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第222話

「牛肉ひと塊貰っていいかな?俺とジジイの分で使うから」

「は、はい!今すぐに」


料理人が直ぐに用意をし、ドモンが赤身部分を切り分けた。


「まさか、牛肉でもカツになるのですか??」

「そうそう。脂の少ない部位だと胃がもたれにくいんだ。ジジイにはぴったりだろ」

「貴様もだろうが!」


義父の文句を右から左へと受け流し、棒状の形の牛カツを揚げるドモン。


「大根を下ろしてもらえるか?」

「かしこまりました」

「あとはわさび醤油とポン酢も用意しておくか」


ドモンがせっせと何かをやっているのを、料理人達が料理をしながらチラチラと見ている。

コック長は料理もせずにかぶりつき。


揚がった牛カツをやや厚めに切り分け、おろしポン酢とわさび醤油、粗塩やソースの用意もした。


「中は結構赤いけど大丈夫なの?ドモンこれ」

「大丈夫だ。熱は通っているから生ではないんだよ。ま、多少生でも牛肉なら案外平気だ。なぜかは知らん」


ドモンの皿から牛カツをひと摘まみし、おろしポン酢にくぐらせてから口に放り込んだナナ。


「こら!俺の飯!」

「んんんー!!?んがぁー!!米!米を早くぅ!!」

「ちょ、ちょっと本当に・・・」

「ああ~幸せ~」


おぼんにのせた食事をドモンが食堂まで運んでいるその横にくっついて、ナナがドモンの食事をつまみ食いしていく。

その様子はまるで主人が運ぶ餌を待ちきれなかった犬のよう。


「行儀悪いってばナナ!それにナナにはカツ丼があるし、これは俺のご飯だってのに」

「だって仕方ないじゃない!!こんなの出てくるだなんて思わないし・・・」


二人の様子を見た義父も、思わず自分の牛カツをひと切れつまむ。

ナナと同じようにおろしポン酢にくぐらせて。


「ぬおっ!!こ、これは・・・肉汁と旨味が口の中に溢れかえるというのに、いくらでも食せそうなサッパリとした味わいだ。ナナも夢中になるはずだこれはフフフ。すぐに運ぶが良い!食堂で構わん!」


義父の言葉に大慌てで侍女が食事を運び始め、義父もそれについて行った。

残された者達はまたもや大混乱。

まさかここに来て選択肢が増えるとは想定していなかったのだ。



「ねえドモンってば!お願いよお願い!あとひと切れだけ」と横に座っているナナが足をジタバタ。

「駄目だってば!見ろよもう!あと3切れしかないんだぞ?歩きながら半分以上も食いやがって」


食欲がなかったドモンでも流石にこれだけは死守。


「あ、おじいちゃん!ねぇねぇ!これこんなに食べるの?食べないでしょ??ねえ~!ねぇってば!」

「・・・・」

「もうケチ!!信じらんない!!」


王族に暴言を吐くナナと、脂汗を流す食事を運んだ侍女。普通ならば即処刑になってもおかしくはない。

そんなナナにカツ丼が運ばれてきて「絶対にあげないんだから!フン!」と言いながら食べ始めた。


『体は心を表す』といったようなことわざがあるけども、わがままボディは性格もわがまま。ナナを見てドモンは納得。



ドモンが食べ終える頃には食堂も人でいっぱいに。

義父も一度部屋に戻り、サンやジルも食べ終えるなり給仕の手伝いを始めた。

タバコを吸いに玄関へと歩き出すドモン。


たった今揚がった牛カツを食べるナナを、ジトっとした目で見ながら・・・。


「ちょっとしたホラー映画だなこりゃ」

「ん?なんか言った?」

「いやなんでもない。大工と鍛冶屋迎えついでにタバコでも吸ってくるよ」

「わかったー。あ、コック長さん!デザートにチキンカツサンドふたつお願い!」


ドモンは派手にずっこけ、HPを2減らした。

サンはナナの食べっぷりを見たあと自分の胸を見て、完全に何かを諦めた。あの膨らみはこうして作られたのだ・・・と知り。



少し太陽が斜めになり始めた頃、大工と鍛冶屋がやってきた。

当然サウナ作りの打ち合わせ。

サウナ作りに関するそれらしき本も買ってきたので見せたが、相変わらず写真が無い為分かりづらい。


「わからないところは出来る限り俺から説明するからさ」

「いやいやドモンさん、十分だこれで。ふむふむ」

「暖炉の上に石を乗せられるような形にすれば良いんだな?つまり・・・」

「ここに蓋を付けて煙突をこう通して・・・そうそう」


玄関だというのに、本を見た大工と鍛冶屋がいきなり白熱しだし、ドモンも釣られるようにその場で議論に参加。


「うっわ・・・おじさん達がつまらない話をしてるわ」と、膨らんだお腹を擦りながらやってきたナナがうんざりした顔。

「ナナ・・・わからないなら仕事の話に首突っ込んじゃ駄目だよ」とカールの息子。

「そうそう。それにこの屋敷のために頑張ってくれてるんだから」と叔父貴族の息子も同意。


「だってつまらないものはつまらないじゃない。ねえナナ」

「そうよ!ああなったら男ってぜんっぜん話も聞いてくれないし、かまってもくれないのよね」


女の子達のやや横暴とも言える反論。

ウンウンとナナも頷きながらドモンの顔をちらっと見ると、いつもは見せないような真面目な顔で説明をしていて、少しドキドキした。


「で、でもこうやって何かに夢中になって真剣に取り組んでる姿は・・・格好いいっちゃ格好いいというか・・・エヘヘ」

「な、何よ!ずるいわよナナ!私だって本当はそう思っていたんだから!」

「・・・わ、私も・・・ジャックが働いている姿がその・・・あの人も夢中になるとこっちを見てもくれないのよねフゥ」

「あの人!」「あの人!」


キャッキャウフフの世界。


「実は一度豆の収穫を見学しに行ったの。お父様について行って。でもジャックったら少しも相手にしてくれないのよ。こうやってみんなに真剣に豆の説明をしていて、こっちを見てもくれないんだから」

「それは寂しいわね」ナナが代わりにしょんぼりした顔。


「うん、でもその横顔がすごく頼もしくってウフフ」

「わっかるわー!見て見て見てよ、あのドモンの顔ってば!」

「嫌だわみんな惚気けちゃって」


ヤンヤヤンヤといつの間にか女の子達も大騒ぎで、男の子達はヤレヤレのポーズ。


「それで別れ際に目も合わさずに『ほら』ってぶっきらぼうに寄越したのがこのブローチなのよ」

「や、やるわねジャック!!」


「おい!うるせえぞお前ら!さっきからそばでぎゃあぎゃあと」ドモンが怒る。

「何よ!いいじゃない別に!!つまらない話をしてる方が悪いのよ!!」ナナも立ち上がってやり返した。


「なんだとこの大食い女!だからズボン穿けなくなるんだよ!巨尻女め!」

「ちょっと!やめろってドモンも」と男の子。


「なんですって?!あんただってお腹出てきてるじゃない!大した食べもしないで太るって運動不足のおじさんよ!お・じ・さ・ん!!」

「ナナもそこまで言わなくても・・・」女の子も止める。


「言ったなてめぇ!」

「本当のこと言っちゃ悪い?」


お互いの胸がくっつくくらいまで詰め寄り、最後はチュッと優しくキスをした。


家でもよくやるふたりのお決まりのくだりである。

ナナはドモンに教えてもらっていて、そのおかげで本当に喧嘩になりそうな時も、すぐに仲直りできていた。


「いってぇ!!」「いたーい!」


その結果、いつの間にか後ろにいたカールのゲンコツがふたりに落ちることとなった。

プププ・・・と笑う子供ら。


「何をくだらんことをやっておる!もう皆風呂場の方へ集まっておるぞ!大工と鍛冶屋が到着したと言うから待っておったらいつまでもこんなところで話した挙げ句、くだらないやり取りまで見せおって!」

「はい!今すぐに!」「申し訳ありません、サウナの件でつい・・・」「バーカ」


カールに謝る大工と鍛冶屋に紛れてこっそり言ってみたドモンだったが、たんこぶを余計にひとつ増やしただけの結果に終わった。





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