第225話
「お前達、一日だけ店を持ってみないか?」
酔ったナナに下着を穿かせながら、ドモンが説明を始める。
ナナはフラフラと長椅子で寝ているサンの元へ向かい、サンを抱きまくらにして眠りについた。
「え?どういうことかしら?」
元から店をやっているオーナーには意味がわからない。
逆に雇われている女性達は興味津々。
「うん。五日後にすすきの祭りというのをやることになったんだけど、そこですすきのにあるような店をやってほしいんだよ。それぞれが」
「どこで?どんな店?」
「俺らの店・・・ヨハンの店はわかるか?バーなんだけど。そこの隣の隣が空地になっていて、そこに簡易的なものだけれど、いくつか小屋を作る予定なんだ」
「うんうん」
ぞろぞろとドモンの前へと店の女性が集まってきた。
二組の客もカウンターに並んで座ってお酒を飲み始める。
「ちょっとしたカウンターと棚と椅子くらいしか用意できないんだけどさ、あとは自分が思うようにやってくれりゃ良い。若い女の子雇って、多少スケベな服を着せて接客させるもよし、歌の上手い女の子を雇って客に聞かせながら酒を提供する店でもよし、なんなら格好良い男達を雇って女性客を集めても良い」
「・・・・」
ドモンの説明でそれぞれが頭に理想の店を想像する。
こういった商売をする上で「私だったらこうするのに」という考えは、誰でも一度は思うこと。
「とにかく大人達に酒を提供して楽しませる小さな店を作って、みんなで売上を競ってほしいんだ。この店が休みになった分の売上も保証するし、その日売上一位になった人にも何か賞品を考えてる。当然その日儲けた分は自分達のものにしてくれ」
「楽しそうね!」
「損がないなら私はかまわないけれど・・・」
「誰か雇うにしたってお酒仕入れるにしたって、結局お金がかかるからねぇ・・・」
乗り気ではあるが心配事もある。
こういった商売がシビアなのも皆知っているからだ。
「金の心配はいらない。それは領主のカールか王族のジジイに何とかさせるよ。開業資金としていくらか都合つけさせてさ」
「ドモちゃん、あなたすごいこと言うのね・・・それ本気なの?」
つまりは、ドモンはこちらの世界にスナックを、いやスナック街を作りたかったのだ。
好みの女が働くどこかの小さな店を行きつけにし、仕事終わりにそこで一杯やりながらゆっくりと会話を楽しむ。
みんなが集まるバーでの会話も楽しいけれど、アットホームさ加減はスナックの方が圧倒的に上だ。
今回はその足がかりとしてのプレオープン。
それで評判が良ければ、きっといつか同じような店ができるはずだと信じて。
「ド、ドモちゃんあのね?」とオーナー。
「ああ無理はしなくてもいいんだぞ?出来たら良いなってだけの話だから」
「違うの。私その・・・子供も一緒に入れるような店にしたいというか、子供らを預かりたいというか・・・」
その言葉に驚く従業員の女性達。オーナーは顔が真っ赤。
そこでオーナーがゆっくりと身の上話を始めた。ドモンに新しいエールを入れながら。
従業員の女性達も今までそんな話を聞いたことがない。
「私ね、どうしてこんな商売を始めたかというと、はっきり言ってしまえば欲求不満だったのよ。旦那と別れてから」
「ほう・・・そうだったのか」
「子供がね。子供が出来なかったのよどうしても。私こんなスケベなのにねアッハッハ」
「・・・・」
照れ隠しで誤魔化しながら、更に語り続けるオーナー。
いつの間にかナナもサンも起き上がり、長椅子に座ったまま話を聞いていた。
侍女達が水を持ってきてふたりに渡す。
「私子供が好きだったから、楽しみにしてたのよ?でも出来なかった。だから小さな子供を預かるような商売をしようとこの場所を借りてね、準備していて、ある日家に帰ったらもぬけの殻だったのよアハハハ・・・」
「そうか」
タバコに火をつけ、ドモンは煙を燻らせる。
「一週間後には若い女を連れて旦那が歩いているところを見ただなんて噂を聞いて、その腹いせもあってこんな店を開いちゃったわけ。そして気がつけばもうこの歳で。アハハ笑えるでしょ?」
「笑えねぇよバカ」
ドモンがそう言うと同時に、オーナーはポロポロと涙を流し始め両手で顔を隠し、女性達に背中を擦られながら慰められた。
「グス・・・だからね、私、子供達を喜ばせるような仕事をしてみたかったのよ・・・」
「んじゃ決まりだな」
「え??」
「しっかり頼むぞ?託児所、いや保育園の園長先生になるのかな?」
「????」
そこでドモンは説明をした。
その空き地にビニールプールを用意するということも。
ビニールプールがどんなものかは、サンが身振り手振りで嬉しそうに詳しく説明した。
「大人達が飲んだりしている間、小さな子供を預かってくれないか?そこで遊ばせながら」
「!!!!」
「日頃子育てばかりで疲れてるお母さんもいるだろうしな。半日銀貨一枚で子供を預かるみたいな感じでどうかな?」
「や、やります!やらせてください!!是非!!」
カウンターから乗り出して、今にも飛び出さんばかりのオーナー。
ドモンがナナの姿に興奮して飛び出そうとしていた時以上の身の乗り出し方。
「少し大きな子には言葉や文字を教えたりさ、みんなで歌を覚えて歌ったり、そしてもちろんみんなをプールで遊ばせたり」
「えぇ!えぇ!!」
両手を胸の前で合わせ、もう流れる涙を拭うことも忘れ、化粧も崩れてきていた。
「ひとりじゃ大変だから、手伝ってくれる人がいればいいんだけど」
「います!心当たりはあります!!任せてドモちゃん・・・いえドモン様!!」
「いいよドモちゃんで・・・」
会話を終えるなり「こうしちゃいられないわ!」と立派なコートを羽織って、慌てて店を飛び出していったオーナー。
全員がキョトンとした顔でそれを見送った。
「・・・というわけでサン、ビニールプールは子供達のものになっちゃったかも」
「大丈夫です!サンなら平気です!」
「・・・・」
それがどちらの意味かはわからなかったが、皆サンの体型を見て、表情を崩さないように気をつけながら小さく頷いた。
「ま、まあほら、たまに店を抜け出してもいいからさ、その子供らの先生として一緒に遊べばいいと思うよ。うん」
「はい!」
「子供達に『先生!サンちゃんがおもらししました~』とか言われるんじゃないわよ?サン」
「そ、そんなことないですよ・・・」
ナナにからかわれ、しょんぼりするサン。
サンを含むこの場にいた全員が『あり得なくはない』と考えていた。
侍女三人はベビードール姿のままカウンターに入り、オーナーの代わりにドモン達の接客をし、ドモン達はまたお酒をチビリ。
ドモンとナナはエールを飲み、サンはまたジュースのようなお酒。
ナナとサンが寝ていた間に話していたスナックの件を説明し、ふたりもようやくここに来た理由を理解し納得。
「でもそれ絶対お母さんもやりたがるわよ?だって私もちょっぴりやってみたいもん」とナナ。
「ナナやエリーの店は人気出るだろうなぁ確かに」とドモンも腕を組み、『スナック巨乳』と『スナック爆乳』という看板を頭に思い浮かべた。
「あらドモン君!私だってちょっと考えがあるんだから!負けないわよ?」
「私どうしようかなぁ~。ちょっとあなたは何するつもりなのよ?」
「教えるわけないじゃない!アハハ!」
「教えなさいよ!」「私も!!」
「こらやめてってばアハハ!二人がかりでおっぱい揉まないで!卑怯よ~はぁん!!ちょっとぉ~!」
従業員の女達はカウンター内で大騒ぎ。
気がつけばいつの間にかいなくなった二組の客の怪しげな声が、二階から薄っすらと聞こえてきた。
その結果、酔ったサンがムズムズとしてドモンに抱きつこうとしたが、その前にナナに捕まり、強引にナナの膝の上に座らされてしまった。
「ま、なんとなくこういった店で遊ぶ人の気持ちもわかったわ」抱っこしたサンの頭を撫でるナナ。
「だろ?」
「でももうひとりで来るのは駄目よ?私も一緒」「サンも」
「あなた達ならいつでも歓迎よ。サンちゃんはオムツしないと駄目だけどね!」
クスクスと笑った女性の言葉にサンは口を尖らせる。
「それはそれで可愛いな。今度は俺がサンの下の世話をしてやるよイヒヒ」ドモンの悪い笑顔。
「・・・・」
「あれ?この子また寝ちゃっ・・・あ!駄目よサン!!ああ~今はまだオムツしてないじゃない~もう~またこんなに酔っ払っちゃって」
「う~・・・」
まだ眠ってはいなかったが、うつらうつらとしていたサンがナナの太ももをホカホカにした。
女性のひとりに案内され、ナナはサンを抱っこしたまま二階へ水浴びをしに行き、侍女達は大慌てで床掃除をして後始末。
残されたドモンがサンの年齢の話をし、「え~?!」とみんなで盛り上がっているところに、オーナーが何人かの女性達を引き連れ店へと戻ってきたが、その顔は真っ青だった。
紛うことなく、異世界の怪しげな大人の店で、主人公がスナック街を作ろうとしている話である(笑)
俺つえーー!な主人公が、ざまぁしながらハイパーバトルを繰り広げているものを読みたい方は、他を当たってください。