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第229話

「いけませんよお父様。何を考えていらっしゃるのですか!」

「うるさい!私は行かねばならぬのだ!!ええい離せ!!!」


カールの奥さんの命令で、騎士達に取り押さえられるカールの義父。

つい先程前夜祭が開かれると耳にし、エリーも店を手伝い、仮スナック街は大盛況という情報が入ってきた。


あまりに人が集まりすぎたために憲兵や騎士達が駆り出され、街の人々を整列させて落ち着かせる事となり、それが屋敷の方にも伝わったのだ。

特にエリーが目の前で接客してくれるという店は混雑しているとも噂が入り、それを聞いた義父はすぐにピンときた。



エリーは恐らく今、とんでもない格好で接客しているのだと。



「頼む!一目見るだけでも良いのだ!離せ離せ!!」流石の豪傑も、騎士五人がかりで抑え込まれれば身動きも取れない。

「なりません!そもそも突然お父様が現れたら街は大混乱になりますし、危険ではありませんか!もし万が一なんてことがあろうものなら、首を差し出すのはカルロスなのですよ?!」


「い、一筆書こうではないか。誰にも責任を問うことなかれと」

「呆れた。そんな事が通用するとでも?!」

「ええいどかんか!!離せと言うのに!!」


エントランスでラグビーのように完全に組み伏せられ、ズルズルと引きずられた義父。

他のことならいざ知らず、流石に街へ酒を飲みに行くというのは本気で止められた。なにせ数日前の前科もある。


義父によるドモン討伐の時と変わらないほど、皆ある意味全力で止めに入った。


「まったく・・・これではドモンと変わらぬではありませんか」とカールもため息。

「なんとでも言うがいい。時にカルロス、そろそろ伯爵の地位にでも・・・」

「いりません。このようなことで頂戴しても、私の首が繋がっていなければ意味がないですから」

「ぐぬぬぬぬ・・・」


三十分近くもこんなやり取りを繰り返し、ようやく義父は諦め、しょんぼりと「風呂にでも入る。反省する故しばしひとりにせい」と去っていった。




そのやり取りがあった数時間前。


「ねぇヨハン!お願いよお願い!ね?一生のお願い!良いでしょう?」

「しかしエリー・・・店の方だって明日の準備があるし」

「て、徹夜してでも必ずするわ!」

「うーん困ったな」


前夜祭を行うと決まってから、エリーはずっとヨハンにスナックの手伝いをしたいと願っていた。

実は店の準備など今出来ることはほぼ終わっていて、あとは衣装合わせと接客等の段取りを確認し、料理の下ごしらえをするだけだった。が、やはり夫としてエリーの貞操が心配だったのだ。


なにせ今、エリーが手に持っているその衣装が、とんでもなくスケベな衣装だとヨハンが一番知っているからだ。


「そんな事になったら、エリーのいる店だけが客集まっちゃうんじゃないの?大きいおっぱいが好きなのは俺とヨハンだけじゃないんだぜ?」と冗談まじりながらも一応忠告するドモン。

「それなら一時間ごとに別の店を手伝うようにするわ!それならいいでしょう?」


「だからってその服で行かせるのが俺は心配なんだよ。はっきり言って」とヨハンが正直に告白した。

「馬鹿ねぇ!今日はきちんと下着もつけるわよぉ!それにいざとなったら大きな声で助けを呼ぶわ。ここからでも聞こえるでしょう?」


エリーは一歩も譲らない。甘えるようにヨハンに抱きつき体をグイグイと押し付ける。


「ねえヨハンお願いよぅ~!帰ってきたら私のことをいくらでも好きにしていいから・・・ね?縛ってイジメたっていいのよ?」

「ブフォッ!!」


ちょっとした軽食として食べていたごま塩おにぎりを吹き出したナナ。

母親が父親に色仕掛けしている姿は見ていられない。


結局そのままヨハンは押し切られ、エリーは大喜びで二階に着替えに行き、ドモンから貰った化粧道具でバッチリ化粧を決めた。


前夜祭が始まる前にはもうエリーのことが街で評判となり、各店に一時間ごとに現れるという話も一気に広まった。

そうして仮スナック街の前に、とんでもない人だかりが出来上がったのだ。



料理自慢の店、若い娘もいるちょっぴりスケベな店、珍しい酒を取り揃えた店、女性が楽しめる沢山の花が飾られた可愛い店。

開店数十分前、騎士や憲兵が整列させた行列の横をすり抜け「ということでそういう事になったの!皆さんよろしくお願いねぇ!」「いえいえこちらこそ!」「待ってるわよ~」と、エリーと店の女性達が挨拶を済ませた。


行列からちらりと見えたその様子に、皆の興奮が更に高まる。

そして、ついうっかりドモンとヨハンの興奮も高まってしまうほど、今のエリーは輝いている。


「俺もヨハンにとんでもない美女を嫁に貰っちゃったけどさ、ヨハンの方が凄いぞ絶対に。ナナには悪いけど」とドモン。

「い、色気の塊ね・・・あれは私も勝てる気がしないわよ・・・」と、鼻歌交じりに化粧の最終確認をするエリーを見ながらナナも白旗。


「恐らく男性は本能で目を奪われてしまうことでしょう。空腹時に目の前にたくさんの食べ物が置かれるのと同じように・・・」と長老が絶妙な例えをし、ザックが「我慢我慢我慢・・・俺は魔物じゃない違う違う違う・・・」とヨダレを垂らしながら耐え、呆れ果てたジルにそれを拭かれていた。


「大奥様は女性の象徴なのだと思います」とサン。

「まあ下衆な表現するなら、女の特徴っておっぱいと大きな尻と母性だもんな。あと美しさと優しさと。それら全て特化してる状態が今のエリーだ」


ドモンがそう説明して皆も納得。

ナナやサンも神々しいほどの美しさがあるが、今のエリーには到底敵わない。

男性からの憧れの的、悪い言い方をするならば性的な対象、究極のメス。女としての最終形態。


「本当にいい女だ」


それらをまとめるとやはりこの一言になる。思わずドモンの口から漏れた。

皆も黙って頷くしかない。


「ああ・・・今でも信じられねぇよ。でもあれが俺の・・・嫁なんだな」


みんなにエリーを褒められ、なぜだか泣けてきてしまったヨハン。

それに気がついたエリーが、慌ててヨハンのところへと駆け寄って「どうしたのよぅ?やっぱりどうしても嫌なの?やめた方が良いかしら??」と心配そうに抱きしめた。


「ハハハ違う違う!さあエリー行っといで!みんなにお前のその美しさを見せつけて、たくさん楽しませてやってくれ!」


ギュッと抱きしめ返して、ヨハンはエリーを送り出した。




「いない!ど、どこにもおりません!!誰か!!誰か早く!!」


屋敷内に響く侍女の声。

着替えを持ち、見張るように更衣室の前で待っていたが、いくら経っても義父は出てこず、心配になり中を少し覗いたのが風呂に入ってから約四十分後。

大慌てでカール達が風呂場に飛び込むと、窓が開いていた。


「そんな馬鹿な?!」

「嘘だろ!こ、ここは三階だぞ???」

「と、飛び降りたというのか!!」

「な、なんて人なの!!もう!!」

「お、追え!!探せ!!今すぐだ!!怪我をしておるかもしれぬ!!」


ワッと風呂場から皆一斉に飛び出し、すぐに屋敷内外は大騒ぎに。


「さて、そろそろ良いか」


サウナを組み立てる予定の材木の裏からゴソゴソと現れた義父。

風呂に入る前に拝借していた御者の服へと着替えて深々と帽子をかぶり、皆と同じように慌てた様子で廊下へと出て、走り回る人らと一緒に玄関から飛び出し、何食わぬ顔で騎士達と一緒に門をくぐり街へと脱出したのだった。




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