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第228話

すすきの祭り前日の朝。

ドモンの元へ大勢の人々が集まっていた。


「ねえドモン君ドモン君!照明のことでちょっと聞きたいことがあるのよ!」

「ドモちゃん!子供達が座る椅子がね・・・」

「ドモンさん、それが終わったらこっち一度見に来てね」


スナックの開業と保育園の開園を目指す女性達が、こぞってドモンの元へとやってきた。

期待と不安で胸いっぱいの様子。



その話をエリーが初めて聞いた時、ナナが予想していた通り、ものすごく羨ましがった。

というより、話を聞きながら、もう自分がどんな店をやるかを考えていたらしく、「いやエリーの店はないぞ。そんな事したらこっちの店どうすんだよ」とドモンに言われた時は、駄々をこねたサンのように「うぅぅ!!」と地団駄を踏んだ。


小さな店でヨハンとふたり。

数人の客を相手にしながら、お酒を飲んでゆっくりと語り合う。


嵐の日などの客が少ない時は、今の店でもそんな感じになることがあり、エリーはそんな雰囲気が好きだった。


「今日は暇だな」とヨハンがカウンター席の、エリーの正面に陣取って酒を飲む。

「私もいただこうかしら?」とエリーも交え、少人数で乾杯。


そういった事が、その小さな可愛い店で出来ると思っていたのだ。


実際に大工達が組み上げたその小さな仮店舗を見て、羨ましくてエリーは卒倒しそうになっていた。

今朝もみんなが準備に精を出しているところにお邪魔して「どんどん素敵になっていくわねぇ!一日で閉めちゃうなんてもったいないわぁ」などと店の女性達に声を掛けて回った。



そしてその噂の大工も、見習い達を引き連れ今やってきた。


サンの指示により、子供達が何処かへ行ってしまわぬように空き地を柵で囲む作業と、園児用と大人の男性用と女性用のビニールプールを高い塀で囲む作業をしにきたのだ。


「皆さん裸で入ることになりますから、どうしても必要なのです!」とサン。


ただそんなサンは園児用の方にも入るつもりである。

なので園児用ビニールプールの年齢制限は、6歳くらいまでと決まった。それ以上は大人用へ。

大きな男の子に裸を見られるのは恥ずかしいからだ。


「左奥に女性用、真ん中が園児用、右側を男性用にしてくれ」とドモンも指示を飛ばす。

「なるほど!男性の方に覗かれないようにするためですね!」サンも納得の表情。


男性用と女性用の入り口を分け、脱衣所も別々に用意し、真ん中のビニールプールは保育園からの直通の通路を作る。


「ふむふむ。通路があるなら尚更覗けねぇというわけだ。でもドモンさんも覗けなくなっちまうなアッハッハ」と大工。

「何を言ってるんだか。それが終わったら店の方も頼むぞ?店の中にも仕切りを付けないといけないからな」


ドモンはそう告げて店に戻り、そのまま二階へ。

サンの部屋に忍び込み窓を開けると、女性用のビニールプールがここから見えることをしっかりと確認した。

男性用と園児用は隣の家の陰になっていて見えない。


「へぇ~そういうからくりだったのね」

「御主人様・・・うー」


ドモンの肩に手をかけ、その横顔にそっとキスをしたナナと、への字口のサン。

その企みがバレ、ドモンは暫くの間サンの部屋に入ることを禁止された。


だが二人は知らない。

すでに窓の外にスマホ用の三脚を設置済みだということを。

ソーラー充電器も南向きに置いてスマホも繋ぎ、全ては準備万端である。


わざとらしく残念そうな顔をしながら階段を降りたドモン。



「本当にこんな事しちまって大丈夫なのか?ドモンよ」


一階ではヨハンがテーブルの上に立って、照明を間引いていた。

店の中はすっかり薄暗くなり、なんとも怪しげな雰囲気。


「この前の店よりも暗いわね」ナナがキョロキョロ。

「これがいいんだよ。それにこのぐらい暗くないとその・・・張り切ったエリーの色んなものが丸見えになっちゃうかもしれないだろ?」

「まあなるほどなぁ・・・だが暗いと反対にスケベな事をされそうな心配もあるけども・・・」


ドモンが説明するが、ヨハンの心配は尽きない。


「そこはほら、仕切りの向こうには俺達もいるし、騎士達やグラもいるからな」

「私達もいるから平気よ!」「はい!」

「それはそれでまたふたりの事も心配なんだよ俺は」


ナナとサンも説得したものの、ヨハンはやはり心配だった。

ちなみに手伝いに来るのは先日のスケベ騎士達。

そしてグラはスーツ欲しさに本当に来ることになったのだ。結局多少安いケーコが買ってきた中古の物で妥協したが、それでもこの世界では十分価値がある物だ。



店は入口のスイングドアから仕切りで二手に分かれ、男性用の部屋と女性用の部屋とで分けられることとなった。

当然男性達の部屋は女性達が接客し、女性達の部屋は男達が接客をする。


ドモンも女性達を接客したがったが、全員に却下されて泣く泣く厨房係に。

おかげで『ドモン性被害者の会』が結成される心配はなくなった。

・・・だが、まだ油断はならない。



数名の大工達が仕切り用の板を店内に運び入れているところに、一台の新型馬車が店の前に到着した。


「ドモン様、ご機嫌いかがですか?」以前にも増して上品な振る舞いになった長老。

「サン!」「ジル!」ふたりはいつも仲良し。

「ドモン様、その後のお怪我の具合はどうでしょうか?」と、ザックはまだあの時のことを気に病んでいた。


「おお、ゴブリンの皆さんよく来たな。ほら遠慮せずに座った座った!」とヨハンがみんなをカウンター席へ案内。

テーブル席はまだ作業中で、汚れてしまっている。


「サン、エリーを呼んできてくれるか?スナック街の何処かにいると思うんだけど」

「はい!行こジル!」「うん!」


ドモンがそう言うなり手をつないで飛び出したふたり。ジルは三秒ほどしか座っていない。

街の人達もゴブリン達・・・というより、このゴブリンの三人にはかなり慣れてきた様子で、いきなり飛び出してきてももう驚くことはない。

ただ近寄ることを躊躇している人も、今はまだ無きにしも在らずといったところ。



「大奥様~どこですかぁ~」スナックのドアをカチャッと開けて覗いたサン。

「あらサンちゃんいらっしゃい。ここにはいないわよ?あ、この子が例のゴブリンの?」

「は、はい!私、ジ、ジルと言います!」

「ウフフ!緊張しなくていいわよ。あ、そうだ。ほらこれあげる」


飾り付け用の花の中から二本の花を抜き、サンとジルの頭につけてあげた女性。


「アハハ、ジル可愛い」とサン。

「あ、ありがとうございますっ!あの本当に・・・」ピンクの花を頭につけたジルが深々と頭を下げた。

「いいからいいから。そんなに頭を下げたら花が落ちるわよ?ウフフ」


女性にお礼をしてふたりは次の店へ。


「いらっしゃいませ~ウフフ!あら?こっちに来てたのねぇジルちゃん」


カウンターの中からジルを見つけてエリーはニコニコ。

店の女性は、搬入されたお酒を紙を見てチェックしながら棚に並べつつ「エリーさんに手伝いたいってお願いされたのよ。ドモン君は?」とキョロキョロ。


「あ、照明に関してのことですね。今はまだお店の方で準備をしておりまして、あとでこちらに足をお運びになるようお伝えしておきます」

「サ、サンちゃんって・・・酔っていない時は凄いのね・・・」


さっき店でチラッと一言言ったことを覚えていた上に、スラスラと丁寧な言葉づかいで対処するサンを見て驚く女性。

酔って甘えておもらししてた人と同一人物だとはとても思えなかった。


「それで大奥様、大旦那様と御主人様がお呼びです。長老様達もいらっしゃいまして・・・」

「ええ~?みんながこっちにくればいいのよぅ!」

「あの、そうおっしゃらずに・・・皆様お待ちですから」

「嫌よぅ~お願いサンちゃん、ねえお願い!」


綺麗なグラスをキュッキュと拭きながら、身体をフリフリして珍しくわがままを言うエリー。

ナナをも遥かに凌駕するその胸の揺れっぷりに、目が釘付けになるジルと店の女性。


サンは小さくふぅとため息を吐いて「ではそのようにお伝えしますが、駄目と言われましたらお諦めください」と言って、タタタとジルを置いて走り去った。



数分後ドモンとナナ、そしてヨハンと長老とザックを連れ、サンが戻ってきた。

店内はカウンター席が6席、ソファーのような長椅子がふたつとテーブルもふたつ。

ひとり余るし、カウンター席に横並びにびっちり座るのもなんだからと、ドモンとナナだけテーブル席の長椅子に腰掛けた。


「なんて可愛いらしいお店なのでしょう!」と長老。

「そうなのよぅ!見て?ちょっとしたお料理も洗い物もここで出来るのよ!あと小さい冷蔵庫もほら!」と、何故かエリーが自慢した。「ちょっとちょっとアハハ」と笑う店の女性。


「はぁ~なるほどなぁ。これがドモンが言っていた『スナック』ってやつで、こんな店がたくさんあったってことなんだな?」ヨハンも興味深げにキョロキョロと見回す。

「私達のようなバーとも少し違うのよね」と店の女性。コンパクトで、より客との距離が近い。


「そうそう。もちろん俺らの店みたいな大きなところもあったけど、好みの女性や気の合う女性が働くこういうこじんまりとした店を見つけてさ、仕事帰りにちょっと一杯やって癒やされて」とドモン。


エリーがヨハンと長老とザックにエールを出し、店の女性がドモンが座るテーブル席までエールを運び、そのまま横に座って照明についての相談を始めた。


「ふたりは何が良いかしら?甘いお酒もあるわよ?」とサンとジルに問うエリー。

「私はまだ仕事がありますし・・・」やんわり断るサン。

「わ、私も・・・え?甘いお酒?」ふとあの桃の酎ハイを思い出したジル。


「まあ折角だから雰囲気だけ味わったら?明日は忙しいからな」とドモン。

「ではほんの少しだけ・・・ほんの少しだけで」

「サンが飲むなら私も少しだけください」

「はぁい!いいわよぉ~」


ドモンの勧めで、小さなグラスにリンゴとレモンと花の蜜で出来た甘いお酒を入れてもらったサンとジル。

「ふぁ~すごく美味しいです!御主人様が買ってきたお酒みたい!」「ホントだ!!」


「結構貴重な酒も仕入れたみたいだからな。・・・ってこれ、もしかしてジジイの?」

「ウフフそうなのよ!」と店の女性。


ドモンもサンからちょっぴり貰って味見をし、それをすぐに言い当てた。

店の女性達に義父がかなり融通したとのこと。それも嬉しそうに。


「でもこれは甘いけどかなりきつい酒だぞ?」とドモンが言った瞬間、カウンターからふたりのシクシクという泣き声とゲラゲラという笑い声が聞こえ始め、それが店の外まで響き渡ってしまい、なんだなんだと野次馬が集まる事態となってしまった。


そこで店を見た者が俺達も入れろと騒ぎ出し、結局夕方五時からスナックのみをオープンさせる『すすきの祭り前夜祭』が急遽開催されることとなった。





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