第224話
「こ、ここでしょうか??」
「何よ?何もないじゃないドモン」
サンもナナも不思議顔。
ドモンが馬車を停めさせたのは、住宅街の何の変哲もない建物の前。看板も何もない。
住宅にしては、やけに丈夫そうなドアが灰色の壁に一枚あるのみ。
「ここだよ」
「い、家ではないの??」
「壁をよーく見てみろ」
ドモンにそう言われ、馬車から降りたナナが目を凝らすと、壁にものすごく小さな文字で『秘密の趣味の店』とだけ書いてあった。
「交渉してくるからお前らはここで待ってろ。サンは馬車を何処かに繋いできてくれ」
そう言ってドモンはドアの向こうへ消えた。
ドアの向こう側には明かりの灯る小さな部屋。そこにもう一枚のドア。
「こーら!ドモン君いたずらしないの!」
「へへへ」
のぞき穴を覗き返したドモンが怒られる。
そうして更に分厚いドアがガチャリと開けられた。
中には変態紳士淑女が二組。その内のひとりは上半身裸で連れらしき女性とキスをしている。
「ずいぶん久しぶりじゃない?エールでいいかしら?」
「ああ。でもその前にちょっと紹介したい女達がいるんだよ。屋敷の奴らも三人いるけど、まあ信頼は出来る。残りのふたりは嫁と次の嫁だ」
「え?ドモちゃん大丈夫なのそれ??」
この店のオーナーである女性は心配な顔をした。
もちろんいろいろな意味も含めて。
嫉妬に狂った嫁が怒鳴り込んできたとか、貴族達に摘発されるといった類の心配である。
「大丈夫。絶対にここは守る。王族のジジイも取り込んであるしな」
「やだ!?嘘でしょ?!何やってんのよドモン君ってば」
「こら!変なとこ握るなって。とにかくそいつら交えてちょっと話があるんだ」
後ろから抱きついてきた女性を離しながら、ドモンはまたドアへ。
「じゃあ連れてくるから。お客さん達も騒がしくしてゴメンな?でもこれから綺麗な女連れてくるから、それで許してくれ」
「フフフ、ああ構わないよ」
ドモンが店の外へ行くと、皆不安そうに一箇所に固まっていた。
「入っていいってよ」
「う、うん・・・それにしてもよくもまあこんな店見つけたわね」
「まあそういった街で生まれ育ったからな。雰囲気や匂いでわかるんだよ」
「呆れるやら感心するやら・・・」
ドモンに腰に手を回されエスコートされたナナがドアの中へ。
慌てて他の四人もついていく。
おかげで客のチェックをする小さな部屋はぎゅうぎゅう詰め。
「連れてきた」
「鍵開けたわよ」
ドアを開け中に入るなり、店の女性達とナナが同時に声を上げた。
「うわっ!スケベそうな女!アハハ」とオーナー。
「何よこれ?!ホントにみんなほとんど裸じゃない!」とナナ。
薄明かりの店内。
スケスケのネグリジェやスケスケのドレスを着た女性達が五名。
「あ、あっちは完全に裸じゃないのよ?」
「あちらはお客さんよ?あなた達が来るっていうんで、張り切って脱いじゃったのよ。ええと・・」
「こいつはナナ。俺の嫁だよ。すげぇ体してるだろ?」
「そうね。ナナさんよろしく。私がこの店のオーナーよ」
向こうで裸の女性がひらひらとナナ達に向かって手を振った。
衝撃で身動きが取れずにいるサンと侍女達。
ネグリジェ姿のオーナーとナナが握手しながら挨拶。
そうしてドモン達はカウンターにずらりと横並びに座った。
「飲み放題だから好きなように飲んでいいからな?」
「へぇ~すごいわねそれは」とナナ。
「はい!御主人様!」とサンが良い返事。
ドモンとナナはエール。サンと侍女達はオレンジジュースに薄っすらとアルコールの入ったカクテルなようなものを注文。
「あ!もしかしてあなたって噂の?前に来た時話をしてた?」
「???」
「そうそう!ネグリジェ一枚で街を歩いたってのがこいつだよアハハ!下着もなしでな」
オーナーとドモンの会話で顔を赤くするナナ。エールをぐいっと飲み干し、おかわりをした。
「わ、私はこんなネグリジェじゃないもん!たしかに多少は透けていたけど、丈だってこんな短くないし」
「でも凄いわ・・・少しだけ憧れていたのよ。その格好で貴族の人達とも会ったのでしょう?」とオーナー。
「うん、そうだけど・・・カールさん達はドモンのおかげで知り合いのようなもんだし」
「ああ!あなたが噂の?!街中の人に全部見せちゃったっていう。本当に凄いことしちゃったわねあなたアッハッハ」サン達にお酒を作っていたスケスケドレスの女性もナナの前にやってきた。
凄いと言われて満更でもないナナ。
更にドモンが「そんなところも含めて全部好きなんだ」と、普段店やふたりきりでは絶対に言わないようなことを言い出し、ナナのボルテージが一気に上がっていく。
「も、もうドモンってば!ふぅ~暑いわ・・・」
「ウフフ・・・中は薄着の人が多いから少しだけ暖房が入っているのよ。あなたもこれ着てみる?」
「そう?じゃあ着ちゃおっかな?」
「え?」「え?」「え?」「え?」「え?」「え?」「え?」
冗談半分冷やかし半分。
すぐに断りながら恥ずかしがる姿を想像していた店の女性達、そして客達。
ドモンとサンと侍女達はなんとなく納得の展開。そうなる気がしていた。
ナナは負けず嫌いである。
店の裏へと消えたナナが、「ちょ、ちょっと!!あなた本気なの?!」と周りの女性に言われながら、堂々とした態度で現れ、そのまま従業員達と一緒にカウンターの中へ入っていった。
「ドモン、今日は私が接客してあげるわよ。ウフフ」
ナナが着ているのはネグリジェというより、ベビードールにより近い。
丈が短く、透け具合もそれ以上。
しかもオーナーが着ているものの倍は透けていて、ナナの体型で着ると下半身はほぼ丸出し。
なのに全ての下着を取っていた。店内が薄暗いのだけが救い。
おかげでドモンは今にもカウンターを飛び越え、ナナに飛びつかん勢い。
「と、とんでもない逸材ね・・・」とオーナーも呆れる。
「すげぇだろ俺の嫁。これが俺が世界で一番好きな女だ!最高すぎるぜナナ」
「エヘヘ。本当ならこれも脱いじゃいたいけど、ドモンはチラチラ見えるのが良いんでしょ?」
「いやほぼ丸出しだけどな。これはこれでいいよ。俺はそんなナナが大好きだ」
ドモンは大興奮。ナナはそれに歓喜し体をくねらせる。
店の女達や客も呆れ顔ながらも「とんでもない女神が現れた」と褒めちぎった。
サンはムスッとした顔で店の裏側に消えたあと、しばらくしてメイド服を着て現れ、ドモンの膝の上へ跨って首に手を回した。
ただメイド服ではあるが、ナナと同じくらいの透け具合。
サンはすでに泥酔中。
「んぐっ・・・!こ、こらサン!」急にキスをされたドモン。
「じゃあお仕置きしてください」
「何言ってんだよ」
「失神するくらい強くお尻を叩いてって言ってるのっ!!」
ドモンに向かって叫ぶサン。
ナナがドモンに向かってコクリと頷き、無事サンの望みは叶った。
スッキリと幸せそうな顔で長椅子に寝かせられるサンと、ホカホカとズボンから湯気を出し、への字口で女性達にズボンを脱がされるドモン。
「サンを抱っこする前にトイレさせてない方が悪いのよ。あ!あとあんた達にもお仕置きしないとヒック。さっきのこと、私忘れてないんだから」
「え?」「え?」「え?」
「そもそもあんた達はいつか私からもお仕置きをしようと思っていたのよ。いい機会だわ」
「いやあのちょっと・・・」「私達はもう」「あのあのあの・・・」
先程のビニールプールで、侍女三人がドモンを元気にさせていた事を思い出したナナ。
お酒を飲みナナの機嫌は良かったが、侍女達三人は酷く責められた。物理的にも精神的にも。
侍女達はとてつもなく恥ずかしい体勢でおもちゃの鞭と平手を尻に打たれ、羞恥に喘ぎ苦しみ、白目を剥いて失神するまで悪戯をされた。
しかし酔ったナナは大切な事を忘れていた。あの時お尻を叩いてすでにお仕置きをしていたことを・・・。
結局ドモンや店の女達も真っ青になるようなお仕置きをされた侍女達が、着替えたベビードール姿でしくしくと自分達が汚した床を掃除。汚したメイド服は洗濯。
ついでに店の女性一人と女性客の一人までナナにいたずらをされ、やはり床掃除をするハメになった。
「い、いつもこんな事してるの?ドモちゃん達ってば」
「いつもはもうちょっと・・・酷いかも?ワハハ。今時間なら下手すりゃこの格好で外を散歩出来ちゃうぜナナなら」
「あっはっは!平気よ平気!ぜ~んぜん平気!あの時何百人に裸見せたと思ってんのよ」
こんな店のオーナーが心配するほどの乱れっぷり。
ドモンが静かにしているだけいつもよりもマシだったりもする。
「こいつの母親がまたもっとエロい身体で、すごくスケベなんだよ」
「まあそれは否定出来ないわね。お母さんがこの店に来てたら、みんな自信を失くすと思う」
「ナナでも十分自信を失くしたわよ・・・ウフフ」と笑うオーナー。
エリーがベビードールやスケスケドレスを着て接客する様子を頭に浮かべたドモンとナナだったが、客の男達が恥ずかしそうに前かがみになる姿しか想像できない。
「で、あなた達がとんでもないスケベだということはわかったけれども、結局今日はどうしたの?話があるとか」とオーナーが話しかけ、ようやく本題に入った。




