第226話
「みんなの着替えを持って急いで二階に行くんだ。お前らも着替えてこい!早く!」
「はい!」
「あと他の客達も着替えるように・・・」
「承知しております!」
何かを察知したドモンが侍女三人にすぐさま指示を出し、二階へと走らせた。
「ド、ドモちゃん・・・私・・・」
唇を震わせながら店内へと戻ったオーナー。
その顔は完全に絶望の表情。
連れられてきた女性達は口々に「私達は関係ないのです!」と叫んでいる。
女性達の後ろには二名の騎士。
それを見て、従業員の女性達が大慌てで上着を羽織った。
「まさに隠れ家といったところだなドモンよ」
「あれ?ジジイなんで??」
騎士達の後ろからひょっこりと顔を出したカールの義父。
お忍びのつもりなのか、少しだけ庶民的な服を来ているが、その威厳は全く隠せていない。
「ドドド、ドモちゃん、ここここちらの方は?」
無許可営業でこのような店をやっていたことで、完全に検挙されると思っているオーナー。
投獄で済めば幸運、処刑されることも覚悟はしているが、どうしてもその体の震えを抑えることが出来ずにいた。
「ああ・・・その前に騎士の人達は悪いけど、一旦外で待機してもらえるかな?怖がらせちゃってるみたいで」
「はい」「かしこまりました」
ドモンがとりあえず騎士を追い出し、少しだけオーナーの震えが収まった。
それよりも騎士に対してドモンが命令をしている事に皆驚いている。
「で、このジジイは王族のジジイだ。ここの領主の嫁の父親な」
「ヒィィィィ!!!」
二名の女性が腰を抜かし、その内の一名はあとでまた床掃除確定。
「ダメ!!駄目よドモちゃ・・・ドモンさん!!そんな呼び方をしては!!」
「他になんて呼ぶんだよ。ああ、クソジジイか。いってぇ!!!」
義父に引っ叩かれるドモンを見ながら、オーナーもついに腰を抜かして立てなくなった。
「まったく貴様という奴は・・・大丈夫か?立てますかな?お嬢さん」
「は、はひ・・・で、でも力が入らな・・・」
義父に手を差し出され立ち上がろうとしたものの、やはり腰砕けとなってしまい、慌てて義父が支える。
「申し訳・・・ございませんうぅぅぅ」
「おやおや泣かないでくだされ。この馬鹿にまたどやされてしまうからな」
カウンターの椅子にオーナーを座らせ、その右側に義父も腰掛けた。ドモンはその更に右側に座る。
「捕まえに来たわけじゃないから安心してくれみんな。そしてとりあえず何か飲み物でも出してやってくれないか?」
「は、はい・・・」
「緊張しなくていいってば。今はただの客のひとりとして接客してくれ。スケベなジジイの客のな」
「・・・・」
ドモンが話せば話すほど顔面蒼白となっていく女性陣。
「まあ・・・不本意ながら、此奴が言っておることはそれほど間違ってはいない。だからそなたも落ち着いてくだされ」
「はい・・・ふぅふぅふぅ」
柔らかな物腰でオーナーを落ち着かせた義父。
本来ならばこれが普通の反応で、すぐに懐いたナナやエリーの方がおかしいのだ。
オーナーは震える手で、秘蔵のワインを出すように指示。
ドモンはオーナーが連れてきた女性達を長椅子に座らせて、エールを配るように頼んだ。
ようやく女性達の震えは止まったが、今度は緊張でカチコチ。
そこへ「あら?おじいちゃん」と服を着たナナが素知らぬ顔で階段を降りてきた。
「へ??」と皆が不思議そうな顔をしたので「おじいちゃんといっても本当のおじいちゃんじゃないのよ。ほら、なんとなくおじいちゃんっぽいからおじいちゃんって最初に呼んじゃってエヘヘ」と笑うナナ。
そのおかげで随分と場の空気が和んだ。
続いてサンも現れたが、サンはまだ泥酔状態で、挨拶もせずにフラフラと長椅子まで歩いて寝てしまった。
義父が「サンに毛布か何かを掛けてやってくださるか?」とお願いをして、慌てて一人の女性が毛布を掛けた。寝ているサンの頭を思わず撫でるオーナーに連れてこられた女性達。ようやく緊張の方も解けてきた。
最後に侍女三人組が現れたが、ベビードール姿ではなかったものの、三者三様のとんでもないスケベな姿で現れてしまった。
持っていった自分達のメイド服が、汚して洗ってから全く乾いておらず、仕方なしに二階にあった衣装に着替えたのだ。
全く隠せる気がしないミニスカに、前も後ろも全く隠せない服に、横がガラ空きになっているワンピース。
薄明かりの中で見るとベビードールよりもスケベであった。
「えーっとジジイ・・・前に言った通り、スケベな店なんだよここは。はいみんなも上着を脱いで」もう誤魔化しようがないと悟ったドモン。
従業員達が渋々震える手で上着を脱いだ瞬間「フフフ、本当に貴様の言った通りではないか」と義父は大喜び。ナナはヤレヤレ。
隣りにいたオーナーも高級なコートを脱ぐと、そのベビードール姿に義父は大興奮。
そしてとんでもなく元気な姿を見せつけた。
「まあ!」「やだ?嘘?!」「なんてご立派な!」「おじさますんごっ!」
思わずカウンター越しにワッと集まる女性達。
「素敵」と思わず触れてしまったオーナーに「責任を取ってもらえますかな?」とニヤリと笑う義父。
「ナナもいるのにヤメとけスケベジジイ!」と、今度は思わずドモンが義父の頭を引っ叩いた。
「ワッハッハ!!愉快愉快!!ガッハッハ!!たまらんわ!!」
「はしゃぎ過ぎだっての・・・」
「仕方なかろう!おい!酒のかわりを頼むぞ!今度は冷えたエールをくれ」
「まったく・・・まあ王族と言えど中身はこんなスケベジジイなので、みんな安心していいよ。ジジイもこういう店は初めてなんだろう?」
「当然だ」
おかわりのエールも即座に飲み干し、オーナーの胸元に手を差し込む義父。
「もう!おじさまったら!」と手をつねられ、ついに気分は最高潮。例のきのこをひとちぎりして食べてしまった。
ヤダもうスゴイ!と代わる代わる下着の中を覗いてイタズラをする女性達。
ついつられてオーナーが連れてきた友人の女性達まで覗く始末。
「ちょっとおじいちゃん!サンには見せるんじゃないわよ?」と言いつつナナも覗き込む。
呆れたドモンが指でバチンと弾くも、「刺激が足りんのう!ガッハッハ!未熟者が!!」と義父は大笑い。
無理矢理ドモンが大きさ比べをさせられ、ナナと女性のひとりにカウンターの隅で慰められていた。
「一体どうやってここを見つけたんだ?」
「サンが馬車を預けに来たと騎士達から報告があったのだ。丁寧に場所も説明していったと。流石にサンは気が利くわ」
「サンめ、余計なことを・・・」
「クックック」
義父の横の席に戻ったドモンが渋い顔をしながらタバコを咥えると、目の前にいた従業員の女性が、ものすごく小さな魔導コンロのようなもので火をつけた。
ただ小さいと言っても、上着に入れて持ち運ぶには大きすぎる。
「まあこうやって身分も関係なくさ、普段出来ないような事をやって発散する店があってもいいだろ?」
「ヌッハッハ!確かにな。ただカルロスは怒るであろうがな」
義父のその言葉にビクッとするオーナー。
「心配するな。そなたらの事は私が守る。その為に私は来たのだ」
「調子良い事言ってモテようとしやがって。騎士の奴らも可哀想だからそろそろ中に入れるぞ?他言無用として」
「構わぬ」
「呆れるぜきっと。その出しっぱなしな元気なモノを見たらな。じゃあお前らもお姉さん方も、騎士達の口封じ手伝ってくれよな?」
そう言ってドモンに連れてこられた騎士二名は、店内に再び入るなり絶句した。
ただ、それ以上に胸の高鳴りを抑えることは出来なかった。