押し返すエリー。その押し返す手ですら暖かく柔らかく、もう放してほしくない。
「ああ待ってくれ俺のエリー!もう一本!もう一本高い酒入れるから!!行かないで!!」
「ウフフフあ・と・で・ね!」
何かをものすごく元気にしながら、幸せそうに落胆するドモンの頭をナナが引っ叩いた。
抜糸は明日の予定なので手加減して欲しいところだったが、今のドモンはまるで痛くも痒くもない。
「やりすぎだろう」とヨハンに窘められたエリーであったが、実はエリーにとってこのくらいならまだ序の口。
下着すら取っていないし、客の膝の上にも座っていない。それにあと五センチも顔と顔の隙間があったのだから。
鼻の頭と頭をチョンチョンとくっつける遊びで、昨夜ギルド長が金貨二枚の高級ワインを三本も入れたのだ。元値は銀貨十数枚のものだけれども。
それらの事も全て素直にヨハンに打ち明けたエリー。
その遊びがどんなものだったのかを実際にヨハンに試すと、嫉妬と興奮でヨハンが突然暴走し、もの凄く大人な口づけを始めてしまい、ナナに禿げ頭を引っ叩かれた。娘に叱られる悲しい父親。
そのドサクサに紛れてドモンもエリーにそれをやってもらったところ、ドモンの鼻が低かったためにうっかり普通にキスをしてしまい、「あ・・」「あ!」とお互いにうぶな反応を見せて、赤面しながら下を向いた。
すぐにセーラー服姿のサンがツカツカとドモンの前まで歩いてきて、やたら元気になっている何かをギュッと握ったが、優しさの欠片も感じない握り方で、ジルと長老が大慌てで涙目のサンを止めた。
「な、なるほどなぁ・・・これはそりゃ男はみんな狂うよ。金銭感覚も何もかも」
下着に血を滲ませながら、ドモンはウンウンと深く頷いた。
下着の中のドモンの子ドモンをこそっと確認したナナは、店の隅でサンにお説教中。
なぜか長老にまで子ドモンの大切さを切々と説かれ、サンはしょんぼり。
「ただこれはエリーだから出来るようなもので、他の人がやっても無理だ。参考にならないよ」
「そうかしらぁ?」
ドモンの言葉にニコニコしながら首を傾げるエリー。
「みんなは普通に接客すりゃいいよ。多少は礼儀正しくしながら喧嘩腰にならず、ナナは楽しく、サンは可愛く、ジルや長老も普段どおりでいい。まあある程度エリーがやっていたように、上手く奢ってもらうくらいはしてもいいけどな」
「それなら得意よ、私きっと」不敵に笑うナナ。
「今日に限っては、儲けた分はみんなで分けるからな。あと客に奢らせた分もこっちで計算して分け前を出すから、是非みんな頑張ってくれ。一番には更に賞金も出すぞ」
「やってやるわよ!お母さんに負けないくらいに稼いじゃうんだから!」
ドモンの言葉にますます張り切るナナ。
他のみんなも密かに闘志を燃やした。
爆乳美熟女に金髪巨乳美女、制服美少女の他、物珍しいゴブリンの活発美少女と色気の塊の美魔女。
そしてドモンの料理に異世界の酒。
前夜祭の宣伝効果も手伝い、この日ヨハンの店は、とてつもない売上額を叩き出すこととなる。
朝食はザックが作ったマヨネーズを使用した、たっぷり卵のサンドイッチ。
食パンではなかったが、ドモンが買ってきたパン作りの本からヒントを得て、日本で主流の湯種を使用したパン作りをいつものパン屋がはじめ、かなりもちもちのパンを購入することが出来るようになった。
まだ試行錯誤の段階だけれども、パン屋夫婦は練習がてら連日パンを嬉しそうに大量に焼き続け、今ではドモンも納得の味。
当然作れば作るほど売れるくらいの評判となり、現在は貴族達ですら予約販売でしか購入ができない。
だがこれも当然ではあるが、ドモンの注文は常に最優先される。それを約束にドモンが作り方を伝授したためである。伝授と言っても本の受売りだけれども。
予約の受付時に『ドモンさんの注文がなければ』と最初に断りを入れてから予約を取っているので、そこは問題はない。
「あぁ~美味しい!美味しいよ・・・美味しいけどねドモン・・・」
「なんだよ?」
「この匂いは何なのよ~もう~!!」
厨房には今日店で出すための肉じゃがや、ヨハンが作った鶏塩鍋、もちろん異世界無双である鶏の唐揚げも大量に用意。
昨夜ナナもマカロニ作りを手伝った、サンのマカロニグラタンもある。しかも今回はゴブリンの村から調達させたサワガニ入り。
護衛達の食料を運びついでに頼んだところ、ゴブリンの子供達がかなり頑張ってくれたのだ。
そして極めつけはカレーである。
今回は牛肉を使用した本格ビーフカレー。
赤ワインを使用して煮た大量の赤身肉と、あとは飴色になるまで炒めた玉ねぎなども使用して、ドモンがそれっぽく作ってみたところ、ドモンの想像を遥かに超えるものが出来上がってしまったのだ。
これらの匂いでナナだけではなく、サンですら厨房に近寄った瞬間、お腹をグゥと鳴らしてしまう始末。
料理をしていたザックとドモンは我慢できずに、みんなに内緒でつまみ食い。
「もう食べようよドモン~!」
「我慢しろってば。みんなの分も冷蔵庫に少し取ってあるから、夕食にでも食べようぜ?楽しみがあれば尚更頑張れるだろ?」
「私は先に食べた方が頑張れるよぅ~もう~」
ナナが駄々をこね続け、結局みんなで唐揚げをひとつずつだけつまむことになってしまった。
「ドモちゃん・・・」
そんな時、例の店のオーナーも手伝いの女性達を引き連れ店にやってきた。
その格好は新米ママさんのような爽やかな出で立ちで、違った意味でなんともスケベだなとドモンはニヤニヤしてしまったが、以前義父や騎士らと一緒に店へと戻ってきた時のように、また顔面蒼白となっていた。