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第223話

「ああ~!あああ~~・・・」


空気と水を抜かれ、ぺちゃんこになったビニールプールを見たサンが、へなへなとその場にへたり込んだ。

食事や片付けを終えたあと、夕方からの女性用の時間にまた遊ぼうと考えていたサン。


「し、仕方なかろう。いつまでもこのままではいかぬし」と叔父貴族。

「うむ。工事を進めねばならぬからな」と義父も頷く。


「・・・・」


無言のサンの瞳から、宝石のような涙がぽろり。

悪い事をしたわけではないのに、皆罪の意識に苛まれる。


「サンよ・・・またすぐに遊べるよう手配する故・・・」

「・・・大丈夫です・・・おじいちゃん・・・」


義父の言葉に涙を拭い、気丈に返事をしたサンだったが、誰の目から見てもその落胆ぶりが手にとるようにわかり、皆なんとかしてあげたい気持ちでいっぱい。

子供達からも慰められる始末。


「カルロスよ、何とか出来ぬのか?隣の部屋でも空ければよかろう?」義父の言葉にビクッとしたのはグラ。

「と、隣でございますか・・・隣はその・・・」気まずそうにグラの方を見たカール。

「すぐに引っ越し、排水工事を行いたいと思います・・・」


能面のように表情を無くしたグラがそう答えた。

それにより再度引っ越しすることが確定。


ドモンが気の毒そうにグラの肩をポンと叩いたが、元はと言えば全てドモンのせいである。サウナやビニールプールが無ければこんな事にはなっていなかったのだから。


ただ「わぁい」と喜びながらビニールプールを箱の中にしまうサンを見て、グラはウンと一度頷いて自分を納得させた。



片付けが終わったあと、間取りや配置などの設計があっという間に固まっていく。


「煙突はこの壁部分に穴を開けて出す感じでいいな」

「水風呂はこの位置で良さそうだな。あと座ったり寝転がったり出来るような、背もたれのない長椅子をいくつかこの辺に置きたいんだよ」

「ドモンさん、それじゃサウナの入り口は反対側の方が良いんじゃないか?」

「この壁もぶち抜いちゃうから多分こっちからでも大丈夫だ」

「ここの壁と床はセメントで固めてくれ。熱を通さないように。100の150、高さも100くらいで」

「ああ任せておけ」


相談をしながら、チョークで床や壁に印をつけていく。

もちろんあとでしっかりとした測量をする予定だが、パソコンなどがないこの世界では、現場に設計図を実際に当てはめるのが一般的。

そうすることで見えていなかったものも見えてくる。


そしてそれはこの場にいた人達も同様であった。


「どうやら思っていた以上のものが出来上がりそうだ」感心しながらドモン達を眺めるカール。

「ああ兄さん・・・これでこそ引っ越す甲斐があるってもんだよ」まだまだ悟りの境地のままのグラ。


ドモン達はそのまま女風呂と騎士達が使う大浴場まで設計。

大浴場の方は凝りに凝って、向こうの世界でも通用するくらいの大きめの銭湯のようなものになる予定。



「ドモン様!女性のお風呂の方はどのような感じになりまして?」

「楽しみだわ!」

「あのお風呂よりも素晴らしいものにしてくださる?」


ドモンらが大浴場を作る予定の離れから屋敷に戻るなり、奥様連中が駆け寄ってきた。


「うん。女風呂の方は湯船を丸い形にして、風呂に入りながらみんなで話をしやすいような形にしようと思ってるよ。真ん中から噴水みたいにお湯が出るように。出来るんだよな?大工」説明するドモン。

「噴水みたいに吹き出させるのは無理だろうけども、別の湯船で沸かした湯をそこから出すのだったらすぐに出来ますよ」と大工が答える。


「まあ素敵!」

「噴水の水がお湯になっているような感じなのですね」

「そこに花を浮かべましょう!ね?皆さん!」


奥様方がヤンヤヤンヤと大騒ぎ。


「そのかわりサウナは少し小さくなるけども、まあ支障はないだろ」

「構いませんわ」

「あと壁は色のついたタイルで絵を描くつもりだ」

「まあ!!そ、その絵はどなたが?」

「いやぁぜんぜん決まってないよ」


ドモンの頭の中で描かれているのは銭湯にある富士山の絵である。

ドモンにとっては思い入れがあるけれど、この世界の人達にはないだろう。

なのでアイデアは出したものの、そこまで深く決まっているわけではなかった。


「で、ではこちらでその絵の方を手掛けて宜しいかしら??」とカールの奥さん。

「ああ、その辺は任せるよ。俺らは基本的な物だけ作るから、あとは自分好みに仕上げりゃいいさ」とドモン。

「ええ、もちろんご要望があればお手伝いや助言もしますから、気軽に声をおかけ下さい」と大工も続いた。


それを聞くなり奥さんは「お父様!王都の方からあの画家の方をお呼び下さいませ」と鼻息を荒くする。

「む?奴か・・・しかし奴は今・・・」

「あの方しか居りません!!」


少し渋った父に娘がピシャリ。

その雰囲気を見たドモンは、なんだか面倒なことに巻き込まれそうな気がして、そそくさとその場から退散した。



気がつけば辺りはもう真っ暗闇。

あれだけ食べたというのに、一番に腹の虫が鳴いてしまったナナ。


「もうご飯にしようよドモン・・・」

「ご飯はもう少し待ってくれ。みんなであのスケベな店で食うから。というわけでカール、お金ちょうだい」


ナナに当然のようにそう答えたドモンが、これもまた当然のようにカールにお金をせびり、全方面から責められることとなった。


「なぜ私がそんな金を工面せねばならぬのだ!!」

「何よそれ本気で言ってたの?!嫌よ私」

「血税をそんな事に使えるわけがないだろう!」

「うー!御主人様!!」「流石にダメですよ御主人様・・・」「俺・・・私もそれはどうかと」

「なんでしたら今晩は私がお酌致しましょうか?」


もう誰が何を言っているのかもわからない状況。


「だーかーら!遊びに行くんじゃないって言ってんだろ。聞けよ、少しは話を。祭りで必要なんだよ。ジジイも全面的に協力しろって言ってただろ?」


ドモンを取り囲んで騒ぐ皆をそう言って落ち着かせた。

しかしこうなってしまうのは、ドモンの自業自得でもある。


「何が必要なのかさっぱりわからぬ。そんなものに金を出せるはずもなかろう?」

「じゃあカールも一緒に来るか?」

「む?」

「カルロス」


ドモンの言葉に一瞬カールの心が揺れたが、背筋も凍るような奥さんの声で我に返る。いつの間にか真後ろにいた。

ドモンですら少し怖いと思ったほどなので、男は全員もれなく怖い。


「い、いくら位必要なのだ」

「俺とナナとサン、あとこの侍女達三人も連れていきたいんだけど、それらの分かな?金貨一枚で十分遊べる・・・じゃなかった、事足りると思うよ。長居するわけでもないしな・・・・多分」

「そのくらいであるなら仕方あるまい」

「・・・カルロス、ドモン様に恥をかかせぬように」


ポケットマネーで金貨を一枚渡そうとしたカールに、またも奥さんの冷たい声。

カールは金貨十枚を用意させ、ドモンへと渡した。


「あ、余ったらあとできちんと返すからさ・・・」

「しっ!わかっておる。今は黙って受け取っておけ」


ここは以心伝心。小声で一応確認するふたり。

ハハハあははとお互いカラ笑いをし、その場をあとにした。



「じゃあ侍女達借りていくから。今晩は遅いから、用が済んだら店の方に連れて行ってサンの部屋にでも泊まらせるよ」

「承知した」

「サンもお前らもそれでいいな?くれぐれも喧嘩はすんなよ?もう仲良くやれ」

「はい!」「はい!」「はい!」「もちろんでございます!」


馬車に乗り込みながら、ドモンがカールとみんなへ声をかけた。


「約束破ったら全員酷いお仕置きだからな。よしじゃあ行こう」

「・・・はい」「はい」「はい・・・」「むふ」


サンと侍女三人が口喧嘩をする約束をしながら馬車に乗り込み、一同は屋敷をあとにした。





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